第35話:そういえばステータス、見てなかった
本日5本目です。
目の前に、ものすごく久しぶりのステータス画面が開く。
最初に目に入ったのは、一番上に表示された数字だった。
《ユズ Lv.121》
《HP:1300》
《MP:700》
《SP:700》
「……あれ?」
私はもう一度、一番上を見る。
見間違いじゃない。
「121?」
「…………」
シフォンちゃんたちが黙った。
さっきまで勢いよく流れていたコメントまで、一瞬だけ止まったような気がする。
「結構上がってる!」
《結構!?》
《Lv121!?》
《ファーーーーwwww》
《待て待て待て》
《121って何》
《ユズ様いつの間にそんなレベルに》
《古龍との契約経験値やばすぎない?》
《日本鯖のトップ層より上じゃねえか》
「ユズちゃん」
「なに?」
シフォンちゃんが、ものすごく真剣な顔で私を見ている。
「本当に今まで気づいてなかったの?」
「うん?」
「レベル121だよ?」
「表示されてるね!」
「そうじゃなくて……」
ハルカちゃんが頭を抱えた。
「自分のレベルがそんなに上がってたら、普通どこかで気づかない?」
「でも、さっき言った通りステータス見てなかったし」
通知も、シロと契約した頃に全部切ったまま。
だから、いつレベルが上がったのかも全然分からない。
「シロと契約した時は、まだこんなレベルじゃなかったよ?」
「それはそうだろうね……」
《通知OFFの弊害がでかすぎる》
《Lv121まで気づかず来れるものなのか》
《ユズ様だから来れたんだろ》
《この子だけ別のゲームしてない?》
「でも」
私は改めてステータスを見る。
HPが1300。
MPが700。
SPも700。
「いっぱいあるね」
「そりゃLv121だからね」
エリスちゃんが答える。
「レベルが上がるだけでも、HPとMPとSPは自動で増えるから」
「あ」
そういえば。
ゲームを始めた時、システムさんがそんな説明をしていた気がする。
一レベル上がるごとに、HPは十。
MPとSPは五ずつ。
「そっか」
私は特にMPの数字を見る。
七百。
思っていたより、ずっと多い。
「だから転移をいっぱい使っても、あんまり疲れなかったんだ」
「…………」
また。
みんなが止まった。
「ん?」
シフォンちゃんが、ゆっくりこちらを向く。
「ユズちゃん」
「なに?」
「今、何て言った?」
「だから、転移をいっぱい使っても――」
「そこ」
「え?」
「転移って何?」
「転移?」
何を聞かれているのか分からなくて、首を傾げる。
「転移は転移だよ?」
「それじゃ何も分からない」
エリスちゃんに言われた。
《転移???》
《今さらっと言ったぞ》
《また知らない情報出てきた》
《場所移動系のスキル?》
《ユズ様そんなの持ってたの?》
「えっとね」
私はちゃんと説明することにした。
「自分が一回行ったことのある場所に、ぱって移動できるスキル!」
「……」
「近くにいる子も、一緒に行きたいって思ってたら連れていけるよ!」
「……他の人も?」
「うん!」
シフォンちゃんたちの表情が、また変わった。
「何人くらい?」
「分かんない」
「分かんないんだ……」
「でも、クロエたちのお引っ越しの時は何回も使ったよ!」
「何回も?」
「うん。みんな一回じゃ運べなかったから」
あの時は、アリさんたちを何度も往復して運んだ。
結構たくさん転移したけど、倒れたりするほど疲れた覚えはない。
今なら理由が分かる。
「MPが七百もあったからだったんだね!」
《複数人転移!?》
《待て普通にヤバいスキルじゃない?》
《拠点間移動できるってこと?》
《それを引っ越しに使ってたのかw》
《ユズ様にとって転移=引っ越し手段》
《MP700で何回も往復してたのね》
「ユズちゃん」
エリスちゃんが額に手を当てる。
「そのスキル、どこで覚えたの?」
「ノアちゃんにもらった!」
「…………」
また止まった。
「あれ?」
今度はコメントの方が先に動いた。
《ノア???》
《さっきのノアちゃん!?》
《古龍を小竜って教えたあの子!?》
《あの悪戯好きそうな友達かw》
《……いや待て》
《転移スキル渡してるの???》
《ノアって何者だよwww》
《さっきまで面白い友達だと思ってた俺らが間違ってた》
《ユズ様の友達なら普通だろって思ってた俺が馬鹿だった》
《古龍を小竜って言って遊んでる場合じゃねえぞノア》
「なんで!?」
さっきよりノアちゃんへの扱いが悪くなってる。
「ノアちゃんは普通だよ!」
《ユズ様の「普通」はもう信用できない》
《蜘蛛糸と蜂蜜を見た後にそれ言われてもな》
《普通の友達は転移スキルくれないんよ》
「普通だもん!」
ノアちゃんはちょっと不思議なところはあるけど。
優しいし。
可愛いし。
友達だし。
「でも」
シフォンちゃんが苦笑する。
「転移のスキルをもらったって、どうやって?」
「本でもらったよ?」
「本?」
「うん。スキルブック!」
「……転移の?」
「そう!」
《転移スキルのスキルブック渡してくる友達》
《ますます何者だよ》
《ノアちゃん急に正体が気になってきた》
《さっきまで小竜って教える愉快な友達だと思ってたのに》
「愉快な友達じゃないよ!」
失礼だ。
「どんな子なの?」
ハルカちゃんが聞く。
「ピンクの髪の女の子!」
「うん」
「すごく物知り!」
「うん」
「よく急に現れる!」
「……うん?」
「あと、自分でも転移できるよ!」
「…………」
ハルカちゃんがシフォンちゃんを見る。
シフォンちゃんがエリスちゃんを見る。
エリスちゃんは静かに首を振った。
「何?」
「情報が増えるたびに普通から遠ざかってる」
「なんで!?」
《草》
《やっぱり絶対普通じゃない》
《急に現れて転移できて転移スキルくれる》
《ユズ様の交友関係どうなってるんだ》
《古龍からも何か察されてたしな》
「ノアちゃん優しいよ?」
「そこは疑ってないよ」
「じゃあ普通!」
「それとこれとは別かな」
「えー」
納得いかない。
◇
「まあ」
シフォンちゃんが一度手を叩く。
「ノアちゃんについては、すごく気になるけど今は置いておこう」
「気になるの?」
「かなり」
「紹介しようか?」
「できるの?」
「分かんない!」
「じゃあ今はいいかな……」
そう言って、シフォンちゃんが私のステータス画面を見る。
「それより、まだ途中だから」
「あ、そうだった」
レベルとHPとMPとSPしか見てなかった。
「次は……」
その下に並んでいる数字を見る。
《STR:10》
《VIT:10》
《INT:10》
《MND:10》
《AGI:10》
《DEX:10》
「……」
うん。
六つとも十。
ゲームを始めた時も、こんな数字だった気がする。
「…………」
「あれ?」
また静かになった。
「どうしたの?」
エリスちゃんが、ゆっくり私を見る。
「ユズちゃん」
「うん?」
「この六つ」
「うん」
「全部10だよね」
「そうだね?」
「初期値だよ?」
「……そうなの?」
「そうなの!? じゃないよ!」
《全部10wwww》
《初期値じゃねーかw》
《Lv121で全ステ10!?》
《嘘だろw》
《ステ振りしてない???》
《レベルだけ121でステータスLv1なの草》
「でもレベルは121だよ?」
「だから余計におかしいんだって!」
ハルカちゃんが言う。
「普通、レベル上がったらステータスポイント振るでしょ!」
「ポイント?」
「ステータスポイント!」
「あ」
それなら聞いたことがある。
「そういえばあったね!」
「そういえば!?」
シフォンちゃんまで大きな声を出した。
「最初に二十ポイントもらって、レベルが上がるたびに五ポイント増えるやつ!」
「うん。多分それ」
「多分じゃなくて……」
エリスちゃんがステータス画面の下を指差す。
「未使用ポイントのところ見て」
「これ?」
言われた場所を見る。
《未使用ステータスポイント:620》
「……」
今度は私もちょっと止まった。
「いっぱいある」
「いっぱいどころじゃない!」
《620!?》
《六百二十wwww》
《120レベル分全部残ってる》
《初期20+120×5=620》
《綺麗に一回も使ってねえw》
《本当にLv1から放置してたのか》
「何で!?」
シフォンちゃんが聞いてくる。
「どうして一回も振ってないの!?」
「えっと……」
ちょっとだけ思い出す。
ゲームを始めたばっかりの時。
STR。
VIT。
INT。
MND。
AGI。
DEX。
知らない英語がいっぱい並んでいて。
どれに振ったらいいのか分からなかった。
「後で決めようと思って」
「うん」
「そのまま忘れてた!」
「…………」
《知ってた》
《ユズ様ならそうだと思った》
《「後でやる」で120レベル放置》
《忘れすぎwww》
「だって困らなかったし」
「それが一番おかしいんだよ……」
エリスちゃんがため息をつく。
「普通なら、ステータスを初期値のまま高レベル帯で活動するのは相当厳しいよ」
「そうなの?」
「そう」
「でも、シロたちがいるし」
私はシロを見る。
「わふ?」
隣には、人の姿になっているユキ。
その近くにはコハクもいる。
『何じゃ?』
そして、少し離れたところには。
『……我を見るな』
グラちゃん。
「みんないるから大丈夫だったよ?」
「それ……」
アカネちゃんが苦笑する。
「召喚士としては正しいっちゃ正しいんだけどな」
「でも極端」
ミオちゃんがぼそっと言った。
《本人が戦わなくても召喚獣が強すぎる》
《ステータス初期値でも古龍連れてるから問題ないの草》
《召喚士として正しいのか間違ってるのか分からん》
《ユズ様本人より召喚獣が全部解決してる》
「あと」
エリスちゃんが、さらに下を指差した。
「こっち」
「ん?」
《未使用スキルポイント:125》
「……」
私は数字を見る。
「こっちもいっぱいある!」
「なんで嬉しそうなの?」
「いっぱいあるから!」
「貯金じゃないんだよ」
《125www》
《スキルポイントまで全部残してる》
《ポイントというポイント全部貯めてる》
《使うという発想がない》
「でもスキルは増えてるよ?」
「自然習得したやつ?」
「多分!」
「転移は?」
「ノアちゃんにもらった本!」
「つまり、それもポイントを使ってない」
「うん!」
「……なるほど」
エリスちゃんが遠い目をした。
「一応、筋は通ってる」
「でしょ?」
「褒めてない」
「えー」
◇
「じゃあ」
シフォンちゃんが言う。
「せっかくだし、今ステータスポイント振っちゃう?」
「今?」
「620もあるんだよ?」
「使わずに置いておく方がもったいない」
エリスちゃんも頷く。
「そっか」
私はもう一度、六つのステータスを見る。
STR。
VIT。
INT。
MND。
AGI。
DEX。
「……」
やっぱり分からない。
「召喚士って、何に振ればいいの?」
「そこから!?」
ハルカちゃんが叫んだ。
「だって分かんないんだもん」
「Lv121の人がする質問じゃないよ!」
《草》
《今さら初心者質問w》
《レベルだけ見たら大ベテラン》
《本人の知識がゲーム開始時から進んでない》
「普通の召喚士なら」
エリスちゃんが説明してくれる。
「契約した魔物への支援とか、魔法系のスキルを使うことを考えると、INTを中心に上げる人が多いと思う」
「INT?」
「知力」
「あー!」
それなら覚えてる。
魔法とかに関係するやつ。
「もちろん、全部INTってわけじゃないよ」
セレナちゃんも説明してくれる。
「MNDを上げたり、本人が倒されないようにVITへ回したり、その人の戦い方によって変わります」
「なるほど」
つまり。
「INTが大事なんだね!」
「まあ、基本的には――」
「じゃあ全部入れちゃえ!」
「待って」
「え?」
「待って待って待って!」
今度はハルカちゃんまで止めてきた。
「何?」
《待てユズ様》
《全部!?》
《620全部!?》
《今の説明聞いてた?w》
《相談の意味www》
《いきなり極振りしようとしてる》
私はINTの横にある割り振り画面を見る。
今は10。
残っているポイントが620。
全部入れたら。
「630になるね!」
「計算は合ってる!」
シフォンちゃんが珍しく大きな声を出した。
「でも、ちょっと待とう?」
「なんで?」
「なんでって……」
シフォンちゃんが言葉に詰まる。
それからエリスちゃんを見る。
「エリス?」
「……いや」
エリスちゃんも少し考え込んだ。
「何?」
「召喚士で、自分はほとんど前に出ない。しかも今までステータス初期値でも困らなかったなら……INTに大きく振ること自体は、別におかしくない」
「でしょ!」
「ただし」
エリスちゃんが強調する。
「だからって、620ポイント全部を何も考えず一気に入れる人は普通いない」
「いるよ!」
「誰?」
「私!」
「そういう意味じゃない!」
《草》
《本人が実例になろうとするなw》
《説得力があるようでない》
《ユズ様なら本当にやるから怖い》
私はもう一度画面を見る。
《INT:10》
その横に、割り振るポイントを入力する。
《+620》
全部。
あとは確定するだけ。
「じゃあ――」
「待って!」
「まだ押してないよ?」
「その指下ろして!」
「えー?」
みんなが止めるから、確定ボタンの上で指を止める。
「そんなに悩むこと?」
「普通は悩む!」
《絶対そのまま全部入れる気だろw》
《ユズ様その手を止めろ》
《一回考えてから押そう?》
《いやこの顔は押す》
《誰かユズ様からメニュー取り上げろw》
《止められる気がしない》
シフォンちゃんたちの声と、大量のコメント。
その両方に止められながら。
私は《+620》と表示されたINTを見つめた。
「……全部でいいと思うんだけどなあ」
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