第24話:三人の女王
「…………」
ログインして。
私は。
しばらく、その場から動けなかった。
「また増えてる……」
昨日まで。
たしか。
ここにはなかったはず。
道。
建物。
水路。
倉庫。
それから。
「花畑まである!」
まだ小さいけど。
昨日までは普通の草原だった場所に、色とりどりの花が並び始めている。
『ぶーん』
『ぶぶーん』
その上を。
蜂さんたちが忙しそうに飛び回っている。
「すご……」
現実では。
学校に行って。
帰ってきて。
ちょっとご飯食べて。
それからログインしただけ。
でも。
こっちでは、その間にも時間が流れてる。
「私がいない間に、何があったの!?」
「……いっぱい」
「だよね!?」
隣にいたユキも、少し驚いた顔で辺りを見ている。
「わふ!」
シロは楽しそう。
「妾たちが眠っておったわけではないからのう」
コハクは平然としている。
「でも!」
「昨日と全然違うよ!」
「それだけ皆が働いたということじゃろう」
「みんなすごい!」
私は早速。
新しくできた道を走る。
「ユズ」
「ん?」
「……転ぶ」
「大丈夫!」
「そう言って転びそうになるのがお主じゃ」
「今日は転ばない!」
「今日は、と言ったな」
「言ってない!」
「言ったぞ」
「気のせい!」
「わふっ!」
「シロまで笑わないで!」
◇
「……何してるの?」
少し進んだところ。
地面に。
大きな図みたいなものが描かれていた。
その周りに。
三人。
「この区画を、今後の住居用地にします」
クロエ。
「でしたら、工房はこちら側へ移した方がよろしいですわね」
ネフィエラ。
「ねえねえ、この空いてるところ花畑にしていい?」
メリエル。
三人が。
地面を囲んで。
何か話してる。
「何してるの?」
「今後の配置を決めています」
クロエが答える。
「配置?」
「はい」
地面の図を指差す。
「ここが現在の住居区」
「こちらが資材置き場」
「川から引いた水路がここです」
「おおー」
「今後さらに住民が増えることを考えれば、無計画に建物を増やすわけにはいきません」
「なるほど!」
「だから、先に大まかな区画を決めているのです」
「すごい!」
「町作りみたい!」
「……町」
クロエが少し考える。
「規模が大きくなれば、そう呼べるものになるかもしれませんね」
「へえー!」
私は地面の図を見る。
いっぱい線がある。
「…………」
「分かります?」
「全然!」
「でしょうね」
「即答!?」
「ふふ」
ネフィエラが笑う。
「ユズ様には、完成してから見ていただいた方がよさそうですわ」
「それがいい!」
「そこで即答するのですか……」
「だって三人の方が詳しいし!」
「それはそうですが」
「クロエ」
ネフィエラが図を指差した。
「こちらの水路ですけれど」
「何か?」
「工房のすぐ近くを通すのは避けたいですわ」
「理由は?」
「湿気です」
「なるほど」
クロエが。
すぐに線を引き直す。
「では二十歩ほど東へずらします」
「ありがたいですわ」
「クロエー」
「今度はなんです?」
「ここ!」
メリエルが空いている場所を指差す。
「花畑にしていい?」
「そこは将来の倉庫用地です」
「えー」
「駄目です」
「ちょっとだけ!」
「駄目です」
「じゃあ半分!」
「駄目です」
「ネフィエラー」
「わたくしに助けを求めないでくださいませ」
「けちー」
「あなた方はもう少し計画性を持ってください!」
「クロエはもう少し肩の力抜いた方がいいよー」
「あなたが抜きすぎなのです!」
「ふふ」
「笑い事ではありません!」
私は。
三人を見る。
「…………」
「やっぱり楽しそう!」
「遊んでいるのではありません!」
「でも楽しそうだよ?」
「……それは」
クロエが少し黙る。
「悪いことではありませんが」
「でしょ!」
「そこだけ拾わないでください」
やっぱり。
三人が集まると。
なんか面白い。
◇
「ユズ様」
「なに?」
「こちらについて、どう思われます?」
「え?」
クロエが。
地面の図を指差している。
「住居区を、この方向へ広げようと考えています」
「うん」
「ですが、将来的な住民の増加を考えると」
「少し余裕を持たせておいた方がよいかと」
「うん!」
「ですので」
「ユズ様は、どちらがよいと思います?」
「…………」
「私?」
「はい」
「なんで?」
「……なんで、と言われましても」
クロエが困った顔をする。
「この場所を作ろうと言い出したのは、ユズ様でしょう?」
「そうだけど」
「ならば、最終的な方針はユズ様にも確認すべきです」
「えー」
難しい。
「どっちでもいいよ?」
「それでは困ります」
「じゃあ」
私は図を見る。
よく分からない。
「みんなが住みやすい方!」
「…………」
「それでいいの?」
「一番重要なことではありますわね」
ネフィエラが微笑む。
「では、少し余裕を持たせましょう」
「そうですね」
「決まった!」
「それでいいんだ!?」
「ユズ様の希望ですから」
「希望っていうほど何も言ってないよ!?」
「十分です」
「そうなの?」
「そうです」
なんか。
よく分からないけど。
決まった。
◇
「ユズ様」
「ん?」
「少しよろしいですか?」
「ルヴェリア!」
歩いていると。
ルヴェリアが私を呼び止めた。
「どうしたの?」
「お袖を」
「袖?」
「はい」
見る。
「先日より、少しほつれが広がっています」
「ほんと?」
「すぐ直せますので」
「お願い!」
「承知しました」
するすると。
糸。
針。
「早い!」
「これくらいでしたら」
「おおー」
「……完成です」
「もう!?」
「はい」
「すごい!」
袖。
綺麗。
「ありがとう!」
「いえ」
その隣では。
「フィズリア!」
「はい?」
「何してるの?」
「染料の確認です」
いろんな草。
花。
木の実。
並んでる。
「蜂族の方々が育てている植物には、染色に使えそうなものが多いので」
「へえー!」
「色の定着を確認しています」
「難しそう!」
「慣れればそうでもありません」
「私は無理!」
「でしょうね」
「みんなクロエみたいに即答する!」
「事実ですので」
「えー!」
少し離れたところ。
「ミレルナ!」
「は、はい!」
小さな魔物たちの周りに。
ふわふわ。
小さなクッション。
「これ作ったの!?」
「はい……!」
「可愛い!」
「きゅ!」
「ぷる!」
小型魔物たちも。
すっごく気に入ってる。
「シロのもある?」
「作ってあります!」
「ほんと!?」
「ですが」
ミレルナがシロを見る。
「今の大きさだと」
「わふ?」
「……少し大きいものが必要かも」
「じゃあ小さい時用!」
「はい!」
「わふっ!」
「嬉しそう!」
さらに。
「セリナージュ!」
「はい」
「これも?」
新しい毛布。
寝具。
「ええ」
「小さな子たちが増えてきましたので」
「寝床も少し増やしました」
「すごい!」
「皆さん、夜は冷えますから」
「ありがと!」
「ふふ。どういたしまして」
そして。
「ゼルフィナは?」
「……あそこ」
ユキが指差す。
資材置き場の近く。
「…………」
ゼルフィナ。
糸を張ってる。
「何してるの?」
「侵入対策」
「罠?」
「危険なものは外側だけ」
「おおー」
「内側は警報用」
「誰か来たら分かるの?」
「分かる」
「便利!」
みんな。
もう。
普通にここで生活してる。
「なんか」
「本当に仲間になった感じする!」
「最初からそのつもりだったのではないか?」
コハクが言う。
「そうだけど!」
「今もっと!」
「よく分からぬのう」
「気持ち!」
「はいはい」
「流された!」
◇
「クロエー!」
「なんです?」
「水ほしい!」
今度は。
花畑から。
メリエルの声。
「水なら川があります」
「そうじゃなくて!」
「花畑まで水路ほしい!」
「…………」
クロエが。
地面を見る。
距離を見る。
少し考える。
「分かりました」
「やったー!」
「ただし、今ある水路から直接伸ばすと流量が不足します」
「じゃあどうするの?」
「分岐を一つ増やします」
「できる?」
「我らを誰だと思っているのです」
「蟻さん!」
「その通りですが!」
すぐに。
蟻さんたちが動く。
『こちらを掘ります!』
『深さを揃えて!』
『石を運べ!』
「早い!」
「では」
ネフィエラが。
花畑を見る。
「日差しが強すぎる場所には、簡単な日除けも用意いたしましょう」
「ほんと?」
「ええ」
『糸をこちらへ』
『はい!』
蜘蛛さんたちも。
動く。
「蜂さん!」
「花の苗こっち!」
『運びます!』
『こちらですね!』
蜂さんたちも。
飛び回る。
「…………」
「ユズ」
「ん?」
ユキが私を見る。
「……また何もしてない」
「…………」
「見守ってる!」
「言い方を変えただけじゃろう」
「応援!」
「わふっ!」
「ほら! シロも応援してる!」
「わふ!」
「……楽しそうならよいが」
でも。
ほんとに。
すごい。
蟻さんだけ。
蜘蛛さんだけ。
蜂さんだけ。
じゃなくて。
みんな一緒に。
一つのものを作ってる。
◇
「ん?」
夕方。
私は。
見覚えのない小さな魔物を見つけた。
「…………」
丸い。
茶色い。
耳が大きい。
「可愛い!」
「きゅっ!?」
「あ!」
逃げた。
「待って!」
「ユズ」
「何?」
「……怖がってる」
「あ」
そうだった。
「じゃあ」
少し離れる。
「大丈夫だよー!」
「…………」
木の陰から。
ちらっ。
「この子、昨日いた?」
「……いなかった」
「コハク?」
「妾も見ておらぬな」
「じゃあ」
「新しい子?」
「そうみたいです」
クロエが。
後ろから来た。
「クロエ!」
「今朝、森の方から来ました」
「ほんと?」
「はい」
「他にも数匹」
「おお!」
「住みたいのかな?」
「おそらく」
「じゃあ住んでいいよ!」
「即答ですね」
「だって!」
私は。
木の陰の子を見る。
「安心して暮らせる場所にしたいんだから!」
「…………」
クロエが。
少しだけ笑う。
「そうでしたね」
「うん!」
「きゅ?」
「おいで!」
「きゅ……」
少しずつ。
近づいてくる。
「可愛い……」
「ユズ」
「分かってる!」
「飛びつかない!」
「……えらい」
「褒められた!」
「そこを褒められるのもどうかと思うぞ」
「えー?」
でも。
こうやって。
少しずつ。
増えていくのかな。
◇
「ユズ様」
「なに?」
しばらくして。
クロエが。
また地面の図を持ってきた。
「一つ、提案があります」
「なに?」
「共同で使える広場を作りたいと思います」
「広場?」
「はい」
「住民が集まれる場所です」
「おお!」
「食事や集会」
ネフィエラも加わる。
「何か催しをする際にも使えますわ」
「催し?」
「みんなで何かするとき!」
メリエルが説明する。
「ご飯食べたり!」
「遊んだり!」
「お祭りしたり!」
「楽しそう!」
「でしょう?」
「作ろう!」
「即決」
「だって楽しそうだし!」
「まあ」
クロエが苦笑する。
「反対されないのであれば、その方向で進めます」
「うん!」
広場。
みんなで集まる場所。
「…………」
みんなで。
ご飯。
「…………あ」
「どうしたのじゃ?」
「大鍋!」
「?」
「大鍋だよ!」
グラちゃん。
見る。
遠くで。
寝てる。
「そうだ!」
「みんなでお鍋しよう!」
「…………」
クロエが。
一瞬。
止まった。
「広場の用途が」
「いきなり鍋になりましたね」
「最初だけ!」
「最初だけですか?」
「たぶん!」
「ふふ」
ネフィエラが笑う。
「最初の催しとしては、悪くありませんわね」
「でしょ!」
「わたし賛成!」
メリエル。
「蜂蜜入れる?」
「鍋に!?」
「種類によっては美味しいよ?」
「ほんと?」
「試してみる?」
「やる!」
「勝手に決めないでください!」
クロエ。
今日。
いっぱい叫んでる。
「でも」
クロエも。
少し考える。
「皆が集まる機会を作るのは、悪くありません」
「じゃあ決まり!」
「お鍋パーティー!」
「わふっ!」
「……楽しそう」
「妾も異論はないぞ」
「やった!」
◇
「問題があります」
「え?」
クロエが。
寝ているグラちゃんを見る。
「古龍様も」
「参加されるのですよね?」
「もちろん!」
「…………」
みんな。
グラちゃんを見る。
大きい。
すっごく。
大きい。
「普通のお鍋では」
ネフィエラ。
「足りませんわね」
「いっぱい作ればいいじゃん!」
メリエル。
「簡単に言わないでください!」
「でも前も食べてたよ?」
「あれはユズ様たちだけの量でしょう?」
「そうだった!」
「今回は」
クロエが数える。
「蟻族」
「蜘蛛族」
「蜂族」
「その他の住民」
「そして古龍様」
「…………」
「いっぱい!」
「だから言っているのです」
「じゃあ」
「大鍋いっぱい並べよう!」
「…………」
「一つを巨大にするよりは現実的ですわね」
ネフィエラが頷く。
「よし!」
「決定!」
「まだ必要な数を計算していません!」
「クロエお願い!」
「……分かりました」
「やった!」
「完全に任されましたね」
「だってクロエ得意そう!」
「否定できませんが」
それから。
どんどん役割が決まっていく。
蟻さんたちは。
広場。
鍋を置く場所。
机。
座るところ。
蜘蛛さんたちは。
敷物。
飾り。
料理を運ぶ布や袋。
蜂さんたちは。
果物。
香草。
蜂蜜。
その他の食材。
「すごい!」
「もう準備始まってる!」
「ユズ様」
「なに?」
「あなたも働いてくださいね」
「え」
「当然です」
「何すればいい?」
「まず」
クロエが。
にっこり。
「食材集めです」
「はーい!」
「返事だけはよいですわね」
「ネフィエラまで!」
◇
「グラちゃーん!」
『…………』
「グラちゃん!」
『……なんだ』
片目。
開いた。
「お鍋!」
『!』
「今度こそやるよ!」
『いつだ』
「早い!」
『いつだ』
「明日!」
『…………』
「嬉しい?」
『別に』
「絶対嬉しいじゃん!」
『別にだ』
「みんなで食べるんだよ!」
『そうか』
「大鍋いっぱい!」
『そうか』
「楽しみ?」
『しておらん』
「ほんと?」
『…………』
「してるね!」
『しておらん』
「でも明日だからね!」
『……遅れるな』
「やっぱり楽しみにしてる!」
『しておらんと言っておる』
「はいはい!」
『本当にしておらんぞ』
「分かった分かった!」
『…………』
絶対。
楽しみにしてる。
◇
その日。
蟻さんたちは。
広場を作り始めた。
蜘蛛さんたちは。
そこへ飾る布や敷物を用意して。
蜂さんたちは。
食材を集め始める。
小さな魔物たちまで。
木の実を運んだり。
枝を集めたり。
できることを手伝っていた。
少し前まで。
何もなかった場所。
それが今は。
たくさんの魔物が暮らして。
働いて。
一緒に何かを作っている。
「…………」
「ユズ?」
「ん?」
「……どうしたの?」
「なんでもない!」
ただ。
なんとなく。
嬉しかっただけ。
そして。
次の日。
グラちゃん待望の。
みんなで食べる。
大鍋パーティーが。
始まることになった。
面白いと感じましたら、ブクマ、評価、コメント等をよろしくお願いします。




