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もふもふ召喚士の自由気ままなVRMMO冒険記 ~可愛い魔物を集めていたら、いつの間にか最強の魔物国家ができていました~  作者: 黒海苔
第1章:神が作ったゲーム

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第5話:路地裏の猫

「また会えたらいいな」


 そう言って路地裏を離れてから、しばらく。


 私はシロと一緒にミルフィアの町を歩いていた。


「次は何見ようかなぁ」


「わふっ!」


「シロのご飯はさっき買ったでしょ?」


「わふ?」


 首を傾げるシロ。


「……まさか、まだ食べるつもり?」


「わふっ!」


「元気だなぁ」


 私は苦笑しながら、シロの頭を撫でる。


 森で持っていた食料を全部シロにあげてしまった反省から、今度は私の分も含めて少し多めに買ってある。


 だから、すぐに困ることはないはず。


 それにしても。


「さっきの猫、可愛かったなぁ……」


 銀灰色から白へ溶けるような毛。


 ところどころに混じった淡いピンク色。


 綺麗な桃色の瞳。


 そして、ふわふわした長い尻尾。


「触ってみたかった……」


「わふ」


 シロから、なんとなく呆れたような感情が伝わってくる。


「だって可愛かったんだもん」


「わふぅ」


「シロも可愛いよ?」


 頭を撫でる。


 嬉しい。


 そんな気持ちが返ってきた。


「ふふ」


 やっぱり、この感覚は面白い。


 言葉が話せなくても、なんとなくシロの気持ちが分かる。


 そんなことを考えながら、大通り沿いの屋台を眺めていると。


「お、嬢ちゃん。果物どうだ?」


「こっちは焼きたてだよ!」


「わぁ……」


 どのお店もおいしそう。


 焼き菓子。


 果物。


 串焼き。


 パン。


 見たことのない食材まで並んでいる。


「せっかくだし、もう少し買っておこうかな」


 いくつかの屋台を回っていると。


 突然。


「魔物だ!」


「広場に魔物が入り込んでるぞ!」


「冒険者を呼べ!」


「え?」


 少し離れた場所から、大きな声が聞こえた。


 人々が同じ方向へ集まっていく。


「何かあったのかな」


「わふ?」


 私も気になって、シロと一緒に人の流れを追いかける。


 少し進むと、大きな広場に出た。


 そこには、すでにたくさんの人が集まっている。


「危ないから下がれ!」


「逃がすな!」


「囲め!」


 人垣の向こうから、そんな声が聞こえてくる。


「見えない……」


 私は背伸びをする。


 でも、人が多くてよく見えない。


「すみません、ちょっとだけ……」


 人の間を抜けて前へ進む。


 そして。


「…………!」


 騒ぎの中心にいたものを見て、私は目を見開いた。


 数人の冒険者たちが武器を構えている。


 その先。


 広場の端へ追い詰められていたのは。


「あの子……!」


 さっき路地裏で見つけた、あの猫だった。


 銀灰色と白の柔らかそうな毛。


 淡いピンク色。


 桃色の瞳。


 黒とピンクのリボンと、小さな鈴。


 間違いない。


「猫ちゃん……!」


 猫は完全に怯えていた。


 耳を伏せ。


 身体を低くして。


 周囲を見回している。


 逃げようにも、人が多すぎて逃げ道がない。


「ただの猫じゃないぞ!」


 誰かが叫ぶ。


「《月影猫》だ!」


「月影猫?」


 聞いたことのない名前だった。


「珍しい魔物だぞ!」


「町に入り込んだ魔物なら放っておけない!」


「下がれ! 仕留める!」


 冒険者の一人が剣を構えた。


「……っ!」


 猫がさらに身体を縮める。


 その姿を見た瞬間。


「待ってください!」


 気づけば、私は人垣の前へ飛び出していた。


「おい、危ないぞ!」


「下がれ!」


「その子は大丈夫です!」


「は?」


 冒険者たちが私を見る。


「何言ってるんだ? そいつは魔物だぞ」


「でも、怖がってるだけじゃないですか!」


「だからって――」


 剣を持った冒険者が一歩近づこうとする。


 猫がびくっと震えた。


「待って!」


 私は思わず猫の前に立つ。


 どうしよう。


 このままだと、本当に殺されるかもしれない。


「君、その魔物を知ってるのか?」


「え?」


 聞かれて、一瞬だけ言葉に詰まる。


 知っていると言っても。


 さっき見かけただけ。


 まだ仲間でもない。


 でも。


「…………」


 後ろを見る。


 猫は震えながら、私を見上げている。


 だったら。


「この子は私のパートナーです!」


「…………」


「…………」


 広場が一瞬静かになった。


「パートナー?」


「はい!」


 言ってから気づく。


 まだ全然そんな関係じゃない。


 でも。


 今さら引っ込められない。


「私、召喚士なので!」


「召喚士……」


 冒険者たちの視線が、今度は私の隣にいるシロへ向く。


「わふ」


 シロは唸りもしない。


 ただ、静かに私の横へ並んだ。


「……その狼も契約魔物か?」


「はい!」


「…………」


 何人かの冒険者がシロをじっと見る。


「なんだ、あの狼……」


「妙な感じがするな」


「おい。やめておけ」


 少し年上に見える冒険者が、剣を構えていた男の肩を掴んだ。


「召喚士の契約魔物なら、わざわざここで揉める必要もないだろ」


「……まあ、それもそうか」


 男は剣を下ろした。


「ちゃんと管理しておけよ」


「はい!」


 私は大きく頷く。


 周囲の人たちも、少しずつ緊張を解いていく。


「ほら、もう大丈夫だよ」


 私は猫の方を振り返る。


「…………」


 まだ震えている。


 人が多い。


 怖いよね。


「ちょっとごめんね」


 私はゆっくり両手を伸ばす。


 猫は一瞬だけ身を固くしたけど。


 逃げなかった。


 そっと抱き上げる。


「わ……」


 柔らかい。


 ふわふわ。


 でも今は、それどころじゃない。


「行こ、シロ!」


「わふ!」


 私は猫を胸に抱いたまま、その場を離れた。


 人通りの多い広場から離れて。


 大通りを一本曲がって。


 さらに細い道へ。


 さっき猫を見つけた辺りの、静かな路地裏まで戻る。


「ここなら大丈夫かな」


 辺りを確認する。


 誰もいない。


「ふぅ……」


 私はようやく息を吐いた。


 腕の中を見る。


「…………」


 猫はまだ少し身体を固くしていた。


「怖かったよね」


 できるだけ優しく地面へ下ろす。


「ごめんね」


「……にゃ?」


「いきなりパートナーとか言っちゃって」


 私はしゃがんで、猫と目線を合わせる。


「本当は、まだそんな関係じゃないのにね」


「…………」


「でも、あのままだと危なそうだったから……」


 猫は黙って私を見ている。


「勝手なこと言ってごめんね」


 私は少し笑う。


「でも、もう大丈夫だから」


「…………」


「次からは、ああいう怖い人たちに見つからないようにね」


 まあ。


 あの人たちも町を守ろうとしていただけなのかもしれないけど。


 猫にとって怖かったことには変わらない。


「じゃあね」


 私は立ち上がる。


「またどこかで会えたら、その時は……」


 一瞬だけ、もふもふしたいという気持ちが頭をよぎる。


「……遊べたらいいね」


 それ以上は何も言わない。


 仲間になって。


 なんて頼むつもりもなかった。


「シロ、行こ」


「わふ」


 私はシロと一緒に歩き始める。


 数歩。


 てく。


 てく。


「ん?」


 後ろから小さな足音が聞こえた。


 振り返る。


「…………」


 猫がいた。


「え?」


「にゃ」


「……ついてきてる?」


 もう一度歩く。


 てくてく。


 振り返る。


 やっぱりいる。


「…………」


 私は立ち止まる。


 猫も止まった。


「もしかして……」


 しゃがむ。


「私と一緒に来る?」


「…………」


 猫がじっと私を見る。


 そして。


「にゃあ」


 一歩。


 また一歩。


 私のところまで歩いてくる。


「ほんとに?」


「にゃ」


 今度は足元に座った。


「…………!」


 嬉しい。


 ものすごく嬉しい。


 でも。


「無理しなくていいんだよ?」


「にゃあ」


 その瞬間だった。


 目の前に半透明のウィンドウが現れる。


 《月影猫から契約を申し込まれました》


「…………」


 私は表示を見る。


 次に、目の前の猫を見る。


「月影猫……」


 さっき広場でもそう呼ばれていた。


 珍しい魔物らしい。


 でも。


「まあ、それはいいや」


 そんなことより。


 この子が。


 自分から私と一緒に来たいと思ってくれた。


 それが何より嬉しい。


 《契約を受諾しますか?》


 《はい》


 《いいえ》


「もちろん、はい!」


 迷わず《はい》へ触れる。


 その瞬間。


 猫の身体が淡い光に包まれた。


 同時に、私の身体にも同じ光が広がっていく。


 シロと契約した時と同じ。


 胸の奥に、新しいつながりが生まれていく。


 《月影猫との契約が成立しました》


「やった!」


「にゃあ!」


 猫から。


 嬉しい。


 安心。


 そんな気持ちが伝わってくる。


「分かる……!」


 シロと同じだ。


「君の気持ちも、なんとなく分かるよ!」


「にゃ」


「これからよろしくね!」


 そこで。


「あ」


 気づいた。


「名前、どうしよう」


「にゃ?」


 私は改めて猫を見る。


 銀灰色から白へ溶けるような柔らかい毛。


 そこに混じる、淡いピンク色。


 ふわふわした尻尾。


 なんとなく。


 雪みたいに綺麗。


「うーん……」


 シロがシロだから。


 この子は。


「ユキ!」


「にゃ?」


「ユキってどう?」


 猫――ユキの尻尾が、ゆらりと揺れた。


 そして。


「にゃあ!」


 嬉しい。


 そんな気持ちがはっきり伝わってくる。


「気に入ってくれた?」


「にゃ!」


「よかった!」


 私はユキをそっと抱き上げる。


 今度は。


 さっきみたいに助けるためじゃなくて。


 ちゃんと仲間として。


「今日からユキね!」


「にゃあ」


「シロもよろしくね」


「わふっ!」


 シロ。


 ユキ。


 ゲームを始めて、まだ一日も経っていない。


 なのに。


「もう二匹も仲間ができた……!」


 右にはシロ。


 腕の中にはユキ。


「最高だね、《エルディア》!」


「わふっ!」


「にゃあ!」


 二匹の声が重なった。


 こうして。


 私の初めての冒険は。


 始まったその日のうちに、二匹の可愛い仲間と出会うことになった。

面白いと感じましたら、ブクマ、評価、コメント等をよろしくお願いします。

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