思いがけない出会い
クレアから頼まれた買い出しに行った小雨。
メモには大量の食材の名前が並んでおり、一人で持ち帰られるか心配だった。
「うげ、クレアのやつどんだけサボってたんだよ」
地図を見ながら足を運ぶと小雨が居た世界で言うスーパーマーケットらしきお店が見えた。
お店の外のカゴにはフルーツが山盛りに盛られ、天井からは鳥肉などの肉類が吊るされていた。
唖然としていた小雨を見つけた店主らしき女の人がお店の奥から出てきた。
金髪を巻いたショートヘアに、赤いワンピースに白いエプロン。そして少しぽっちゃりしていた。
「は〜い、いらっしゃい〜。お目当ては何かね?」
「このメモに書いてる食材下さい」
「あら、すごい量ね〜。この量を一人で持てるかしら?」
「……多分…いけます」
「あらあら最近の子は力持ちね〜、ちょっと待ってておくれ」
その後、店主が大量の食材を紙袋に入れ、何度かに分けて小雨の方へ運んだ。膝ぐらいまでの大きさの並んでいる四つの紙袋は今にも破れそうでこれを全て持って帰るのは至難の業だった。
「はいよ〜お待たせ。じゃあ料金は……」
「あ……」
「どうしたのかい?坊や」
お金のことをすっかり忘れていた。
この世界に来てから働いてすらない小雨はもちろんお金など持ってなかった。
「もしかしてお金忘れちゃったのかい?」
「まぁ…そんなところです」
「あらあらどうしましょう……」
お金がなくて困っていたところに、別の人が来店した。
隣を見ると高身長の男性が立っていた。金色の短髪で目は水色。彼もどこかしらの偉い人なのかアランと似たような服装で、太陽光に反射する右耳のひし形をした金色のピアスがやけに眩しかった。
「あら!久しいわね〜!レオくん」
「あぁ、仕事の合間にお菓子を買いに来たんだ。ところで隣の男の子、浮かない顔してるけど何かあったのか?」
「えぇ、実はお金を持ってくるのを忘れちゃったみたいで」
レオは事情を聞くと、お店の奥にあるお菓子コーナーから迷いなくクッキーが三枚入った袋を取り、店主に渡した。
それから自分のポケットから財布を取り出し店主に向かってこう言った。
「彼の分と俺の分、まとめて支払う。頼めるか?」
「ええっ!」
「あらあら、まとめて支払うのはできるわよ。レオくんは本当優しい子ねぇ」
「いいや、困っている人がいたら当然だ。ついでにその重たそうな荷物も家まで一緒に運んでやろう」
突然目の前に現れた知らない人がお金を払ってくれておまけに家まで届けてくれるという事実に小雨は追いつけず、その場で石のように固まってしまった。
「い……いいんですか…!」
「あぁ、問題ない。これは俺が勝手にやってる事だからな」
レオは店主から告げられた金額にも一切動じず二人分の料金を一括で払った。
その後店主は小雨に向かって「次はお金忘れないでね」と言い破れそうな紙袋をそれぞれ二つずつ持った二人を見送ってから店の奥へと戻って行った。
小雨の宿までまだ少し距離は遠い。
二人は黙ったまま小雨の宿まで歩き続けた。
街の階段を上がった先に子供が目の前を横切るように走ってきた。それに驚いた小雨はバランスを崩して階段の1番上から後ろ向きに落ちそうになった。
「あっ……」
もう終わった。そう思った時。
「ーーレイト」
隣にいたレオがそう口ずさんだ次の瞬間。気づけば小雨は階段を上がった少し先に立っていた。
両手に持っていた袋も気づけば床に置かれていた。
確認してみると食材は全て無事だった。
「ありがとう。い…今のって?」
「これは俺の得意魔法、詠唱と共に一定時間周りの時間を俺より遅らせることができる優れものなんだ」
そう言ってレオは自慢げに笑った。
レオは小雨の怪我の確認をしてから二人は食材の入った紙袋を持って再び帰路についた。
太陽はちょうど南中で、日差しがポカポカと気持ちよかった。
「歩きながらで申し訳ないんだが、俺の自己紹介が遅れていたな。俺はレオ・ローレンス。気軽にレオって呼んでくれ」
ローレンスと言う聞いて真っ先にアランの事が思いついた。
アランは時時々会話に兄貴という言葉が入っていたのでもしかしてと思い、聞いてみることにした。
「もしかしてレオって、アランって人のお兄ちゃんだったりするか?」
「えっ…うちの弟の事知ってるのか?」
アランからは小雨について何も言われていなかったのだろうか。レオは小雨からの質問を聞いて驚いた様子で目を見開いた。
「はぁ〜、俺の知らないところでアランは新しいお友達と……最近よく家にいないのもそれが理由だったのか…」
「もしかしてアランは溜まってる仕事をサボってたり?」
「いいや、アランの分の仕事も全部俺が引き受けている。ただ…アランのことについては全部知っていたつもりだったが、まだまだ知らないことがあるんだなってこんな自分に少し失望しただけだ」
「へ……へぇ。弟思いなんだな」
「当たり前だろ?世界でたった一人の弟なんだからさ」
そう言ってレオはニコッと笑った。
その笑顔はアランと瓜二つだった。
「この前おやつに一緒にパンケーキ食べてさ、アランが一枚くれたんだ。あ〜、俺の弟って何でこんなに優しいんだろ〜?」
「アランって家ではどんな感じなんだ?」
「ん〜、アランはああ見えて意外とイタズラ好きだからな〜。例えば水にレモン汁をこれでもかってくらい入れて俺に渡してきたり、朝になるとクラッカーで起こしてきたり、一生懸命準備してるのがもう堪らなくいいんだ」
「……嬉しそうだな」
「だってそうだろ?20超えても兄の俺に構ってきてくれるんだからさ?」
レオは指を一つ一つ折りながらアランが今までしてきたイタズラを思い出していった。
その姿はさっきまでの兄ではなく、まるで子供を可愛がる保護者のようだった。
「ところで、イタズラの全貌を知っているのは何でだ…?お前まさかストーー」
「世の中には知らない方がいいことだって、あるんだよ」
小雨の言葉をかき消したあと、レオはニコッと笑った。
そんなレオが怖くなり、小雨は黙り込んでしまった。
その後もレオと話していて分かったのは、この人は弟思いを遥かに超えており、簡単に言えばブラコンって言うやつだった。ブラコン界隈の中でも多分トップクラスだろう。
毎日こんなのに付き合わされているアランの身を考えると可哀想に思えてきて小雨は苦笑いをしながらレオの弟話に最後まで付き合ってあげた。
一方、アランの方はというと、原因不明の悪寒に襲われていた。
「うっ……急に寒気が…」
最後までお読み頂きありがとうございます!
今までシリアス系が続いたので今回はほのぼの系です。




