そうだ自立しよう!
例の件から約一週間が経った。
あの日以降、小雨は特異魔法を一度も使えていない。
「おんせんたまご」
「ごましお」
「おたまじゃくし」
「しお」
「……おさけ」
「けんざお」
「……なんだよお前さっきから性格悪いな」
毎回最後におで終わる小雨に向かってアランは突っ込む。
今日は特にすることも無かったため、ローレンス家のアランの部屋で小雨とアランは仲良く一緒に暇を潰していた。
しかし小雨は頭のどこかである程度事態が落ちついてきた時、魔女遊戯会の事を正直にアランに伝えるか迷った。これ以上迷惑はかけてられないという罪悪感と大事にする前に相談しないとという気持ちがあった。
「そういえばお前特異魔法使えるようになったんだよな?試しに使ってみろよ」
「……っ」
アランの言葉に小雨は固まった。なぜなら魔法の使い方が分からなかったからだ。あの時はその場の成行きで使えただけでそれ以降一度も使えていない。
「……なんだよその顔」
「……ない」
「え?なんて?」
アランは顔を近づけ小雨の言葉を聞こうとした。小雨は目を泳がすと共に口をもごもごさせた。なかなか言葉が出てこなかったがついに小雨は意を決してアランに向かって言う。
「ま、魔法の使い方が分からない」
「……はぁ?お前あの時使えてーー」
「俺だって使いたいんだよ!あの時はその場の成行きっていうか?俺せっかく魔法使えるようになったのに今じゃただの一般人だよー!!」
小雨からの言葉の嵐にアランは呆然としていた。魔法の使い方が分からない自分が恥ずかしいのか、小雨は早口に言葉を発して最終的には机につっ伏してしまった。
「何を恥ずかしがっているのか分からないが、特異魔法が発現してからすぐに扱える訳ないだろ」
「……そうなのか?」
アランが小雨の様子を見て困惑した様子で小雨に言った。その言葉を聞いた小雨は驚いたように凄まじいスピードで顔を上げる。目が餌を待っている子犬のようにキラキラしていた。
「まぁ俺は先天性だから〜?お前みたいに泣きべそかいた事ないけどな〜」
「は?黙れ無粋貴族」
小雨なキラキラした目はどこかへ行った。アランの言葉に小雨はイラついてつい良くない言葉を発してしまう。小雨の発言にアランの笑顔が凍りつき、二人の間に火花が走った。
「俺そこまで下品じゃないだろ」
「もう少し貴族っぽいことできないのか?」
「どこがだよ!俺は上品極まりないだろ!」
「上品なやつはな服を脱ぎっぱなしにしないし胡座をかいて床に座らないんだぞ!」
「別にいいだろそれくらい!お前が口出ししてくんなよ!」
そのまま二人は喧嘩に発展した。喧嘩は三十分程続き結局仲直りすることなく小雨はアランに家から追い出された。
「……もうお前の顔なんて見たくない」
アランはその一言を言った後、ドアを閉めた。
尻もちを付いていた小雨は急な出来事にまだ状況を理解できていなかった。しばらくぼーっとした後、ハッとして立ち上がった。
「……あ、終わった」
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この世界で一番頼れるアランに見放された小雨は現実を受け止めきれずにただひたすら街を歩いていた。夕方の日差しが強く、初めてアランと会った日の事を思い出す。
いきなり転移した小雨を助けた後に嫌がることなく受け入れてくれた小雨にとって神様みたいな人だった。アランがいたからこの世界で生きていけたと言っても過言では無い。
しかし今、アランという小雨がこの世界で生きていく上で一番重要な人を失ったため、どうやって今後を生きのびようか考える。
どれだけ考えても時間は待ってくれない。夕方の茜色の空も段々と濃い藍色へと変化していく。
「……あれ」
街の噴水の前にある掲示板に張り紙が貼ってあった。それに気がついた小雨は掲示板に真っ先に向かっていくがーー
「きゃっ、ごめんなさい!」
小雨は看板に向かう途中、同い年くらいの少女とぶつかり同時に尻もちをついた。少女が真っ先に立ち上がり小雨に近づく。
「大丈夫?」
「ぜ、全然大丈夫です!」
少女は小雨に手を差し伸べる。見上げると少女は髪の毛を下の方でひとつに纏めてコートを羽織っていた。いきなりのことに少々驚きながらも小雨は手を取って立ち上がった。
「怪我は……うん、ないね。良かった」
少女は小雨に怪我が無いことを確認して胸を撫で下ろした。
小雨自身も、相手に怪我をさせていないようで安堵する。
「あれ、その手のやつって」
小雨は少女が持っていた紙の束を指さした。その紙の束は掲示板に掲示されているのと同じものだった。
「ん?これの事?」
「それって何が書かれてるんだ?」
「はい、あげる」
少女は紙を一枚小雨に渡した。小雨はそれを受け取って見るとそこには幼い少女の写真と共に探していますの文字があった。
「最近私の国でよく人がいなくなってるんだよね」
「私の国って……お前ここの国の人じゃないんだ?」
小雨の困惑する様子を見て少女はハッとした。
「まだ自己紹介が出来てなかったね、私の名前はセリシア」
「俺は小雨」
「コサメ?可愛い名前ね」
少女はクスッと笑う。その姿を見た小雨は先程の出来事で出来た心の中の霧が晴らされるような感覚がしてつい頬が綻んだ。
「私はオルド国のリリー家のメイドなの。最近リリー家の長女ちゃんと召使いが行方不明になっちゃって探してるんだ。あ、もちろん掲示する許可はレオ様から貰ってるから絶対剥がさないでね?!」
「お、オルド国……?なんだそれ」
「え?オルド国知らないの?」
異世界から来た小雨はもちろんナクライヤ王国意外行ったことも聞いたことも無かったためオルド国という知らない国名に困惑した。
「知らないなんて珍しいね、オルドはナクライヤか一番近い国で、まぁ近いって言っても行くまでにはかなり時間がかかるんだけど気が向いたら来てよ」
小雨はセリシアの言葉を聞きながらチラシを見る。チラシの下な方には臨時の召使いの急募が書かれているのに気がついた。それを見た瞬間小雨の中の何かがビビッと閃く。
(そうだ自立しよう!)
「俺さ、実は今住む場所なくて……良ければ俺、臨時で働いていいか?」
小雨は急募を見た瞬間迷いなく言った。ここで働いてお金を稼いで生きる。今小雨にできるのはそれぐらいだった。
「ええっ?!もちろん!」
小雨の言葉にセリシアは満面の笑みを浮かべる。
「じゃあ残りのも早く貼って早く帰ろう!」
「あぁ!」
小雨はセリシアがチラシを貼るのを手伝った。空はもうすっかり藍色に染まり、星がチラチラと輝いていた。
「見ててコサメくん」
セリシアは指をフイっと動かすとチラシが浮かび上がった。右手で器用にチラシを浮かべ、左手を動かしてテープをちぎり、慣れた手つきで貼っていく。
「すごいなお前!俺もいつかそんな風に魔法が使えたらなー」
間近でセリシアの魔法を見ていた小雨は目を輝かせた。小雨の反応にセリシアは少し違和感を覚えた。
「コサメくん、何だか魔法が使えないみたいな反応するね」
「実は俺俺魔法使えないんだ!」
「……え?」
「マジマジ」
「いやいや!そんな事ないでしょ!この世界の人はみんな絶対使えるはずだし!」
「そもそも俺はこの世界の人じゃない!」
「……ん?」
小雨の言葉にセリシアは動きを止めた。魔法で浮かび上がったチラシとテープが床に落ちていく。
「この世界の……人じゃない?」
「そうそう」
「……うっそだ〜!」
「マジだってほんとだって!」
セリシアはしゃがんで落としたチラシとテープを拾った。眉をひそめ険しい顔をしていたセリシアだったが、小雨の様子を見ているとどうも嘘には見えない、しかし嘘をついている可能性もゼロでは無かったためそういうことにした。
「……うーん、ちょっと怪しいけどそういうことにしといてあげる」
「絶対信じてないだお前」
「当たり前でしょ」
セリシアはテキパキとチラシを掲示板に掲示していく。魔法を使う度、小雨は羨ましそうな顔をした。
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「よ〜し!掲示完了〜!」
セリシアはその場で伸びをする。長時間作業をしていたため、身体が固くなっていた。
しばらく身体を解したあと、近くの階段に座っていた小雨の方へ向かった。
「じゃあ今から帰ろっか!」
「そういえばお前、ここからオルド国?は距離があるって言ってたけどどうやって来たんだ?」
「ん〜?それはね〜」
セリシアはとある家の裏に入って何かを探し始めた。しかし目当てのものが無かったのか別の家に走った。
五件目でやっと目当てのものが見つかったのか、セリシアは右手に少し古びた箒を持っていた。
「それをどうするんだ?」
「これを……」
セリシアは箒を両手で持って目を閉じ、何かを唱えた。
「……ダーレ・ベネディ」
セリシアが小声で唱えたその瞬間、掌から緑の光が溢れ出した。小雨はその眩しい光に思わず目を閉じた。しかしその光も一瞬で消え、目を開けると先程セリシアが持っていたボロい箒をが新品のように綺麗になっていた。
「よし、帰ろ!」
セリシアは箒に跨った。小雨を後ろに乗せるためなのか、少し前方に乗っていた。
「……え?」
「ほら!早く早く!」
「いや待って心の準備がーー」
セリシアは小雨の手を引いて箒に跨がせた。二人が跨ったその瞬間、箒は一気に浮かび上がり、気が付いたら上空を飛んでいた。
「え……えええええええ!!」
「じゃあ今からリリー家までレッツラゴー!」
最後までお読み頂きありがとうございました!
ついに新章開幕です!




