ちょっと調子乗りすぎた☆
ヴァレンの件から一夜が明けた。
朝日が窓から差して小雨の顔に当たる。
小雨は目を覚まして起き上がった。
「ふぁ〜あ…ねっむ…」
まだモヤがかっている頭を起こそうと、とりあえずベッドから降り、日光を浴びに行った。
窓から街を見下ろすと、お店の開店準備をしている老夫婦や涼しい時間帯だからなのか、親子で散歩している風景が見える。
「親子で散歩って珍しいな……。親子…か」
急に行方不明になった小雨のことを親はどう思っているのか…今まで過ごしていた世界の事が急に気になった。
急に帰ってきたらもしかしたら怒られるかもしれないし、泣かれるかもしれない。未来のことを考えると怖くなった小雨は考えるのをやめた。
「おはようクレア」
小雨は眠い目をこすりながら一階に降りた。
この世界で暮らすのももう慣れたものだった。
時間の基準は元の世界と同じようで、小雨はこの生活にすぐに馴染むことが出来た。
「あら、最近は自分でちゃんと起きれるようになったのね」
「褒めてくれてもいいんだぞ」
「当たり前のことを褒めてどうするのよ」
クレアは小雨の朝食を準備するため、キッチンへ向かった。
小雨はその間に顔を洗い、ロビーの椅子に座った。
五分もしないうちに朝食がロビーに運ばれる。
他の客のも居ないのもそうだが、小雨が自分の部屋にいるのなら持っていくし、ロビーにいるのならロビーへ持っていく、クレアなりの気遣いだった。
「今日の朝食はホットケーキよ。隣にシロップ置いておくから好きなだけかけてちょうだい」
「うわ美味そ〜、ホットケーキなんてここ数年食べてない気がする」
「久しぶりに食べれて良かったじゃない」
クレアはそう言い小雨の向かい側に座った。
ご飯を食べる時のいつもの定位置。この位置には何か理由があるのだろうか…無理に聞くのもどこか申し訳なかったため、また今度聞くことにした。
ちょうど小雨がホットケーキを食べ終わった時、宿の玄関が開いた。
「おーっす!相棒が来たぞ!コサメ!」
満面の笑みを浮かべたアランが宿にやって来た。
そして小雨を見つけるなりテンションが上がったようで嬉しそうに片手を上げた。
「…朝から元気ね」
「相棒おおぉ!」
たった数日ぶりの再開だと言うのに小雨は勢いよく椅子から立ち上がりアランの元へ行き、二人は先日噴水の前でしたみたいに再びハイタッチを交わした。
「あんたたちいつの間に仲良くなったのよ」
呆れたクレアはお盆を片手に小雨たちを見て言った。
当の小雨たちはテンションが上がったあまり、アランは小雨を肩に乗せる、いわゆる肩車をしていた。
「俺たちが出会ったのは運命なんだ。なぁ?コサメ」
「あぁ、アランの言う通りだ!俺達は硬い絆で結ばれている!」
そう言ってアランとコサメはしばらくキャッキャウフフと戯れていた。
「はぁ、いい歳した男の癖に…大体ねぇあの時アランを草原に向かわせたのは私なのよ?」
「ええっ?そうなのか?」
「あ、確かにそうだったな。クレアが買い出し行ってる時にたまたまコサメの声を聞いたんだとか」
「へぇ、そうだったのか!ありがとうクレア!恩に着るよ!」
しゃがんで小雨の犬のようなキラキラした目にクレアは心底めんどくさそうな顔をした。眉間にシワがより、まるで汚い物を見るかのような顔だった。
「ひっどーいクレアちゃん!俺をそんな顔で見るんだ〜!」
「はぁ?何、喧嘩売ってるの?」
クレアはガシッと小雨の前髪を掴んだ。
見た目に沿わず、力があまりにも強くて前髪の髪の毛が数本抜けた。
クレアの顔はさっきと違い、般若のようなアランでさえ今まで見たことのない顔になっていた。
「あんたねぇ、初めて出会った時は大人しくてまだ耐えられるって思ってたけど最近ちょ〜っと調子乗りすぎじゃない?」
「あいたたたたた!ごめん!ごめんって!」
「く、クレアそこまで怒らなくても…!」
「あ?」
「ひいっ!」
アランはクレアを止めたい気持ちでいっぱいだったが流石にここまで怒ったクレアを見たことがなく今できることはただ目の前の光景に怯えることだけだった。
結局小雨は罰として体をロープでぐるぐるにされ、おまけにお昼ご飯と晩ご飯抜きという罰が与えられた。
「ふんっ」
クレアはそっぽを向いて自分の部屋へ行った。
階段を上がる音は地味に大きく、音を聞くだけでもまだ随分怒っているとすぐにわかってしまった。
「あちゃー、やっちゃったな相棒」
「いやぁ〜、参ったな」
「でも相棒、確かに俺も最近小雨ちょっとテンションおかしくないか?」
アランは中くらいの太さのロープでぐるぐる巻きにされた小雨の真正面に体育座りをした。
貴族であろうものが果たして床になど座っていいのだろうか。アラン以外のローレンス家の者が見たらきっと発狂するだろう。
「いや、まぁ……俺は昔から仲が良くなればなるほど口と態度がデカくなっていくんだ、それと同時にパーソナルスペースも超絶狭くなるって言う…」
初対面の時は大人しそうな子でも、一緒にいる時間が増えるにつれ、お互い口が悪くなるし、態度も大きくなっていく…こういうのは少ないことではないだろう。
しかしこれは小雨がアランとクレアに心を許したという証拠にもなりうる。
「へぇ〜、そっか。自分が素でいられるなら俺はいくらでも付き合うぞ!」
「うぅ〜、アランー!」
小雨は感動のあまり泣きながらアランの名前を叫んでしまう。最初に出会った時もそうだった。
アランは小雨の頭に手を置き、笑顔で高速で撫でた。
それは傍から見れば異様な光景だった。
しかし、アランはこういう時の対処法を家で教えてもらったことが無かったため、悩んでいたところ、昔友達だった三毛猫がアランが撫でたら嬉しそうにしていたのを思い出し、とりあえず撫でるだけ撫でた。
10分もすれば小雨は泣きやみ、アランも撫でる手を止め、ホッと息をついた。
「や〜っと泣き止んだか。そういえばもうお昼だけど腹減らないか?」
「ひっく…うぅ、お腹すいたよぉぉ」
「んー、冷蔵庫勝手に漁るのもなんだし……あ、そうだ」
アランはしばらく悩んだ後、何か思いついたのか手のひらにポンっと拳を乗せた後、宿を出て行った。
「ちょっと待ってろ相棒!」
約五分くらいで紙袋を持って宿へ再び帰ってきた。
アランが持っていた紙袋はこの前買い出しに行った時のお店と同じ紙袋だった。
「ここの店のパン美味いんだよな〜。ほら、あーん」
アランは買ってきたフランスパンのようなパンをちぎって小雨の口元に運んだ。小雨は両手が使えなため、遠慮なくアランを頼った。
アランと小雨が一緒にお昼ご飯を食べている時、宿の玄関のドアが開いた。
「くぅっ……あいつらめ……おーい、クレアの嬢ちゃんいないか〜?……って」
宿に入ってきたのは背中に大剣を背負った背が高い男性だった。短髪の青髪でおまけに黒いヘアバンドを額の所まであげていた。そのお陰で前髪は上がって瞳が良く見えた。その目は赤く鋭く、今にも殺しにかかってきそうだった。
「……ひえっ!」
「は?ローレンスのやつが何してるんだ……?」
「こいつは俺の相棒で、ちょっと調子に乗ったらクレアがブチ切れて今これ」
「ほう…そこの少年。初めましてだな?俺は国家警備兵一番隊隊長のリアム・アストラ・シュタインだ」
リアムが手を差し伸べたが小雨は両手が使えない状況なのに気がついて、すまんすまんと謝りながら手を引っ込めた。
「ところで…クレアの嬢ちゃんはいないか?」
「クレアは今怒って部屋に籠ってるから、用があるなら俺が聞くけど」
「あぁ、そうか。さっき魔物と戦ってな……傷を負ってしまったんだが特異魔法を使いすぎたせいでこれ以上魔法が使えないから治癒魔法でちょちょっと直してくれないか?」
「あー、おけおけ」
アランは面倒くさそうにパンを紙袋の中に戻し、リアムに近づいて傷を確認したあと、基礎魔法のうちの治癒魔法で傷を直した。
傷がまだ浅かったからなのか、アランのかざされた手が下がったあと、傷を見てみると綺麗さっぱり無くなっていた。
「お、治った治った。ありがとうな、ローレンス。この借りはいつか必ず返す!」
そう言って宿を出た。
急に現れては去っていく、まるで嵐のような人だった。
時刻を確認するとまだ午後一時を過ぎた頃だった。
アランは小雨を一人置いていくのにかなり抵抗があったため、夕方までは一緒にいてあげることにした。
再び小雨の前に体育座りしたアランは小雨に問いかける。
「お前、俺の兄貴にあったんだって?」
「あ!そうそう、お前の兄貴結構やばくないか?」
「やっぱり傍から見てもやばいよな、あれは」
アランは呆れたように笑った。
アラン自身もあの兄貴の異常さはわかっていた。
「アランの兄貴は昔からああなのか?」
「あ〜…そうそう。ローレンス家ってそこそこ有名な名前の家系っていうのは知ってるんだろ?そのお陰か出会う人全員から避けられるようになってさ、ただし、一部を除いてな」
アランは右手の人差し指を立てて言った。
言葉を言い終わる辺り、アランは小雨をじっと見て笑った。
その顔は太陽で照らされ、いままで見てきたアランの笑顔の中で一番明るかった。
「でもローレンス家って別にそこまで怖い家族でもないだろ?何で避けるんだ?」
「当たり前だろ?ローレンス家と友達になる=ローレンス家に目をつけられたって考えるのが普通だ。もし俺が逆の立場だったら四大貴族の一番と友達にはなろうとは思わないな」
「有名な家系だからって人生勝ち組とかないんだな…」
「いや、そんなことないぞ?普通に人生勝ち組だぞ!例えばお店でお菓子買ったら一袋おまけ付けてくれたり〜、お金には困らないし〜…」
指を降りながらアランは今までのことを振り返った。
その顔はいかにも苦を知らない貴族の坊ちゃんっというのが染み出ていた。
「……はぁ、変に罪悪感持って損した」
アランの話を聞いて小雨は呆れたようにため息を吐いた。
この時小雨は人生は結局運なんだと嫌なほど分からされた。
「話戻すけど兄貴がああなったのは俺たちが友達を作ろうにも作れなくて、結局兄弟仲良く何年も一緒に過ごしてたらあの超過保護野郎が完成したわけだ!」
「アランはめんどくさいとは思わないのか?」
「んー、もう諦めた感じ?最初は自分の仕事取られて兄貴だけ褒められてムカついてたけど、よくよく考えたら兄貴が仕事をしてくれてるお陰で俺は今自由なんだから、それを考えるともういいやってなった」
「お前の兄貴は良い奴か悪い奴か分かんないな」
アランがふと、時計を見た。
時刻は午後四時、時間が経つのは実に早いものだった。
まだ小雨と話したいという気持ちもあったが早く帰らないとあの過保護野郎が迎えに来てしまう。
「よし、もうそろそろ俺帰るわ」
「えー、帰っちゃうのか?」
アランは立ち上がって身なりを整えた。
下方向からの視線を感じて見ると、小雨が目をうるうるさせながらこっちを見ていた。
「うっ……そんな顔しても俺は止まらないぞ。じゃあ今からクレアに一言言ってくるから大人しく待っとけよ」
アランはその場で一度伸びてから二階に上がる為の階段へ向かう。そしてクレアの名前が彫られた札を見つけ、そのドアの前に立ちノックをする。
「クレアー、俺今から帰るからコサメのことよろしくな」
アランがそう言って背を向けた時、クレアの部屋のドアがいきなり開いた。
中から出てきた手に掴まれ、体勢を崩したアランは部屋に入るように尻もちをついてしまった。
そして背後から影が入る。
「痛って〜、全く、用があるならいきなり掴むんじゃなくて何かいえーー」
ロビーの床に放置された小雨は二階から聞こえてくる物音に気がついた。
見に行きたくても見に行けないそのもどかしさが小雨の焦燥心をかきたたせたその数分後ーー
クレアは数時間ぶりに一階に降りてきた…しかし、その様子はいつものクレアではなかった。
右手には血のついた片手で持てるくらいのコンパクトなハンマーを持っており、ハンマーが視界に入った小雨は焦って逃げようとした。
しかし最悪なことに今朝、ロープでぐるぐる巻きにされたせいで逃げられなかった。
そのままクレアは小雨に近づき、ハンマーを振り上げた。
最後までお読み頂きありがとうございます!
もうそろそろ書き溜めが無くなっちゃいそうですOrz




