第23話:みんなの居場所
「ここ、本当にいっぱい育てられそう!」
メリエルは、目を輝かせながら草原を見渡していた。
「そんなに?」
「うん!」
川の方へ駆けていく。
「水もあるし!」
今度は、少し離れた日当たりのいい場所を見る。
「ここは花畑にできそう!」
その隣。
「こっちは果樹!」
さらに森との境目。
「この辺は香草かなー」
「もう決めてる!」
「だって楽しそうじゃん!」
さっきまで花畑で寝転がって蜂蜜を舐めていたのと同じ人とは思えない。
「メリエル」
「んー?」
クロエが少し呆れたように声をかける。
「まだ移住すると決めたわけではないでしょう」
「でもさー」
メリエルは、くるっと振り返った。
「ここ、かなりいいよ?」
「それは否定しませんが」
「安全!」
「広い!」
「水もある!」
「日当たりもいい!」
指を一本ずつ立てていく。
「しかも古龍様がいる!」
「…………」
「これ以上ある?」
「ありませんね」
「でしょー?」
メリエルが笑う。
「それに」
今度は。
少しだけ真面目な顔。
「今のところより、たぶんいっぱい育てられる」
「そんなに違うの?」
「違うよ」
メリエルが頷く。
「わたしたちのところも悪くないけど、花を増やせる場所には限りがあるし、果樹もそんなに多くは育てられないの」
「へえー」
「でもここなら」
ぐるっと周囲を見る。
「区画を分けて」
「花」
「果樹」
「香草」
「食べられる草とか」
「いろいろ試せそう」
「おおー!」
「食べ物いっぱい!」
「……ユズ」
「ん?」
ユキが、少し離れたところを見る。
そこでは。
最初に来た小さな魔物たちが、木の実を食べていた。
「……今」
「何食べてるの?」
「え?」
メリエルがそっちを見る。
「たぶん木の実!」
「それだけ?」
「あと、お魚とか!」
「森で見つけた果物とか!」
「毎日?」
「うん!」
「…………」
メリエルが。
少し考える。
「ユズ」
「なに?」
「それ、もっと住む子が増えたら足りなくなるよ?」
「…………」
「あ」
そうだった。
「だからあなたを連れてきたのです」
クロエがため息をつく。
「現在はまだ、森で採取したものでも何とかなっています」
「ですが」
周りを見る。
「我ら蟻族」
「蜘蛛族」
「最初に来た小型魔物たち」
「今後さらに増える可能性を考えれば」
「採取だけでは安定しません」
「なるほど……」
ちゃんと。
作らないといけないんだ。
「メリエル!」
「ん?」
「作れる?」
「もちろん!」
「おお!」
「蜂蜜!」
「果物!」
「花蜜!」
「香草!」
指を折りながら続ける。
「乾燥させた果物も作れるし」
「蜂蜜に漬けて保存もできるよ」
「保存食!」
「うん」
「それに」
メリエルが花を一輪摘む。
「わたしたちは、食べ物そのものを作るだけじゃないよ」
「?」
「花から花へ飛ぶでしょ?」
「うん」
「そうすると実がつきやすくなる植物もあるの」
「へえー!」
「果樹を育てるなら、わたしたちがいる方がたぶん早いよ」
「すごい!」
「あと」
にこっ。
「蜂蜜は美味しい!」
「それ大事!」
「でしょー!」
「お主ら、そこだけ妙に意気投合するのう」
コハクが呆れた顔をする。
「でも美味しいの大事だよ?」
「否定はせぬが」
「でしょう?」
メリエルも嬉しそう。
「……気が合っていますわね」
ネフィエラが笑う。
「たぶん、この二人を放っておくとずっと食べ物の話をします」
クロエ。
ちょっと疲れてる。
◇
「よし!」
メリエルが。
両手をぱんっと合わせた。
「決めた!」
「!」
「ほんと!?」
「うん!」
「わたしたちもここに来る!」
「やったー!」
「決断が早いですね」
クロエが言う。
「だって」
メリエルが笑う。
「いい場所じゃん」
「それに、クロエもネフィエラもいるし」
「古龍様もいるし」
「危ない理由がないよね?」
「……あなたは本当に軽いですね」
「クロエが重すぎるんだよー」
「私は慎重なだけです」
「重い」
「慎重です」
「重いよー」
「慎重です!」
「ふふ」
ネフィエラが口元を押さえる。
「お二人のちょうど中間くらいがよいのかもしれませんわね」
「あなたは黙っていてください」
「まあ」
「ネフィエラも結構メリエル側だよね?」
「ユズ様まで!」
「だって」
ネフィエラ。
部下に任せる。
メリエル。
自由。
クロエ。
全部自分でもやる。
「三人とも全然違うね!」
「そうですわね」
「うん!」
「それでも」
メリエルが笑う。
「ちゃんと回ってるからいいんじゃない?」
「……そこだけは否定しません」
「クロエが認めた!」
「そこだけです!」
なんか。
やっぱり仲良し。
◇
「じゃあ引っ越し!」
「今から?」
「うん!」
メリエルが目を丸くする。
「早くない?」
「危なくないなら、別に今日でなくてもよいでしょう」
コハクが言う。
「確かに!」
「でも」
私は周りを見る。
「早い方が食べ物いっぱい作れる!」
「それはそうだけどー」
メリエルが少し考える。
「じゃあ」
「一回戻って、みんなに話してくる!」
「私たちも行く!」
「え?」
「手伝うよ!」
「移住するなら荷物いっぱいあるでしょ?」
「…………」
「ユズ」
「なに?」
メリエルが笑う。
「ほんと勢いすごいね」
「よく言われる!」
「褒められておるかは分からぬぞ」
「えー?」
「では」
ネフィエラが立ち上がる。
「わたくしも手伝いましょう」
「あなたは自分の一族の移住準備もあるでしょう」
クロエ。
すぐ突っ込む。
「ルヴェリアたちが進めていますわ」
「また任せたのですか!」
「適材適所です」
「……もういいです」
「クロエが諦めた!」
「諦めていません!」
「じゃあ」
私はメニューを開く。
「戻ろう!」
「転移って便利だねー」
「でしょ!」
「お主」
「ん?」
「使い方に慣れすぎではないか?」
「便利だから!」
「まあ、否定はせぬが」
「行くよー!」
《転移》
◇
蜂族の住処。
「みんなー!」
メリエルが。
戻ってすぐ。
大きな声を出した。
『女王様?』
『お帰りなさい』
『どうでした?』
「引っ越すよー!」
『…………』
『…………』
『…………』
「…………」
蜂さんたち。
固まった。
「急じゃない!?」
『急です!』
「喋った!」
『喋ります!』
「あ」
そっちじゃなかった。
「メリエル」
クロエが額を押さえる。
「説明してください」
「えー?」
「必要です」
「はーい」
メリエルが。
蜂さんたちに説明していく。
古龍様の領域。
広い土地。
水。
花畑を作れる場所。
果樹。
安全。
そして。
「クロエたちもいるよー」
『クロエ様も!?』
「ネフィエラたちも来る」
『ネフィエラ様まで!?』
「うん!」
『…………』
蜂さんたちが。
ざわざわ。
『本当に古龍様の領域へ?』
「本当だよー」
『古龍様がお許しを?』
「好きにしていいって」
『…………』
ざわざわ。
でも。
しばらくすると。
『女王様が決めたのなら』
『我らも参ります』
『花を育てられる場所があるなら』
『楽しみだな』
「おおー!」
「決まるの早い!」
「あなたたちも十分早いです」
クロエが呟く。
「女王様に似たんじゃない?」
「えへへ」
「褒めていません」
◇
「これも!」
『はい!』
「それも持ってくよー!」
『承知しました!』
そこから。
すぐに。
引っ越し準備が始まった。
蜂蜜の入った壺。
保存した果物。
香草。
花の苗。
果樹の若木。
いろんな道具。
「いっぱい!」
「食料を作るにも、最初のものが必要だからねー」
「なるほど!」
「ユズ様」
「ん?」
クロエがこちらへ来る。
「運搬なら我らも手伝います」
「ほんと?」
「はい」
「すでに何名か呼びました」
見る。
『運びます!』
『こちらへ!』
蟻さんたち。
もう来てる。
「早い!」
「こういう仕事は得意ですので」
「さすが!」
「あら」
今度は。
ネフィエラが。
近くにいた蜘蛛さんたちに指示を出している。
「大きな苗はまとめてくださいな」
『はい』
「壺は割れないように、糸で固定を」
『承知しました』
「すごい!」
蜘蛛の糸で。
蜂蜜の壺が。
いくつも綺麗にまとめられていく。
「運びやすい!」
「でしょう?」
「これなら転移もしやすいね!」
「ええ」
「……結局」
クロエが周りを見る。
「全員で手伝っていますね」
「いいじゃん!」
メリエルが言う。
「早いし!」
「……そうですね」
「クロエ」
「なんです?」
「今、ちょっと嬉しそうだった!」
「気のせいです」
「絶対そう!」
「気のせいです!」
でも。
私も。
なんか嬉しい。
蟻さんたち。
蜘蛛さんたち。
蜂さんたち。
みんな。
初めてなのに。
一緒に作業してる。
◇
何度か転移して。
荷物を運ぶ。
「これで最後!」
「やったー!」
最後の蜂さんたちも。
新しい場所へ。
「ようこそ!」
『おお……』
『広い』
『本当に古龍様が……』
「大丈夫!」
「グラちゃん優しいよ!」
『……その呼び方、本当に大丈夫なのですか?』
「大丈夫!」
『そうですか……』
まだ。
納得してない感じ。
「じゃあ!」
メリエルが前に出る。
「まず花畑!」
「もう!?」
「善は急げ!」
「ユズ様の影響を受けるのが早すぎます!」
クロエが叫ぶ。
「えへへ」
「えへへじゃありません!」
メリエルが。
日当たりのいい場所を指差す。
「ここ!」
「ここに花畑!」
「じゃあ」
少し離れたところ。
「こっちは果樹!」
「川の近くは香草!」
「蜂蜜の保管場所も欲しいなー」
「倉庫ですね」
クロエが即座に答える。
「場所は?」
「この辺!」
「川に近すぎます」
「えー」
「湿気の影響を受けます」
「じゃあこっち?」
「そこなら問題ありません」
「決まり!」
「早い!」
「クロエ」
「なんです?」
「もう普通に手伝ってるね!」
「必要だからです!」
「ふふ」
ネフィエラも周囲を見る。
「花畑の日差しが強すぎる場所には」
「必要に応じて日除けを作りましょう」
「布で?」
「ええ」
「作れるよ!」
「もちろんですわ」
「すごーい!」
なんか。
私が何もしなくても。
どんどん決まっていく。
「ここ家!」
「こっち倉庫!」
「花畑!」
「果樹!」
「日除け!」
「水路!」
「…………」
私は。
クロエ。
ネフィエラ。
メリエル。
三人を見る。
「みんなすごい!」
「それぞれ得意なことをしているだけです」
クロエ。
「そうですわ」
ネフィエラ。
「楽しいしねー!」
メリエル。
「じゃあ」
「私、任せる!」
「ユズ様!?」
「だって!」
「みんなの方が分かるじゃん!」
「それはそうですが」
「決めるべきところは、ユズ様にも決めていただきます」
「えー?」
「当然です」
「でも」
私は。
辺りを見る。
みんな。
楽しそう。
「今のところ」
「いい感じ!」
「……まあ」
クロエが小さく息を吐く。
「否定はしません」
◇
夕方。
少しずつ。
蜂族の荷物も落ち着いてきた。
「ふう!」
私は草の上に座る。
「疲れたー!」
「お主、ほとんど転移しかしておらぬではないか」
「転移も疲れるよ!」
「それはそうかもしれぬが」
「……ユズ」
「ん?」
ユキが。
私の隣に座る。
「……いっぱい増えたね」
「うん!」
見る。
蟻さん。
蜘蛛さん。
蜂さん。
小さな魔物たち。
クロエ。
ネフィエラ。
メリエル。
「ほんとだ」
「いっぱい!」
「わふっ!」
シロも。
私の横に座る。
「シロもいる!」
「わふ!」
「妾もおるぞ」
「コハクも!」
「忘れるでない!」
「えへへ」
その時。
「ユズ様」
クロエが来る。
「なに?」
「一度、整理しておきましょう」
「?」
「住居」
「道路」
「倉庫」
「水路」
「それらは我ら蟻族が中心となって整備します」
「うん!」
ネフィエラも。
隣へ来る。
「衣服」
「布」
「寝具」
「袋」
「縄」
「装飾品」
「それらは、わたくしたち蜘蛛族が」
「うん!」
そして。
メリエル。
「食べ物!」
「花!」
「果物!」
「蜂蜜!」
「あと保存食とかも!」
「それはわたしたち!」
「おおー!」
私は。
指を一本ずつ立てる。
「住!」
「衣!」
「食!」
「…………」
「揃った!」
「順番が違いますわね」
「でも全部ある!」
「それはそうですね」
「やったー!」
衣食住。
全部。
揃った!
「なんか」
私は三人を見る。
「すごいね」
「何が?」
「クロエも」
「ネフィエラも」
「メリエルも」
「みんな女王なんだよね」
「そうですね」
「そうですわ」
「そうだよー」
「女王三人!」
「すごい!」
「……何がすごいのか分かりませんが」
「響き!」
「響きですか」
「うん!」
「女王三人組!」
「勝手に組にしないでください」
「わたしはいいよー」
「わたくしも構いませんわ」
「なぜ二人とも受け入れるのです!?」
「いいじゃん!」
「クロエだけ反対!」
「人数で決めるものではありません!」
「ふふ」
「あはは!」
なんか。
すっごく。
賑やか。
◇
『……騒がしくなったな』
「あ」
グラちゃん。
起きた。
「グラちゃん!」
「見て!」
「いっぱい増えたよ!」
『見れば分かる』
「すごいでしょ!」
『……まあな』
「褒めた!」
『褒めておらん』
「えー?」
グラちゃんが。
三つの種族を見る。
蟻。
蜘蛛。
蜂。
そして。
『ところで』
「?」
『鍋はまだか』
「…………」
「あ」
『なんだ忘れておったのか』
「ごめん!」
「今日作る?」
『作れ』
「即答!」
『約束したであろう』
「した!」
そうだった。
「じゃあ!」
私は。
みんなを見る。
「もうちょっと待って!」
『……なぜだ』
「せっかくだから!」
蟻さんたち。
蜘蛛さんたち。
蜂さんたち。
小さな魔物たち。
「みんなで食べよう!」
『…………』
「すっごく大きい鍋!」
「みんなで作ろう!」
『…………』
「ダメ?」
グラちゃんが。
少しだけ黙る。
『……構わん』
「やった!」
『ただし』
「?」
『忘れるな』
「忘れない!」
「絶対!」
『ならよい』
「グラちゃん」
「楽しみにしてる?」
『しておらん』
「ほんと?」
『…………』
「してるね!」
『しておらん』
「ふふ」
「絶対してる!」
今度こそ。
忘れないようにしないと。
こうして。
蟻族。
蜘蛛族。
蜂族。
三つの種族が集まり。
住む場所。
着るもの。
食べるもの。
みんなが暮らしていくために必要なものが。
少しずつ。
揃い始めた。
そして。
グラちゃん待望の大鍋も。
近いうちに。
本当に作ることになりそうだった。
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