18 モリアーティ捕物劇、そして、さようなら、ホームズさん!、ワトソンさん!
次の日の夜、ホームズさんは、わたしたちを、このロンドンにやって来た時に着ていたジーンズの上下に着替えさせた。驚いているわたしたちにホームズさんがいった。
「昨夜、いっただろう。今夜にでも、奴が現れるかも知れないって」
ホームズさんは、真司にリュックを背負わせると、221Bを出て、
「止まってくれ、急いでいるんだー!」
と、四頭立ての空の荷馬車を止めて、わたしと真司も乗り込んだ。
ワトソンさんの家まで行って、彼を乗せると、ビッグベンへ急いだ。御者は、わたしたちの服装をじろじろ見ていたが、ホームズさんが、
「東洋の探検家の子供たちだ」
というと、納得して、荷馬車を走らせた。
「1つ訊いてもいいですか?」
「何だね?」
「どうして、モリアーティが今夜戻ってくるって分かったんですか?」
わたしが訊ねた。
「奴の手下から、知らせがあってね」
「手下って、ポーロックという人ですか?」
「何だ、そんなことまで知っているのかね。彼には、金を渡したことがあってね。私には恩を感じているようだ。だから、今回のように有力な情報をくれるのだ。
それによると、スコットランドヤードの連中の盲点つまり、ー犯罪は夜が多いーを突いて、明日の正午、モリアーティ自ら、動き出すらしい。
昨日まで、イレギュラーズたちは、一時も休まずに見張りを続けたが、奴は現れなかった。だから、今夜しかないと」
「でも、明日の朝ってことも考えられるのではないですか?」
「いや、それはないだろう。奴は、おそらく、自分がどの地点に戻ってくるのか、分かっていないと思う。だから、人目の少ない夜を狙うだろう」
「なるほど!」
真司がポンと手をたたいたが、でも、「まてよ」というふうに、左の人差し指をあごに当て、
「それなら、どうして、モリアーティは白昼にタイムトリップしたのですか?」
「日曜日で、学内には、誰もいなかったからだ」
「あっ、そうか」
わたしたちは、曜日のことなんて忘れていた。
ー☆ー
ビッグベンの前に到着すると、ホームズさんは御者にいった。
「この荷馬車を私たちに貸しておいてくれないかね?」
「でも、だんな……」
「これでどうだ」
ホームズさんは、牛革の財布に入っているお金を見せた。
「分かりました。でも、今夜中に、ここに返してください」
と御者はメモをホームズさんに渡すと、やってきた二頭立ての辻馬車に乗り、帰って行った。
ホームズさんは、荷馬車の後ろの金具にロープをかたく結んだ。
「こうしておいたら、奴がやって来たら、すぐにタイム自転車をこれに結んで出発できる」
わたしたちは、モリアーティがやってくる位置が分かっていたので、そこが見える少し離れた場所で見張った。
2、3時間が過ぎた。赤と緑色の光がチカチカした。夜なので、黒い光は見えなかった。時空の裂け目だ。
ホームズさんの狙いどうりに、モリアーティが現れた。ホームズさんが、右手の親指と人差し指を曲げ、ピューと口笛を吹くと、四方八方の路地から、少年たちが現れ、モリアーティに飛びかかった。ベーカー街イレギュラーズのメンバーだった。
不意をつかれたモリアーティは、タイム自転車から離れ、地面に転がった。少年たちは、10人ががりで、モリアーティを取り押さえると、持っていた縄でぐるぐる縛り上げた。
「計算どうりだったよ、モリアーティ」
「どうして、今夜、私が戻ってくるって分かったんだ?」
モリアーティは顔を歪めていった。
「今は、教えている時間はありません。あなたは、数学の教授です。その明晰な頭脳をフルに生かして、ご自分で考えてください。
さあ、アサコ、シンジ、タイム自転車に乗りなさい」
わたしたちが、タイム自転車を起こそうとすると、かごの中から、携帯電話やノートパソコン、液晶テレビ、ビデオカメラなど、馴染みの深い20世紀の文明の力の品々が、たくさん出てきた。《月立》というメーカーの名が入っていた。すべて日本製だ。
モリアーティは、桜ヶ丘町に行ったんだ。1894年のホームズさんがいったとうり、モリアーティは、未来のハイテク機械を研究して、犯罪に役立てようと、この19世紀に持ち帰ったのにちがいなかった。
「急ぐんだ。アサコ、シンジ! どうした?」
ホームズさんがわたしたちを見た。
「この機械は、どうしましょう?」
「君たちが持って帰ってくれ。私たちの時代には、必要ない」
ホームズさんは、きっぱりといった。
わたしたちは、ハイテク機械をタイム自転車のかごにつめ、その上に真司のリュックを載せる(リュックは、かごから落ちてもいいように、ひもをハンドルにかけておいた)と、目標の時間を20X△年10月XY日の13時に合わせて、荷馬車につないだ。
「元気でな」
ホームズさんとワトソンさんが手を差し伸べた。わたしと真司は、交互に握り返した。
タイム自転車のスタンドを上げ、真司が前に、わたしがその後ろに乗ると、ホームズさんは、ワトソンさんとともに、荷馬車に乗り込み、ウエストミンスター橋に向けて、走り出した。
ウエストミンスター橋は、東に向かって一直線だ。ワトソンさんは、馬におもいっきり鞭を当てた。荷馬車に引かれたタイム自転車は、ぐんぐん加速して行く。
「さようなら、アサコ! シンジ! 切るよ!」
と、ホームズさんが叫んだ。
「さようなら、ホームズさん! ワトソンさん!」
わたしたちは、おもいっきり叫んだ。やがて、夜の闇に、赤と緑に光った時空の裂け目が現れた。
わたしたちは、時空の裂け目に吸い込まれて行った。
読んでいただき、ありがとうございます。
犯罪界のナポレオンのモリアーティがこんなに簡単にお縄になるのも、執筆から25年経った今では、疑問ですが、児童文学ということで、ご愛嬌。
モリアーティはまた、娑婆に戻り闇に紛れるでしょうね。
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