第二十一話 闇に宿る哀しみ
シリウスの双剣が旋風のように舞い、アルタイルの光も、スピカの水も、ベガの火も、プロキオンの土も次々と斬り裂かれていく。
個々ではまるで歯が立たない――その現実を痛感しながら、四人は互いを守り合い、必死に耐える。
「くそっ、速すぎる……!」
ベガの炎は掻き消され、スピカの水は黒く侵され、プロキオンの大地は砕かれていく。アルタイルは仲間を庇いながら叫んだ。
「一人ずつじゃ勝てない! なら、四人で当てるんだ!」
その言葉に三人が頷く。
スピカが水を広げ、霧を作る。視界を奪われたシリウスが僅かに動きを止めた瞬間、プロキオンが土壁で進路を制限する。ベガがその隙に火炎を放ち、炎の渦が闇を照らした。
そこへ、アルタイルの光が一点に収束する。
「これで――!」
四人の魔力が交わり、閃光が闇を貫いた。シリウスの外套が裂け、頬が赤く切り裂かれる。血が一滴、大地へと落ちた。
紅い瞳が見開かれる。初めての驚愕の色だった。しかし次の瞬間には、冷笑へと戻る。
「……悪くない。だが、それで終わりか?」
次の瞬間、闇を纏った双剣が疾風のごとく迫り、ベガの炎が切り裂かれる。スピカの水の壁が弾かれ、プロキオンの土壁が粉砕される。四人は必死に体勢を整え、再び攻防の渦へと吞み込まれた。
「っ……まだだ!」
アルタイルは再度光を放つ。しかしシリウスの剣速はあまりにも早く、光ごと斬り伏せられる。
――圧倒される。それでも四人は諦めなかった。何度も打ち込まれた双剣の軌道が、ほんのわずかに読めるようになってきていた。
スピカが仲間を庇うように水の壁を立て、ベガがその背後から火柱を打ち上げる。炎に隠れた影から、プロキオンが地面を揺らし、土の鎖を伸ばす。
シリウスの足が一瞬止まった。
「行けぇ! アルタイル!」
仲間の声に応え、アルタイルは光の剣を掲げた。光が刃を包み、灼火と交じり合う。
「貫け――!」
四人の力が収束し、眩い閃光となってシリウスを打ち抜いた。攻撃を受けた闇の双剣が悲鳴を上げるように震え、彼の身体を弾き飛ばす。
地面に叩きつけられたシリウスはしばらく荒い息を吐いていたが、やがて血を吐き、笑った。
「――なるほど。やはり光は消えぬ、か」
そう言ってシリウスは、紅い瞳に宿っていた憎悪の炎を鎮め、最後の瞬間に、まるで安堵したかのような、哀しげな微かな微笑を浮かべた。
「だが忘れるな。闇は、常に貴様たちの影とともにある」
そう言葉を残し、シリウスの身体は力を失った。その瞬間、彼の手首に埋め込まれていた闇の欠片が地面に落ちた。
重苦しい沈黙が訪れる。四人は互いの息遣いだけを確かめ合い、しばし立ち尽くした。
「や、闇の英雄を倒してしまった……」
アルタイルの手は、目の前の現実に急に震え出した。
「……アイツは本気だった。やらなければ、アタシらがやられてた…」
ベガがアルタイルを慰めるように呟く。そしてシリウスに歩み寄り、その傍から闇の欠片を拾い上げた。
『――まさか同胞を手に掛けるとはな』
それは、宿主から解放された闇の欠片の声だった。
「……なぜシリウスは俺たちを目の敵にしていたんだ……? 星織が崩壊すれば、闇の民だって無事ではいられないだろうに……」
『星織の恩恵を受け、地上で安穏と過ごしてきた貴様らに、この者たちの深い哀しみは分かるまい』
アルタイルの問いに、闇の欠片は静かに答える。
『我はこの者と同体になり知った。その想いを知り、この者の世界を変えてやりたくなった。――だが、こうして貴様らの手に落ちた以上、本来の役目を果たそう』
「………」
星織の欠片はみな、星織を修復する役目を担っているはずだ。それなのに闇の欠片は、闇の民に同情し、その役目を放棄しようとした。
星織は無条件に世界を護るものだと思っていたアルタイルにとって、闇の欠片の意思はひどく衝撃的だった。
「混沌信者は、地上に戻ることを望んだ闇の民たちが作った組織だったんですね……」
スピカはやるせない表情でシリウスを見つめていた。
「……欠片を持っていたシリウスは、恐らく混沌信者の最大戦力だったはず…。……奴がいなくなった以上、組織も派手には動けないだろう……」
「そう、だな」
プロキオンの声に応えるアルタイルの声に覇気はなく。その目は未だに冷たくなっていくシリウスを見つめていた。
「……行こう、アルタイル。アタシらは星の塔を目指さなきゃいけない」
闇の民は、ただ地上に出たかった。なぜ同じ世界の民同士で戦わなければならなかったのか。
星織の修復こそが正義だと思っていたアルタイルに、再び不穏な空気が流れ始めるのだった。




