第36話:魔王って何?
本日6本目です。
「……全部でいいと思うんだけどなあ」
私が《+620》と表示されたINTを見つめていると、シフォンちゃんがものすごく不安そうな顔をした。
「ユズちゃん」
「なに?」
「本当に全部入れるの?」
「うん!」
「即答なんだ……」
「だって、召喚士はINTが大事なんでしょ?」
「大事ではあるけど」
シフォンちゃんがエリスちゃんを見る。
エリスちゃんも、まだ少し考えているみたいだった。
「……一応、理屈としては間違ってない」
「ほら!」
「ただし」
すぐに続けられた。
「普通はVITとかMNDにも多少は回す」
「なんで?」
「本人が倒されにくくするため」
「でも」
私はシロを見る。
「わふ?」
ユキを見る。
コハクを見る。
『何じゃ?』
それから、少し離れたところにいるグラちゃんを見る。
『……だから我を見るな』
「みんないるよ?」
「そこなんだよなあ……」
アカネちゃんが苦笑する。
《正論なのが困る》
《護衛が強すぎる》
《VIT10でも本人まで攻撃届かなそう》
《いや普通は古龍を護衛に数えないんよ》
「それに」
エリスちゃんが続ける。
「今まで全ステータス10で困ってないなら、ユズちゃん本人が前に出る戦い方じゃないのは確か」
「うん!」
「INTに大きく寄せること自体は、あり」
「じゃあ全部!」
「大きく寄せると全部は同じじゃない!」
《草》
《そこは別問題w》
《ユズ様0か100しかない》
でも。
少しだけ考えてみる。
VIT。
MND。
STR。
AGI。
DEX。
「…………」
よく分からない。
だったら。
「やっぱり全部INTでいいや!」
「決断が早い!」
「押すね!」
「待っ――」
ぽち。
《ステータスポイントを割り振りました》
《INT:630》
《未使用ステータスポイント:0》
「おおー!」
十だった数字が、一気に六百三十になった。
「すごく増えた!」
「…………」
《押したwwww》
《本当に全部入れた》
《INT630!?》
《10→630は草》
《他全部10》
《INTだけ630》
《尖りすぎだろw》
《ユズ様らしい》
「ユズちゃん……」
シフォンちゃんが頭を押さえている。
「何?」
「もう少し悩んでもよかったと思う」
「いっぱい悩んだよ?」
「どこで?」
「みんなが止めてる間!」
「それは悩んでたんじゃなくて待ってただけ!」
「そうなの?」
《草》
《待機時間を思考時間扱いするなw》
私はもう一度ステータスを見る。
《STR:10》
《VIT:10》
《INT:630》
《MND:10》
《AGI:10》
《DEX:10》
「なんか一個だけすごい!」
「自分でやったんだよ」
エリスちゃんに言われた。
◇
「次は」
エリスちゃんが、その下へ視線を向ける。
「スキルポイント」
「あ」
《未使用スキルポイント:125》
「これも使う?」
「待って」
今度はシフォンちゃんだけじゃなかった。
エリスちゃん。
ハルカちゃん。
セレナちゃん。
何人かに同時に止められた。
「まだ何もしてないよ?」
「する顔だった」
「どんな顔?」
「全部使おうとしてる顔」
「えー」
《止めろw》
《今度こそ止めろ》
《125全部適当に突っ込む未来が見える》
「スキルはステータスより選択肢が多いから」
エリスちゃんが真面目な顔で言う。
「これはちゃんと見てから決めた方がいい」
「でも自然に覚えることもあるよ?」
「ある」
「じゃあ困った時でよくない?」
「…………」
エリスちゃんが黙った。
「エリスちゃん?」
「その考え方で転移まで持ってるのが納得いかない」
「なんで!?」
《わかる》
《ポイント使ってないのにスキル充実してるの草》
《ノア案件が強すぎる》
「とりあえず」
シフォンちゃんが言う。
「スキルポイントは今日は保留にしよっか」
「はーい」
別に急いでないし。
また今度でいい。
「じゃあ終わり?」
「……いや」
エリスちゃんがステータス画面のさらに下を見る。
「ユズちゃん」
「うん?」
「称号は?」
「称号?」
「そこ」
指差されたところを見る。
「あー」
そういえば。
そんなのもあった気がする。
「これ?」
「そう」
私は《称号》の欄を開く。
いくつか名前が並ぶ。
見覚えがあるような。
ないような。
その中に。
一つだけ。
「……ん?」
知らないものがあった。
《魔王》
「……魔王?」
「…………」
また。
全員が止まった。
《は?》
《魔王!?》
《ユズ様????》
《ちょっと待てwww》
《称号まで王になってる》
《国じゃないって言ってたよな!?》
《本人だけ知らないの草》
「え?」
私はもう一度見る。
やっぱりある。
《魔王》
「……なんで?」
「それはこっちが聞きたい」
ハルカちゃんが言った。
「ユズちゃん、魔王だったの?」
「知らないよ!」
「本人が一番驚いてる……」
シフォンちゃんが苦笑する。
「でも」
私は少し不安になった。
「魔王って、悪いやつじゃないの?」
「まず説明を見てみよう」
エリスちゃんに言われて、《魔王》を選ぶ。
説明が開く。
《魔王》
《多数の魔物から、その中心となる存在として認められた者に与えられる称号》
《効果》
《魔物との友好・交渉判定に補正》
《自身を慕う魔物との意思疎通が容易になる》
「…………」
「…………」
私は一番上から。
もう一度読む。
「悪いって書いてない!」
「そこが一番気になってたんだ」
シフォンちゃんが笑う。
「よかった!」
《安心するとこそこなのかw》
《悪の王って意味じゃないのね》
《魔物の王って感じか》
《いやそれユズ様そのままじゃん》
《効果までユズ様向けで草》
《魔物との友好補正》
《これ以上仲良くなってどうするんだ》
「しかも」
エリスちゃんが説明欄を見ながら呟く。
「かなりユズちゃん向きの効果だね」
「そう?」
「魔物との友好や交渉に補正。それに、ユズちゃんを慕ってる魔物との意思疎通も補助される」
「便利そう!」
「便利そう、で済ませるんだ……」
《ユズ様専用称号みたいになってる》
《そりゃ付くわ》
《取得条件からしてユズ様そのもの》
「でも」
私は首を傾げる。
「じゃあ、この称号があったから、みんなと仲良くなれたの?」
「たぶん逆」
「逆?」
エリスちゃんが頷く。
「説明を見る限り、この称号を取ったから魔物に慕われたんじゃなくて」
そのまま周囲へ視線を向ける。
「たくさんの魔物に慕われて、その中心として認められたから《魔王》を取得したんだと思う」
「おお!」
「称号を得た後に、その関係を補助する効果が付いたって考える方が自然かな」
「じゃあ」
私はもう一度《魔王》を見る。
「みんなと仲良くしてたら、いつの間にか魔王になってたってこと?」
「ものすごく簡単に言えば、そう」
《草》
《称号で魔王になったんじゃない》
《魔王みたいなことしてたから称号が付いた》
《本人だけ自覚なし》
《一番面白いやつ》
《いつの間にか魔王》
「魔王みたいなことなんてしてないよ?」
「そこは一旦置いとこうか」
「なんで!?」
私は周りを見る。
クロエ。
ネフィエラ。
メリエル。
シロ。
ユキ。
コハク。
グラちゃん。
それから。
町に住んでいる、たくさんの魔物たち。
「でも」
やっぱり。
よく分からない。
「王様になった覚えないよ?」
「ユズ様」
クロエが静かに口を開いた。
「少なくとも、皆がユズ様を慕っていることに間違いはありません」
「そうですわね」
ネフィエラも微笑む。
「称号というものも、存外よく見ておりますのね」
「ユズ様、魔王だったんだー!」
メリエルが楽しそうに言った。
「メリエルまで!?」
《そりゃ付くわ》
《女王三人がユズ様呼びだぞ》
《住民からもユズ様》
《古龍までいるし》
《これもう魔物国家の王だろ》
《本人「国じゃないよ?」》
《本人だけ最後まで否定してるの草》
「国じゃないよ!」
思わずコメントに答える。
「みんなで住んでるだけ!」
《魔王のいるみんなで住んでるだけの場所》
《説得力が消えたw》
《国じゃない(魔王はいる)》
「もう!」
なんで誰も信じてくれないんだろう。
◇
「……ちょっと待って」
しばらくして、シフォンちゃんが急に言った。
「なに?」
「一回、整理していい?」
「何を?」
「今日分かったこと」
「今日?」
「うん」
シフォンちゃんが指を折り始める。
「まず、蜘蛛糸」
「あったね」
「ユズちゃんの服が、普通に王都で買える防具より防御力高かった」
「服なのにね」
「そこ」
二本目。
「蜂蜜」
「おいしかった!」
「上位のものは万能回復薬に近い効果があった」
「便利だったね!」
「そこでもない」
三本目。
「グランヴェルさん」
「グラちゃん!」
「古龍」
「小竜じゃなかった」
「ようやく理解したんだね」
四本目。
「その古龍と召喚契約してる」
「うん!」
五本目。
「レベル121」
「結構上がってた!」
「結構じゃない」
六本目。
「転移スキル持ち」
「便利だよ!」
「しかもノアちゃんにもらった」
「友達だからね!」
「そこも気になるんだけど……」
シフォンちゃんが少しだけ遠い目をした。
そして七本目。
「今日確認するまで、全基礎ステータス初期値」
「だったね!」
八本目。
「未使用ステータスポイント620」
「全部使った!」
「INTに」
「630!」
九本目。
「未使用スキルポイント125」
「まだあるよ!」
十本目。
「称号《魔王》」
「知らなかった!」
「しかも」
エリスちゃんが付け加える。
「魔物との友好・交渉に補正。慕っている魔物との意思疎通も補助」
「便利!」
「うん。それはもう聞いた」
「…………」
シフォンちゃんが黙った。
ハルカちゃんも。
エリスちゃんも。
みんな。
なんか疲れた顔をしている。
《それ》
《情報量多すぎる》
《まとめても意味分からん》
《蜘蛛糸がもう遠い昔に感じる》
《蜂蜜の時点で十分ヤバかった》
《古龍だけで一回終われた》
《そこからLv121→転移→INT630→魔王》
《魔王の効果まで追加されたぞ》
《こっちも整理する時間くれw》
「そんなに多い?」
「多い」
シフォンちゃんが即答した。
「すごく多い」
「でも、まだ案内するところあるよ?」
「あるの!?」
「うん!」
「…………」
シフォンちゃんが配信画面を見る。
それから、少し悩んで。
「ごめん」
視聴者に向かって言った。
「一回ここで配信区切るね」
《了解》
《助かる》
《一回整理させて》
《頭追いついてない》
《俺まだ蜂蜜の処理終わってない》
《古龍から後が濃すぎる》
「私たちもちょっと整理したいし」
シフォンちゃんが苦笑する。
「ユズちゃんに聞きたいことも増えすぎたから」
「そんなに?」
「そんなに」
ハルカちゃんも頷く。
「このまま続けたら、何に驚いてたのか分からなくなりそう」
「えー」
《それはそう》
《今日だけで情報が濃すぎる》
《一回休憩しよう》
《ユズ様も休んで》
「私は疲れてないよ?」
《知ってる》
《疲れてるの俺ら》
《視聴者が先に限界》
「むー」
せっかくまだ案内できるのに。
でも。
「じゃあ休憩したら続き?」
「うん」
シフォンちゃんが笑う。
「また見せてもらっていい?」
「もちろん!」
「じゃあ、一旦ここまで」
シフォンちゃんが配信に向かって手を振る。
「見てくれてありがとー。またね!」
《おつ!》
《おつかれ!》
《ユズ様もおつ》
《整理してくる》
《掲示板行ってくるわ》
《今日の情報まとめ誰か頼む》
《無理》
「ばいばーい!」
私も手を振る。
少しして。
ずっと目の前に流れていたコメントが消えた。
「……静かになった」
「そうだね」
シフォンちゃんが大きく息を吐く。
みんなも少しだけ肩の力を抜いていた。
「そんなに疲れた?」
「精神的にね」
「?」
よく分からない。
私は町の奥を見る。
まだ見せたいところはある。
案内したい場所もある。
「じゃあ休憩したら、次どこから行こうかな」
「……ユズちゃん元気だね」
「うん!」
今日はまだまだ時間もある。
せっかく来てくれたんだから、いっぱい案内したい。
なのに。
シフォンちゃんたちは、なぜか全員そろって深いため息をついた。
「?」
どうやら。
みんなには、少し休憩が必要らしい。
私はそんなに疲れてないんだけどなあ。
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