無駄な善意
朝食も食べ終わり、クレアが昨日のうちに洗濯してくれていた服に着替えた。果たして急に異世界に来てしまった俺がこんな贅沢な生活をしていいのだろうか、それが暫く頭に残った。
「私はしばらく仕事してるわ、お腹がすいてきたらまた戻ってきてちょうだい」
「わかった、ありがとう!」
お礼を告げ、宿を出て広場の噴水のところまで行った。相変わらず街は賑やかだった。小さい子供が鬼ごっこをしたり、親子で買い物をする姿も見えた。しかし今はそれどころではない、アランは明日会おうと言っていたがそもそも覚えているのだろうか、どこに行けばいいのか考えながら噴水の縁に座っていると、向こうから見覚えのある金髪が見えた。
「おはよう、相棒!」
「え?あいぼう?」
「これから一緒にファミリーについて調査する仲だしな!」
「わかった、こちらこそよろしく、相棒!」
二人はその場でハイタッチした。一瞬周りからの視線を集めたが、すぐに消えて無くなった。と、その時アランが血相変えて言った。
「あ…!俺ちょーっと兄貴から家の仕事頼まれてたものあったんだった。悪いコサメ!十分で戻るからちょっと待っててくれないか?」
「わかった、早く終わらせてこい!」
アランは小雨に向かって両手を合わせた。小雨が了承するとアランは急いで自分の家に向かってまるで猫のように素早く走って行った。昔から鍛えられていたのか、足は異常に早かった。
「……あの、すみません」
「…!?」
目の前におよそ十三歳くらいの少女が立っていた。目は薄いピンクで髪は白いサラサラのストレートロングだった。服はいかにも貴族という感じで白いトップスとスカートに所々紫の刺繍が施されていた。
いきなり声をかけられた小雨は勢い余って後ろの噴水に落ちそうになったが何とか耐え、体勢を整える。
「どうした?何かあったのか?」
「私、迷子になってしまって…両親を探すのを手伝って欲しいんです」
「両親とはぐれたのか…わかった、探すの手伝ってやるよ!」
「ほ、ほんとですか!ありがとうございます!自己紹介が遅れました。私はアーシャって言います」
「アーシャちゃんね、俺の名前は小雨」
「コサメ?珍しい名前ですね」
お互い自己紹介を終え、小雨は噴水の縁から立ち上がった。アランが戻って来るまでの間にアーシャの両親を探すことになった。
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だが1時間探してもアーシャの両親は見つからなかった。それも想定内だった。この広い街で親を探すなど最初から無理があった。だが小雨は一人の少女を見逃すことは出来ずについOKを出してしまった。
「ほんと見つかんないな」
「そうですね…もう、諦めるのも視野に入れた方が」
「いいや、諦めない」
「えっ……」
「君の大事な家族が待ってるんだ、あと、小さい女の子を一人街に放っておけない」
小雨はアーシャの前にしゃがんでアーシャの右手の小指を自分の小指に絡めた。指切りげんまんのポーズ。アーシャが住んでいる世界で指切りなど存在しないため、アーシャは戸惑っていた。
「アーシャちゃんは知ってるかわかんないけど、これは指切りって言って…まぁ、おまじないみたいなもんだ」
「指切り……ですか」
「あぁ、だから心配するな。君の両親、必ず見つけるって約束するからさ」
「っ……はい、ありがとうございます」
太陽が熱く輝く朝、小雨とアーシャは指切りをした。ニコニコと自信ありげに笑う小雨を見てアーシャは嬉しそうにニコッと笑った。その後も三十分ほど街を歩いていると
そこで事件は起こった。
街の南西の端の方。城壁のせいで光がなかなか入らないのかとても薄暗い。そこをアーシャと歩いていると、微かな何かの臭いがした。普段は絶対嗅がないあの鉄臭い臭い…生温かく、赤いのを想像するような臭い。
「アーシャちゃん、ちょっとそこで待ってて」
「は、はい」
小雨はアーシャを置いて臭いの原因を探ることにした。
臭いはどんどんキツくなる。途中からは腕で鼻を覆わないと耐えられないくらいだった。そうして臭いの原因を辿ると家の裏側に入った。そこにはーー。
「……アー…シャ?」
家の裏側、コンクリートの上でぐったりと胸から血を流して倒れているアーシャがいた。見てわかることは胸を鋭いもので貫かれていること、そして…あのアーシャは偽物だということ。
「あ〜あ〜、可哀想に〜」
「っ…!」
「やっと自分から行ってくれたよね〜、思ってたより結構時間かかっちゃったよ〜」
後ろからアーシャではない他の何者かの声が聞こえた。さっきまでアーシャの変装をしていたのか、振り向くとそこには淡い紫髪のドーナツヘアの少女が立っていた。目は濃い紫色で鋭かった。おまけにケープのようなものを羽織っており、ケープの留め具にはファミリーのバッジが着いていた。
「……っファミリーか」
「うんうんそうだよ〜、初めましてあたしはファミリー所属、ファミリー番号十二番……シャトン・メアローゼだよ〜」
小雨に対してシャトンはすぐにお辞儀をして挨拶をした。ファミリー番号十二番、昨日会った十五番より若い数字だったため、昨日の敵より強いのは確定だった。
「あたし、怒ってるんだよ。昨日エミルちゃんがボロボロで帰ってきてさぁ…」
「……昨日のことか」
「昨日エミルちゃんが言ってたんだよ、ローレンスじゃなくて髪の毛を結んだ黒髪を殺して欲しいって。あたし頑張って探したんだよ〜?アーシャちゃんに聞いても分からないって言うし、後ろから親も出てきて面倒くさいことになっちゃったからまとめて殺しちゃったんだよね〜」
「そしてアーシャちゃんに変装して街を歩いてたら偶然君が噴水のことろに座ってたってわけ〜、これって偶然じゃなくて運命だと思わない?」
「っ……そういう事か」
「うんうん、話を飲み込むのが早くて助かるよ〜、だからここで……死んでくれるかなぁ??」
後ろには死体、前にはシャトン。絶望的な状況だった。シャトンが最後の言葉を口にすると、指を鳴らしてどこかに消えてしまった。
「……は?」
キョロキョロ見回したが何にも気配がない。さっきシャトンがいた形跡も何も無くなっていた。そこにあるのはただ死体から漂う生臭い臭いだけ。時間が経つにつれだんだん酷くなってきたため、小雨は耐えられず、家の裏から前へ移動した。
「おーい!コサメー!」
「…アラン?」
アランが街の中央の方から走ってきた。見た目はいつものアラン。だが様子がおかしい、走り方が妙に不自然だった。
「あっはは!バレちゃった?」
シャトンが右手に持ったナイフを振りかざした。小雨は何とか右に避けたが、左頬をナイフの刃が少しかすってしまった。
「なかなかやるじゃん〜?一般人のくせに」
再びナイフが振りかざされた。小雨はアランみたいに身が軽い訳でもなんでもない、ただそこら辺にいる一般人だ。
そのため大量にも限界があった。終いには小雨は大量が尽きてヘトヘトになり、地面に尻もちをついてしまう。
もう一度ナイフが振りかざされそうになった時、小雨が口を開いた。
「っ……あのさ!お前らの目的はなんなのか教えてくれ!」
「目的〜?誰から聞いたのかなその話」
「……そ、それは」
「あのローレンスなんて言わないよね?あたしあの人大っ嫌いなんだけど〜?」
機嫌が悪くなったシャトンが小雨に向かって距離を詰めた。
しかしアランとファミリーの調査をすると約束した小雨は少しでも情報を手に入れるために再び問いかけた。
「ローレンスが教えたからってどうでもいいだろ?ファミリーは一体何をしているのか教えて欲しい!」
「やだよ、ファミリーはすぐに目的をベラベラ話すような馬鹿な組織じゃない」
「いいや、ファミリーは馬鹿な組織だ」
「……?!」
いつの間にかアランがシャトンの後ろに立って剣をシャトンの背中に突きつけていた。あと少し押したら背中を貫ける。
「っ……あんたはローレンスの…!」
「動くな。」
「っ…!!」
アランの声は重く響いた。小雨もシャトンもその場にいる人は誰も動けなかった。アランは怒っていた。小雨を1人にしてしまったこと、そして大事な住民が殺されていることに。
「ファミリーは一体何を企んでいるのか聞く。もし答えなければ貫かれると思え」
「っ……お、教えるわけなーー」
アランは剣を少し押すとシャトンの背中に食い込んだ。剣の先の辺りからシャトンの血がぽたぽたと垂れる。
「このままだと貫くぞ」
「っ……あんまりあたしを舐めると痛い目見るよ……!」
シャトンは地面に煙幕を投げつけ、そのうちに刺さった剣から逃れ、そのままナイフを持って再びアランに上方向から切りかかった。
「っ……上か。」
「だがあんまり俺を舐められたら困る」
「っ……?!?!」
アランは上から襲いかかったシャトンを斜めに切った。シャトンの切り傷からは血が溢れ、アランの顔に血飛沫がかかる。街の端でこのような戦いが繰り広げられてるのは誰も知らない。
「っ……がはっ…」
「……早く情報を吐け…じゃないと次は首だ。」
アランが仰向けに倒れたシャトンの首横に剣を持ってきた。その時ーー。
「アラン!後ろ!」
「っ…?」
後ろからナイフを持った男が斬りかかってきた。しかし小雨が咄嗟に叫んだため、アランは剣で何とかナイフの刃を制し、刺されるのを免れた。
「ありがとう、コサメ。助かった」
「やはり…シャトンを行かせたのは間違いだったか」
最後までお読み頂きありがとうございました!




