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もふもふ召喚士の自由気ままなVRMMO冒険記 ~可愛い魔物を集めていたら、いつの間にか最強の魔物国家ができていました~  作者: 黒海苔
第1章:神が作ったゲーム

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第1話:ゲーム開始!

 学校から帰ってきた私は、制服のままベッドに倒れ込んだ。


「つかれたぁ……」


 私の名前は、小日向柚葉。十七歳。


 特別ゲームが好きというわけでもなく、放課後は動画を見たり、音楽を聴いたりして過ごすことが多い、ごく普通の高校生だ。


 そんな私でも、最近ものすごく流行っているゲームのことくらいは知っている。


 《エルディア》。


 三ヶ月前、自らを神と名乗る少年が突然全世界に公開した、完全没入型のVRMMORPG。


 地球の二倍以上の広さがあるとか、ゲームの中の住人たちが本物みたいに生活しているとか、最初に邪神を倒せばどんな願いでも一つ叶えてもらえるとか。


 ニュースでも学校でも、しばらくその話題ばかりだった。


 もちろん私の家にも、ゲームを遊ぶための機械は届いている。


 でも――。


「ゲームって、覚えること多そうなんだよねぇ」


 レベルとか、ステータスとか、スキルとか。


 友達から説明されたこともあったけど、途中からよく分からなくなった。


 だから、届いた機械もほとんど箱に入れたままだった。


 そんなことを考えながら、私はいつものようにスマートフォンを開く。


「何か面白そうな動画ないかなぁ」


 画面を適当に流していると、おすすめ欄に見慣れない動画が出てきた。


『【エルディア】新エリア探索! 未発見ダンジョンを探します!』


「エルディアかぁ……」


 普段ならそのまま流していたと思う。


 でも、その日の私は少し暇だった。


「まあ、ちょっとだけ見てみよ」


 動画を開く。


 映ったのは、大きな森の中を歩く数人のプレイヤーだった。


『この辺り、まだマップ情報が少ないんですよね』


『魔物もそこそこ強いので、気をつけて進みましょう』


 配信者たちはそんな話をしながら森の奥へ進んでいく。


 やっぱりゲームって大変そう。


 そう思いながら何となく眺めていると――。


『あ、何かいますね』


 カメラが茂みの方を向く。


 そこから、ぴょこん、と小さな生き物が顔を出した。


 白くて丸い体。


 頭には大きな垂れ耳。


 短い足でちょこちょこと歩きながら、周囲を警戒するように鼻をひくひくさせている。


「…………」


 私はベッドから起き上がった。


「なに、この子」


 かわいい。


 ものすごくかわいい。


『あれはスノーラビットですね。弱い魔物です』


『素材もそんなに高くないので、無視でいいでしょう』


「えっ」


 プレイヤーたちは、そのまま通り過ぎていく。


 画面の端で、小さなウサギのような魔物が森の中へ戻っていった。


 私は思わず動画を巻き戻す。


 そして、もう一度見る。


「……かわいい」


 もう一度。


「やっぱりかわいい」


 気づけば、関連動画を次々と開いていた。


 狐みたいな魔物。


 猫みたいな魔物。


 小さな狼。


 丸っこい鳥。


 ふわふわした謎の生き物。


「こんなにいるの……?」


 それまでゲームの攻略動画なんてほとんど見たことがなかったのに、その日だけで何本見ただろう。


 そして、ある動画のタイトルが目に入った。


『不遇職・召喚士を本気で使ってみた結果』


「召喚士?」


 聞いたことのある言葉だ。


 確か、魔物を呼び出して戦うような職業だったはず。


 動画を開いてみる。


『召喚士は、魔物と契約して仲間にできる職業です』


「……仲間?」


 私は食いついた。


『ただし、契約の成功率がかなり低いんですよね』


『魔物をある程度弱らせてから契約を試みるのが基本なんですが、それでも拒否されることが多いです』


『正直、戦闘職としてはかなり微妙です』


『現状だとハズレ職扱いですね』


「ふーん……」


 私は動画を止める。


 戦闘で強いとか弱いとかは、正直よく分からない。


 でも。


「魔物と一緒に冒険できるんだ」


 それだけで十分だった。


 さっき見た白いウサギ。


 狐みたいな子。


 小さな狼。


 もし、あんな子たちと一緒に歩けるなら。


「……やってみようかな」


 そう思った瞬間には、もう立ち上がっていた。


 部屋の隅に置かれた大きな箱を引っ張り出す。


 三ヶ月前に届いてから、ほとんど触っていなかった完全没入型VR機器。


「えっと……これ、どうやって使うんだっけ」


 説明書としばらく格闘すること十数分。


 ようやく準備を終え、私はベッドに横になった。


 ヘッドギアを装着する。


「……よし」


 少しだけ緊張する。


 でも、それ以上に楽しみだった。


「《エルディア》、起動」


 一瞬、視界が真っ暗になる。


 次に目を開くと、そこは何もない真っ白な空間だった。


『ようこそ、《エルディア》へ』


「おお……」


 どこからともなく、落ち着いた女性の声が聞こえる。


『初回ログインを確認しました』


『キャラクター設定の前に、《エルディア》の基本システムについて説明します』


「基本システム?」


 ちょうどいい。


 私はゲームに詳しくないし、ちゃんと聞いておこう。


 目の前に半透明のウィンドウが現れた。


『《エルディア》では、現実世界とは時間の流れる速度が異なります』


『ゲーム内時間は、現実世界の約三倍です』


「三倍?」


『現実世界で一時間が経過すると、《エルディア》では約三時間が経過します』


 ということは……。


「現実で四時間遊んだら、こっちでは十二時間?」


『その通りです』


「システムさん、普通に答えてくれるんだ……」


『また、プレイヤーがログアウトしている間も、《エルディア》の時間は停止しません』


「え?」


『住人、魔物、天候、経済活動などは、プレイヤーのログイン状態に関係なく継続します』


「……本当にもう一個の世界みたい」


 私が現実世界で一日過ごしている間に、こちらでは三日も経つらしい。


『続いて、プレイヤーの基本状態について説明します』


 新しいウィンドウが開く。


《HP》

《MP》

《SP》

《満腹度》


『HPは生命力です。ゼロになると死亡します』


『MPは魔法や一部スキルの使用に必要です。完全に使い切った場合、意識を失います』


「意識までなくなるんだ……」


『SPは身体的な行動に使用されるスタミナです。走る、回避する、激しい運動などによって消費されます。こちらも完全に使い切ると、意識を失う場合があります』


「なるほど」


 HPとMPは何となく聞いたことがあるけど、SPは体力みたいなものらしい。


『HP、MP、SPは時間経過によって徐々に回復します』


「放っておいても回復するんだ?」


『はい。ただし、回復速度は状態によって変化します』


『安全な場所で休息する、ベッドで睡眠を取る、食事を行うなどによって回復速度が上昇します』


「ご飯でも回復しやすくなるんだ」


『はい。特にSPは休息や食事の影響を受けやすくなっています』


「じゃあ、疲れたらちゃんと休んだ方がいいんだね」


『その通りです』


 ゲームなのに、なんだか本当に生活しているみたいだ。


『また、街の道具屋や薬屋では、HP、MP、SPを直接回復できるポーション類が販売されています』


「ポーション!」


 ようやく、いかにもゲームっぽい言葉が出てきた。


『危険な地域やダンジョンへ向かう場合は、複数所持しておくことを推奨します』


「なるほど。冒険に行くなら薬を持っていくんだ」


『続いて、《満腹度》について説明します』


『食事によって上昇し、時間経過や活動によって減少します』


『極端に低下すると身体能力に影響が発生し、ゼロになると餓死します』


「餓死!?」


 ゲームなのに?


『なお、満腹度が百パーセントを超えても食事は可能ですが、食べすぎによる苦しさや行動への悪影響が発生します』


「そこまで再現する必要あるのかな……」


 変なところまで妙にリアルだ。


『プレイヤーが死亡した場合は、登録された復活地点で復活します』


 ほっ。


 さすがに死んだら終わりではないらしい。


『ただし、死亡後は一定時間、全ステータスが半減するデスペナルティが発生します』


「半分になるの!?」


『はい』


「……死なない方がよさそうだね」


『その通りです』


「やっぱり普通に会話できる……」


 なんだか少し面白くなってきた。


『続いて、《エルディア》の成長システムについて説明します』


 画面に新しく、


《レベル》

《ステータス》

《スキル》

《称号》


 と表示された。


『プレイヤーは戦闘、探索、製作など、様々な行動によって経験値を獲得し、レベルを上げることができます』


『レベルアップすると、HP、MP、SPの最大値が自動的に上昇します』


「自動で?」


『はい』


 新しい表示が現れる。


《レベルアップ時の基礎成長》


《HP:+10》

《MP:+5》

《SP:+5》


『レベルが一上昇するごとに、HPは十、MPとSPはそれぞれ五ずつ自動的に増加します』


「じゃあ、何も設定しなくても少しずつ強くなるんだ」


『その通りです』


 これは分かりやすい。


『それとは別に、レベルアップごとに自由に使用できるステータスポイントも獲得します』


「ステータスポイント?」


『はい』


 画面が切り替わった。


《STR》

《VIT》

《INT》

《MND》

《AGI》

《DEX》


「……英語いっぱい出てきた」


『STRは主に物理攻撃力、VITは耐久力、INTは魔法能力、MNDは精神力や魔法耐性、AGIは敏捷性、DEXは器用さなどに影響します』


「なるほど……?」


 分かったような、分からないような。


『人間の場合、レベル一では各基本ステータスが十から開始します』


 さらに表示が切り替わる。


《Lv.1》


《HP:100》

《MP:100》

《SP:100》


《STR:10》

《VIT:10》

《INT:10》

《MND:10》

《AGI:10》

《DEX:10》


《未使用ステータスポイント:20》


「二十ポイント?」


『初期ボーナスとして二十ポイントが与えられます』


『さらに、レベルが一上昇するごとに五ポイントを獲得します』


「じゃあ、自動でHPとかが増えるのとは別に、このポイントももらえるんだ」


『その通りです』


「それを好きなところに振ればいいと」


『はい』


「今決めないとダメ?」


『いいえ。未使用のポイントは保存され、後からいつでも割り振ることができます』


「それなら後でいいかな」


 何が必要なのかも分からないのに、適当に振るのはちょっと怖い。


 実際に遊んでみてから考えよう。


『続いて、スキルについて説明します』


《未使用スキルポイント:5》


『初期状態では五ポイントのスキルポイントを所持しています』


『また、レベルが一上昇するごとに一ポイントを獲得します』


「こっちはスキルを覚えるのに使うんだよね?」


『はい。スキルごとに必要なポイント数は異なります』


『ただし、すべてのスキルをポイントによって取得する必要はありません』


「そうなの?」


『戦闘、探索、製作、その他の特殊行動などによって、条件を満たしたスキルを自然に習得する場合があります』


「じゃあ、色々やってみれば勝手に覚えることもあるんだ」


『その通りです』


「それなら、こっちも後でいいかな」


 ステータスもスキルも、よく分からないうちに決める必要はないらしい。


 それならありがたい。


『そして、特殊な条件を達成したプレイヤーには《称号》が与えられる場合があります』


「称号?」


『はい』


『例えば、ダンジョンを世界で初めて攻略する、一人でダンジョンを攻略する、特殊なイベントを達成する、特定の強敵を撃破するなど、様々な取得条件が存在します』


「へえ……」


『称号には、ステータス上昇、スキル強化、耐性獲得、特殊な補正などが付与されている場合があります』


「じゃあ、いっぱい取った方がお得なんだ?」


『基本的にはその通りです』


『ぜひ様々なことに挑戦し、多くの称号獲得を目指してください』


「覚えてたら頑張ろうかな」


 たぶん、こういうのを集めるのが好きな人もいるんだろう。


 私の場合、可愛い魔物を探す方が優先だけど。


『なお、ダンジョンの世界初攻略や、世界で初めて特殊条件を達成した場合など、一部の実績は《ワールドアナウンス》の対象となります』


「ワールドアナウンス?」


『《エルディア》に存在する全プレイヤーへ、達成内容が通知されるシステムです』


「全員に?」


『はい。例えば――』


《ワールドアナウンス》


《プレイヤー○○が未攻略ダンジョンの世界初攻略を達成しました》


『――といった形式で通知されます』


「うわぁ……」


 ゲームをしている人全員に名前を知られるってこと?


 それはちょっと嫌だ。


『ワールドアナウンス発生時のプレイヤーネーム公開設定を選択してください』


《プレイヤーネームを公開する》


《匿名で公開する》


「匿名にできるんだ」


『はい。匿名を選択した場合、達成内容のみが公開されます』


 例えば、


《匿名のプレイヤーが未攻略ダンジョンの世界初攻略を達成しました》


 みたいになるらしい。


「じゃあ匿名で」


『よろしいですか?』


「うん。目立つのめんどくさいし」


《ワールドアナウンス設定:匿名》


『設定しました』


「よし」


 まあ、私がそんなすごいことを達成することなんてないと思うけど。


『より詳しい情報については、ゲーム内のヘルプからいつでも確認できます』


「それなら大丈夫そう」


 全部覚えようとしたら、始める前に疲れてしまいそうだ。


『基本的な説明は以上です』


『それでは、キャラクター設定を開始します』


 目の前の画面が切り替わった。


 まずは名前。


「ゲームの名前かぁ」


 本名そのままでもいいけど、少しだけ変えてみたい。


 私は数秒考えて――。


「ユズ、でいいかな」


 柚葉だからユズ。


 我ながら安直だけど、呼ばれやすそうだ。


《プレイヤーネーム:ユズ》


 決定。


 次は種族。


 人間。


 エルフ。


 ドワーフ。


 獣人。


 魔族。


 それ以外にも、見たことのない名前がずらりと並んでいる。


「多っ……」


 一つずつ調べていたら、それだけで日が暮れそうだ。


 エルフは耳が長い。


 獣人は耳と尻尾がある。


 ちょっと気になるけど――。


「最初だし、人間でいいや」


《種族:人間》


 続いて職業選択。


 剣士。


 魔法使い。


 弓使い。


 僧侶。


 盗賊。


 錬金術師。


 鍛冶師。


 料理人。


 その他にも大量の職業が並んでいる。


「ゲームって、本当に色々あるんだ……」


 でも、私が探しているものは一つだけ。


「あった!」


《召喚士》


 説明欄を開く。


『魔物と契約を結び、その力を借りて共に冒険する職業』


『契約には、召喚士と対象となる魔物、双方の同意が必要となります』


「双方の同意……」


 私はその文章をもう一度読む。


「つまり、仲良くなって、この子も一緒に来たいって思ってくれたらいいってことだよね?」


 ずいぶん分かりやすい。


 動画では魔物を弱らせてから契約すると言っていたけど――。


「弱らせたら、むしろ嫌われないのかな?」


 まあ、ゲームにはゲームのやり方があるのかもしれない。


 私は初心者だから、その辺りはよく分からない。


 でも。


「可愛い子たちと一緒に冒険できるなら、召喚士一択だよ!」


《職業:召喚士》


 迷わず決定した。


『職業《召喚士》を選択しました』


『召喚士固有のシステムについて説明します』


「まだ説明あるんだ」


『召喚士は、自身が敵を討伐した場合だけでなく、契約した魔物が敵を討伐した場合にも経験値を獲得できます』


「仲間が倒した分も、私に入るの?」


『はい。契約中の魔物が戦闘によって敵を討伐した場合、その戦闘による経験値は召喚士にも共有されます』


「へえー!」


 つまり、自分で全部戦わなくても、仲間になった魔物と一緒に冒険していれば、ちゃんと私も成長できるらしい。


「召喚士っぽいかも」


『また、召喚士は対象となる魔物との契約を成立させた場合にも経験値を獲得できます』


「契約でも?」


『はい』


『契約によって獲得できる経験値は、基本的にその魔物を討伐した場合に得られる経験値と同等です』


「じゃあ、魔物を倒さなくても仲間になってくれればレベルを上げられるんだ?」


『その通りです』


「よかったぁ」


 可愛い魔物を探しに来たのに、強くなるためには片っ端から倒してください、なんて言われたらどうしようかと思っていた。


 仲間になってもらえば経験値がもらえる。


 しかも、その子たちと一緒に冒険して戦えば、その経験値も私に入る。


 それなら、私が想像していた召喚士の遊び方でもちゃんと成長できそうだ。


『なお、契約による経験値獲得は同一個体につき一度のみです』


「さすがに何回も契約して経験値をもらうのは無理なんだね」


『はい』


 そこはちゃんとしているらしい。


 ここまで聞いた話を、私なりにまとめると。


 HP、MP、SPは時間が経てば少しずつ回復する。


 寝たり、休んだり、ご飯を食べたりすれば、さらに回復しやすくなる。


 急いで回復したい時は、街で売っているポーションを使えばいい。


 レベルが一つ上がるたびに、HPは十、MPとSPは五ずつ自動で増える。


 それとは別に、自由に使えるステータスポイントが五ポイントと、スキルポイントが一ポイントもらえる。


 最初からステータスポイントは二十、スキルポイントは五持っている。


 スキルはポイントで覚えるだけじゃなく、行動によって自然に覚えることもある。


 特殊なことをすれば称号が手に入り、そこから追加の効果を得られる場合もある。


 そして召喚士は、自分が敵を倒した時だけじゃなく、契約した魔物が敵を倒した時にも経験値が入る。


 さらに、新しい魔物と契約した時にも、その魔物を倒した場合と同じくらいの経験値を得られる。


「……こんな感じかな?」


『概ね正解です』


「おお、ちゃんと覚えてた」


 自分で少し感心する。


 職業を決めたところで、先ほど説明された画面が再び表示された。


《ユズ Lv.1》


《HP:100》

《MP:100》

《SP:100》


《STR:10》

《VIT:10》

《INT:10》

《MND:10》

《AGI:10》

《DEX:10》


《未使用ステータスポイント:20》


《未使用スキルポイント:5》


《ステータスポイントを割り振りますか?》


《スキルを取得しますか?》


「うーん……」


 STR。


 VIT。


 INT。


 MND。


 AGI。


 DEX。


 召喚士ならINT?


 でも、攻撃されるならVITも必要そうだし。


 逃げるならAGI?


「…………分からない」


 今度はスキル一覧を開いてみる。


 契約した魔物を強化するもの。


 魔力を共有するもの。


 意思疎通を助けるもの。


 他にもいろいろ。


「もっと分からない……」


『ステータスポイント、スキルポイントは未使用のまま保存できます』


『後からいつでも使用可能です』


「じゃあ後にする!」


 即決だった。


 何が必要なのかも分からない状態で適当に振るより、実際に遊んでから考えた方がいい。


「まずはやってみないとね」


《ステータスポイント:保留》


《スキルポイント:保留》


 これでようやくゲームを始められそうだ。


 最後に外見設定。


 現実の私をベースに、髪は腰よりも長い淡い紫色にした。


 少しふわっとした長い髪に、瞳も同じ紫色。


 服は白と薄紫、それに黒を少し合わせた、フリルの多い可愛らしいものを選ぶ。


 上着はゆったりした大きな袖で、フードには長い耳のような飾り。

 腰には小さなポーチも付いている。


「おお……思ったよりかわいい」


 くるっと一回回ってみる。


 長い髪と、フードの耳が一緒に揺れた。


「うん。これでいいや」


『キャラクター設定が完了しました』


『最終確認を行います』


 目の前に、完成した自分の姿と設定が表示される。


《プレイヤーネーム:ユズ》


《Lv.1》


《種族:人間》


《職業:召喚士》


《未使用ステータスポイント:20》


《未使用スキルポイント:5》


《ワールドアナウンス:匿名》


『この設定で《エルディア》を開始しますか?』


《はい》


《いいえ》


「はい!」


 私は迷わず《はい》に触れた。


『確認しました』


『初期アイテムを支給します』


「初期アイテム?」


 目の前に小さなウィンドウが次々と表示された。


《1,000Gを取得しました》


《初心者の杖×1を取得しました》


《初心者用ポーチ×1を取得しました》


《初心者用携帯食×5を取得しました》


《水袋×1を取得しました》


《初心者用HPポーション×3を取得しました》


《初心者用MPポーション×3を取得しました》


《初心者用スタミナポーション×3を取得しました》


「いっぱいもらえるんだ」


『初期所持金として1,000Gが支給されます』


『また、選択した職業に応じた初心者用装備と、冒険に必要となる最低限の物資が支給されます』


「これなら、いきなり森の中で倒れることはなさそうだね」


『初心者用携帯食には、パンや干し肉など保存性の高い食料が含まれています』


「五個もあるなら十分かな」


『水袋には飲料水が入っています』


『また、初心者用HPポーションはHP、MPポーションはMP、スタミナポーションはSPを即座に一定量回復します』


「さっき言ってたポーションだ」


『はい。通常の冒険では自然回復や休息を利用しつつ、危険な戦闘時にはポーションを使用することを推奨します』


「なるほど」


 普段は休んだりご飯を食べたりして、危ない時だけポーション。


 それなら分かりやすい。


『消費した食料や回復アイテムは、町の商店や薬屋などで補充できます』


「了解!」


『取得したアイテムは《アイテム収納》から確認できます』


 言われた通り操作してみる。


《所持金:1,000G》


《初心者の杖×1》

《初心者用携帯食×5》

《水袋×1》

《初心者用HPポーション×3》

《初心者用MPポーション×3》

《初心者用スタミナポーション×3》


「便利だなぁ」


 試しに杖を取り出してみると、手の中に小さな木製の杖が現れた。


「おお」


 戻そうと思うと、杖は淡い光になって消え、収納欄に戻った。


「ゲームってこういうこともできるんだ」


『一部の大型アイテムや特殊アイテムを除き、所持品はアイテム収納へ格納できます』


「なるほど」


『続いて、フレンド機能と初期転送について説明します』


「まだあった」


『《エルディア》では、他のプレイヤーとフレンド登録を行うことができます』


『フレンド同士では、個別メッセージの送受信やログイン状況の確認など、一部の機能を利用できます』


「普通に連絡も取れるんだ」


『はい。また、フレンド登録はゲーム開始後でも行うことができます』


「じゃあ、誰かと仲良くなったら登録すればいいのか」


『その通りです』


 続いて、地図のようなものが目の前に表示された。


 大陸らしきものがいくつも浮かび、そのあちこちに光の点が灯っている。


「これは?」


『初期転送地点について説明します』


『新規プレイヤーの初期転送地点は、《エルディア》各地からランダムに選択されます』


「えっ、みんな同じ町から始まるわけじゃないの?」


『はい』


『《エルディア》は非常に広大な世界です。そのため、プレイヤーごとに異なる地域から冒険を開始する場合があります』


「ほんとに世界のどこかに放り出されるんだ……」


『ただし、初回転送では極端に危険な地域や、人の生活圏から著しく離れた場所は対象外となります』


『基本的には、町や村などへ比較的たどり着きやすい範囲へ転送されます』


「じゃあ、いきなりドラゴンの巣の真ん中とかにはならないんだね」


『通常はありません』


「通常は、なんだ……」


 ちょっとだけ気になる言い方だった。


『なお、初回ログイン前にフレンド登録を行ったプレイヤー同士は、同一の初期転送地点から開始することができます』


「へえ」


 つまり、友達と一緒に始めたい人は、先に登録しておけば同じ場所から冒険できるらしい。


『事前にフレンド登録を行い、同一地点から開始するプレイヤーはいますか?』


「…………」


 真っ白な空間に、微妙な沈黙が流れた。


「ぼっちですが何か?」


『承知しました』


「そこは普通に流すんだ……」


『事前フレンド登録なしとして、初期転送地点をランダムに決定します』


「はいはい」


 別にいいし。


 一人でのんびり遊ぶつもりだし。


 可愛い魔物と出会えれば、それでいいし。


『初期転送地点を決定しました』


「もう決まったんだ」


『詳細な位置情報は、転送後にマップから確認できます』


「了解」


『最後に、各種機能について補足します』


「まだあったんだ」


『マップ、ヘルプ、フレンド、ステータス、スキル、アイテムなどの各種機能は、ゲーム開始後も《メニュー》からいつでも確認できます』


 目の前に、小さな半透明の画面が表示された。


《メニュー》


《ステータス》

《スキル》

《アイテム》

《マップ》

《ログ》

《フレンド》

《ヘルプ》

《各種設定》


「おお、ちゃんとまとまってる」


『分からないことがある場合は、《ヘルプ》から詳細を確認できます』


「じゃあ、全部覚えなくても大丈夫なんだね」


『はい』


「よかったぁ」


 最初から全部覚えろと言われたら、ゲームを始める前に頭がいっぱいになるところだった。


 必要になったら、その時に見ればいい。


 うん。


 私にはそれくらいがちょうどいい。


『以上で、初期設定と説明はすべて完了しました』


『初期転送を開始します』


「いよいよだ……!」


 真っ白だった世界が、ゆっくりと光に包まれていく。


『それでは――』


『《エルディア》の世界をお楽しみください』


「わっ……!」


 一瞬、身体が宙に浮いたような感覚。


 そして――。


 ざあああっ。


 葉が風に揺れる音が聞こえた。


 頬を、柔らかな風が撫でる。


 土と草の匂い。


 遠くから聞こえてくる鳥の鳴き声。


 足の裏から伝わってくる、柔らかな地面の感触。


 私は恐る恐る目を開いた。


「…………」


 そこには。


 どこまでも続く、深い森が広がっていた。


 頭上には青い空。


 木々の隙間から暖かな光が差し込んでいる。


 葉っぱの一枚一枚まで鮮明に見える。


「……すご」


 思わず、それしか言葉が出なかった。


 しゃがんで足元の草に触れてみる。


 柔らかい。


 一本引き抜けば、ぷつりという感触まで指先に伝わってきた。


「これ、本当にゲームなんだよね……?」


 風も。


 匂いも。


 音も。


 感触も。


 何もかも本物にしか思えない。


 しばらくその場で周囲を眺めていた私は、ふとここへ来た目的を思い出した。


「そうだ!」


 邪神?


 ダンジョン攻略?


 世界最速攻略?


 そんなものは、今の私にはよく分からない。


 それよりも。


 私は森の奥を見つめる。


 さっき動画で見たような、可愛い魔物がこの森にもいるかもしれない。


 食料もある。


 水もある。


 回復用のポーションもある。


 初心者用とはいえ、杖だって持っている。


 それにシステムさんの話では、ここからそう遠くない場所には人の住む町か村もあるらしい。


 困ったらメニューを開けば、マップもヘルプも確認できる。


「よーし!」


 自然と笑みがこぼれた。


「可愛い魔物、探しに行こう!」


 こうして。


 私――ユズの《エルディア》での冒険が始まった。

挿絵(By みてみん)

↑主人公の立ち絵


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