第17話:家を作ろう!
「よーし!」
私はぐっと拳を握った。
「家を作ろう!」
「わふっ!」
「……うん」
「まあ、そうなるじゃろうな」
私の前では、さっき連れてきた小さな魔物たちが楽しそうに鳴いている。
「きゅ!」
「ぷる!」
「ぴぃ!」
「みんなも手伝ってくれる?」
「きゅっ!」
「ぷるる!」
「やった!」
これなら、すぐ作れそう!
「それで、お主」
「なに?」
「家はどうやって作るつもりじゃ?」
「…………」
「…………」
「ユズ?」
ユキも、こてんと首を傾げる。
「…………今から考える!」
「考えておらんかったのか!」
「だって!」
家なんて作ったことないし!
「とりあえず!」
私は周りを見る。
「木!」
「……木」
「そう!」
「木があれば家作れるよね!」
「雑すぎぬか……?」
「大丈夫!」
「何を根拠に言っておるのじゃ」
分かんない!
でも、やってみればなんとかなるはず!
「シロ!」
「わふ?」
「木、運べる?」
「わふっ!」
シロが元気よく立ち上がる。
「お願い!」
「わふ!」
そして森の方へ走っていった。
「ユキは!」
「……なに?」
「小さい枝とか!」
「……探す」
「お願い!」
「……うん」
ユキも森の方へ歩いていく。
「コハク!」
「嫌な予感しかしないが、なんじゃ」
「家の作り方知ってる?」
「…………」
「本いっぱい読んでたんでしょ?」
「まあ」
コハクが少し考える。
「簡単な建物の構造くらいなら、書物で読んだことはある」
「ほんと!?」
「じゃが」
「?」
「実際に作ったことはないぞ」
「大丈夫!」
「だから、その大丈夫はどこから来るのじゃ!」
「知識があるならいけるよ!」
「妾を過信しすぎではないか?」
「コハクならできる!」
「…………」
「できるよね?」
「……そこまで言われると断りづらいのう」
「やった!」
これで完璧!
……たぶん。
◇
「シロー!」
「わふっ!」
「…………」
大きい。
すっごく大きい。
シロが口にくわえて戻ってきたのは、私の身体よりずっと太そうな大きな丸太だった。
「シロすごい!」
「わふ!」
「……大きすぎ」
「え?」
ユキが丸太を見る。
「……家というより、柱」
「柱なら使えるよ!」
「お主」
コハクが丸太を見上げる。
「これは何の家を建てるつもりじゃ」
「みんなの家!」
「この大きさの柱を使えば、城でも建つわ!」
「お城!」
「食いつくでない!」
「じゃあ小さくする?」
「できるのか?」
「…………」
「…………」
「シロ!」
「わふ?」
「もうちょっと小さいのお願い!」
「わふっ!」
シロがまた森へ走っていく。
「最初からそうせい!」
「えへへ」
でも、シロ。
力持ちだなあ。
そのあと、ユキが枝やツタ、大きな葉っぱをいろいろ見つけてきてくれた。
小さな魔物たちも、木の実みたいなものや細い枝をせっせと運んでくれる。
「可愛い……」
「お主も運べ」
「はーい!」
私も材料をいっぱい集める。
そして。
「よし!」
目の前には、材料の山。
「作ろう!」
「……どうやって?」
「コハク先生!」
「誰が先生じゃ!」
「教えて!」
「まったく……」
コハクがため息をつきながら材料を見る。
「まず、柱になる木を立てて」
「うん!」
「その上に横木を渡す」
「うんうん!」
「それから屋根を――」
「コハク!」
「なんじゃ」
「作ったことある?」
「ない」
「…………」
「…………」
「でも知ってるんだよね?」
「本ではな」
「なら大丈夫!」
「だから!」
とりあえず、やってみよう!
◇
「できたー!」
「…………」
「…………」
「…………」
目の前には、小さな家。
……っぽいもの。
「どう?」
「……傾いてる」
「味だよ!」
「味で済ませるでない!」
確かに、ちょっと右に傾いてる。
でも屋根もあるし!
「ほら!」
「ちゃんと家っぽい!」
「見た目だけなら、まあ……」
コハクが腕を組む。
「きゅ?」
さっきの角のある兎みたいな子が、家に近づいていく。
「入ってみて!」
「きゅ!」
ぴょん。
中へ。
「おお!」
「入れた!」
「きゅ!」
「どう!?」
「きゅぅ!」
「気に入って――」
ミシ。
「…………」
「…………」
ミシミシ。
「……ユズ」
「ん?」
「……屋根」
「屋根?」
バサッ!
「きゅ!?」
「ああああっ!?」
屋根が落ちた!
「大丈夫!?」
「きゅぅ……」
兎みたいな子が、葉っぱまみれで出てくる。
「ご、ごめん!」
「きゅ……」
「怪我してない?」
「きゅっ」
よかった。
「屋根が弱かったのう」
「次はもっと丈夫にする!」
「まだやるのか」
「もちろん!」
失敗したなら直せばいい!
「次!」
「行こう!」
◇
「今度こそ!」
「…………」
「…………」
「どう?」
「……小さい」
「え?」
ユキが家を見る。
「……入口」
「あ」
今度は屋根も壁もちゃんとしてる。
……気がする。
でも入口がすっごく小さい。
「スライムなら入れる!」
「ぷる!」
「きゅ……」
「他の子が入れない!」
「なぜ作る途中で気づかぬのじゃ!」
「一生懸命だったから!」
「答えになっておらん!」
◇
三個目。
壁が崩れた。
四個目。
屋根が斜めになった。
五個目。
シロがちょっと尻尾を振ったら。
「わふ?」
バサバサバサッ!
「家がああああ!」
「……ユズ」
「シロは悪くないよ!」
「誰も責めておらぬ!」
「わふぅ……」
「大丈夫だよシロ!」
ぎゅっ。
私はシロの首元に抱きつく。
「シロは可愛いから!」
「わふっ!」
「家づくりと何の関係があるのじゃ……」
でも、なんとか簡単な雨よけみたいなものは作ることができた。
枝を組んで、大きな葉っぱを重ねて、中には柔らかい草を敷く。
「…………」
「うん」
「これなら、今日寝るだけなら大丈夫そうじゃな」
「……そうだね」
ユキも中を覗く。
「……暖かそう」
「ほんと?」
「……うん」
小さな魔物たちも中へ入っていく。
「きゅっ」
「ぷる!」
「ぴぃ!」
嬉しそう。
「…………」
よかった。
でも。
「うーん……」
「どうした?」
「これ」
「?」
「ちゃんとした家じゃないよね?」
「まあ」
コハクが、私たちの作った寝床を見る。
「巣と呼ぶ方が近いじゃろうな」
「だよね」
今は十匹くらい。
でも、これからもっとたくさん魔物が来てくれるかもしれない。
雨の日も、寒い日もあるかもしれない。
「ちゃんとした家……」
欲しいなあ。
でも。
私、作れない。
「……ユズ」
「ん?」
「……元気ない?」
「そんなことないよ!」
「?」
「ただ」
私は周りを見る。
「この森にさ」
「うむ」
「家作るのがすっごく上手な魔物とか、いないのかな?」
「…………」
コハクが森を見る。
「これほど広い森じゃ。巣作りや建築を得意とする種族くらい、おっても不思議ではないが」
「ほんと!?」
「妾は知らぬぞ」
「そっかあ……」
誰か。
知ってそうな人。
「…………」
「あ」
「?」
「いる!」
「誰じゃ?」
「グラちゃん!」
「…………」
コハクが少し嫌そうな顔をした。
「まあ、ずっとこの森におるようじゃしな」
「でしょ!」
「聞いてみよう!」
「待て」
「?」
「お主」
「なに?」
「普通に聞いて、あやつが答えると思うか?」
「…………」
「…………」
「聞いてみないと分かんない!」
「妾には分かる気がするぞ……」
◇
「グラちゃーん!」
『…………』
「グラちゃーん!」
『…………』
寝てる。
「グラちゃーん!」
『……騒ぐな』
「あ、起きた!」
『起こされたのだ』
「聞きたいことあるんだけど!」
『嫌だ』
「まだ何も言ってない!」
『どうせ面倒なことだろう』
「違うよ!」
『なら寝る』
「違わないかも!」
『…………』
「寝ないで!」
グラちゃんが大きな目を半分閉じる。
「ねえ!」
「この森にさ!」
『…………』
「家作るのが上手な魔物っていない?」
『知らん』
「早い!」
絶対、考えてない!
「グラちゃん!」
『なんだ』
「ずっとこの森にいるんでしょ?」
『そうだ』
「なら知ってるでしょ!」
『知らん』
「本当に?」
『知らん』
「家作る子だよ?」
『我には家など必要ない』
「それは知ってるけど!」
『ならば終わりだ』
「終わらない!」
『眠い』
「むぅ……」
やっぱりコハクの言った通り。
「ほれ見よ」
「まだ!」
どうしよう。
グラちゃんが好きなもの。
「…………」
「あ!」
『なんだ』
「教えてくれたら」
『…………』
「今日の夜」
私はにっこり笑う。
「お鍋作ってあげる」
『東へ行け』
「早っ!?」
グラちゃん。
目、開いてる!
「知ってるじゃん!」
『今思い出した』
「絶対嘘じゃ!」
コハクがすぐに突っ込む。
『嘘ではない』
「ではなぜ一瞬で思い出したのじゃ!」
『鍋が記憶を刺激した』
「そんなわけあるか!」
「コハク」
「なんじゃ!」
「お鍋ってすごいね!」
「お主まで乗るでない!」
『東へしばらく進め』
「うん!」
グラちゃんが森の方を見る。
『あの辺りに、蟻どもの大きな巣がある』
「蟻?」
『そうだ』
「小さい?」
『……お主が想像している蟻よりは大きい』
「へえー!」
『あやつらは、地を掘り、土を固め、石や木を運び、巨大な巣を築く』
「おお……!」
『住処を作る技術だけなら、この森でもあやつらに勝る者はそうおらんだろう』
「すごい!」
そんな魔物、いるんだ!
「その子たちなら、家作るの手伝ってくれるかな?」
『知らん』
「そこは知らないんだ!」
『我は蟻どもの事情など興味がない』
「じゃあ」
会って聞けばいい!
「行こう!」
「今からか?」
「うん!」
「お主は本当に行動が早いのう……」
「シロ!」
「わふ!」
首輪をつける。
光がシロを包み、小さかった身体がぐんぐん大きくなっていく。
「よーし!」
シロの背中に乗る!
ユキもその後ろ。
コハクもさらに後ろ。
「グラちゃん!」
『なんだ』
「夜、お鍋だからね!」
『忘れるな』
「分かってる!」
『材料が足りぬなら、先に集めておけ』
「楽しみにしすぎ!」
『当然だ』
「否定せぬのか……」
「じゃあ行ってきまーす!」
「わふっ!」
シロが森へ走り出した。
◇
「こっちかな?」
「東じゃ!」
「東!」
「だからそっちではない!」
「え?」
「お主は方向くらい覚えよ!」
「シロ分かる?」
「わふっ!」
「シロの方が頼りになるではないか!」
「さすがシロ!」
「わふ!」
森を進む。
さっきは、どこにいるかも分からない魔物たちを探しながら走っていた。
でも、今度は違う。
ちゃんと目的地がある。
蟻さんたち。
どんな子なんだろう。
「楽しみだね!」
「……うん」
「お主は本当に何でも楽しそうじゃな」
「楽しいよ!」
「ゲームだもん!」
「げーむ?」
「あ」
コハクには分かんないんだった。
「えっと」
「遊びみたいな感じ!」
「よく分からぬが、まあよい」
「えへへ」
しばらく進むと。
「……ユズ」
「ん?」
「……地面」
ユキが下を見る。
「地面?」
シロに止まってもらい、私たちは地面へ降りる。
「…………」
「おお」
森の地面なんだけど、なんか変。
「綺麗」
「うむ」
土が平らに固められている。
その横には細い溝。
「これ、誰かが作ったの?」
「そう見えるのう」
「……向こうにも」
ユキが指差す。
「ほんとだ!」
今度は石。
大きさの揃った石が、綺麗に積んである。
「すごい……」
さらに奥へ進む。
すると。
「…………あ!」
いた!
「蟻!」
大きい!
私が知ってる蟻とは全然違う。
犬くらい。
……いや、もっと大きいかも。
そんな蟻が何匹も列になって歩いている。
「すごーい!」
何匹かで大きな木を運んでる。
別の子たちは石。
さらに別の子たちは土を掘ってる。
「みんな働いてる!」
「随分と統率されておるのう」
「……すごい」
ユキも珍しそうに見ている。
そのまま少し進むと。
「…………わあ」
森が開けた。
そして。
そこにあった。
「…………」
「…………」
「…………」
大きい。
ものすごく大きい。
土と石で作られた、山みたいな巣。
あちこちに大きな入口があって、そこから何十匹、何百匹、分からないくらいたくさんの蟻が出入りしている。
「すごい……」
「これ、全部この子たちが作ったの?」
「そうじゃろうな」
「家っていうか……」
私は巨大な巣を見上げる。
「町みたい!」
「確かにのう」
「この子たちなら!」
きっと、みんなの家も作れる!
「話してみよ!」
「待て」
「?」
「……ユズ」
ユキが小さく私の服をつまむ。
「どうしたの?」
「……周り」
「周り?」
見る。
「…………」
「あれ?」
さっきまで忙しそうに動いていた蟻たち。
止まってる。
一匹。
二匹。
三匹。
どころじゃない。
みんな。
こっち見てる。
「囲まれておるな」
「ほんとだ!」
「なぜ嬉しそうなのじゃ!」
「だって!」
「いっぱい近くで見れる!」
「そういう問題ではない!」
ガサッ。
「?」
蟻たちが左右へ道を空ける。
その奥から、一匹。
他よりずっと大きな黒い蟻が、ゆっくりこちらへ歩いてきた。
「…………」
その蟻の鋭い目が私を見る。
そして、頭の触角がゆっくり動いた。
「おおー……」
「ユズ」
「うん」
「……たぶん」
ユキが小さく呟く。
「……怒ってる」
「え?」
私はもう一度、大きな蟻を見る。
「…………」
「…………」
……ほんとだ。
ちょっと怖いかも。
こうして、家を作ってもらうために蟻さんたちのところへやってきた私たち。
でも、どうやら。
すぐに。
「家作って!」
とは、いかなさそうだった。
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