15 盗まれたタイム自転車を追って 2
10時前ごろ、ホームズさんとワトソンさんは戻ってきた。ホームズさんはキャビネ判の写真を大切そうにかかえ、口元に笑みがこぼれていた。きっと、アイリーン・アドラーの写真だ。ホームズさんは、わたしたちを見るといった。
「私は、今日、1人の女性にやられたよ。でも、敗北感はない。こんなに愉快な気分になれた依頼は初めてだ」
ホームズさんは、今朝、わたしがいいかけたことを忘れているようだ。真司が切り出した。
「あの、ホームズさん、僕たち、昨日の夕方、タイム自転車を盗まれました」
「ええ、何だって!」
ホームズさんの顔が驚きに変わった。
「どこでだね?」
「ハイドパークのサーペンタイン池のベンチの近くで」
「君たちは、何をしていたんだね?」
「あの、公園で居眠りをしていたら、アイリーン・アドラーさんに出会って……」
「さては、君たち、私をつけていたんだね。本に写真は載っていないようだし、君たちが、私の後をつけなければあの女性の顔は分からないからね。しようがないな」
「すみません」
「でも、あの女性に出し抜かれるのだったら、君たちに、この依頼を相談すれば良かったね。おっと、失礼、君たちは今、重大な場面に立たされているのだった。申し訳ない」
今日のホームズさんは、何だかちがう。とっても楽しそうだ。ワトソンさんの本には、「恋愛にちかい気持ちをいだいていたのではない」と書かれてあったが、何だかフワフワした感じだ。恋しているんだって、自分では気づいていないのかも知れないとわたしは思った。ホームズさんはいった。
「話を続けたまえ」
「その後、ベンチの所まで戻ってみると、タイム自転車がなくなっていて、このメモにナイフが刺さっていたんです」
真司は、モリアーティが書いたメモを見せた。
「なるほど」
ホームズさんは、右手の人差し指を折り曲げ、あごに当て、ナイフを見ながら考えていった。
「このナイフは、トリニティ大学(ホームズの出身大学という説があり、ケンブリッジ大学のうちの1校だ。ケンブリッジ大学とは、教会を持つ、いくつもの独立した大学の総称)のものだ。柄の部分はその紋章が入っている。
モリアーティは、数学の教授だ。うわさでは、小さな大学の教授らしいが、トリニティ大学へは、奴の頭脳が認められて、非常勤講師をしていたのかも知れない。それに、トリニティ大学では、いろいろな発明がさかんになされている。
モリアーティが、タイム自転車をそこで調べている可能性はある。奴がこんなに簡単に、居所を知らせるかどうかは疑問だが、わざわざ、名前を出しているところをみると、奴の挑戦かも知れない。とにかく、行ってみよう」
「あっ、シンジ、ポラロイドカメラを用意しておきなさい」




