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クソみたいな世界と決別を  作者: いっち
第二章 【オルド国の神隠し】
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旧友

ノアと小雨は向かい合った。


「おいおい、そんなもんで戦えるのか〜?」


小雨の木剣を見たノアは嘲笑う。しかしーー


「いいや、これで十分」


「……っ」


木剣を構えた瞬間から小雨の雰囲気が変わった。さっきまであんなにもはっちゃけていたのに今では真逆の雰囲気だ。その事に気がついたノアは無意識に身構える。


「おいおいもしかしてお前、武器持ったら性格変わるタイプか〜?も〜、めんどくさいな〜」


目を閉じて首をポリポリと掻きむしったノア。しかし目を開けた瞬間ーー


「っは……!なるほどなっ!」


ノアが目を開けるとそこには小雨が木剣を振り上げていたがノアは瞬時にナイフ一本で制す。よく見ると小雨左腕から血を流し、捲りあげた袖にシミを作っていた。


呆れたように

首を回しながら「おいおい、いきなり突っかかって来るとはなかなか大したもんだな〜?」


「俺も早く帰って寝たいからな」


ナイフを回して持ち替える

「しかも……特異魔法持ち」


小雨の言葉にノアはヒュゥっと口笛を鳴らす。その後軽く準備体操をして再びナイフを構えた。


「じゃあ次は俺からっ!」


ノアが小雨に向かって走り出した。しかし、小雨が攻撃を受け止めようと構えた時、ノアの姿が消えた。


「っ……!どこだ!」


辺りを見渡すがどこにもいない、まるでさっきまでノアが居たのが嘘みたいだった。ところがーー


小雨の肩を右手の人差し指でちょんちょんと叩きながら

「お〜い、こっちこっち」


勢いよく振り返りながら

「後ろか!!」


小雨が後ろを振り返ると同時にノアのナイフが首元を掻っ切った。ノアの刃は運悪く小雨の頸動脈を掠めた。小雨はその場で唸りながら首を抑えて座り込む。


「いっ……あ゛ぁ……」


「あっはははは♡そうそう!そうでなくっちゃ♡」


小雨の瞳ににノアの恍惚とした表情が映される。しかしノアは小雨と目が合ってから気づく。


「……あっれ?特異魔法がまだ継続中……おっかしいな〜?体力は無いはずなのに?」


ナイフを持ったノアは首を傾げた。本来、特異魔法は本人がダウンしたと同時に切れるもの。特異魔法が自我を持って発動し続けることはまずない。


「……」


小雨は首元を抑えながら立ち上がる。度々足がもつれ、その場に倒れ込みそうになるが何とか耐えた。


「う〜っわ♡まだ立てるんだ♡これは殺りがいがあるな〜♡」


小雨は再び木剣を拾った。その姿を見たノアは嬉しそうにナイフを回転させる。その後、二人は再び向かい合って構えた。今度はどっちが先に動くか、お互いが互いを観察し合っていた。


「っ……!」


先に動いたのは小雨、首元から血を流しているが瞳に宿る星は枯れることを知らず、ますます大きくなっていく。


「あっは♡その調子その調子〜♡」


「はぁっ!」


小雨は正面から歩き出したと思えば一気に間合いを詰める。ノアは小雨の豹変っぷりに驚きつつも、再びナイフたった一本で攻撃を防ぐ。だが小雨も学習はする。


「っ!お前っ!」


ニヤッとして

「引っかかったな!」


ノアが小雨の木剣に気を取られて腹部はガラ空き、小雨は身体をねじってノアに蹴り入れた。


「……がっ!」


小雨の蹴りがノアのみぞおちを直撃する。普段の小雨ならこんな動きは到底できない、しかし特異魔法はこれらを可能にしてしまう。


ノアはみぞおちを抑えながら小雨を睨んだ。その顔は妬みや怒りではない、興奮だ。


「ひっさしぶりに戦いがいのある奴と出会えた……だからここからは……」


ノアはナイフに付着していた血を振り払い、地面を蹴って小雨に近づく。


「俺も本気でいかせてもらおうかなっ!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「ほんっと小雨くんったらいい加減にして欲しいよ」


小雨のことはノアに任せ、スピカは庭をしばらく歩いて屋敷の正面玄関に向かった。普段は意識して聞こうとしないザク、ザクという草の音が歩く度に響いて耳が心地いい。

正面玄関にいたのはーー


「久しぶりね!……アテナ」


正面玄関に立っていたのはサラサラの白髪は腰くらいまであり、瞳は青く、月光に照らされて何でも吸い込んでしまいそうなほど綺麗だった。


「うん……久しぶりだね、スピカ」


アテナの正面に立ち、顔を覗き込んだ。覗き込んだ際、アテナの鋭い瞳がスピカの瞳を貫く。


「今はメイド?アテナにはもったいないね」


「私が何をやっていてもいいでしょ」


スピカは一歩下がって再び首を傾げた。アテナと同じ長い白髪が風になびく。


「君は強かった、だから戻ってきてよ!」


「嫌だ」


アテナが即答した瞬間、その場の空気が凍った。先程までのスピカの明るい表情が一気に曇る。


「その言葉、取り消すなら今だよ」


「取り消すつもりはない」


「……」


スピカの表情がまた一段と暗くなった。その次の瞬間ーー


「どうして!!どうして抜けたの!!!!」


スピカが怒りの言葉と共にアテナの首元にナイフを突きつけた。少しでも力を入れたらアテナの首が切れてしまう。


「あの組織は私には合わなかった、それだけ」


「でも人の人生を明るくするの!それのどこが嫌だったの!」


「強いて言えば人を殺しているところ」


その言葉にスピカは黙り込む。少し前に小雨から言われた言葉を思い出す。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……じゃあ魔女遊戯会は何をしようと?」


腰に手を当てて小雨を見下ろしながら

「私たち は君の人生を最高のものにしたい!明るい人生にするためのお手伝いをしてるんだ!今ここにいるのは他の組織がこの屋敷に近づかないか、見張ってあげてるんだよ!」


首を傾げてスピカをじっと見ながら

「明るい人生にしたい……それって人を犠牲にしてまでする事か?」


「……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「どうしてみんな否定的なの?素晴らしい組織なのに!!!誰も魅力に気づいてない!!どうして?私たちはいい事をしてるだけだ!!」


スピカの怒りにアテナは怯むことなく言葉を続ける。


「単純な話、何があっても人を殺すのはダメな事だからだよ」


「……は?」


表情を変えずに

「人を殺すのは悪だ、私は許せない」


「人が死ぬって言っても、ほんの少し!それのどこがダメって言うの!みんなそう!私たちの考えを否定して……私が信じられるのは魔女遊戯会だけ!!!」


「でも人を殺してしまったら、取り返しがつかなーー」


「よくそんな事言えるね!!!元魔女のくせに!!」


スピカがナイフに力を込める。じわじわとアテナの首にナイフが食い込み、ついには血が垂れてきた。


「私が居た時は少なくとも人殺しはしていない時、私が脱退したのは組織が人を殺してからだよ」


「だから?抜けたからって組織に居たっていうことには変わらない」


「悪い組織には居たくない、神様にはお見通しだからーー」


「また神様!!!神様神様神様神様!!!ずっと耳障りだったのよ!!どこにいても神様にはお見通しだから、やったことは自分に帰ってくるとか!!」


叫ぶスピカにアテナは少し眉を下げた。


「本当に神様は実在するんだーー」


「っ!!!」


スピカがナイフに力を込めた。アテナは抵抗する素振りを何一つ見せず、そのまま首を切られ、その場に倒れ込む。しかし次の瞬間ーー


「ーークリムカルマ」


アテナがそう唱えた。その瞬間アテナの首元の傷はまるで無かったように綺麗になり、その代わりスピカの首元がサックリと切れた。


「なっ……!!」


スピカの首元からドクドクと脈を打つように血が溢れ出る。突然の事でスピカは理解できないままアテナを睨んだ。


「アテナよくも……!!」


「やったことは自分にも帰ってくる……身をもって知った方がいいよ」


「っ……」


スピカは特異魔法である回生で自分の傷を治す。しかし痺れと痛みはまだ存在する。綺麗になった傷をさすりながらノアと小雨の方をチラッと見た。


「……ははっ、私に構うのはいいけど、小雨くんの方は大丈夫なのかな?」


「……」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「思ってた以上に耐えたね♡だけどざんね〜ん、俺には勝てなかった」


そこら中に戦った跡があった。血痕が所々にあり、植えられた木には切り傷があった。そんな中、刃物で何かを刺すような、生々しい音が響く。


「……っ……うっ」


小雨はノアに馬乗りにされ胸を何度も滅多刺しにされる。それと正反対に小雨の瞳の星は刺される毎に更に輝き続ける。

小雨の意識が声かけた頃、スピカが遠くから近づいてくる。


「あちゃ〜、結構やってくれたね?」


周りを見回してから視線をノアに戻す。スピカの後ろからは誰も来ていない。


「この小雨っていうやつ、思ってた以上だったよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


静かな森の中、二人は戦闘を繰り広げていた。小雨はふらつきながらも戦うことができていた。これもまた、特異魔法のおかげだった。


「こ〜さめくんっ♡また油断しちゃって〜♡」


ノアは小雨の背後から攻撃を仕掛ける。ナイフを思い切り振り下ろし、あと数十センチで小雨に届くというところで。


「バレバレなんだよっ!」


小雨が一歩ズレて攻撃をかわしてからカウンター攻撃を仕掛けた。見事、攻撃はノアに当たり、ノアの額からは血が出て小雨の服にかかった。


「……チッ」


舌打ちを打ってから距離を取る。木剣で殴られた額を触って確認すると血がべっとり手についており、それを確認したノアの瞳が一段と冷たくなった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「そっからは俺の天才的な戦い方で見事、俺の圧勝ってわけ」


「ふーん、もう見た感じ死んじゃったっぽいし、魔法だけかけて早く帰ろう!」


「りょ〜か〜い」


スピカは小雨に手を伸ばした。


「ーーレスレクティオ」


スピカの右手からは金色の光が溢れ出し、小雨の傷がみるみる消えていき、まるで何事も無かったようになる。そしてしばらくすると再び呼吸を始めた。


「よしっ、じゃあ私達の仕事はもう終わり!」


空を見て

「もう朝方ですね〜」


「帰っていっぱい寝よう!」


スピカとノアの二人は倒れている小雨を残してその場を去っていった。朝方の光が小雨に当たる。そんな小雨の元に、一つの足音が近づく。


「……お疲れ様です、小雨さん」


アテナが一人、小雨の元へ近づき抱き上げた。


「勝手に出たこと、叱りたけれどまず貴方に話さないといけないことが沢山ある……特異魔法のこと、魔女遊戯会のこと……」


朝方の静かな屋敷に靴の音が鳴り響く。小雨の部屋にたどり着き、布団に寝かせてしばらく小雨の顔を見つめて呟いた。


「……小雨はまだ特異魔法の使い方が分かっていない、おまけにスピカの相方は特異魔法すら使っていない。完全に舐められてるよ。だからもう無茶はしないで、今日くらいゆっくり休んで」

最後までお読みいただき、ありがとうございました!


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