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コロシアム編26話 リゲイルとの邂逅 帝国劇場inコロシアム

ーーー病院 




「あ、気づいた」


『良かった〜!ルーク、心配したんだよ


あんなぶっ倒れ方して死んだかと思ったじゃんか』


目を開けると傍にサクヤとコガネがいた。


周囲を見回してみるとすこし砂埃のにおいがする。


コロシアムの医務室らしい。


そうか、僕は負けたのか。


そう、認識すると堰を切ったような感情が止まらない。


胸を掴む。荒く息を吐く。




「ごめん、みんなーーー負けた」




謝って、自分の至らなさを思い知った。


自分はリーダー失格だと。




「僕らはもう、商会ギルド、クビだ。本当にごめん、一文なしに近いのに。こんなーーー負けちゃって」




本当にごめん。そう言って何度も何度も懺悔するように。


その苦しんでいる様子をみて、サクヤは椅子から離れて立つ。




「ちょっと歯を食いしばりな」




拳を握る。




『いや、ルークは怪我人……その拳どうすんの!?』




コガネが慌てるのを無視して、サクヤはルークの頬を思いっきり殴りつけた。


ルークがベッド横にある木棚の角に頭をぶつける。


痛みやら驚きやらでびっくりしたような顔をするルークに、サクヤは怒鳴るように言いはなった。




「あんたは私たちのリーダーだ!


こんなとこでメソメソしてんじゃないよ。


負けたからなんだ? そこで世界が終わるのか? 旅商人なんてどうせ最初から雑用しかさせてもらえなかったじゃないか。やめさせられるならこっちからやめてしまえ!」




めちゃくちゃだとこぼすコガネ。


それでも、ルークはサクヤの顔を見た。


目頭が赤くなってた。泣き腫らしたようなあと。




「ルーク、私たちは……あのギルドなんてもとから向いてなかったんだ。自由に、自由な発想で生きていく。それがいいんじゃないの?


あの少年たち3人たちのように、さ」




そう言うのにどれだけの葛藤があったのだろう。


サクヤもまたクビを恐れていた。


けれど、ルークがこれ以上悩まないために吹っ切れるためにわざと殴るような真似をしたのだ。




「分かった、ごめん」




ルークはちょいちょいとサクヤとコガネを手招きする。


寄ってきた彼らの頭を優しく撫でた。




「リーダーなのにな、悩んですまなかった。もう迷わないし悩まない」


「謝んな」




そう言って2人と1匹で笑った。




しばらくして、カマルが医務室にやってきた。




「ルーク! 大丈夫?」




心配するカマル。オロオロとしてるな、と思いつつもルークは微笑んで言った。


「ああ、大丈夫だよ」


その様子を見て胸を撫で下ろしたカマルにルークはこう続けた。


「さっきサクヤから聞いたよ、君の好きなリゲイルがコロシアムの盛り上げのためにやってくるんだってね。初らしいよ、このリゲイルによる帝国闘技場でのショー」




日時は今日。


もうあと1時間もしたらリゲイルがやってくる。


はやる気もあるがやはりルークの容体が心配だ。


立ち上がって大丈夫なのかとのカマルの問いに、大丈夫、心配しないでとルークは話した。




ーーーーーーーーーーーーーーーー




時間になった。




観客席は人で、いっぱいで稼ぎ時と見た売り子たちが「ソーセージあります」 


「ビール買いませんか?」と声をかけている。


コロシアム自体が年一度の行事だからというのもあるが闘王リアの人気だけじゃなく、人がたくさんいるのはやはり人気作家して朗読劇スターのリゲイルがいてこそだろう。


視線を上に向けると、コロシアムの天蓋は黒い膜ーーー遮光シートというもので覆われ、わずかな光も入らないようになっていた。


四方にライトアップ用の魔力灯が備えつけられている。


場内中央には台があった。


赤い絨毯のようなものが敷かれており、要人を招くような雰囲気を纏っていた。


西の門から4人の白いワンピースを着用し、銀色のステッキを持った女性たちが入る。


その4人は踊りながら銀のステッキを振りかざす。


オーブが輝く。


青 橙 緑 そして赤


ーーー光の三極星のよう


カマルは見ていてそう思った。


最後の赤の光は、おそらく死の星を表しているのだろう。


4人が踊ると同時にステッキを回す。


合わせてぐるぐるとオーブの光の線を引きながら円を描いた。


綺麗で優艶。


誰もが見惚れる中、その光たちはオーブから離れる。


中をしばしの間、漂ったあとーーーステージ上へと流星の如くかけ、激しい光となって散った。


凄まじい光


カマルもルークもめを閉じかける。




そしてーーーかろうじて目を開けると、どこから現れたのか仮面をかぶった人物がステージ上に立っていた。




「ーーーリゲイルだ」




カマルがそうこぼす。


「え?」 ルークがカマルの方に目を向けると、彼女は両の手を合わせて握って固唾を飲んで、仮面の人物にその視線を向けていた。


その目は爛々と輝いている。


憧れの人に出会った。そんな嬉しい限りの目。


ルークはふ、と微笑んであとは視線をリゲイルであろう人物に向けた。


リゲイルのそばにいるーーー銀のステッキを持った白色のワンピースを持った女の人4人が踊る。


カツカツと音が響く。


タップダンスにステッキを回す舞踊の合わせだ。


それに先ほどの光魔法によるパフォーマンス。


ため息が漏れるほど綺麗だ。そして美しい。


リゲイルがパンと手を合わせた。


4人の動きが止まる。


一呼吸おいてリゲイルが声を張り上げた。




「これよりお読みしますのは、勇者一行の旅路のその第一幕……出会い、そして盗賊のアジトからの脱却 ぜひ、傍の舞踊とともにお楽しみください」




リゲイルは語る。朗々たる声で。


カマルの目に浮かぶ。


勇者一行のそれぞれの出会い。


勇者と魔術師の会話。


女性戦士ユークハルトの加入。


そして、酒場で語るそれぞれの夢。


旅に出た最初の夜にーーー盗賊の集団に捕らえられる。


それを戦士が気転のよさと武力で突破して、全員でアジトを壊滅させるーーーという話だ。


戦士の関節外しからの手錠からの脱出は、カマルはハラハラしたのを覚えている。


言葉なのに情景が映像のように浮かんでくるのは、リゲイルの抑揚のある、そして伝えようと色々な努力をしてきたと分かる演技のようなトーン、それだけじゃない。


周りの4人がシーンごとに合わせて踊りの勢いなどを変えるから、というのもあるかもしれない。




カマルは気付けば泣いていたのを感じた。


涙が伝う。


嬉しいのに涙が溢れて止まらない。




「ルーク」


「どうした?」ルークがカマルの背中に手を置く。


心配してくれてるのが分かるそんな暖かさがした。


「帝国に連れてきてくれてありがとう」


泣きながらそれでも、自分ができる精一杯の笑顔でそう言った。


ルークは困ったように笑った。


「いいってことよ」




ーーー朗読劇が終わる。




溢れんばかりの拍手が会場を包む。


リゲイルが腰をおって挨拶をすると、光に包まれーーーそして西の方へと消えていった。


4人の踊り子たちも西の方へと歩いていった。




カマルは「ルーク、ごめん。ちょっと行きたいところがある」そう言って立ち上がった。


泣き腫らした顔だけれど真剣な眼差しだった。




「ああ、行っておいで」




ルークにそう背中を押されてカマルは走った。






ーーー闘技場の外


静けさの中、陽が落ちかけているのが見てとれる。


その中に5人の人物がいた。


その1人はリゲイルだ。




「やった、追いついた」




カマルは肩で息をする。




「あのーーー」




声をかける。リゲイルが手を振って合図すると4人は遠ざかっていった。




リゲイルは言う。


「やあ、カマル」




ーーーーえ?




「なんで私の名前を知ってーーー」




しかも女性の声だ。


会場では男の声のように聞こえていた。




頭の中ではてなが広がる。


自分の思っていたリゲイルへの解釈との乖離が大きい。


それになぜ、会ったこともない著名人が私の名前を知っている?


意味が、分からない。


リゲイルは続けた。




「君はようやくちょっとだけ力をつけたようだね。でもまだだ。まだ弱い」


「どういう、意味ですか?」


「私は殺せるにはまだ至っていない」


「言ってる意味が本当にわからない……リゲイルさん、あなたは何を言って」


「待ってる」


「え?」




「カマル、私は君を待っているよ」




近づくもリゲイルは遠ざかる。


そして何かを唱えたのか身体が光に包まれていく。


「待って! 消えないで! あなたを殺すってどう言う意味ですか!? 答えてよ!」


カマルの必死な叫ぶような声も彼女には届かない。


完全に消えた時には夕日が、1人残されたカマルの影を地面に色濃くうつしていた。


「……答えてよ」


カマルのその声は誰に聞こえるわけでもなく、ただ震えていた。

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