二十二話間話 咎人へ向ける太陽①
帝都刑務所に、オーガルは収監された。
ここには他国で魔族をけしかけた人間、人を惨殺した者、窃盗や物的破損を繰り返した者など、数多の罪人が捕らえられている。
この場所に入った人間に、自由などない。
待つのは無期懲役か、死刑だけだ。
コロシアムで敗北したオーガルもまた、死刑囚としてこの暗い牢に閉じ込められていた。
執行がいつになるのかは分からない。
明日かもしれないし、一ヶ月後かもしれない。
灯るのは、壁にかけられた蝋燭の火だけ。
その小さな火が揺れるたび、鉄格子の影も、石壁の闇も、生き物のように揺れた。
だがその中で、オーガルは不思議と穏やかな顔をしていた。
初戦で負けた。
でも、悪くない戦いだったと思う。
盗みも、復讐も、全部やった。
亡き姉のために。
姉は善いことをした。
それなのに、善行を疎んだ貴族どもに踏みにじられ、殺された。
だから私は奪った。
壊した。
報われなかった姉の代わりに、この腐った世界へ爪を立てた。
……けれど。
「結局、私もここで終わりか」
声に出してみると、ひどく空虚だった。
姉のために生きてきた。
姉のために怒り、姉のために血を流した。
なら、その姉がいなくなった今の私は、何なんだろう。
復讐を果たした先に、自分の人生なんて残っていなかった。
視界が、ふいに揺れた。
「あれ……」
頬を伝うものがある。
気づけば、涙がこぼれていた。
死ぬのは怖くないと思っていた。
全部をやりきったつもりだった。
なのに。
「……死にたく、ないな」
声は弱く、情けなく震えた。
それを認めた瞬間、堰を切ったように涙が溢れた。
その時だった。
「誰だ、貴様!」
看守の怒声が、通路の奥から響いた。
次の瞬間。
鈍い打撃音。
ぐうう、と喉を潰されたような呻き声。
鉄の擦れる音。
そして、静寂。
蝋燭の火が揺れる。
暗い通路の向こうから、ひとつの影が近づいてきた。
大きな体。
迷いのない足取り。
闇の中を歩いてくるというのに、その男だけはなぜか、光を纏っているように見えた。
「オーガル」
低く、よく通る声だった。
「出ろ。俺がお前を助けてやる」
「……闘王」
思わず息が止まった。
どうしてここにいる。
どうして、私なんかを。
問いは山ほどあったのに、なにも言えなかった。
牢の扉が開く。
差し出された手が見える。
その手は大きく、傷だらけで、あまりにもまっすぐだった。
咄嗟に取るべきではないと思った。
私は罪人だ。
人を騙し、傷つけ、盗み、ここに落ちた女だ。
そんな私が掴んでいい手じゃない。
なのに。
震える指先が、その手に触れた瞬間。
胸の奥が、トクン、と鳴った。
それは恐怖でも、安堵でもなかった。
凍えきっていた心に、はじめて陽が差したような。
そんな、どうしようもない熱だった。




