13 1887年のボヘミアの醜聞のホームズに報告
こうして、再び、わたしたちは、1887年のロンドンのベーカー街に戻ったのであったが、5月19日に帰っても、同じことの繰り返しだと思ったので、翌日の5月20日に行くことにした。
1887年5月20日は、『ボヘミアの醜聞』の事件で、ボヘミア王からの依頼があった日であるが、よく考えると、彼がやってくるのは、夜の7時45分だったので、それまでに、ホームズさんに会って、タイムマシンについて確かめたことを話す時間は、充分にあると思った。
そのとうり、わたしたちが未来からやってきたということを理解していたホームズさんは、わたしたちの帰りを待ちかねていた。
しかし、わたしたちは、戻ってきたものの、よく考えると、タイムマシンのことは、ホームズさんが手掛ける事件にかかわっていたので、どうやって伝えたらいいのか、考えあぐねていた。
221Bのホームズさんの部屋に入ると、彼はすぐさまいった。
「どうだ、何か分かったかね?」
「ええ、分かったのですが、それには、これから先、ホームズさんが手掛ける事件にも絡んでいるので、何といえばいいのか分かりません」
とわたしたちがいうと、ホームズさんはしばらく考え込んでいった。
「そのタイムマシンは、本当に私が作ったのかね?」
「いいえ」
「それでは誰が?」
「モリアーティ教授です」
とわたしがいうと、ホームズさんは、
「犯罪界のナポレオンか……」
とぼそっというと、タイムマシンのことは、それ以上何も訊かなかった。
「ところで、君たちは、知っているかも知れないが、今日、私のところに、差出人不明の1通の手紙が届いた」
ボヘミア王からの手紙にちがいない。
真司とわたしは、ニッと顔を見合わせた。
「それによると、今夜、7時15分に依頼人がやってくる。場合によっては、私はすぐに調査に出掛けなければならない。だから、昨夜のように君たちをタイムトリップさせることはできないかも知れない。それにいつもたやすく、君たちを手伝ってあげられるかどうかも分からない。だから、君たちは、何日でも好きなだけこの221Bに泊まりなさい」
「いいんですか!」
わたしたちは歓声を挙げた。
「もちろん。ハドソン夫人の許可は取ってある。シンジは私の部屋に、アサコはハドソン夫人の部屋に泊まりなさい」
「ありがとうございます」
わたしたちは声をそろえていった。
「ここに滞在するなら、1つ条件があるのだが……」
「何ですか?」
「その服装なのだが、それでは、あまりにも目立ちすぎる。ロンドンは、犯罪が多い街だ。もし、君たちが、悪漢にでも目をつけられたら困るので、このビクトリア王朝時代に合った服装をしてもらうよ」
「はい、構いません」
「服は、今朝、ハドソン夫人に用意してもらった。今から、それに着替えで来なさい。おっと、シンジは服をもらったら、私の部屋で着替えなさい」
着替えを住ますと、わたしと真司は対面した。
わたしの目の前にいるのは、本当に真司なの?
わたしは、ハッとした。真司は髪を整髪料でこざっぱりまとめ、ベージュ色のYシャツにこげ茶色のベスト、茶色のツイードの背広を着て、こげ茶色の革靴をはいている。襟元はリボンネクタイを結んでいる。
ジーンズ姿の真司とはまるでちがう。どこかの貴公子のようだとわたしは思った。
真司もわたしをじっと眺めていたようだったが、やがて、
「何だ、おまえ、その格好は! それじゃあ、まるで、派手な歩くほうきだな」
と茶化した。
わたしは、髪をいつもの三つ編みをほどいて伸ばし、胸のまわりと裾に、派手なフリルのついた、淡いピンク色のロングドレスを着ていた。
「ひどい! ほうきって何よ!」
わたしがむくれたので、ホームズさんがいった。
「そんなことはないよ。アサコにそのドレスはよく似合っている。シンジは照れているのだよ」
「照れてないかいないや」
とふくれっ面をした真司の顔は、何だか
赤くなっていた。
それから、しばらくの間、わたしたちは、ホームズさんと話し込んだ。




