14 ボヘミアの醜聞 1
夜になって、ワトソンさんが訪ねてくると、ホームズさんは、わたしたちに席を外すようにいった。その時に少しの小遣い銭をくれた。わたしたちは、
「いただく理由がありません」
と断ったが、
「明日から、ロンドン見物に行くがいいさ。私は君たちに構ってやることができないかも知れないから、これは取っておいてくれ」
といって、右手に強引に握らせた。ホームズさんのせっかくの好意だからわたしたちは、素直に受け取ることにした。
わたしたちは、隣の空き部屋に行った。たぶん、以前、ワトソンさんが使っていた部屋だろう。
「きっと、今頃、あの手紙から、差出人を推理しているんだ」
真司は両腕を組んで部屋の中をぐるぐる歩き回っている。何だが落ち着かない。
「そうね。もう少しすると、ボヘミア王がやってくるのね。アイリーンがつき合っていた人って、一体、どんな人かしら? 見てみたいわ」
「ドアを少し開けておいたら、見られるんじゃないかな?」
真司とわたしはドアを少し開けて、しばらく廊下の方を見ていると、階段を上がってくる足音が聞こえてきた。
身長が2mちかくある風格の男が、ホームズさんの部屋のドアをノックした。男は、覆面を被り、濃紺の袖なしマント(派手な真紅の裏地が使われている)は、輝かんばかりの大粒の緑柱石のブローチで襟元をとめられ、本に描かれていたとうりの服装をしていた。ボヘミア王にまちがいはなかった。
「すごい、ボヘミア王に違いないよ!」
わたしたちは、そわそわした。
「俺たちも、ホームズさんの調査に参加したいな」
「でも、きっと、駄目だと思うわよ。わたしたち、席を外すようにいわれたもの」
「そうだな」
しばらく、真司は考え込んだが、
「そうだ、いい方法がある!」
と、パチンと指を鳴らした。
「どんな方法?」
「俺たちは、本で読んだので、ホームズさんについて行かなくっても、彼がどこで調査するのか分かっている。アイリーンの家は、確か、セント・ジョンズ・ウッドのサーペンタイン通りのブライオニ荘。彼女とゴドフリー・ノートンが結婚式を挙げるのは、エッジウェア通りのセント・モニカ教会、つまり、セント・ジョン教会だ。(セント・モニカ教会とは、ワトソンさんがつけた架空の名前だ)だから、タイム自転車で先回りして、ホームズさんの活躍をこっそり見ていようよ」
「すごい、真司、頭いい」
わたしたちは、真司が持ってきた本で、もう一度、『ボヘミアの醜聞』を読み、明日の計画を練った。
わたしたちが計画したのは、まず、馬丁に変装したホームズさんが、ブライオニ荘で調査する様子と、ノートンとの結婚式の様子を見るつもりだったが、1日に2回もタイムトリップした疲れが出たせいか、翌朝、目を覚ましたのは、午前9時すぎだった。ホームズさんはとっくに出掛けていた。
わたしたちは、ハドソン夫人が用意してくれた朝食を済ませると、
「ロンドン見物に行ってきます」
といい、急いで、ベーカー街221Bを出た。
「今からでは、ブライオニ荘周辺の調査は、終わっているかも知れないから、セント・ジョン教会へ行こう」
セント・ジョン教会は、ベーカー街から、そう遠くはない。本によると、午前11時35分に、ホームズさんが、セント・ジョン教会に向かって、馬車を飛ばすことになっているので、時間に余裕があったが、わたしたちは、早めにセント・ジョン教会へ行くことにした。




