みんなで買い出し
朝七時、鳥のさえずりと共に小雨の朝がやってくる。昨夜、ずっとフランソワが小雨の看病をしていた。小雨がもう大丈夫だと言って立ち上がろうとすればフランソワは機嫌が悪くなる。結局二人はソファーで一夜を明けた。
小雨が身動ぎをしようとするが腹部に圧迫感があり動けない。小雨は目を擦って圧迫感の正体を見た。腹部にはなんとフランソワが乗って眠っていた。
驚いた顔をする
「フランソワが寝てるなら……」
その言葉のすぐ後、小雨は腕を目に当てて再び眠った。小雨の仕事はフランソワの面倒を見ること。フランソワを起こさず、この平和な時間も過ごすのも仕事の一環として二度寝をかました。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
太陽が南中した頃、窓から差し込む日光で小雨は目を覚ました。腹の上のフランソワはまだ眠っている。小雨は申し訳なさそうにそっと抱き上げ自分が眠っていたソファーに寝かせた。
「起きましたか」
白髪の、腰辺りまである長い髪の少女が扉の所で立って小雨とフランソワを見ていた。
驚いた顔をしながら
「き……君は誰だ?」
小雨の問いかけに少女は少し前に進んだ。青い瞳が小雨を貫く。まるで心の中でも読まれているような感覚がした。
手を前で組む
「自己紹介が遅れました、私の名前はアテナ。リリー家のメイド長をしております。以後、お見知り置きを……貴方のことはセリシアから聞いています。臨時の召使いだと」
髪の毛を結び直してから小声で
「俺の名前は小雨。短い間だけどよろしくな!」
小雨はアテナに近づいて手を差し伸べた。握手のつもりだ。それを見たアテナは戸惑うことも疑うこともなく握手をした。
「所で二人は何をしていらっしゃったのですか?まさかフランソワ様に怪我をさせるような事でも?」
必死に両手を振りながら
「違う違う!断じて違う!」
小雨の慌てっぷりにアテナは首を傾げ、小雨をじっと見た。その視線に小雨は一瞬怯むが疑いを晴らそうと小声で何かをずっと言っている。
背を向けて
「知ってますよ、それくらい。小雨くんはフランソワ様を傷つけていない……もし隠し事をしたとしてもバチが当たるだけです。神様はいつ、どこでもあなたたちの事を見ているので」
そう言って小雨が返事をする前に部屋を出て行ってしまった。小雨は安堵で肩を下ろす。
ドアを開けて小雨を見ながら
「この後買い物に付き合ってくれませんか?生憎人手が足りなくて」
顔をぱぁっと輝かせ
「任せろ!荷物持ちは俺がやんよ!」
小雨はアテナに向かってグッドサインを出した。それを見たアテナはほんの少し、頬を綻ばせて頷いた。
「では午後一時、門で待っています」
その言葉を残し、アテナは部屋から出て行った。足音がだんだんと遠くなる。その時、背後のソファーから身動ぐ音が聞こえた。フランソワが起きたのだろう。
ソファーに近づき、フランソワに向かって
「おはようございます、フランちゃん!まずは顔を洗って朝食?まぁ、この時間なら朝昼兼用か……とりあえず食べましょう!」
両手で目を擦りながら
「朝ごは……むにゃむにゃ、もうドーナツは食べれないの……」
(一体どんな夢を見てたんだ……)
小雨はフランソワをソファーから立たせ、洗面所までお供する。屋敷の廊下を歩いている時、ふと、フランソワが小雨に向かって言う。
小雨の方に顔を向けて
「さっきアテナの声がしたの、なんの話をしてたの?」
「あぁ、挨拶的な?この後買い物に付き合って欲しいってさ」
小雨の言葉を聞いたフランソワは少し黙った。少しムスッとして再び小雨の方を向いた。
「私も行くの」
「ええっ?それは……」
もっとムスッとした顔で
「わーたーしーもーいーくーのー。じゃないとここで駄々こねるの」
必殺技を持ち出してきたフランソワに小雨は勝てる術がなかった。誘拐の件もあったが、可愛いフランソワのお願いだったため、小雨はしばらく悩んだ。
フランソワに向かって一本指を立てて
「じゃあアテナに聞いてから決めよう!俺が勝手に決めていいことかわかんないし……ね?」
フランソワは頬を膨らませしばらく俯く。その後、納得したように渋々頷いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
洗面所で顔を洗った後、二人はご飯を食べるためにリビングに行った。小雨はフランソワを椅子に座らせてから小雨はキッチンへご飯を取りに行く。
両手にお盆を持ちながら
「お待たせ〜!今日のご飯はシチューとパン!」
目を輝やかせながら
「私シチュー好きなの!」
フランソワは目を輝かせながら小雨のシチューが乗ったお盆を見る。小雨がお盆をフランソワのテーブルに置いた瞬間、いただきますと言いすぐに食べ始めた。
クスッと笑って
「ガツガツ食べるなお前」
飲み込んでから
「何、どこかおかしいの?」
右手を振りながら
「いいや?フランちゃんも、そんな顔をするんだな〜って」
「……」
返事は帰ってこなかった。二人共食べることに夢中で食べ終わるまで会話は無かった。
食べ終わったあと、小雨が二人分のお盆をまとめてキッチンへ持って行きフランソワの所へ戻る。リビングの壁にかけられた時計を見るとあと五分で約束の時間だった。
玄関を指さして
「もういい時間だから行こうか?」
頷いて
「うん」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
外に出ると晴天だった。気温もポカポカしており薄手の膨らま一枚で過ごせるちょうどいい気温だった。二人揃って門まで歩くとアテナが先に待っており、二人が近づくと気がついたみたいでこっちを見た。
「時間通りですね……フランソワも御一緒なさいますか?」
アテナはフランソワの存在に気づき、しゃがんで目線を合わせて微笑んだ。
こくっと頷きながら
「私も行くの」
アテナに近づきながら
「ごめんな急に、フランちゃんが一緒に行くって聞かなくて……」
立ち上がりメイド服の丈の長いスカートを翻して
「問題ないです。さて、行きましょうか」
「あぁ!」
元気に返事を返した
三人は街の中にある売店を目指してアテナを先頭に歩いていく。
「そういえばアテナはどうして俺を誘ったんだ?」
「少し親睦を深めようと……これから一緒に働く仲ですから」
「なるほど……」
アテナの言葉に小雨は納得した様子だった。しかしそれと同時にとある疑問も浮かんだ。
「でも俺、働くって言っても臨時だからそんなに長い時間一緒にいるわけじゃないぞ?」
小雨の言葉にアテナは足を止めて振り、二人を見た。
「セリシアから聞きました。小雨さんはナクライアからオルドまで来ましたよね?わざわざ働くために……臨時だと言うのに遠いところから来てくれた小雨さんの事を悪い人だとは思わない……まぁ、これからもお世話になることだってあると思いますし。特に深い理由はありません」
アテナは二人に向かって微笑んだ。小雨も自分の事を信じてくれている事実に心が温まった。
顔を上げて
「アテナ、私プリン食べたい」
再び歩き出しながら
「了解です……フランソワ様は最近になってやっとわがままも言えるようになりましたね」
フランソワを見下ろしながら歩く
「フランちゃんって昔からこうじゃなかったのか?」
「はい、小雨さんが来る前まで……というか、フランソワのお姉様が誘拐されてから人と深く関わるの避けました。しかし……」
アテナはフランソワを見下ろす。フランソワは何も分かっていないような表情をしてアテナを見上げた。アテナはフランソワに向かって少し微笑んだ後、息を吐いた。
暇そうなフランソワに小雨はちょっかいを出した。フランソワは楽しそうにやり返す。そんな二人を後ろにアテナは歩く。
前を向いて歩きながら
(可哀想なことに懐かれてしまいましたね、小雨さん……これは別れる時、相当な覚悟が必要ですよ)
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
同時刻
薄暗い屋敷の一室、男女二人が家具も何一つない部屋の真ん中に座っていた。
「これからどうなると思う?」
「さぁ?ですがフランソワ様なら必ず探しに来てくれると思いますよ」
ピンク神様の少女が寝転ぶ。ピンク髪の少女の姿はフランソワと瓜二つだった。部屋にいた黒髪でセンター分けの執事服を着た男性が慌てて近づく。
「フランの事が心配で仕方がないわ。何だかプリンが食べたい気分だわ、持ってきなさい」
「ちょっ……汚いですよ!それにこんな所にプリンはありませんよ」
少女のピンク色の瞳が男性を捉える。視線を感じた男性はビクッとして固まった。
男性をじっと見ながら
「……」
「ど、どうなさいました……?」
「じゃあ代わりに紅茶をよこしなさい!!」
「だからないですって!!」
二人の会話は永遠に続いた。
最後までお読み頂きありがとうございました!




