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十九話間話 修行のあと

 次の日になっても、ルークの目はどことなく冷たい気がした。

 昨夜の修行を途中で切り上げたことを気にしているのか、それとも別のなにかを考えているのか、私には分からない。けれど彼は、レイドの悪態にも真っ向から怒ることなく、「昨日は途中で切り上げてごめん」と丁寧に頭を下げた。だから私は、それ以上気にしないことにした。


「カマル、ちょっといいかな?」


「?」


 朝のやわらかな光が練習場に差し込む中、ルークは私を見つめる。その眼差しは静かだったけれど、どこか真剣で、少しだけ張りつめていた。


「君は、本当に勇者一行に出てくる魔術師のようだよ。魔術師も複数の魔法を使えたらしい」


「魔術師は……そうみたいですね。でも、本を読んでると五属性以上の魔法を使えるとかって話もありますよ?」


 私がそう返すと、ルークは小さく首を振った。


「2つの属性を持つだけでも特別かつレアケースなんだ。それを君は3つも内包している。それも三つ目は無ときた。魔族に対抗できる力だけれど、同時に魔族も扱えるらしい力だ。本当に気をつけたほうがいい」


 無。


 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がわずかにざわついた。

 炎や雷とは違う。手の内にあるのに、自分でも正体をつかみきれない、不気味ななにか。便利だから使う、強いから頼る――そんな軽い気持ちで触れていい力ではないことくらい、私にも分かっていた。


「……そんなに危険なんですか?」


 思わず問い返すと、ルークは少しだけ視線を落とした。


「力そのものが危険というより、使う者の心に強く引っ張られうるかもしれない……それに、魔物のことだ。精神を操る魔術を扱い無を持つ君を利用してくるかもしれない。だから十分に気をつけて欲しい」


 まるで、自分にも言い聞かせているような口ぶりだった。


 私は右腕に刻まれた痣へと目をやる。

 まだ痛みはない。それに操られる可能性。

重い言葉だった。唇を噛んで、そして言う。


「でも、使わないと守れない時もあります」


 ルークは静かに頷いた。


「ああ。だからこそ、使い方を学ばないといけない。力に飲まれず、力を握るためにね」


 その言葉には、昨夜よりもずっと重みがあった。

 ただの修行じゃない。これは、自分の中にある危うさと向き合うための時間なのだと、ようやく分かった気がした。


そして一週間後――。

怪盗オーガルが現れる。

帝国を騒がせる大捕物が、いま始まろうとしていた。

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