相性
水色髪の少女はセリシアの声に振り向く事はなかった。
「……えっ?無視?……ひどくない?」
「……」
悲しそうなセリシアの声が廊下に響く。次はセリシアの後ろにいた小雨少し少女の部屋に入り、口を開いた。
「俺!名前は小雨って言うんだ!これから臨時で働くからよろしくな!」
「……」
小雨の声が少女の部屋に響くが反応はなかった。小雨の言葉も無視され、二人は唖然とする。こういった完全なる無視は地味に心に来る。
「じゃ……じゃあまだ来るね!」
諦めたセリシアが扉を閉めようとドアノブに手を伸ばす。しかしなにか気が変わったのか少女が小雨たちの方を向いた。
「……お姉ちゃんはどこなの?」
「……あ、お姉ちゃんはまだ見つかってないんだ……ごめんね」
「早く見つけて」
少女の顔はとても眠そうに目を半分閉じているというのにその表情からどこか怒りを感じる。
「そこの黒髪、名前は何なの?」
小雨と少女の水色の瞳と目が合った。少女をよく見るとしばらく髪の毛を切っていないのか前髪が目にかかって隙間から小雨を見ていた。
「さっきも言ったけど俺コサメって言うんだ!お前は?」
「コサメ……私はフランソワ。コサメ、私はあなたと仲良くする気は無いの」
「ふ、フラン様!初対面でそんな事……!」
セリシアの注意を受けて腹を立てたのか、フランは右手を小雨たちの方へ伸ばして吹き飛ばし、扉を勢いよく閉めた。
「う、うおわわっと!」
「きゃっ……へみっ!」
ピンクの閃光と共に二人は廊下に吹き飛ばされた。小雨は何とか転けることなく体制を整えられたがセリシアはバランスを取れずガラスの方へ吹き飛ばされた。
「セリシア!大丈夫か?」
小雨はセリシアの方へと向かう。セリシアの頭に星がクルクルと回っている。
「あぁぁぁ……あぁ」
「あぁ、ダメだ。完全に潰れてる」
小雨はセリシアを背に乗せ、フランの部屋を後にした。しばらく引きずって館を彷徨っているとセリシアが正気になった。
「ん……んん……あれ!」
「うおおっ!急に驚かすなよお前……!」
いきなり耳元で聞こえたセリシアの声にビクッとしてセリシアを落としそうになるが、何とか耐えた。
「あれ、私何やってたんだっけ?」
「フランってやつに吹き飛ばされて多分頭でも打ったんだろ」
「……あぁ!思い出した!」
セリシアは小雨の背中から降り、一人で歩きはじめる。セリシアは着ていたコートを脱ぐとメイド服の姿になり、コートを腕を右手で持ちながらスキップして歩いた。
「なんか機嫌いいな?」
「これからコサメと働けるからね!新人が増えるのは嬉しいことよ!」
「嬉しいのなら良かった」
「じゃあちょっと着いてきて!」
セリシアは小雨を召使い専用の共同部屋へ連れて行き、ちょっとしたテーブルと椅子の所へと案内した。
「ここがメイドたちの共同部屋!小腹が空いたでしょ?ちょっといいもの持ってくるから待っててね!」
セリシアはそう言って部屋を出ていった。共同部屋を見回すと小雨以外にも何人かメイドや執事が居た。ほとんどのペアが椅子に座って雑談している。
「お待たせ〜!もう時間も遅いから今日はこれで許して!」
セリシアはパンケーキが乗ったお盆を持って小雨の元へ戻ってきた。
「……っ!パンケーキか?」
小雨は嬉しそうに目を輝かせる。小雨の目の前に置かれたパンケーキはメープルシロップとバターが乗せられ見るだけで美味しいとわかってしまう。
「そうだよ!冷めないうちに食べちゃって!」
「いっただきま〜す!」
小雨がパンケーキを一口食べた瞬間、今日一日の疲れが吹き飛んだ気がした。
(この味、懐かしいな)
アランと食べたパンケーキが今では懐かしいように感じた。だけどもう友達に戻れるかも分からない。
小雨は次々とパンケーキを口に運んでいく。向かい側に座っているセリシアもナイフで切って上品に食べている。
「えっ……ちょっと泣いてるの?」
セリシアの言葉に周りの召使い達が小雨の方へ向く。小雨の目から溢れる涙はなかなか止まらず、その場の皆が困惑していると小雨が咀嚼していたパンケーキを飲み込んだ後口を開いた。
「うまぁああい」
「え……ぱ、パンケーキごときで泣くなんて大袈裟だよ!」
小雨の言葉に全員が安堵し、再びそれぞれすべきことに戻る。セリシアはパンケーキごときで泣く小雨に戸惑った。
「そんなに美味しいならまた作ってあげるよ!」
「っ……ありがとう」
その後、パンケーキを食べ終えた二人。セリシアが小雨の部屋に案内した。三階の長い廊下をひたすら歩いているとセリシアはとある扉の前で立ち止まり、ノックして誰もいないことを確認した。
セリシアは小雨を談話室に連れて行った。リリー家は談話室の細部までこだわられており、中央には高級そうなテーブル、シャンデリア、どれも元いた世界ではとても見れない光景だった。
「さ、座って座って!」
セリシアに導かれるまま、セリシアが引いた椅子に座りセリシアは小雨の向かい側の席に座った。その後セリシアは右手の三本の指を挙げた。
「じゃあまず真面目者のコサメくんにお願いが一つあります!」
「わかった!ドンと来い!」
小雨はこれから話されることに身構える。セリシアは小雨の気合いを入れる姿にクスッと笑い、話を続けた。
「君にお願いしたいのは住み込みであの子の様子を見ること、それだけ……正直あの子の事はコサメくんなら対応できると思ったけど、さっきのを見る限りね……」
セリシアの声に疲労が重なっていた。今まで何人か雇われて辞めていったのが想像つく。小雨は現実、セリシアにとっての唯一の希望なのだ。
「いや、俺はやってみせる。だからそんなくらい顔すんなって……な?」
小雨はセリシアに向かってニコッと笑ってみせた。その表情を見たセリシアも元気を貰ったのか暗い顔が消えた。
「ありがとう!やっぱりコサメだけだよ!」
セリシアは立ち上がり小雨の方へ駆け寄る。
「じゃあ改めてようこそ!リリー家へ!これからよろしくね!小雨!」
セリシアは満面の笑みと共に小雨に歓迎の言葉を述べ、手を差し伸べた。
「こちらこそこれからよろしくな!セリシア!」
小雨はセリシアの手を受け取って二人は握手した。
二章は1章と比べて結構長くなる予定です!
最後までお読み頂きありがとうございました!




