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クソみたいな世界と決別を  作者: いっち
第一章 【予言】
7/30

異変

宿に辿り着くと重い荷物を持ちながら何とか宿の玄関を開けることに成功した。クレアは相変わらず受付で何かを書いており、小雨たちに気がつくと書いていたものを捨てて、少し驚いた様子で小雨たちを見た。


「…おかえり。って言いたいところだけど、レオを連れてくるなんて聞いてないわよ」


「やぁ、久しいねクレア」


「もしかして仲が悪いとか?」


「そんな事ないわよ、私達は仲がいいの。よくお菓子を持っていったりしてるし」


クレアは椅子から降り、小雨が買ってきた食材をロビーのテーブルに並べた。冷蔵庫に入れるもの、冷凍庫に入れるもの、野菜室に入れるものとそれぞれ種類分けをした。

しばらく無言が続いた。沈黙を破ったのはレオだった。


「……そういえばコサメって最近この街に来たのか?あまり見ない格好だし、その……あんまりこの街に慣れてなさそうって言うか」


「そう…俺は違う世界から転移したんだ」


「え?……ええええええええええ!!」


宿にレオの声が響き渡る。

小雨の急な告白にレオは固まってしまった。

少し後ずさった形で目は見開かれ、口は少し開かれ、口角はピクピクと動いていた。

クレアがバシッとレオの頭を叩いてもレオは無反応だった。


「びっくりよね、私も初めて聞いた時そんな反応したわ」


「あはは……いやいや、びっくりだな。まさか異世界から転移してきた人がいるなんて」


「そういえば元の世界に帰りたいとかは思わないわけ?」


「……」


「あら、地雷だったかしら?」


黙り込んだ小雨をクレアとレオはじっと見た。

クレアは小雨を一瞥した後、材料をキッチンの冷蔵庫のある方へ何度か分けて持って行った。

レオの方はと言うと、気まずそうに小雨を見ていた。

こういうのは慣れていないのだろう。


「…話せない事情があるなら無理して話さなくていい…だけど一人で抱え込むなよ?ほら、これやるから元気だしな」


「……ありがとう、レオ」


レオは小雨にさっき買ったクッキーを渡した。

クッキーを受け取ってよく見るとチョコチップが練り込まれた美味しそうなクッキーだった。

この世界に来てから何でもしてもらってばっかで最近は何かをやってもらうにも申し訳なさを感じた。


「話は終わった?」


「クレア、俺は家の仕事があるから今日はもう帰るよ」


「え、もう帰るのか?」


「弟の仕事も俺がしてるからな、正直休む暇なんて無いんだ」


「あら、それは残念ね」


クレアは受付の棚から小さい茶色の子袋を出した。

チラッと見えた中身には小さめに作られたチョコ味やバニラ味のクッキー。ちょうどいいくらいに焦げ目がついたスコーンなどのお菓子が詰め込まれており、クレアはそれをレオに渡した。


「本当はアランに渡そうと思ったけれど、あなたにあげるわ」


「ほんとクレアは優しいな…ありがとう、美味しく頂くよ」


レオはそう言うと子袋を開けながら宿を出ていった。

クレアはレオが宿を出ていくまで見送った。

レオ見送った後、クレアは小雨に一言行ってお昼ご飯の準備をするため、キッチンに籠った。


時刻は午前十一時。強く照り続ける太陽の光が宿の窓から差し込んだ。

小雨はロビーの椅子に座り、先程レオから貰ったクッキーの袋をあけ、キッチンから聞こえてくるクレアの鼻歌をBGMにし、クッキーを頬張った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その日の午後は特にすることも無く、宿の掃除の手伝いをしたり、クレアと共に晩ご飯を作った。

晩ご飯を食べる時、クレアはいつも通り小雨の向かい側に座り、頬ずえをついて小雨が晩ご飯を食べる姿を楽しそうに見ていた。


「あなたが料理を手伝うなんて珍しいわね」


「流石に何もしない訳にはいかないし、手伝えることは手伝おうと思って」


「そんな見た目でも意外としっかりしてるのね…じゃあたまには手伝ってもらおうかしら」


そうして平和な一日を過ごした小雨はいつもより早い時間に眠りについた。

そして深夜、小雨は尿意を感じ、ベッドから起き上がる。

月光が窓から入り込み、小雨の顔を照らした。

完全に開かない目と重い足取りで何とか部屋から出ると、そこにはクレアが立っていた。


「……クレア?」


「…あ…コサメ?こんな時間に珍しいわね」


クレアの様子が変だった。

目は泳いでおり、手は前に組まれていて震えていた。

いつものツンツンしたクレアとは大違いだった。


「く…クレア?本当に大丈夫なのか?」


「……」


クレアは黙り込んだ。

先程までの泳いでいた目も震えも無くなり、いつものクレアに戻った。クレアは小雨をじっと見た。

そんなクレアの事が怖くなり、小雨はどうにか逃げようと、早足でトイレへ向かった。


「……はぁ、良かった。追いかけて来てなかっーー」


後ろを振り向き、クレアが追いかけて来ていない事に胸に手を当て安堵した…それも束の間、前を向くとクレアどこからか持ってきたハンマーで殴られた。


殴られた瞬間、視界がチカチカして視界はほとんど何も見えなかった。頭が割れるような痛みと共に小雨は床に倒れ、気絶した。


朝になり、小雨は目を覚ました。

頭痛は全くなく、昨夜殴られたであろう額をさすっても傷は見つからなかった。

一階に降りるとクレアはいつも通り受付の椅子に座って暇そうにしていた。


「おはよう、浮かない顔してるけどどうしたの?」


「……昨日の夜…クレアが」


「私がどうかしたのかしら?」


「いいや、何でもない」


小雨は気まずそうにその場を離れ、洗面所へ顔を洗いに行った。小雨は鏡で自分の額をじっくりと見た。

昨夜確かに殴られたはずだった。絶対殴られたはずなのに傷は一つも見当たらなかった。


クレアはいつものように朝食を小雨の部屋へ届けに来てくれた。そして机に並べ、いつも通り向かい側に座る。いつもと変わらない朝食の風景だった。


今日の朝食はコーンスープにこんがりと焼かれたトーストとデザートにはアイスとフルーツがあった。

こうして毎日三食作ってくれるクレアが人に暴力を振るようには見えない。


「口に合うかしら?」


「あぁ、いつも通り美味しいよ」


「ふーん、なら良かった」


信じたくなかった。このクレアが、美味しいご飯を毎日作ってくれて、少しツンツンしてるところもあるけどなんだかんだ優しいクレアは実は人を簡単に暴力を振るうような人だと信じたくなかった。


昨日のあれは夢だと小雨は心の中で必死に何度も自分に言い聞かせた。


「出かけるの?」


「ちょっと散歩してくる」


「わかった、気をつけて行ってらっしゃい」


小雨は朝食を食べ終わった後、散歩をしに行くことにした。

状況を整理したくて誰も来ない、一人で静かに出来る場所を探すことにした。


この街は広すぎる。地図無しでは確実に迷子になるだろうなんて思って歩いていたら、案の定小雨は迷子になった。

自分の中では

右も左も何があるか分からないこの街のどこかでポツンと小雨は一人で立ち尽くしていた。


「うっわ〜最悪…迷子なっちゃった」


周りを見渡すと、知らない広場にやって来た。

中央には噴水や、ベンチがあり、その周りで子供同士がボールで遊んだり、基礎魔法を使ったちょっとしたゲームなんかで仲良く遊んでいた。

どうやら小雨が住んでいた所で言う公園的な場所なのだろう。


自分はどうしたらいいのか分からず、子供たちをぼーっと眺めていた時、一人の男性が小雨に話しかけてきた。


「おや?君、そんなところで何をしているんだい?」


「うえっ?!」


いきなりかけられた声に思わず声が裏返った。

声の元を辿り、振り返った。

その人は身長が高く、赤いタッセルピアスをつけており、赤髪の腰までくらいある長髪だった。前髪はセンター訳で、黄色い瞳はまるで狐のような目だった。

おまけに丈が長い黒いローブを着ていたせいか、傍から見るからにとても胡散臭かった。


それを見た小雨は気味悪く思ったのか、思わず後ずさみ、男性を警戒した。


「おやおやそんなに警戒されたら傷つくじゃないか?」


「いやいやっ!警戒するだろ!見るからに胡散臭いんだから!」


男性は小雨の慌てふためく様子を見て口元に手を添えてから目を細めて笑った。 その目はまるで小雨を品定めするような目つきだった。


「じゃあ自己紹介をしようか…?僕はヴァレン・ウィリアム……君の名前は?」


「俺は小雨」


「コサメ…?珍しい名だね。しかしさっき、君は一人で周りをキョロキョロしながら歩いてたけど、何かあったのかい?」


ヴァレンは質問をした後、首を傾げた。

彼の顔を見る限り、何か企んでは無さそうで純粋に気になって質問しているように見えた。


長い髪の毛が横から来る風に揺れて髪の毛の1本1本が朝の太陽の光に反射して綺麗だった。

ニコニコと笑う彼の顔はどこか圧を感じられた。


「実は散歩してる時に迷子になってしまったんだ」


「迷子…ね」


「よかったらここから北にある教会まで連れて行ってほしい」


「連れて行ってほしいのかい?別にいいけど、タダって訳にはいかないな〜」


ヴァレンは狐のような目を細めて小雨をじっと見て黙り込んだ。教会まで連れて行ってあげる代わりの見返りを考えているのだろう。

ヴァレンからの突き刺さるような視線を小雨はしばらく浴び続ける羽目になった。


「よし、決めた」


「見返りはなんなんだ?」


「君のことを教えてくれないかい?」


「えっ?そんなので良いのか?」


「うんうん、十分すぎるよ。じゃあそうだね…あそこのベンチでお話するのはどうかな?」


「わかった、教えられることなら教えるけどその後しっかり教会まで連れて行ってくれよ?」


「もちろん、僕は約束を破らない人だからね」


小雨はヴァレンに導かれるままベンチに座った。

左には小雨、右にはヴァレンが座っており、二人の間の距離は絶妙に近かった。


「よし、何から聞こうかな」


ヴァレンは手を一度叩いてから楽しそうに言った。

小雨はヴァレンを見ながら大人しく質問を待っている。


「あ、そうだ!コサメくんのその格好、初めて会った時から思ってたんだよね……君、この国の人じゃないんだろう?違うかい?」


「ええっ!なんでわかったんだ?」


「ふふっ、僕の勘はやっぱり間違ってなかったね」


ヴァレンの勘の良さに小雨は思わず驚いた。

そんな小雨の反応を見たヴァレンは狐のような目を細めて楽しそうに笑う。


「どうしてこの世界に来たのか、理由は何となくわかるかい?」


「いいや、それに関しては全く分からない」


「なるほど…実に興味深いよ」


「言っておくけど、俺がするのは質問に答えるだけで何かの実験に付き合ったりはしないからな」


「おや?僕がそんな事するように見えるのかい?それは心外だな〜」


「めっちゃ見える」


ヴァレンは小雨の言葉を聞いて少ししょぼんとしたような顔をしたが、すぐに元の胡散臭い表情に戻った。


「僕が聞きたかったのはこれだけさ、じゃあ約束通り教会へ連れて行ってあげよう」


「え、これだけ?」


「あぁ…ちょっとした確認さ」


ヴァレンは約束通り、小雨を教会へ送った。

教会へ送る間、ヴァレンと小雨の間に会話は無く、時々ヴァレンが後ろについてきていた小雨の様子を見たが、特に喋りかけることもなくずっと無言で歩き続けていた。


「よし、到着だね」


「ありがとう、ヴァレン」


「これくらい何ともないさ……じゃあこれからは迷子には気をつるんだよ」


「あぁ、わかった。じゃあまた!」


「ふふっ…君がそう言ってくれて嬉しいよ。是非また会おう」


小雨は本来の目的を忘れ、ヴァレンに一度手を振ってからクレアがいる宿へ戻って行った。

ヴァレンは小雨の姿が見えなくなるまで目を離すことなくずっと見ていた。


「額にある魔法の痕跡……もしかしてちょっと前に怪我したのかな?」


小雨は宿に帰り、クレアを見るが今はヴァレンの事で頭がいっぱいだったため、例の件を思い出さず普段通り帰宅の挨拶をしてから自分の部屋に入った。


もう少しで時刻は十二時を指す。

布団の上に寝転がった小雨は天井を見上げヴァレンとの出来事を思い出す。

あのヴァレンという男の正体は何なのか、どうして自分が異世界から来たとわかったのか。

今の小雨に知る由はなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


某所


それはとても広い部屋だった。

天井からは豪華なシャンデリアがぶら下がっていて

床は大理石でできており、中央には丸い大きなテーブルがあった。

そのテーブルを囲うようにいくつもの椅子が置かれている。

今日はそこにとある二人の男女が向き合うように座っていた。


「話が急に変わって申し訳ないが、散歩していたら例の子を見つけたんだ」


「えぇ〜?凄いね、あの国はかなりの人数の住人がいるって言うのに?」


ヴァレンの話し相手は白髪のおさげの身長が平均よりやや高い女性だった。

彼女のピンク色の目はまるで硝子のように透き通っており、所々淡い水色や黄色が入っていた。


「コサメって名前の子で、迷子になってるところをたまたま助けたんだ」


「へぇ?珍しいね。いつもの君なら誘拐して実験するじゃん?」


「あはは、それはマリーの事だろう?あの子と一緒にしないでくれるかい?」


「あっはは!確かにそうだね」


わざと間違えたのだろうか、イタズラに成功した子供のように部屋に彼女の甲高い笑い声が響いた。

そんな彼女を呆れたようにヴァレンは笑う彼女を無言で睨んだ。


「そんな怖い顔しないでよ〜?」


「…はぁ。君と話していると本当に疲れるよ」


「えぇ〜?もう行っちゃうの〜?!アタシたちの雑談はまだまだこれからだって言うのに〜!」


溜息をついたあと、ヴァレンは立ち上がり、彼女を置いて先に部屋を出て行った。


「全く…ちょ〜っと好奇心で言っただけなのにすぐ機嫌悪くするんだから。あのバカ」


部屋に一人、取り残された彼女も椅子から立ち上がってから魔女の帽子をかぶり、部屋を出た。

最後までお読み頂きありがとうございます!

他の人からしたら少ないPV数でも、自分にとっては小説を書くうえでとてもモチベーションになっており読んでくださる皆様に大変感謝しています。

まだまだ皆様のように上手な小説が書けないですが、これからも暖かい目で見て頂けると幸いです。

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