帝国編 第十九話 魔力の性質
レイドの打ち込みは重かった。
なんど打ち合っても押し負けそうになる。
剣筋をつかんで流そうとしてもほぼ力で押し負けてしまい気づけば頭の上に迫ったり……なんてことが数回続く。
実戦経験や警察としての活動がここまで膂力、魔力の圧に現れているのかとカマルは内心驚いていた。
だが、自分も負けてられない。
汗を流しながらも食らいつこうとしたところで……カマルの木剣をレイドが打ち落とした。
ルークが手を叩く。実践が終わった合図だった。
「ちょっと座って休憩しようか」
ルークが言ったのを合図に2人は息を荒げているのを整えつつ、ぺたりと地面に座った。
「レイド強いね」
カマルが悔しいのとそれでも、朗らかに笑うのを見てレイドも少し笑う。
「そりゃそうよ、俺は魔導警察だからな。当たり前だ」
「今回は私の負けだね」
「今回はってお前な……」
そう軽口を言い合いながら木剣の柄を互いに打ち合った。
渇いた木製独特の音が反響する。
「よしーーー、休憩が終わったら次はより実用的なところをやろう」
ルークが呼びかける。
ーーー自分の身体と魔力にもっとも適した魔術式の把握
そう題してルークが取り出したのが、そのための識別装置として用意された小石のような大きさの金属だった。名を幻想の石と言う。
これは公務員試験などでよく使われるものだが、数値がでる高価なものじゃなければ大概露天商などで手頃な値段で買えるのだとルークは言った。
ただの金属で自分に適してる魔術式など、どう分かるのか。
そう2人が疑問に思った時、ルークが説明する。
「熱くなったり赤くなったら火炎、静電気特有のバチッという音がなれば雷撃、金属に塵がつけば砂、空気をまとえば風、霜がつけば氷結、水滴がたくさんつけば水流……と言った具合かな。あとは特別枠で、触れた瞬間にぱっと光ったら光、逆に周囲の光を吸収か消滅させたら闇や無だ」
「闇と無って同じなように聞こえたけど違うの?」
カマルは聞く。
「そうそう……詳しくは星見回廊研究所のスタッフが知ってるかもだけどもね。闇は吸収を司り、無は消滅を司るらしい。ちなみに闇や無を使うのは魔物が多いと聞くよ」
もっともカマルは風でレイドは炎だと思うけどね〜っとルークは笑う。
「なあ、ルーク」おもむろにレイドが口を開いた。
「ん?」視線を向ける。「一応年上だし、敬称をつけてほしいな……」という顔をルークがするがレイドは無視した。そして聞く。
「死とか腐敗を司る性質はあるか?」
物騒な性質だねというカマルの呟きを聞きつつ、レイドのその問いにルークはうーんと考えるそぶりをした。しばらくして
「あるとは思う。でも、現実はあり得ないかな。実際、帝王歴初頭にその性質を開発しようとした実験施設があったらしいけど、それが呼び寄せた破滅の光が暴走して魔物を呼び寄せてしまい、兵団が壊滅したとの……文献を前に読んだけども、イルカムダムの架け橋事件やマフティフの殺戮のもとになった話だと聞いてるよ」
レイドの顔が少し強張った。
ロストが言った内容と酷似している。でたらめだとあの時は思ったが、文献でも記述されているとは。現実味を帯びてきている。
ーーーと言うことは、帝国は実際に昔から闇を抱えている?
そう思ったところで被りを振った。
「大丈夫?」
カマルが心配そうな顔で覗いてきたからだ。
「ああ」
レイドはひきつった笑いにならないように努めた。うまくできたかどうかは分からないけれど。
ルークは「さて、話し込むだけだと申し訳ないから実際に1人ずつ試してみよう」
そう言って、「カマル、君が最初に触ってみるといい」言いながらカマルに幻想の石を渡した。
カマルは受け取ると魔力をこめる。
すると風→光の順に反応があった。
レイドに渡そうとした時、
「カマル待った! その反応は……」ルークの言葉が切羽詰まっていた。
カマルの体が少し強張る。
風、光の反応それだけでも十分すごいとルークは言うが、
「なんで君が無の属性も秘めてるんだ……」
ルークの目は少し魔物を見るそれと同じようだった。
カマルはずきっと胸が痛んだ気がして少し服を掴む。
「ごめん、ここで終わろう。修行は一旦終わり。続きは明日だ」
ルークはカマルからひったくるように幻想の石を受け取ると、足早に夜の闇に消えていった。
幻想の石の周囲がゆっくりとそれでも確実に光を奪っていたのをカマルは見ていた。
ねえ、カマル。君はECLATを使えている。
その時点で最悪の魔物、ロストと魔力が同期している。
それを君は気づいているかな?
魔王を喰らい、邪神龍を喰らった最悪の化け物と君は力が繋がってるんだよ。
君とロストは鏡のように対照的に見えて実は深いところで……ふふ、おもしろいね
君は光の三極星であるけれど、もう一つの顔も持っているんだ。
過酷な世界を生きて抜いてみせろ……そして私の元へと早く来るがいい。
早く君を、殺させてくれ。
ーーーそう言って何もない世界で魔術師は笑った




