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コロシアム編 第二十二話 開幕そして初戦

ーーー第一カード カマルVSオーガル



「――さあ、始まりましたァッ!!」


轟音のような歓声が、巨大な円形闘技場を揺るがした。


帝国闘技場コロシアム。

石でできた天蓋があり、これが魔法によって開閉するシステムが組み込まれている。

石造りの観客席は隙間なく埋まり、見下ろす先の闘技場には、乾いた砂と無数の足跡が刻まれている。

熱気、笑い声……そんなガヤガヤとした歓声が響くその中央で、派手なスーツをまとった男が拡声器を片手に立ち上がる。


「私はユーリと申します、審判役を務めさせていただきます。

さて、帝国中の猛者たちが集う戦いの祭典――帝国闘技場コロシアム! 戦いは五日間!トーナメント式となっております。無敗の王ーーー

闘王リアに勝ち、優勝杯を手にするのは一体誰なのか!今から胸が躍りますね〜!

では、早速ご紹介いたしましょう!」


やや大袈裟な紹介ーーーだが、彼の煽るようなその口調から観客は全員がさらに熱気に包まれる。


「本日の第一試合から、いきなり見逃せない対戦カードが実現しましたァ!! ご紹介しますね!」


ユーリは大仰に腕を広げ、片側の通路を示した。


「西より現れるは――カマルッ! 光の三極星の一角をその身に宿す、蒼き光の少女! 可憐な見た目とは裏腹に、その一撃は戦場をひっくり返すかもしれない大器! はたして今日は、どんな輝きを見せてくれるのかァッ!」


通路の奥から、カマルが姿を現す。

歓声の大きさに少しだけ肩を揺らしながら、それでもまっすぐ前を見る。

この場の空気に呑まれそうになる胸を押さえ込み、ゆっくりと砂の上へ歩み出た。


「そして東より現れるは――怪盗オーガルゥッ!!」


反対側の観客席から、ひときわ大きな歓声と口笛が飛ぶ。


「帝都を騒がせた美しき怪盗! 細身の身体に秘めたるのは、観る者すべての目を奪う跳躍力! そして一瞬で致命に届く爆裂の魔法! 

気高く華やかに! このコロシアムを今宵最初の舞台へ変えるかァッ!!」


歓声の中、オーガルがゆっくり姿を見せた。


紅く艶のある長髪。

戦闘用に軽く整えられた黒の装束。

拘束具こそ外されているが、その右頬にはまだ裁判の傷がうっすら残っている。

それでも彼女はそんなものを感じさせないように、口元にいつもの生意気な笑みを乗せていた。


「……すごい歓声。やっぱり私、人気者じゃない」


オーガルは観客席へひらひらと手を振る。

それだけでまた歓声が上がる。

野次すら拍手に変えてしまうような、不思議な華があった。


ユーリが声を張り上げる。


「映える、映えますねェーーー!! 神秘の少女か! 気まぐれな怪盗か! 開幕戦からこれほど華のある一戦が見られるとは、実況の私も胸が高鳴って仕方ありませんッ!! 両者、位置についたァ! 今、戦いの火蓋が――切って落とされます!!」


高らかな銅鑼の音が鳴り響いた。


その瞬間、先に動いたのはオーガルだった。


「っ!」


砂を蹴る音すら小さい。

オーガルの身体が横へ流れるように消えたかと思うと、次の瞬間にはカマルの左側へ回り込んでいる。


「速――」


カマルが反応するより早く、オーガルの蹴りが唸った。

咄嗟に腕を上げて防ぐが、衝撃で身体が半歩ずれる。


「へえ、ちゃんと見えてるんだ」

「……っ、あなたこそ!」


カマルが距離を取ろうとした瞬間、オーガルはさらに踏み込んだ。

拳、肘、蹴り。

流れるような連撃。

そこに余計な力みはなく、魔力を全身へ流し込むことで強化された身体能力が、常人離れした速度を生み出している。


観客席がどよめく。


「速い、速いぞオーガル! まるで舞うような攻めだァ!

カマル、防戦一方かァ!?」


カマルは歯を食いしばる。

速い。予想以上だ。

盗みを得意とする相手だと思っていたが、戦い方までここまで洗練されているとは思わなかった。


「どうしたの? もっといい感じにやってくれないと、私が一方的な悪役みたいじゃない」


挑発するように笑い、オーガルが低く沈み込む。

次の瞬間、足払い。


「っ……!」


カマルの体勢が崩れる。

そこへオーガルは追撃せず、逆に後ろへ跳んだ。

細い指先を軽く振ってみせる。


「起きなさいよ。せっかくの舞台なんだから」


カマルが起き上がる。

怒りより先に、冷たい焦りが込み上げてくる。

このまま相手のリズムに乗せられたら危ない。


ーーールークは言っていた。私はもう詠唱なしでも光弾が放てると


オーガルの逮捕後のコロシアム開催日に向けて1ヶ月、基礎を叩き込まれたためにメターオブライトと発声しなくとも蒼い光弾を放てるようになった。だが、威力は落ちる。

それでも、何度も撃てるようになったのは優位なはず。

それに、もし魔物も使えるという無の魔法をなんのけなしに発動してしまったら暴走してしまうだろう。

無意識にでも発動しないためにも基礎を叩き込まれたのは、良かったはずだ。


カマルは手をかざし、蒼い光弾を放つ。

だがオーガルはそれを予測していたかのように、横へ、さらに前へと踏み込んだ。

避けるだけではない。

弾道の間を縫うようにして距離を詰めてくる。


「遠距離だけで勝てるほど、優しく見える?」


カマルの懐へ飛び込んだオーガルが、肩口へ掌を叩きつける。

その瞬間、カマルの皮膚がぞわりと粟立った。


「くっ……」


本能的に後ろへ飛ぶ。

直後――小さな爆発が起きた。


「っあ……!」

爆風が肩をかすめ、カマルは砂の上を転がった。


観客席が一気に沸騰する。


「出たァーーッ! オーガルの爆裂魔法だァ! 触れた箇所を起爆点に変える危険極まりない一手! 華やかなだけじゃない、これはえげつないッ!!」


カマルは肩を押さえながら立ち上がる。

痛い。熱い。

直撃ではなかったのにこれだ。

まともに受けたら、ただでは済まない。


オーガルは指先を軽く振った。


「今の避けるんだ。へえ、やるじゃない」

「……触れた瞬間に、爆発を……?」

「そう。まあ、便利だけど欠点もあるのよね」


オーガルが小さく息を吐く。

掌の皮膚が少し赤くなっていた。


「威力を上げすぎると、私も巻き込まれるの。だから使いどころは慎重に……ってね」


軽く言うが、それはつまり諸刃の剣だ。

それでも彼女は笑う。

危険を抱えたまま前へ出る戦い方に、妙な凄みがある。


カマルは呼吸を整えた。

相手は速い。

近づかられれば厄介だ。

だが、爆発には準備と接触が要る。

ならばそこを読むしかない。


オーガルが再び地を蹴る。


今度は正面からではなく、左右へ細かく揺さぶりをかけるように走る。

フェイント。

砂煙。

視線のずれ。


「どこ見てるの?」

背後。


振り向きざま、カマルは咄嗟に肘を引く。

オーガルの掌が頬の横をかすめた。

そのまま爆ぜる。


轟、と熱風が耳元を撫で、カマルの髪が舞う。


「……っ、く!」

「惜しい。今ので決まると思ったんだけど」


だが、カマルもただ押されるだけではなかった。

振り向きざまに放った光弾が、オーガルの足元で炸裂する。

オーガルは空中で身体をひねって避けるが、完全には逃げきれず、着地がわずかに乱れた。


「っ……!」


その一瞬を、カマルは見逃さない。

ーーー決めて見せる


「metor of light! (メターオブライト)…..星よ、輝け……世界を照らせ!VADE!行けーーー!」


蒼い光が右手に宿る。

流星の如き光弾が、逃げ場を塞ぐようにオーガルへ迫る。

オーガルは走って跳んだ。避けたと思ったのだろう、笑う。

だが脇腹の近くで爆ぜた。


「うっ……!」


砂を滑るように着地したオーガルは、脇腹を押さえた。

浅い。だが確実に入った。


ユーリの声が会場に響く。


「おおっとォ!! カマル、ここで反撃開始ッ! 押され続けていた流れを、自分の光で無理やり塗り替えていくゥ!!」


観客も沸く。

さっきまでオーガルの速さに酔っていた空気が、今度はカマルの粘りに熱を帯び始めた。


オーガルは脇腹を押さえながら、にやりと笑った。


「そうこなくっちゃ。つまらない相手を倒しても意味ないもの」


「……あなたこそ、余裕ぶってる場合じゃないよ」

「余裕じゃないわ。楽しんでるの」


オーガルの目が細くなる。


次の瞬間、彼女は真正面から突っ込んできた。

これまでの撹乱とは違う、あまりに真っ直ぐな突進。

カマルは違和感を覚える。


――来る。


オーガルの右手が迫る。

触れれば爆発。

そう思ったカマルは迎撃の光弾を放とうとした。


だが、それは囮だった。


「っ!?」

低い。


オーガルは直前で身を沈め、カマルの懐へ潜り込んでいた。

下から身体を突き上げるような一撃。

さらに服の裾を掴む。


「これで――!」


掌が触れる。


終わる。

観客の何人かがそう確信した瞬間だった。


カマルの痣が、強く熱を帯びた。


右腕に宿る光の三極星。

それが反応するように輝き、カマルは半ば反射的にその腕を振り抜いた。


「っ、ああああっ!!」


蒼い閃光が迸る。右腕にオーラのように纏いながら。


至近距離。

オーガルの瞳が見開かれる。

爆発を起こすより早く、光の奔流が彼女の身体を弾き飛ばした。


「きゃああっ!!」


オーガルの身体が宙を舞い、砂の上を大きく転がる。

数度跳ね、ようやく止まった時には、呼吸は乱れ、腕は震え、黒の装束もあちこちが裂けていた。

カマルも膝をつきかける。

今の一撃は大きい。

だが無意識に近い発動だったせいで、魔力の消耗も激しかった。


砂埃の向こう。

オーガルがぴくりと動く。


「……っ、は……」

「まだ……!?」


肘をつき、ふらつきながらもオーガルは立ち上がろうとする。

頬には砂が張りつき、髪も乱れ、息も荒い。

それでも彼女は笑った。


「ほんと……最高じゃない。そういうの、嫌いじゃないわ……」


だが足がもつれる。

二歩目で膝をつき、三歩目は出なかった。


男が中央へ飛び出す。


「――そこまで! 勝者、カマル!!」


歓声が爆発した。


カマルはその場で荒く息をしながら、倒れたオーガルを見る。

オーガルは完全に意識を失ったわけではないらしい。

薄く目を開けたまま、悔しそうに空を睨んでいた。


「……負けた、かぁ……」


かすれた声。

でも、その響きには不思議と惨めさがなかった。


「初戦敗退とか……ほんと、可愛くないわね……」


そう呟いて、ようやく力尽きるように目を閉じた。


歓声の中、担架を持った係員たちが駆け寄る。

カマルは勝ったはずなのに、胸の奥に奇妙なざらつきが残っていた。


ただ一方的に倒したわけじゃない。

あの怪盗は、確かにこの闘技場の空気を支配しかけていた。

そして最後まで、華を失わなかった。


実況者は興奮した声のまま締めくくる。


「開幕戦からとんでもない一戦だァ!! 勝者はカマル! しかし敗れたオーガルもまた、このコロシアムに強烈な爪痕を残しましたッ! 速さ、爆発、そして観客を魅せる華! 一回戦目で惜しくも敗退したが、


担架で運ばれていくオーガルの紅髪が、砂の上で揺れた。


その姿を、観客席の高い場所からひとりの男が無言で見下ろしていた。


闘王リア。


その瞳がかすかに細められる。


まるで面白いものを見つけたと言わんばかりに。

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