12 ライヘンバッハの滝から空家の冒険 3
221Bのハドソン夫人の下宿屋に入った。ホームズさんの部屋の前までくると、彼は、
「部屋の中に入ってはいけない」
といい、わたしたちを扉のところで待たすと、1人で中に入って行った。
「見てくれ」
ホームズさんは、窓際においている1体の蝋色の人形を、わたしたちに見せた。それは、ホームズさんにそっくりの、等身大の人形でみごとなできばえのものだった。
「これは、このまま窓際においておくから、今夜、君たちは、15分おきに、この人形の角度を変えて欲しいのだ」
「『空家の冒険』ですね」
わたしは思わずいった。
「君たちの時代では、そういう風に呼ばれているのかね。しかし、事件の内容は、私には話さないでくれたまえ」
「はい、そうします。7年前のホームズさんにも同じことをいわれました」
「そうだったね」
そういうと、ホームズさんは、わたしたちと話すのをやめ、窓際から、外の様子をうかがっていたが、わたしたちを221Bに残すと、ワトソンさんのケンジントンの家に戻った。彼の帰りを待って、作戦を決行するのだ。
『空家の冒険』を簡単にまとめると、モリアーティの凄腕の手先で、『最後の事件』以降、ホームズさんの命をひつこく狙う、狙撃の名手のモラン大佐を、この蝋色の人形のトリックを使って、ホームズさんが見事に捕まえるという話だ。
わたしたちは、簡単だが、重要な任務を何とかやり遂げた。ワトソンさんの本では、その役目を果たしたのは、ハドソン夫人ということになっているが、わたしたちのことは、「世間には公表しないようにした方がいいだろう」と、ホームズさんがいったので、そのようになっている。どういう事件なのか、詳しく知りたい人は、『空家の冒険』を読んでね。
そして、その深夜、ホームズさんとワトソンさんに引きとめられたが、わたしたちは、早く、1887年のホームズさんに、タイムマシンのことを知らせたかったので、丁重に断り、また戻ってくることを約束して、7年前にタイムトリップした。




