疑惑
次の日、早速リリー家で働く事になった。あくまで臨時のバイト。ということで制服は支給されず、ここに来てからずっと着ている元いた世界の学校の制服で働くことになった。
「さ〜て、フランちゃんの様子でも伺いに行くか!」
朝の支度を終えた小雨。昨夜セリシアから説明された業務内容をこなすため、フランソワの部屋へ向かう。
ニコニコしながら扉を三回ノックしながら
「フ〜ランちゃん!おはようございます!」
「……」
ドア越しフランへ元気に挨拶をする。しかし中から返事はこない。まだ寝ているのか、それとも無視か。
小雨の笑みが少し崩れる。
再び扉をノックしながら。たまに謎のリズムも挟む
「え、無視?無視しちゃうの?もう開けていい?」
返事は一向に帰ってこない。
「ふーん、無言は肯定とみなしまーす」
フランの部屋の扉を開け、部屋に足を踏み入れる。
扉を開けるとフランが昨日と同様、ベッドに座っていた。しかし足を部屋に踏み入れた瞬間猛烈な風が部屋から溢れ出る。小雨は耐えられずに部屋の外へ吹き飛ばされた。風が止み、しばらくすると部屋の扉が勢いよく閉まる。
尻もちをついたままぶつけた頭に手を添える
「くぅ〜、痛って〜……まぁここまでは予想できてた」
小雨は立ち上がり再び閉ざされたドアの前へと足を進める。
扉の前で一気に肺に空気を吸う。そして扉に向かって指をさす。
「俺は諦めないからなー!俺は俺の責務を全うする!覚悟しとけよ!」
・・・
口元に手を添えながら
「……ん、ん゛ん゛っ」
咳払いを終え、再びフランソワの部屋へ入っていく。しかしーー
「ぎゃっ!」
「うあ゛っ!」
何度も何度も挑戦するが全て失敗する。部屋の外へと吹き飛ばされたり投げ飛ばされ続け、流石に作戦を立てることにした。
窓の縁に腰がけ口元に手を添える
「こんな時、どうするのが正解なんだか……」
回りを見渡す
左右どこを見ても長い廊下が続いている。それを見たとて何も情報は得られない。
「フランちゃんはこっちの姿を見ていない、俺が足を踏み入れたと同時に吹き飛ばされる。つまり音だけで判断している……」
その時廊下にお盆を持ったメイドが通りかかる。小雨はそれを目で追った。
指を鳴らしながら
「お、いい事思いついちゃった〜」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
フランソワの扉がゆっくり開き、薄暗い部屋に光が差し込む。
小雨は部屋に入らず横の壁に張り付き、しゃがんでいる。
メイドから貰ったお盆を音が鳴るように部屋の中へ投げると暴風と共にお盆が吹き飛ばされる。そしてしばらくすると風が止んだ。
靴を脱ぎ、部屋の中にこっそり入りながら小声で
「よーし、よしよし」
小雨はフランの部屋に入る事に成功し、扉が勢いよく閉まる。幸いフランソワは小雨の存在に気がついていない。
部屋の中を見渡しながら
(部屋はまぁまぁ綺麗だな。所々やばいのあるけど)
破れたクッション、割れた写真立て、閉められたカーテン。フランソワという少女に一体何があったのか、今の小雨は分からなかった。
小さく深呼吸をし、勢いよく立ち上がる
「フ〜ランちゃん」
「っ?!?! 」
驚いて勢いよく振り向いた
フランソワに向かって笑顔を向けながら
「おはようございます」
フランソワは驚きのあまり固まっていた。よく見ると目が震えており、まるで何かに怯えているようだった。
歩きたさず、その場で立ち止まって首を傾げながら
「どうしてそんな顔で俺を見るんだ?」
フランソワは何も答えない。ただ様子がおかしいのは明らかだった。昨日会った時はもっと冷たい目でここまで恐怖を剥き出しにしていなかった。
震えた声で
「今は他の人居ない?」
扉を開けて廊下を確認し、フランソワの方へ向かいながら
「うん、いない」
震えた声で小雨の方を向いて大きな声で
「た、助けて!お願いだから!」
フランソワは小雨に向かって必死にお願いをする。長い前髪の間から涙が溢れているのが見える。
困惑した顔で
「え、ええ?ええ」
どうしたらいいのか分からなくてその場から動けずにどうすることも出来ない。その時ーー
扉を思い切り開けながら
「フラン様!大丈夫?!」
ビクッとしてセリシアを見て
「セリシア!いきなり開けるなよ〜、びっくりするだろ」
セリシアの登場に小雨とフランソワはビクッと驚いた。だがしかし小雨は見逃さなかった。
フランソワをじっと見ながら
(セリシアがこの部屋に来た時……一瞬すっごい怯えてる顔が見えた)
小雨はフランソワの一瞬の怯えた表情を見逃さなかった。小雨の背後からセリシアがフランソワに向かって歩き出した。
フランソワを抱きしめ、背を撫でながら
「お姉ちゃんの事を思い出したんだね、ほら、ゆっくり深呼吸して」
何か分かったような顔をして
(フランちゃんはお姉ちゃんっ子なのか、なるほど)
セリシアがフランソワを抱きしめてなだめている。小雨は二人を傍からじっと見ていた。五分もすればフランソワは泣き止んだ。
ハンカチでフランソワの涙を拭いながら小雨に向かって
「フラン様は繊細な子だから、気をつけてね」
「あぁ、わかった」
セリシアに向かって頷く
セリシアは小雨を連れて部屋の外へ出て扉を閉め、廊下に出る。廊下の突き当たり、他の人があまり通らない所で二人は面と面を向かった。
首を傾げて
「なんでわざわざこんな所に?」
小雨に真剣な表情を向けて
「少し詳しくはなしておかないといけないなって思って」
「話?」
「うん、フラン様はお姉さんが行方不明になってから情緒が不安定な事が多くて、部屋の外にも出ようとせずにひたすら部屋に引こもる。お陰で髪も伸びっぱなしでご飯食べない」
目を見開いて
(さっきの助けては……フランちゃんの姉ちゃんの事だったんだな)
「そうか、じゃあ精神面の方も気を遣ってあげてって事だな?」
右手で銃のポーズ作り、セリシアを指さす
頷きながら
「そういうこと、コサメは話が早くて助かるよ。じゃあ私は今から仕事あるから、フラン様のことお願いね!」
小雨の返事を待たずに小走りでどこかへ去る
小雨はその場で一人、取り残された。廊下は驚く程静かで、誰も通らない。取り残された小雨のその目は、普段にしては珍しい真剣な目だった。
小雨は廊下の壁にもたれかかり、目をつぶって唸りながらセリシアがフランソワをなだめていた時のことを思い出す。
その場で一人で右手の人差し指を振りながら
「あの時、絶対セリシアはフランちゃんに何か言っていた」
セリシアがフランソワを抱きしめてなだめていた時、小雨は傍で見ており、その時に一瞬、セリシアがフランソワの耳元で唇を動かして何か言っているように見えた。
首を掻きながら
「んー、俺の勘違いかな?」
ただ小雨はフランソワがセリシアを見た時に怯えた顔を見せたのが気がかりだった。
「脅しているのか、それとも本当になぐさめの言葉だったのか……」
腰に手を当てて口角をあげ、上を見ながら
「な〜んか、怪しいんだよな〜」
その声は静かな廊下に響いた。
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