第41話:クロネちゃん、クランに入りたい?
本日四本目です。
「今日もいっぱい案内しよう!」
「まだあるの?」
「あるよ!」
シフォンちゃんが少しだけ遠い目をした。
「じゃあ次はこっち!」
「ユズちゃん」
「なに?」
「一応聞くけど」
シフォンちゃんが妙に真面目な顔をする。
「この先、何かとんでもないものいたりしないよね?」
「いないよ?」
《その返事怖い》
《昨日も似たようなこと言ってた気がする》
《ユズ様の「普通」「大丈夫」「いない」は信用するな》
「ほんとだよ!」
《本当かなあ》
「もう!」
私は頬を膨らませながら歩き出す。
その後ろを。
シフォンちゃんたち。
クロネちゃん。
それから今日は人の姿のコハクたちがついてくる。
「クロネちゃん、こっち!」
「うん」
「ここから先は、最近できた場所なんだよ!」
「へえ」
昨日とは違って。
クロネちゃんもすっかり普通に街を歩いていた。
……昨日は森の中からものすごい速度で突っ込んできたけど。
◇
「ここは倉庫!」
「大きい」
「いっぱい住むようになったからね!」
新しく増設された倉庫。
食べ物。
布。
木材。
薬草。
いろんなものが種類ごとに置かれている。
最初の頃は、みんなが好きなところへ好きなものを置いていたけど。
クロエたちが整理してくれたおかげで、今はかなり使いやすくなった。
「ここに食材」
「うん」
「こっちが日用品」
「うん!」
「奥が素材?」
「そう!」
クロネちゃんが倉庫の中を見回す。
「ちゃんとしてる」
「でしょ!」
「ユズが作ったの?」
「ううん!」
「即答」
「クロエたち!」
「やっぱり」
「なんで!?」
《草》
《ユズ様の建築実績:最初の家崩壊》
《そこ掘り返すなw》
「今はちゃんとした家あるもん!」
《作ったの誰?》
「クロエたち!」
《ですよね》
「むー!」
そんな感じで。
今日は本当に平和に街を案内していった。
新しく作っている畑。
水路。
物置。
休憩所。
これから広げる予定の場所。
途中。
小さな魔物たちが走っていけば。
「かわいい!」
私は立ち止まる。
「わふ!」
シロも追いかけようとする。
「シロ待って!」
「わふ!」
そして。
「…………」
クロネちゃんも。
少しだけそっちを見ていた。
「クロネちゃん」
「何?」
「今見てた?」
「見てない」
「見てたよ!」
「気のせい」
「昨日シロもいっぱい撫でてたよね?」
「それは昨日」
「今日は?」
「……」
クロネちゃんがシロを見る。
「わふ?」
「……あとで」
「やっぱり触るんじゃん!」
《完全にもふもふ好きで草》
《もう隠せてない》
《魔の森RTAする戦闘狂の弱点:もふもふ》
「弱点じゃない」
《反応したw》
「クロネちゃん、コメントちゃんと見てるね!」
「たまに」
「私もいっぱい見てるよ!」
「知ってる」
「なんで?」
「全部反応するから」
「そうかな?」
「うん」
隣でシフォンちゃんが頷いた。
「ユズちゃん、かなり反応するよ」
「そうなんだ」
《自覚なかったのか》
《ユズ様コメント拾いすぎ問題》
「でも楽しいよ?」
《それならヨシ》
《ヨシ》
「よし!」
「何が?」
「みんながいいって!」
「そう……」
クロネちゃんが少しだけ笑った。
◇
しばらくして。
街の案内も一段落した。
「ふぅー!」
私は伸びをする。
「今日はいっぱい見せられた!」
「昨日よりは平和だったね」
シフォンちゃんが言う。
「だからそう言ったでしょ!?」
「そういえば」
シフォンちゃんがクロネちゃんを見る。
「クロネ、今日はどうするの?」
「何が?」
「帰るの?」
「……たぶん」
「帰っちゃうの?」
私は思わず聞く。
「一回」
「また来る?」
「来る」
すぐだった。
「やった!」
《即答》
《また来るんだw》
《目的は?》
《古龍》
《コハク》
《シロ》
《全部では》
「全部」
クロネちゃんが普通に答えた。
「全部なんだ!?」
「うん」
まずい。
ちょっと嬉しい。
「じゃあ、またみんなで遊ぼう!」
「うん」
「グラちゃんとは戦っちゃダメだよ?」
「それはまだ諦めてない」
「ダメだよ!」
少し離れたところから。
『我は今後も断るぞ』
グラちゃんの声。
「まだ何も言ってない」
『言う前に断っておる』
「いつか」
『ない』
「いつか」
『ない』
《強い》
《グラちゃんガード固すぎ》
《クロネVS古龍、永遠に始まらない》
「じゃあ」
クロネちゃんがコハクを見る。
「またそっち」
「妾を代わりにするでない」
「昨日楽しかった」
「……」
コハクが少しだけ黙る。
「コハクも楽しかった?」
「さてのう」
「楽しかったんだ!」
「何故そうなる!」
絶対そうだと思う。
二人、昨日からすごく仲良くなってるし。
「じゃあ帰る時、気をつけてね!」
私が言うと。
クロネちゃんが首を傾げた。
「うん」
「昨日みたいに走るの?」
「たぶん」
「大変じゃない?」
「行きより楽」
「そうなの?」
「道分かるから」
「でも魔物いっぱいいるよ?」
「避ける」
「あ、そっか!」
「納得しないでユズちゃん」
シフォンちゃんがすぐに止めてくる。
「え?」
「普通はそれで解決しないから」
「でもクロネちゃんできたよ?」
「クロネだからね」
《クロネだから》
《便利な言葉》
《一般化してはいけない》
クロネちゃんは少し考えるように森の方を見る。
「でも」
「うん?」
「毎回は面倒」
「やっぱり大変なんじゃん!」
「面倒なだけ」
「同じじゃない?」
「違う」
「そうなの?」
「うん」
よく分からない。
「また来たいけど」
クロネちゃんが町を見る。
シロ。
コハク。
それから。
少し離れたところにいるグラちゃん。
「毎回走るのは面倒」
「じゃあ転移する?」
「ユズの?」
「うん!」
一度行った場所なら。
私は《転移》で移動できる。
「連れていこうか?」
「ユズがいる時しか使えない」
「あ」
そうだった。
「じゃあ」
クロネちゃんがシフォンちゃんを見る。
「クランハウス」
「え?」
「《暁ノ華嵐》って、クランハウスへの転移使えるよね」
「使えるけど」
シフォンちゃんが少しだけ不思議そうな顔をする。
「急にどうしたの?」
「確認」
「うん。クランメンバーなら、登録してあるクランハウスへの帰還や、条件を満たした拠点間の転移は使えるよ」
「便利」
「まあね」
「魔の森の攻略でもかなり助かったし」
ライラちゃんが続ける。
「ここまで来る間に作った拠点も、あれがあったから維持できた部分は大きいかな」
「なるほど」
クロネちゃんが頷く。
「……?」
なんだろう。
急に真面目に聞いてる。
《ん?》
《クロネがクラン機能気にしてる》
《珍しい》
《こいつクラン興味なかったよな》
《前に暁ノ華嵐から誘われて断ってなかった?》
「あ」
シフォンちゃんもコメントを見て思い出したみたい。
「そういえばクロネ」
「何?」
「前に私たち、クラン誘ったよね?」
「うん」
「断ったよね?」
「うん」
「理由覚えてる?」
「群れるの興味ないから」
「そこまでしっかり覚えてるんだ……」
ハルカちゃんが笑う。
「今も?」
「興味ない」
「変わってない!」
《草》
《ブレない》
《じゃあ何でクランハウス聞いた》
「でも」
クロネちゃんは少し考えてから。
「ここにはまた来たい」
「……」
私は。
ちょっと嬉しくなった。
「ほんと?」
「うん」
「シロいるし」
「わふ?」
「コハクもいる」
「妾を勝手に理由へ入れるでない」
「古龍もいる」
『我は戦わぬぞ』
「まだ何も言ってない」
『念のためだ』
「あと」
クロネちゃんが私を見る。
「ユズもいる」
「私も?」
「うん」
「やった!」
「そこ喜ぶんだ」
シフォンちゃんが笑う。
「だってまた来てくれるんだよ?」
「そうだね」
「じゃあ何回でも来ていいよ!」
「そのつもり」
《完全に気に入ってる》
《昨日来たばっかだよな?》
《馴染むの早い》
《来襲者から常連候補へ》
でも。
クロネちゃんはまだ何か考えているみたいだった。
「……毎回」
「うん?」
「森を走る」
「うん」
「面倒」
「うん」
「クランハウスなら転移」
「うん」
「メンバーなら使える」
「そうだね」
「……」
シフォンちゃんの返事を聞いて。
クロネちゃんは少しだけ黙った。
そして。
「シフォン」
「なに?」
「《暁ノ華嵐》」
「うん」
「入れて」
「…………」
「…………」
「…………」
みんなが止まった。
私も。
シフォンちゃんも。
ハルカちゃんも。
アカネちゃんも。
エリスちゃんも。
ライラちゃんも。
モモカちゃんも。
セレナちゃんも。
ミオちゃんだけは。
「いいよ」
すぐに答えた。
「ミオ!?」
「増えると楽しい」
「いや、それはそうなんだけど!」
コメント欄も。
一瞬遅れて。
大変なことになった。
《は??????》
《今なんて》
《クロネ!?》
《クラン入るって言った!?》
《あのクロネが!?》
《前に断ってたじゃん!》
《「群れるの興味ない」って本人さっき言ったぞw》
《何があった》
「何も変わってない」
クロネちゃんが言う。
「群れるのは今も興味ない」
「じゃあなんで!?」
シフォンちゃんが聞く。
「転移」
「…………」
《理由wwwww》
《加入理由:交通手段》
《クランをファストトラベル機能として見るな》
《暁ノ華嵐に入りたい理由が転移w》
「だって」
クロネちゃんは普通の顔で続ける。
「ここまで毎回走るの面倒」
「だからうちに入るの!?」
「うん」
「そんな理由で!?」
「ダメ?」
「いや、ダメとは言ってないけど……!」
《シフォン困ってるw》
《そりゃ困る》
《日本トップクラスのプレイヤーが交通手段目当てで加入希望》
《字面が強すぎる》
クロネちゃんは。
本当に何が問題なのか分かっていないみたいだった。
「それに」
「まだあるの?」
「ここ、気に入った」
「……」
シフォンちゃんが止まる。
「また来たい」
クロネちゃんはシロを見る。
シロが首を傾げる。
「わふ?」
コハクを見る。
「何じゃ」
グラちゃんを見る。
『見るな』
最後に。
私たちを見る。
「だから」
クロネちゃんはもう一度言った。
「入れて」
「…………」
シフォンちゃんが。
しばらく。
本当にしばらく黙った。
《シフォンフリーズ中》
《処理落ち》
《そりゃそうなる》
《前に断られた相手から突然加入希望》
《しかも理由が転移+また来たい》
「……クロネ」
「何?」
ようやくシフォンちゃんが口を開く。
「一応確認するけど」
「うん」
「本気?」
「本気」
「クランって、転移使うだけの場所じゃないよ?」
「知ってる」
「最低限のルールとかもあるし、メンバーとして動いてもらうこともあるよ?」
「必要ならやる」
「一人で好きに動きたい時もあるでしょ?」
「それもやる」
「……両方やるんだ」
「うん」
クロネちゃんは少しも迷わない。
「だから」
もう一度。
「入れて」
シフォンちゃんは。
そんなクロネちゃんを見つめたまま。
「…………」
また。
考え込んでしまった。
「クロネちゃんも《暁ノ華嵐》になるの?」
私が聞く。
「たぶん」
「じゃあみんな一緒だね!」
「クランが同じなだけ」
「同じじゃないの?」
「ちょっと違う」
「そうなの?」
「うん」
「でも仲間でしょ?」
「……」
クロネちゃんが少しだけ考える。
「まあ」
そして。
「それでもいい」
「やった!」
「まだ決まってないからね!?」
シフォンちゃんの声が響いた。
《草》
《ユズ様もう加入決定扱い》
《シフォン頑張れ》
《これ加入したら暁ノ華嵐さらにやばくなるぞ》
《クロネ加入とか日本鯖ざわつくだろ》
《でも本人の目的は魔の森への交通手段》
《温度差ひどいw》
「じゃあ」
私はシフォンちゃんを見る。
「入れてあげる?」
「ユズちゃんが決めることじゃないよ!」
「あ、そっか!」
「もう……」
シフォンちゃんは頭を押さえながら。
もう一度クロネちゃんを見る。
「分かった」
「うん」
「ちゃんとみんなで話して決めよう」
「分かった」
「少し待ってて」
「待つ」
クロネちゃんは。
そのまま近くに座った。
そして。
当然みたいに。
「シロ」
「わふ?」
「こっち」
「わふ!」
シロがクロネちゃんのところへ行く。
クロネちゃんはその頭を撫で始めた。
「待ってる間にもふるんだ!」
「暇だから」
《絶対それだけじゃない》
《加入理由一個増えた》
《転移》
《古龍》
《コハク》
《もふもふ》
《もう十分馴染んでるだろ》
「クロネちゃん!」
「何?」
「私も!」
「何が?」
「シロもふる!」
「……どうぞ」
「やった!」
私はクロネちゃんの隣に座る。
「わふー!」
シロのふわふわを二人で撫でる。
その向こうでは。
シフォンちゃんたちが集まって。
本当にクロネちゃんをクランに入れるのか。
真面目に話し合いを始めていた。
でも。
たぶん。
大丈夫な気がする。
だって。
「クロネちゃん」
「何?」
「またいっぱい遊ぼうね!」
「うん」
クロネちゃんは。
少しだけ笑った。
どうやら。
この街が気に入ったっていうのは。
本当みたいだった。
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