14 ボヘミアの醜聞 2
セント・ジョン教会に着いて、中を覗くと、白い僧服を着た牧師らしい人が、祭壇の前に立ち、聖書を読んでいた。
アイリーンたちは、まだ来ていないようなので、わたしたちは、近くで、待機することにした。
セント・ジョン教会の正門の両側に、大きな木があった。わたしたちは、その木陰に隠れて、ホームズさんたちがやってくるのを待った。
しばらくして、二輪馬車がすごいスピードで駆けて来て、止まったかと思うと、黒い背広に、グレーのズボンをはいた1人の男が、教会の中へ入って行った。
「ゴドフリー・ノートンかな?」
真司が訊ねた。
「さあ、分からないわ。もう少し様子を見てみましょう」
それから、5分も経たないうちに、四輪馬車が止まった。中から1人の女性が出て来て、教会の中に入って行った。
その女性は、ダイヤモンドのようにきらきらした瞳を持ち、本の描写のとうり、「男が命をささげもしそうな美しさ」という表現がピッタリだ。彼女は、2つの水色のバラの花で飾られた白い帽子を被り、灰色に近い白いドレスを着ていた。
「アイリーン・アドラーだよ」
わたしたちはいい合った。もうしばらくすると、辻馬車が止まり、中から、馬丁の姿をした赤ら顔の男が、そっと教会の中に入って行った。
「あのグレーの瞳、あの馬丁は、ホームズさんにちがいない。本のとうりだから、さっきの男女は、ゴドフリー・ノートンとアイリーン・アドラーにまちがいないよ。俺たちも覗いてみよう」
わたしたちは、教会の扉をそっと開け、中を覗いてみた。
すると、祭壇の前で牧師が、アイリーンとノートンに何かいいきかせて、その後ろで、馬丁に変装したホームズさんが、ぶらぶら歩いていた。わたしと真司は、その様子を見ながら、クスクスと声を殺して笑った。
やがて、馬丁のホームズさんに気づいたノートンが、
「ありがたいよ!」
「君でいいから、さあ、こっちへ来てくれ! 早く!」
と、ホームズさんを祭壇の前まで連れて行った。
わたしと真司は、笑いが込み上げてきたので扉を閉め、木立のところまで走って行くと、大声で笑った。
「たまんない、本に書いてあったとうりだわ」
「俺、おかしくって、腹がよじれそうだよ」
ホームズさんは調査に行ったのに、アイリーン・アドラーとゴドフリー・ノートンとの結婚式の立会人にされたのだった。
わたしたちは、これ以上、ホームズさんの調査を見ずに、テムズ川に行った。近くで、サンドウィッチとオレンジジュースを買い、河岸で昼食をとった。真司がオレンジジュースを飲みほすといった。
「なあ、もしかしたら、アイリーンと話ができるかも知れないぜ」
「えっ、どうやって?」
「俺たちは、アイリーンの顔を覚えただろう」
「ええ、忘れられない美しさだわ!」
わたしは、うっとりとしていった。
「アイリーンは、今日の夕方5時に、馬車で、公園、つまり、ハイドパークをドライブするんだ」
「あっ、そうね。でも、あの公園って、ハイドパークだったのね。真司って、すごい。本当に何でもよく気をつけているのね」
「麻子、シャーロキアンなら、初歩的なことだよ。それに、おまえは、何度もあの物語を読んでいるんだろう? どうして、わかんないんだよ?」
「わたし、登場人物の人柄ばかりに目がいって、場所のことまで、そんなに気をつけていなかったの。それに、公園を散歩するなんて記述は、あの物語では、あんまり重要なところではないもの。気になんて止めてられないわ」
「まあ、そうだな。旅行をしようとする人か、俺のようにホームズさんのパロディを書こうと思わない限り、気をつけないかもな」
真司は頭をかいた。
「でも、真司、ハイドパークっていったって、ものすごく広いわよ。どこで、待ち伏せするの?」
「そうだな……」
真司は考え込んでいった。
「とにかく、ハイドパークへ下見に行こう」
わたしたちは、ハイドパークへタイム自転車を走らせた。




