コロシアム編 24話 神官の水晶魔法
3日目も闘技場の観客席は満員だった。
歓声にまじり怒鳴るような声も聞こえる。
血生臭い格闘を求めてる人もいるのだろう。
カマルは暗闇の中、静かに目を開けた。
「第三試合のカードはこれだ!
カマルVSイシュカー!」
ユーリの相変わらず人の期待・関心を煽るようなテンション高い言葉が聞こえる。
カマルは苦笑した。頬を少しかく。
ユーリが続いて言う。
「イシュカーは前年度のコロシアムにて華麗なる水晶魔法を用いて準優勝にまで漕ぎつけた実力者だ。いくら光の三極星の使い手とはいえ一筋縄ではいかないぞ。どう出る、カマル!
さあ、両者入場です!」
東の方ーーー呼ばれ、カマルは砂煙の舞う闘技場に足を踏み入れた。
少ししてーーー西の方
「静かなる冷徹な神官にしてカルデアの信奉者!イシュカー!」
相変わらずのユーリの言葉を全くと言っていいほど意に介さず、イシュカーが入場する。
イシュカーは涼やかにそれでいて余裕そうなつらもちで笑顔さえ浮かべながら言った。
「カマルさん、私の魔法をとくとご覧に入れますね。死なないでください」
「大丈夫ですよ、負けませんから」
カマルも笑う。自分は光の三極星だけじゃなく風も扱える。それが自信となって現れていた。
「へえ」面白いと言った顔をするイシュカー。
しばらくしてーーー
「試合開始!」
戦いの開始を告げる銅らが鳴る。
先攻はカマルだった。
詠唱なしの光弾の発現。それを3回、一気に行う。
弾幕となって襲いかかる三連続の光弾に、イシュカーはただ一回だけ杖を振った。
「水晶魔法ーーー四重奏・障壁!(カルテット・バリア)」
その魔法の名と共に。
刹那的に翡翠色にも青色にも見える光を放つ四枚の殻が現れる。水晶の障壁だった。
光の弾幕は水晶の防壁に当たるが一、二枚を破壊するだけにとどまってしまう。
「ーーーかたい」
歯噛みするカマルにイシュカーは笑み、そして
「試合は始まったばかりです。行きますよ!」
さらに魔法を発動させる。
水晶魔法の真価ーーー召喚術にも似た水晶でできた生物の造形。
「水晶魔法ーーー騎士の3界」
現れたのは体が水晶でできた異形の騎士。
馬も人も水晶でできていた。
そして、その騎士は腕が3本あった。
異形の騎士がこちらを見る。
兜の下にある目が赤く瞬いた気がした。
カマルの背に寒気が走る。
ーーー来る
直感で危機が及ぶと分かった。
瞬間ーーー鞘から抜き放たれた3本の剣がほぼ同時に迫り来る。
カマルは光弾を放ち、一本目の掻い潜ると2本目、3本目の剣戟には「éclat」を叫んで防壁でガードした。
紙一重だった。
あとコンマ1秒、反応が遅れていたら惨たらしく切り裂かれて死んでいただろう。
肩で息をするカマル。
騎士を睨むと動きを止めていた。一旦は終わり?そう思うが、イシュカーのことだ。
防壁を解いた瞬間、容赦のない攻撃をするだろう。
カマルはイシュカーを見据えた。
「あら、カマルさん。意外と動けるんですね」
嘲るように。イシュカーは口を開く。
「がさつそうなサクヤさんにおんぶに抱っこじゃなくてちゃんと戦えるようで安心しました。
まあ……私に勝てたらあのおバカさんに伝えておいてくださいな。バカで愚鈍なあなたに私を倒すことなんて一生無理だとね」
「あんだとこらー! カマル、そんな奴の脳天かっちわってやんなさい!」
サクヤが身を乗り出して騒いでいる気がして振り返るとコガネとルークにまあまあと抑えられていた。
カマルはそんな様子に苦笑する。
それから頭をぶんぶんと横に振り、
「イシュカーさん」相手の名を呼んだ。
「なんですか?」嫌味ったらしい言い方は相変わらずだが、カマルは続ける。
「サクヤさんはバカで愚鈍じゃないです。私が勝ったら修正してください。そして認めて。ちゃんと1人の人間であると」
「いい顔ね」
イシュカーの顔が自分の家族を見るような優しい顔に変わった。
柔和に笑んで杖を構える。
「ーーーいいでしょう、さらなる水晶魔法の真髄をお見せします」
カマルは無言で拳を握った。右腕の痣が輝く。
イシュカーが何やら素早く唱えた。
刹那、それは天蓋のわずか数センチから瞬く間に現れる。
ーーー降り注ぐ銀色の雷
「なーーーに」
唖然とする間もない。
水晶魔法は落雷をも呼び寄せると言うのか。
わずかしか残されていない、死へのカウントダウンにカマルは防壁の密度を上げることで対応した。
痣の光が明滅する。はっはっとあらい息が漏れる。
そして天より来たる銀色の輝く雷が防壁に直撃した。
「ぐうううううっっっ!」
重い。潰されるかと思うほどに。
邪神龍の炎を受け止めた時よりも重い圧を感じるのは真上から来てるからなのか。
汗が止まらない。身体がくの字に折れそうになるのを必死に耐える。
イシュカーは
「まだですよーーーまだ、騎士の攻撃が残ってます。私に豪語したんです、対応して見せなさい」
杖を振り、合図する。
騎士が動く。一回だけ蹄を鳴らしてあとは音もない流れるような動作だった。
カマルにさらなる脅威が襲う。
騎士が3本の剣を一気に振り下ろす。
落雷に晒されようがお構いなしの攻撃だった。
喰らえばいくら防壁があっても割れてしまいだ。
カマルはーーー力を抜いた。
防壁がとかれる。
誰もが諦めたのかと思ったその時。
「風魔法『突風の弾丸 アクセルバレット』レッグバージョン」
風の渦を足に纏い、カマルは避けていた。
そのままイシュカーの背後を取る。
落雷の圧に耐えかね、騎士が破砕される。
破片を散らしながら消えていった。
「これは風魔法! 第二属性かー!?」
ユーリの興奮する声が響く。
カマルは表情を崩さない。
風を纏ったその足で、イシュカーに渾身の蹴りを放つ。
狙うは背中。
「さすがですね」
でも、私は近接格闘技も得意なんですよ
そう言って振り返りざまにイシュカーが杖を思いっきり突くようにして放った。
風の渦を纏った蹴りと杖がぶつかり火花を散らす。
そして爆発した。
弾き飛ばされる2人。
砂煙を帯びた風に煽られて倒れる。
顔だけじゃなく服すら砂で汚しながらも、最初に立ち上がったのはカマルだった。
イシュカーは立ち上がりかけたが、杖を落とす。
そして、右手を挙げた。
「ーーーサレンダーします」
ユーリの勝者を宣告する声が会場内に響く。
勝ったのはーーーカマル。
盛大な声援を浴びてカマルは座り込んだ。
ため息が漏れる。勝った。
危なかった。負ける可能性も十分にあった。
それでもなんとか勝てた。自分の力で。
右手をグッと握り、噛み締める。
その横でーーー「負けたわ、強いのね。
カマルさん」
「ありがとう、イシュカーさん」
「いえいえーーー認めます、サクヤさんも」
「良かった」
それで、と繋げイシュカーはカマルに耳打ちした。
「カルデアの本部はヒュライズマレードという王国にある。教主はそこで独自の研究をしている。危険な魔法を使った機械の製造および利用を企んでる。気をつけて」




