またまた思いがけない出会い
二人は攻撃してくるケロベロスに向かって走る。そして同時に正面から殴ってくれると思いきや、ギリギリで左右、二手に別れた。
頭がそれぞれの属性魔法を扱うのは非常に厄介だった。しかも属性が雷と水、それらが掛け合わされば感電せざるを得ない。
「コサメ!感電には気をつけろ!」
「了解!」
エースがケロベロスの囮になり、小雨がその隙に攻撃を入れていく。能力を使っていると、実に不思議なもので普段では考えられないような動きが何でもできた。
相手の攻撃をかわしながら
「コサメ!後ろから頼んだ!」
後ろから突っ込みながら
「任せろ!」
剣を持ち替え再び戦闘態勢に入る。相手の魔法をエースに全集中させている間、小雨はいかに攻撃を入れられるかが大事になってくる。
「……はぁっ!」
力を入れて剣を振るう、真ん中の首を狙って斬りつけるが太すぎてビクともしない。
「傷が足りないのか……」
小雨は無理だと分かった瞬間、一度下がりエースの方を向いて口を開いた。
「少し時間をくれ!」
「なんで!!」
「……考え事!!」
「はぁぁあ??なんだそれ!!」
なんだそれといいつつ何だかんだ時間稼ぎをしてくれるエース。そのうちに小雨は剣を再び自分の手首に当てる。しかし手が震えてなかなか傷をつけることができない。
(怖い怖い怖い……こんなの痛いし無理だ!)
小雨が迷っている間も、エースは逃げ続ける。少し時間経ってしまった頃、エースの小さいミスが目立ってきた。
攻撃を避け、叫びながら
「お〜い!!まだか!!」
エースの方を一瞬見た
「……」
小雨は悩んでいた。自分を傷つけて更に強い能力を得られればあの怪物は確実に倒せる。しかしそれ以前に小雨は自分を傷つけることに深い恐怖心を抱いている。なぜなら当然、切れば痛いから、自分の皮膚を切るのは怖いからだ。
だが残された時間は少ない。
「……っ!!」
小雨は目をつぶって自分の手首を力任せに切った。目をつぶって切ったため、深さは分からない。だが、いつもより酷い怪我というのはよくわかった。
手首からは血が滴って左手は血まみれだった。しかし小雨は痛がる様子も見せない。目を閉じて深呼吸をする。そして目を開いた時、いつもの数倍、明るい輝きを見せる瞳がそこにはあった。
「コサメ!!まだか!!」
遠くからヘトヘトの声のエースが叫んできた。小雨が迷っている間にもずっと囮をしていたため、もう限界だった。ケルベロスの魔法に追いかけられ、少し時間が経った頃、エースは岩で転んで両手を地面に着いてしまう。
その間にケルベロスはエースを食べようと口を近づけた。しかしコケたエースは足首をひねり、どうする事もできない。
「ごめん遅れた!!」
コケたエースの後ろから声が聞こえてきた。小雨だった。
グリップを強く握りしめ
「っ!!斬れろ!!」
小雨が後ろからケルベロスの首に斬りかかる。小雨の声でその存在に気がついたケロベロスは振り返り攻撃をしかけるがそんな暇もなく小雨の剣に首を斬られてしまう。
「た……助かった!」
手を差し伸べながら
「貸ひとつ」
「あぁ……っていうか!元はと言えば俺がずっと囮やっあげてたんだからな!いつか限界も来るだろ!お前はもうちょと早く来い!」
エースの文句に小雨はエースの手を離したあと両耳を塞ぎ、目を瞑った。
「あーーーー」
「あだっ!ちゃんと話を聞け!」
倒れるケルベロスを前に小雨たちはふざけ合っていた。ケルベロスは真ん中の首は綺麗に斬られ、他の首は力を使い果たしたのか、ぐったりしている。
「痛って……」
どこからか声が聞こえた。しかし小雨は耳を塞いでいたので聞こえたのはエースのみ。
「おい!ちょっと静かにしろ!」
「……ん?」
エースの必死な様子に小雨は黙った。しばらく二人は再び声が聞こえると信じて黙って声が聞こえるまで待っている。
「だから人に危害を加えるなって言っただろ!」
「ごめんにゃん」
再び聞こえた声に二人は目を丸くした。
小声で
「おい、この声どこからだ?」
「知らねぇよ」
エースと小雨が声の出処は一体どこなのか話し合っていると背後から声が聞こえた。
「お前たち、ここで何をしてたんだ?」
その声に小雨とエースは一斉に振り返る。そこには二人の男性が立っており、一人は高身長でいかつく、もう一方は口元に手を当てている。目が何となく猫っぽかった。
「ここは危ないにゃん……早く引き返した方がいいにゃん」
「あぁ、俺たちはリリー家の召使いで、ちょっとした訓練の為に来てるんだ」
小雨が口を開く前にエースが説明をしてくれた。事情を聞いた二人は頷いた。
「なるほど……それですまなかったな。フェリスが言うこと聞かなくて二人を巻き込むことになってしまった」
ジッと見ながら
「そう言いながらカスも後半楽しんでたにゃん」
「うるさい」
そう言ってカスと言う男はフェリスの頭を叩き、それに耐えられなかったフェリスの頭は下にガクンと下がった。
小雨の腕を指さして
「その血だいじょぶにゃん?」
真顔で
「これのどこをどう見たら大丈夫だと思うんだ?」
「……ごめんにゃん」
フェリスはシュンっとした。その姿に小雨は耐えられず、何となく罪悪感を抱いてしまう。
「ぅ……そんな顔すんなって」
エースが口を開く
「じゃあまずは自己紹介だな!」
「そうだそうだ!」
頷いて
「あぁ、そうだな」
「みんなの名前知りたいにゃん」
満場一致で自己紹介をする事になった。近くの開けたところにある、切り株に座り、誰から自己紹介をするか、ジャンケンをした。結果カス→小雨→エース→フェリスの順となった。
「じゃあまずは俺からだな……俺はギルド所属カナタスだ。短い間だがよろしく」
「おぉ〜……素晴らしき自己紹介にゃん」
全員が小さく拍手をする。次はーー
「次は俺だな!俺はリリー家の臨時召使い!名前は小雨!よろしくな!」
「コサメ?珍しい名前にゃん」
首を傾げて
「臨時ってことは、この後行く宛ては無いのか?」
気まずそうに
「あぁ……無いことは……無いっ」
頷いて
「なるほど」
苦笑いして
「あんまりコサメにちょっかい出すなよ」
「にゃん」
カスの代わりにフェリスが頷いた。自己紹介は順調に進んでいく。
「じゃあ次は俺だな。俺はリリー家の正式召使い……名前はエースだ。ちなみに属性魔法は水」
「見た目がチャラ男にゃん」
「そういえばお前の顔……あの人と似てるな」
「っ……」
その言葉にエースは固まった。何かバレてはまずいのだろうか。そんなエースを隣にカスは顎に手を当てて考える。横からフェリスが不思議そうな顔でカスの顔を覗き込んでいる。しかしーー
「思い出せないな……ま、いいか」
「じゃあ次は俺にゃん。俺はギルド所属のフェリス!属性魔法は雷にゃん」
小雨が目を見開いて
「じゃあさっきのケルベロスって……」
「俺たちだにゃん」
フェリスはキュルっとした顔で小雨たちを見つめた。その姿はまるで許しを乞うようだった。
「くぅっ……許す!」
実はと言うと小雨は猫好きだった。学校へ行く際、毎日野良猫に会うためにわざわざ遠回りのルートを通る。異世界に来て久々の猫は小雨にとって耐え難いものだった。そんな小雨はつい胸を抑える。
最後までお読み頂きありがとうございました!




