第25話:大鍋パーティー!
『ユズ』
「ん?」
ログインして。
最初に聞こえてきたのは。
グラちゃんの声だった。
『待ちくたびれたぞ』
「何が?」
『鍋だ』
「…………」
「あ」
『我が蟻どもの居場所を教えた時』
「うん」
『夜に鍋を作ると言っておったではないか』
「…………」
そういえば。
言った。
確かに。
言った。
『結局、作らなかったであろう』
「いや、それは!」
『忘れておったな?』
「忘れてないよ!」
『では、なぜ作らなかった』
「だって!」
私は周りを見る。
蟻さんたち。
蜘蛛さんたち。
蜂さんたち。
小さな魔物たち。
昨日作り始めた広場では、もうみんなが忙しそうに動いている。
「せっかくするなら、みんな集まった時にした方が楽しいでしょ!」
『…………』
「ね?」
『……むぅ』
「納得した?」
『しておらん』
「してる顔!」
『我の顔を見て分かるものか』
「なんとなく!」
『…………』
やっぱり。
ちょっと納得してる。
『よいか』
「?」
グラちゃんが、ゆっくり頭を持ち上げる。
『我を満足させられる出来でなければ、許さんからな』
「ええー!?」
『待たされたのだ。それくらい当然であろう』
「でもグラちゃん」
「ずっと寝てただけじゃん!」
『…………』
「寝てたよね!?」
『我はこの地を見守っておった』
「寝ながら!?」
『古龍には可能だ』
「絶対今考えたでしょ!」
『考えておらん』
「ほんとかなー?」
『とにかく』
グラちゃんの尻尾が。
どん。
地面を叩く。
『鍋だ』
「はいはい!」
『大量にだ』
「分かった!」
『美味いものを』
「注文多い!」
『待たされたからな』
「根に持ってる!」
「……かなり楽しみにしてたんだね」
ユキが小さく呟く。
『しておらん』
「絶対してるよ!」
『しておらん!』
グラちゃん。
今日。
いつもより元気かもしれない。
◇
「そちらの台は、もう少し右です!」
『はい!』
『こちらですか!』
「あと二歩!」
『承知しました!』
広場では。
朝から。
すごいことになっていた。
「クロエー!」
「ユズ様!」
私を見つけたクロエが振り返る。
「ちょうどよいところに!」
「何すればいい?」
「まず食材です」
「やっぱり!」
「昨日お伝えしたでしょう」
「覚えてるよ!」
「ならよろしいです」
クロエの後ろでは。
蟻さんたちが。
大きな鍋を置くための台を作っている。
しかも。
一個じゃない。
「……いっぱいあるね」
「必要量を計算しました」
「何個?」
「十二です」
「十二!?」
「通常の大鍋が十一」
「そして」
クロエが。
少し離れた場所を見る。
「古龍様用が一つ」
「…………」
大きい。
他の鍋も十分大きい。
でも。
グラちゃん用だけ。
明らかにおかしい。
「これ鍋?」
「大型の調理釜を改造しました」
「すご!」
「それでも」
「?」
「足りるかは分かりません」
「え」
『足りぬかもしれんな』
「グラちゃん!」
いつの間にか。
近くにいた。
「まだ食べてもないのに!?」
『我の食事量くらい、我が一番よく知っておる』
「じゃあどれくらい食べるの?」
『美味ければ入るだけ』
「分かんないじゃん!」
『ゆえに多く作れと言っておる』
「むぅ!」
「まあまあ」
メリエルが。
果物の入った籠を抱えてやってくる。
「いっぱい作ればいいじゃん!」
「簡単に言わないでください!」
クロエが即座に反応する。
「食材にも限りがあります!」
「じゃあ増やせば?」
「今日中には増えません!」
「そっかー」
「そっかー、ではありません!」
「ふふ」
ネフィエラが。
少し離れた場所から笑っている。
「クロエ」
「なんです?」
「眉間に皺が寄っていますわよ」
「誰のせいだと思っているのです!」
「メリエルでしょうか」
「あなたもです!」
「まあ」
その後ろ。
蜘蛛さんたちが。
広場のあちこちに布を飾っている。
白。
薄紫。
黄色。
赤。
風に揺れて。
すっごく綺麗。
「ネフィエラ!」
「はい?」
「これ全部作ったの!?」
「わたくしではありませんわ」
「え?」
「皆が作ったものです」
ネフィエラが。
近くで作業している蜘蛛さんたちを見る。
「わたくしは、配置を決めただけ」
「……また部下に」
「クロエ」
「まだ何も言っていません!」
「顔に書いてありましてよ」
「むぅ……」
やっぱり。
この三人。
見てるだけで面白い。
◇
「ユズ様」
「ん?」
「こちらを」
ルヴェリアが。
何かを差し出してきた。
「……エプロン?」
「はい」
「今日はこちらの方がよいかと」
「可愛い!」
白と薄紫。
端に小さなリボン。
「これ私の!?」
「ユズ様用です」
「やった!」
着けてみる。
「どう?」
「よくお似合いです」
「ほんと!?」
「はい」
「シロ!」
「わふ?」
「見て!」
「わふっ!」
「似合ってるって!」
「今の鳴き声だけで分かったのか?」
コハクが呆れてる。
「分かる!」
「長く一緒におるからのう……」
「……可愛い」
ユキも。
小さく頷く。
「ユキにも作る?」
「……私は」
「作れますよ」
ルヴェリア。
もう採寸する気だ。
「……じゃあ」
「お願いします」
「承知しました」
「ユキも着るんだ!」
「……少しだけ」
「可愛い!」
「まだできてないぞ、お主」
「絶対可愛い!」
「わふ!」
シロも。
尻尾ぶんぶん。
「じゃあ!」
私は両手を上げる。
「料理する!」
「その前に」
「?」
コハクが。
食材を見る。
「何を作るか決めておるのか?」
「お鍋!」
「それ以外じゃ」
「…………」
「鍋!」
「何も考えておらぬな?」
「みんなで入れれば美味しくなる!」
「ならぬ場合もある!」
「えー?」
メリエルが。
すっと。
蜂蜜の壺を持ち上げる。
「これ入れる?」
「入れる!」
「待て!」
コハクが止めた。
「なぜ!?」
「何にでも蜂蜜を入れればよいわけではない!」
「少しくらいなら美味しいよー?」
「鍋全部で試すでない!」
「じゃあ一個だけ!」
「……一個なら」
「やった!」
「妾まで流されておる……」
◇
結局。
鍋はいくつか種類を分けることになった。
お肉いっぱいの鍋。
お魚中心の鍋。
野菜いっぱいの鍋。
小さな魔物たちでも食べやすい、薄味の鍋。
それから。
「蜂蜜鍋!」
「実験鍋じゃ」
「美味しいって!」
「少量だけじゃぞ!」
「はーい!」
メリエルと一緒に。
ちょっとだけ。
蜂蜜。
「おお」
「いい匂い!」
「まだ分からぬぞ」
「味見!」
「待て!」
「味見は大事!」
「メリエルと同じことを言い始めた……」
「えへへ」
「褒めておらぬ!」
その横。
ユキは。
魚をじっと見てる。
「ユキ?」
「……何?」
「それ何匹目?」
「……分からない」
「食べてない?」
「……まだ」
「ほんと?」
「…………」
「ユキ?」
「……一匹だけ」
「食べたんだ!」
「……味見」
「メリエルが増えた!」
「味見は大事だよー!」
メリエルが。
遠くから親指を立てる。
「仲間増やさないでください!」
クロエの声も飛んできた。
「わふぅ……」
「シロ」
今度は。
シロ。
お肉を見てる。
「まだだよ」
「わふぅ……」
「まだ!」
「わふ……」
「そんな悲しそうな顔してもダメ!」
「わふぅ」
「…………」
「一個だけ?」
「お主!」
「だって!」
「わふっ!」
「喜んでる!」
「甘やかしすぎじゃ!」
◇
「できたー!」
お昼を少し過ぎた頃。
ようやく。
全部の鍋が完成した。
広場。
たくさんの大鍋。
長い机。
敷物。
果物。
蜂蜜。
飲み物。
いっぱい。
「すごい……」
昨日。
広場を作ろうって決めたばっかりなのに。
もう。
宴会場みたい。
『いい匂い!』
『食べていい?』
『まだ?』
小さな魔物たちが。
周りに集まってる。
「待ってね!」
「もうすぐ!」
『きゅ!』
『ぷる!』
『ぴぃ!』
そして。
「皆さん!」
クロエが。
広場の真ん中に立つ。
「準備が整いました!」
『おお!』
『やった!』
『食事だ!』
「おおー!」
「いっぱい!」
蟻さん。
蜘蛛さん。
蜂さん。
小さな魔物たち。
みんな。
集まってくる。
「なんか」
「すごいね!」
「……うん」
ユキが。
私の隣で。
ちょっとだけ笑う。
「お主がやりたいと言い出したのじゃろう」
「そうだけど!」
「こんなに集まると思ってなかった!」
「妾もじゃ」
「わふ!」
「シロも?」
「わふっ!」
「よし!」
私は。
広場の真ん中へ。
「じゃあ!」
いっぱい。
こっち見てる。
「…………」
何言えばいいんだろ。
「ユズ?」
ユキ。
「お主」
コハク。
「…………」
「とりあえず!」
私は。
両手を上げる。
「みんな食べよー!」
『おおー!』
『いただきます!』
『食べるぞ!』
「簡単!」
クロエがびっくりしてる。
「いいじゃん!」
メリエルが笑う。
「ユズ様らしくてよろしいのでは?」
ネフィエラも。
笑ってる。
「では」
クロエが。
少しだけ息を吐く。
「いただきましょう」
「うん!」
◇
「おいしい!」
「……おいしい」
「当然じゃ」
コハクが。
ちょっと得意そう。
「妾が見ておったからな」
「コハクいっぱい教えてくれたもんね!」
「そうじゃろう?」
「さすが!」
「もっと褒めてもよいぞ」
「コハクすごい!」
「うむ!」
分かりやすい。
「わふっ!」
「シロも美味しい?」
「わふ!」
「よかった!」
シロ。
お肉。
いっぱい。
でも。
まだ食べそう。
「ユキ?」
「……何?」
「魚ばっかり!」
「……好きだから」
「野菜も食べよう!」
「……後で」
「絶対?」
「……たぶん」
「ユキ!」
「ふふ」
少し離れたところでは。
ミレルナが。
小さいシロ用のクッションを抱えてる。
「ミレルナ!」
「は、はい!」
「こっち来る?」
「いいんですか?」
「もちろん!」
「では……!」
シロの近く。
座る。
「わふ?」
「…………」
ミレルナ。
すぐシロ見てる。
「触りたい?」
「……はい」
「いいよ!」
「わふっ!」
「ありがとうございます!」
嬉しそう。
「ほんとシロ好きだね!」
「もふもふなので……」
「分かる!」
「わふ!」
その隣では。
セリナージュが。
小さな魔物たちに食べ物を配っている。
「慌てなくても大丈夫ですよ」
『きゅ!』
『ぷる!』
「まだありますからね」
ルヴェリアは。
料理を運びながら。
「ユズ様」
「ん?」
「エプロンに汁が」
「え?」
「もう付いてる!?」
「予想しておりました」
「ええー!?」
「替えもありますので」
「用意よすぎ!」
「必要かと思いまして」
「私そんなにこぼしそう!?」
「…………」
「また間が!」
「否定はいたしません」
「ひどい!」
フィズリアは。
蜂蜜鍋をじっと見てる。
「どう?」
「香草との相性は悪くありません」
「ほんと!?」
「ただし」
「?」
「蜂蜜が多いです」
「メリエル!」
「えー?」
「やっぱり入れすぎ!」
「美味しいじゃん!」
「甘い!」
「そこがいいの!」
「これは鍋じゃなくて別の料理じゃ!」
コハクまで。
ちょっと怒ってる。
ゼルフィナは。
最初。
広場の端で周りを警戒してたけど。
「ゼルフィナ!」
「何」
「食べてる?」
「食べてる」
「美味しい?」
「……悪くない」
「グラちゃんみたいな言い方!」
「?」
「こっちの話!」
みんな。
ちゃんと。
楽しんでる。
◇
「クロエ!」
「はい?」
「座って!」
「ですが」
クロエ。
まだ。
料理を運んでる。
「まだ配膳が」
「もうみんな食べてるよ!」
「片付けもあります」
「後!」
「ですが」
「クロエ」
メリエルが。
すっと皿を差し出す。
「はい!」
「……なんです?」
「食べて!」
「私は今」
「今日は食べる日!」
「準備も終わったし!」
「しかし」
「あら」
ネフィエラも。
にっこり。
「たまには配下の皆さんへ任せてもよろしいのではなくて?」
「…………」
「クロエ?」
「…………」
「どうしました?」
「あなたに言われると」
クロエが。
ものすごく嫌そうな顔をする。
「腹が立ちます」
「まあ」
「ふふ」
「笑わないでください!」
「でも」
ネフィエラが。
クロエの隣に座る。
「今日くらいはよろしいでしょう?」
「…………」
「クロエ!」
私も。
空いてる場所を叩く。
「ここ!」
「一緒に食べよう!」
「…………」
クロエが。
周りを見る。
蟻さんたち。
楽しそうに食べてる。
『女王様!』
『こちらは大丈夫です!』
『お休みください!』
「…………」
しばらく。
黙って。
「……分かりました」
「やった!」
座った!
「ただし」
「?」
「片付けは私もします」
「はいはい!」
「絶対です」
「分かった!」
「本当に分かっています?」
「食べよ!」
「聞いてください!」
でも。
クロエ。
なんだか。
ちょっと嬉しそう。
「美味しい?」
「……はい」
「よかった!」
メリエルが。
クロエのお皿に。
どんどん食べ物を乗せる。
「ちょっと」
「いっぱい食べなよー!」
「自分で取れます!」
「これも美味しいよ!」
「多いです!」
「こっちも!」
「メリエル!」
「クロエはもうちょっと食べた方がいいよー」
「余計なお世話です!」
「ふふ」
ネフィエラ。
今日ずっと楽しそう。
◇
「…………」
そして。
一番大きな鍋。
「グラちゃん?」
『…………』
「どう?」
『…………』
「グラちゃん?」
『……うむ』
「美味しい?」
『悪くない』
「やった!」
『もう一杯』
「早い!」
巨大な器。
もう。
空。
「クロエ!」
「はい!」
「おかわり!」
「もうですか!?」
『遅いぞ』
「今持ってきます!」
「グラちゃん急かさない!」
『待ちくたびれたと言ったであろう』
「それまだ言うの!?」
『当然だ』
「根に持つなあ!」
次。
『もう一杯』
「え?」
次。
『次』
「待って!」
次。
『まだあるな』
「どれだけ食べるの!?」
『まだ腹六分ほどだ』
「嘘!?」
「古龍様は」
クロエが。
真剣な顔。
「どれほど召し上がるのですか……」
「分かんない!」
「ユズ様でも!?」
「だって今日初めてこんな量食べてるし!」
『前回は量が少なかったからな』
「ごめんって!」
『ゆえに今日は食う』
「はいはい!」
『あと鍋二つ』
「まだ!?」
メリエルが。
楽しそうに笑う。
「作った甲斐あるねー!」
「食材の減り方が想定以上です!」
「クロエ!」
「でも」
ネフィエラが。
グラちゃんを見る。
「古龍様がここまで召し上がるということは」
「美味しいということではなくて?」
「…………」
クロエ。
少し考える。
「……確かに」
「でしょ?」
「じゃあ成功!」
「まだ食べ終わっていません!」
「ほぼ成功!」
『ユズ』
「なに?」
『次』
「はいはい!」
グラちゃん。
すっごく。
楽しんでる。
◇
夕方。
空が。
少しずつ。
赤くなってきた。
宴会は。
まだ続いてる。
私は。
少しだけ。
広場から離れた場所に座った。
「ふう」
「疲れた?」
ユキが。
隣に来る。
「ちょっと!」
「……楽しかった?」
「うん!」
前を見る。
いっぱい。
いる。
シロ。
ユキ。
コハク。
グラちゃん。
クロエ。
ネフィエラ。
メリエル。
ルヴェリア。
フィズリア。
ミレルナ。
ゼルフィナ。
セリナージュ。
蟻さん。
蜘蛛さん。
蜂さん。
小さな魔物たち。
笑い声。
鳴き声。
食器の音。
大きな鍋から。
まだ。
湯気が上がってる。
「なんか」
「……うん?」
「すっごく賑やかになったね」
「……うん」
「最初」
ここ。
草。
川。
木。
グラちゃん。
それだけだった。
「グラちゃん寝てたし」
『聞こえておるぞ』
「聞こえてた!」
『当然だ』
「食べながら聞いてる!」
『問題あるか』
「ない!」
コハクが。
こっちへ歩いてくる。
「何を眺めておる?」
「みんな!」
「見れば分かる」
「いっぱい増えたなーって!」
「お主が集めたのじゃろう」
「…………」
「そうだっけ?」
「そうじゃ!」
「最初の子らを連れてきたのも」
「クロエらを招いたのも」
「ネフィエラらに頼んだのも」
「メリエルらを連れてきたのも」
「全部お主じゃ!」
「おお……」
「改めて言われると」
「いっぱい!」
「他人事のように言うでない!」
「でも」
私は。
みんなを見る。
「楽しそうだから」
「まあいっか!」
「…………」
「まったく」
コハクが。
呆れたように笑う。
「お主らしいのう」
「でしょ!」
「褒めたつもりはない」
「えー?」
「わふっ!」
シロも。
いつの間にか。
こっちに来てた。
「シロ!」
「わふ!」
「楽しかった?」
「わふっ!」
「よかった!」
その時。
『ユズ』
「なに?」
『鍋』
「…………」
「まだ食べるの!?」
『当然だ』
「グラちゃん今日何杯目!?」
『数えておらん』
「私も!」
『なら問題ない』
「あるよ!」
「ふふ」
ユキが笑う。
コハクも。
少し笑ってる。
向こうでは。
クロエとメリエルが。
まだ何か言い合ってる。
ネフィエラが。
それを楽しそうに見てる。
小さな魔物たちは。
お腹いっぱいになったのか。
敷物の上で寝始めてる。
「…………」
いいな。
こういうの。
「ねえ」
「……なに?」
「またやろうね!」
「……うん」
「次はもっと美味しいの作る!」
『当然だ』
「グラちゃんに言ってない!」
『我も参加する』
「知ってる!」
「むしろ一番楽しみにしてるじゃん!」
『しておらん』
「まだ言う!」
『しておらんものは、しておらん』
「はいはい!」
『その返事をやめよ』
「えへへ」
また。
みんなが笑う。
◇
私はまだ。
この場所を。
何と呼べばいいのかなんて。
考えていなかった。
町とか。
村とか。
ましてや。
もっと大きな何かだなんて。
そんなこと。
考えたこともない。
ただ。
シロがいて。
ユキがいて。
コハクがいて。
グラちゃんがいて。
新しく出会った。
たくさんの魔物たちがいて。
みんなが。
安心して。
食べて。
眠って。
笑って。
自由に暮らせる。
「…………」
私は。
まだ続いている宴会を見ながら。
笑った。
「なんか」
「いいね、こういうの!」
「……うん」
「わふっ!」
「そうじゃのう」
『ユズ』
「なに?」
『鍋がなくなった』
「ええー!?」
『追加だ』
「もう全部食べたの!?」
『足りぬ』
「クロエー!」
「もう食材がありません!」
「メリエルー!」
「果物ならあるよー!」
『鍋がよい』
「グラちゃんわがまま!」
『待たされたからな』
「まだ言ってるー!」
賑やかな声が。
日が沈み始めた森の中へ。
いつまでも。
いつまでも。
響いていた。
これで一旦、主人公視点の話は区切りとなります。
次話からは別視点の話になります。
面白いと感じましたら、ブクマ、評価、コメント等をよろしくお願いします。




