クソみたいな世界と決別を
誰しもが今までに一度は考えたことがある異世界転移ーー
それは過去に誰かが創作したファンタジーの物語だから俺はそういう類は一切信じていなかったーー
あの出来事が起きるまではーー
第一章 「予言」
「起きなさい!コサメ!」
そんな言葉と共に目覚めた。
ピンク髪のサイドテールの少女がドアを開けて俺に向かって叫んでいる。彼女の名はクレア。窓を見るともう朝だった。
「もう七時回ってるわよ!これ以上寝てると水ぶっかけるよ!」
魔法だろうか、クレアは小雨に向かってピンクの光がかった右手を上げた。
「?!……起きる!起きるからその手を下ろして!」
小雨はクレアを見てすぐに飛び起きる。
「最初からそうしていれば良かったのに。朝ご飯持ってくるからちょっとまっててちょうだい。」
クレアは起きた小雨を見て片手を降ろした。どうやら今回は見逃してくれたらしい。クレアはドアを閉めて出て行く。
小雨はベッドから降り、窓に立ち寄る。
窓から見える見たことの無い風景、知らない人、知らない魔法。
どうしてこんなことになってしまったのだろうか。
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時は遡る。
「……家帰って課題しないと」
小雨が降る夕方ーー
黒いスラックスに白いワイシャツに黒いネクタイをぶら下げており、袖は邪魔なので腕まで捲りあげられ、一人でビニール傘をさしている黒髪の少年、名前は小雨。小雨は独り言を呟きながら学校から帰宅していた。
身長は169cm、高校三年生の十八歳。黒い髪の毛を左サイドの下の方でちょこんと括っていた。
毎日毎日同じことの繰り返し、妹と両親の顔を伺いながら機嫌をとっていく。そんな生活が毎日続きもうそろそろ精神も限界を迎えていた。
問題は特に妹ーー
「ただいまー」
「あら、おかえり」
リビングに入ると、お母さんがご飯を作っていた。お酒を飲んでいたため機嫌が良い。機嫌が悪い時はおかえりは言わず、会話すらしてくれない。ここで親の機嫌を判断して対応を日々変えていく。
小雨は手を洗ってから二階の突き当たりにある自分の部屋に入る。特に遊びに行く用事も無かったため机に数三の教科書とノートを広げた。授業中の内職で途中まで解いており、途中から消化ていく
「小雨ー!」
小雨の名前を呼んで部屋に入ってきたのは黒いショートヘアでぱっつんの前髪が特徴的な中学三年生の妹の晴。
実はというと小雨の中では妹が少々厄介だった。
「今課題やってるから後でな」
「晴さっきゲームしてたらいいキャラ当てた!」
「うんわかったからちょっとまーー」
「でねでねー」
「……」
どうやら親から聞いたとこによると妹は何か特性があるらしい。本当は怒ってやりたいがその特性を聞く限り空気を読んだり理解するのが苦手らしい。そのため家族はいつも妹の機嫌を気にしている。
「小雨ー!ご飯よー」
「ほら晴、ご飯行くぞ」
結局何も解けなかった。晴を連れてリビングへ行く。今日の晩ご飯はお米、お味噌汁、唐揚げ、魚だった。唐揚げのいい匂いが部屋に充満している。それぞれ席に着き、晴と共に晩ご飯を食べている時、リビングのソファーでテレビを見ているお母さんがふと言う。
「小雨はさっき何やってたの?」
「普通に課題だけど…」
「小雨ゲームしてたよ!」
でた、嘘のことを被せて言ってくる。これのお陰で小雨は何度怒られたことだろうか。訂正することさえ面倒くさくなった。
「あら、ゲームしてたの?もうそろそろ受験でしょ?ちゃんと勉強しなさいよ」
晴は何も訂正しない。
「そういえば小雨、あんた受験勉強時によく妹の面倒を見てくれるわね、ほんとしっかりしてるわね」
「褒める程じゃなくない?」
「……」
「晴、そういうのはやめなさい」
「何で晴が悪いみたいになってるの?」
「誰も晴が悪いなんて言ってないだろ」
「晴、落ち着いーー」
「やっぱり晴のことはどうでもいいんだ!いつも小雨ばっか贔屓して!」
「あーあー、晴はそんなんだから学校でも嫌な事が怒るのよ」
「ちょっ……この時間から喧嘩はやめろよ」
慌てて止めようとするが二人は話を聞かない。お酒を飲んだお母さんは口が滑りやすく、思ったことをなんでも口に出してしまう。特性を持った妹とお酒を飲んだお母さんは相性は最悪だ。この状況を止められるのは小雨しかいない。
喧嘩はエスカレートしていくーー
「黙れこのクソババア!」
「あぁ?誰がクソババアだって?」
「早く外出ろ!」
「仕方ないでしょ!出られないんだから!」
晴は椅子から立ち上がり物を投げる。リモコン、お箸、水の入ったペットボトル。
小雨は立ち上がって妹を止めようとするが暴れて止められない。妹はお母さんの元へ行って二人の殴り合いが始まる。
その後妹はご飯を食べるのをやめて自分の部屋に籠ってしまった。小雨もご飯を食べるのをやめて、まずは投げられた物の片付けに移る。
いつも家族全員が晴に気を使って過ごしてるっていうのに私は愛されてないとか言う妹がイラつく。小雨は虚ろな目で物を拾っていきながら小声で呟いた。
「ほんっと、クソみたいな世界だな」
ご飯を食べた後、コンビニ行ってくると言って家を出ていく。あの家の空気が耐えられなかった。玄関を出ると小雨が夕日に反射してキラキラ降っているのが見えた。
一階に降りるため、エレベーターに向かう。その時とふと廊下から下を見た。
「今ここから落ちたら俺は……」
変なことを考えてしまった。親が死んだ後の妹の面倒は誰が見る?お父さんが仕事に行っている間お母さんと晴の喧嘩は誰が止める?と考えたら行動に移せない。しかし、ここで勇気を出したら楽になれる。そう考えたらとても魅力的に感じた。
小雨は飛び降りる。
「ははっ…ざまーみろ」
飛び降りた時、世界がスローモーションに見えた。ネットでみんな言っていたのはこういうことだったのだろうと実感できる。
小雨の体が水溜まりの地面を打とうとした時、何かが変わった。小雨の体は水溜まりの中に吸い込まれ、一瞬水中に居た気がしたがその後すぐにまるで世界が入れ替わったような現象が起きた。
「……は? 」
一面、草原だった。知らない匂い、所々に花が咲いており、気も生えていた。そして新緑の葉が空を舞っている。
向こうに見えたのは知らない街。俺はさっき飛び降りて死んだはずだった。だが今、知らない草原の上で仰向けで倒れている。
「これが異世界転移ってやつか?……ファンタジーの世界だけだと思ってたけど……」
状況が掴めない中、とりあえず起き上がった。周りを見てわかることはここは小雨が元いた世界とは違う世界だということ。持ち物は何も無い。たったそれだけ。
「……俺はこれからどうしろと?いや、転移したからには俺はここで生きてーー」
「あら、こんな所で子供が何をしているんですの?……あと、なかなか見ない格好だけれど」
声が聞こえて見上げた。綺麗なお姉さんだった。髪の毛を巻いた茶髪に少し露出した黒い派手なワンピース。胸にはとある組織らしい絵とその下にNo.十五と彫られたバッジが夕日の太陽に当たり、キラキラと目立つ。
「まずは挨拶からですわね、私はファミリー所属、ファミリー番号No.十五。エミル・クロウシアスですわ。以後お見知り置きを」
エミルと名乗る女はスカートの端を持ち上げお辞儀をした。
ファミリー。
なにかの組織だろうか。ファミリーと言う組織は漫画などでよく見るが果たして実際何なのか……急な言葉で小雨はますます混乱した。
「返事ぐらいしたらどうですの?」
彼女は返事をしない小雨に苛立っていた様子で彼に向かってリボンでデコレーションされた杖を向けた。
「お、俺は急にここに来ちゃって!ここってどこなんですか!」
必死だった。最初に出た言葉がこれなのは少しダサい気もしたがいきなり知らない世界に連れてこられてパニクった小雨はこれくらいの言葉しか出ない。
「何を言ってるんですの?急にここに来たって。死にたくないからって言い訳は通じませんわよ」
「知らねぇよそんなこと!」
「あら、口がだいぶ達者なこと」
彼女が持っている杖の先から光が溢れ出した。異世界なのだから魔法は当たり前なのだろうか。
「あなたは弱そうですし…目当てでも無さそうね。これ以上喋っても意味はないですわ」
「ええっ?!それだけは勘弁してくれ…!」
その言葉と共に光が爆発した。小雨は咄嗟に腕で顔を覆い、強く目を瞑った。もう死んだ。そう思ったが、次に目を開いた時は小雨の目の前に知らない人が立っていた。
「おいお前、こんな所で何をしてるんだ」
赤い目の、金髪で前髪は左センター分け、そして長い髪を結んだ青年が立っていた。身長は高く、恐らく175はあるだろう。自分がいた世界では見たことの無い、いかにもヨーロッパの王子って感じの見た目だった。
「っ!!……あんたは!ローレンスの!」
再び杖を向けて魔法を出そうとしたがローレンスと言う者が杖を蹴り飛ばして折った。
「詳しい話は後で聞く。お前は隠れておけ」
そう言って剣で彼女を切った。小雨はその間に近くにあった木の裏に座って隠れていた。
「っ…痛ったいわね!あんたと会う予定は無かったのに!!あんたたち覚えてなさい!」
そう言って傷を負ったエミルは煙幕を床に投げつけて消えた。
「……ああ…ありがとうございます!」
自分ができるのはお礼を言って第一印象を良くしてこの人に捨てられないようにすることだけ。今この状況でで頼れるのは彼だけだった。
「俺の名前はアラン。アラン・ローレンス。お前は?」
アランと名乗った男は木のそばで隠れて座っていた小雨の目の前でしゃがんで目を合わせた。最初見た時は怖そうだったが実際そうではないのかもしれない。
「俺は、小雨」
「コサメ?珍しい名前だな」
この国ではこのような名前は少ないのだろうか…いや、それ以前にないのかもしれない。剣をしまったアランは少し考えてから再び口を開いた。
「ここはファミリーの奴らがよく彷徨いているんだ。今回だって俺が来てなかったらお前、死んでたぞ。まぁあれは下っ端だし、頑張ったら勝てたと思うけど…」
「俺、異世界から来たんだ」
・ ・ ・
「は?」
アランは心底訳が分からなさそうな顔をしていた。小雨をマジマジと見て、観察した。
「お、俺ここの世界の人じゃないんです!!」
「それって…本当か?」
「本当だって!だってここの世界だとこの服装の人いないでしょうが!俺みたいな小雨って名前も少ないだろ!魔法も使えないし!」
必死に説明した。どうにか信じてもらおうと今考えつくことを全て言った。
「っ……あっはははは!」
アランは笑った。必死に説明してる小雨を見てて面白かったのだろう。実際小雨が説明を始めた時、最初こそ険しい顔をしていたが段々と表情が緩んで最終的には声をあげて笑った。
「まぁ信じるよ。お前嘘つかなさそうだし」
アランは笑って小雨に言った。このような面白い人に出会えるのはそうそうなかったため、今回は信じてみることにした。
「!!…よ、よかった〜!」
小雨は安堵して手で顔を覆った。唯一の理解者が現れた為、この先何とか生きていける未来の光がなんとか見えた。
「もう暗くなってきたし、お前は今日は宿に泊まれよ。お金は俺が出すから安心しろ」
アランは立ち上がって座っている小雨を立たせようと向けて手を伸ばした。
「…アランさんんん!俺はあなたに出会えて良かった!」
小雨はしくしく泣きながらアランの手を取って立ち上がった。
「アランでいいって」
泣いた小雨に少々驚いたが特に気にしなかった。さっきの軽い戦闘で服に付いたホコリを払ったり、泣き止むまで待っていた。
「うっ…アラン、一生ついて行きます!!」
5分経って何とか小雨は泣き止んだ。小雨の目元はまだ涙ぐんでいて、アランが自分の服の袖で何度か拭き取ってあげた。
「よし、泣き止んだみたいだな。じゃあ宿まで案内するから、ついてきな。」
「は、はい!」
街に向かって歩き始めたアランの半歩後ろを歩いた。
街は充分栄えていた。漫画でしか見たことの無い建物、服、ご飯。実際目にするととても新鮮で見ているだけで面白かった。その時、ふと頭にファミリーの事がよぎる。
「あのさ、ファミリーってなに?」
「ファミリーのことを知らないのか?異世界から来たんだから当然か…教えてやるよ。ファミリーのこと。」
ファミリー
あいつらは昔からある組織なんだ。最初の頃は平和だったが最近急に人に手を出すようになったんだ。ほんっとわけの分からない奴らだ。あいつらには「目標」があるみたいだが俺にもさっぱり分からない。
俺たちに手を出していることを考えると。とんでもない目標の可能性は十分にある。さっきの女も胸元のバッジを見る限りファミリーの人間だ。事実、ファミリーは既に何人もの罪を犯していない人の命を奪っているから早くとっ捕まえて警備隊に送らないと今後がかなりまずくなる。
ま、ざっくり話すとこんな感じだな。
「ファミリー…人を殺しまくるのは厄介だな…教えてくれてありがとう、アラン」
「全然いいよ、分からないことがあれば俺に言ってくれれば教えるからさ。……ところで、ひとつお願いと言っちゃなんだが……」
「……?」
「急にすまないが、ファミリーの目的を暴くのを手伝って欲しい。俺も長いことファミリーの事を追っているんだが、未だに何もわかっていない。危ないのもわかってるし……何かあれば俺が絶対守る。ここで合ったのも何かの縁…どうか、お願いだ」
アランは片手を小雨に差し出した。
そして小雨は考えた。ファミリーに関わるのは危険だとわかっている。だけど助けて貰ってはい終わりなんて小雨には出来なかった。
「……もちろん!俺にできることがあったら何でも言ってくれ!」
「ほ、本当か!ありがとう!」
2人は握手を交わした。ファミリーについて色々話をしていると宿が見えてきた。見た目はいかにも古い宿っていう感じだった。木で作られており、台風が来たら耐えられるか心配なぐらいだ。
「こんばんわ、クレア」
アランは宿に入るなりクレアという目が黄色くジト目でピンク髪の前髪は右下がりに斜めにカットされており、右に結ばれたサイドテールの白いワンピースを着た少女の所へ行った。見た感じ彼女がこの宿のオーナーだろうか。小学生低学年ぐらいの身長だったため、アランとの身長差が目立つ。
「アラン、久しぶりね。今日は何の用?」
「この子をしばらくこの宿に止めて欲しくてさ」
手で横にいる小雨を指して言った。
「なるほど、君、名前は?」
「俺の名前は小雨です!」
小雨はぺこりとお辞儀をした。彼女の小雨を見る目が痛かったが何とか耐えた。
「へー、珍しい名前ね。私はクレアよ」
「小雨は異世界から来たんだって。」
「…い、異世界?!」
クレアは驚いた。異世界から転移してくるなんて本にも何も書いていないし実例も聞いたことがなかったからだ。
「そうそう、だからしばらくここに泊めて欲しいんだ、ご飯付きで。」
「は…はぁ、値段高くなるけどそれでもいいの?」
異世界から来たと聞いて最初は驚いたが何とか受け入れたみたいだった。そして目をジトっとさせながらアランに聞いた。このお店は見た目は古っぽいがこの国の数少ない宿だったため、値段はそこそこましてやご飯付きだった。
「大丈夫大丈夫。心配しなくてもお金はあるし」
「でた、金持ちアピール」
「仕方ないだろ?事実だし」
「じゃあコサメ、案内するからついてきて」
「は、はい!」
「コサメ!また会おうな!」
そう言ってアランは店を出て言った。小雨は今日助けてくれたお礼を言おうとしたがアランはとっくに宿を出ていた。
「コサメ、早く来て」
クレアは小雨が来るように急かして階段を上がった。
2階は廊下が続いており、小雨が案内されたところは廊下の突き当たりの部屋だった。プレートには二〇七と書かれていた。
「ここよ、お風呂とトイレは1階、ご飯は私が持っていくわ。」
そう言って魔法で部屋の番号プレートのしたにコサメという文字を刻んだ。
「クレアさんも魔法使えるんだな」
小雨は感心したように魔法を使う姿を見た。自分では使えない、漫画でしか見たことの無い魔法を実際目にすると感動した。
「この世界ではほとんどの人が魔法を使えるはずよ。アランだって普段は魔法を使わない物理戦を好むけど魔法を使おうと思えば使えるし…今の話聞いてると異世界から来たってのは本当みたいね」
クレアは微笑んで小雨に向かって言った。
「うん、わかった。ありがとうクレア」
「ふん、この宿に泊まったからには早寝早起き1日3食。しっかりしてもらうわよ。とりあえずお風呂に入ってきなさい。その間にご飯を準備しておくから。パジャマはお風呂場のカゴに入ってるのをを使ってちょうだい」
そう言ってから先に階段を降りて晩ご飯を作りに行った。
「わかった、ありがとう!」
1階に降りたクレアを見届けてから小雨はお風呂に入りに行こうと思った。だがお風呂の場所が分からなかった。その場でしばらくうろついていたが壁に宿の地図が貼られていた為、何とかお風呂場まで辿り着いた。そうして服を脱ぎ、6畳くらいの風呂場に入った。備え付けのシャンプーとリンスで髪の毛を洗い、体も洗ってから湯船に浸かる。
「…ふぅ、今日は色んなことがあったな…」
今日あったことを振り返る。アランのこと、クレアのこと。ファミリーのこと。膨大な量の情報のせいで頭がパンクしそうになった。
「…はぁっ!」
お風呂場で使えもしない魔法をもしかしたらという気持ちで窓に向けて手を伸ばした。もちろん魔法は使えない。手を下ろして再び湯船の縁に背を預けた。親は今頃俺を必死に探しているのだろうか。それとも俺自身が元の世界にいなかったことになっているのか……でも優しくしてくれたアランとクレアに出会ってしまった。久しぶりの温もりを感じた。今思ていることを正直に言ってしまえば……
「帰りたくないなぁ」
お風呂を出てタオルで体の水気を取ってからクレアがあらかじめ用意してくれていた白いパジャマに腕を通した。サイズはピッタリ。髪の毛を乾かす為のドライヤーがなかったため、髪の毛を乾かすのは諦めて自分の部屋に入った。15畳くらいの部屋、窓にベッドにラグの上のローテーブル。クローゼットまで置かれていた。部屋を見渡すとローテーブルの上の食事とクレアに気がついた。
「あら、思っていたより早いわね」
クレアはちょうどご飯をセッティングしているところだった。
「あんた、髪の毛ぐらい乾かしなさいよ」
「だって俺魔法使えないし……」
「あらそうだったわね。」
クレアが指を鳴らすと小雨の髪の毛は一瞬で乾いた。
「す、すごい!ありがとうクレア!」
「別にこれくらい大したことないわよ。そんなことよりご飯が冷める前に早く食べちゃいなさい。」
「わー、すっごい美味しそう!」
小雨は思わず声に出た。テーブルの上には具沢山のトマトスープにパン。鶏肉の照り焼きに生ハムのサラダが置かれていた。異世界の食べ物を食べるのは初めてのことで少しテンションが上がった。
「当たり前よ、私が作る料理は絶品なんだから!他の人は魔法で作るけど私は魔法で作るより手作りの方が圧倒的に美味しいって思ってるのよ!おまけにあのアランでさえ私の料理を気に入ってくれているのよ」
クレアは自信満々に言った。クレアはよくアランの話題を出すのに気がついた。クレアはアランと仲がいいのかもしれない。
「じゃあ早速いただきまーす!」
小雨はまずトマトスープを1口飲んだ。飲むとすぐにトマトの酸味が口いっぱいに広がる。おまけにパンをつけて食べるともっと美味しかった。
「聞きたいことは色々あるけれど、今日はいっぱい食べて寝なさい」
疲れている人を癒せないのは宿を経営するクレアにとっては1番許せなかった。
「ふぅ、ご馳走様でした!」
紙ナプキンで口を拭った。元いた世界ではご飯の味はほとんど感じなかったため、久しぶりに美味しいご飯を食べることができて小雨は幸せを感じていた。
「じゃあ歯磨きしてきていいわよ、片付けとかは私がやっておくから」
「あ、そういえばアランってどこで会えるか知ってる?明日
会おうって言ってたけど、どこで待ち合わせなのかも聞いてなくて」
「アランのこと?、もう仲良くなったのね」
クレアはお盆をテーブルの上に置いてから少し考えて口を開いた。
「アランはよく変なことを企んだファミリーの下っ端の相手をしてるから草原辺りをウロウロしてたら会えるわ」
「おぼっちゃまなのに戦闘とかしに行くんだ?」
「アランは次男だから、ほとんど仕事が回ってこないのよ。アラン自身は暇だから〜とか言ってるけど本当は貴族がやる仕事じゃないからみんなやめてっていうけど言う事聞かないのよ」
「へぇ、そうだったんだ」
「詳しい事は明日話すから、もうあなたは寝なさい。じゃあまた明日」
そう言ってお盆に食器を載せて出ていった。取り残された小雨は洗面所に行って歯磨きをした。歯ブラシはロビーのアニメティコーナーから拝借したものだった。そうして歯磨きを終えた小雨は自分の部屋に戻りベッドにダイブする。
「ふぅ、おなかいっぱい!この世界、本当に夢みたいだな〜」
小雨は布団の上で足をバタバタさせる。やっとあの苦しみから開放された小雨は嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
しかし、余程疲労が溜まっていたのかすぐに夢の世界に入った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そうして冒頭に戻る。
「起きなさい!コサメ!」
そんな言葉と共に目覚めた。
ピンク髪のサイドテールの少女がドアを開けて俺に向かって叫んでいる。彼女の名はクレア。窓を見るともう朝だった。
「もう七時回ってるわよ!これ以上寝てると水ぶっかけるよ!」
魔力だろうか、クレアは小雨に向かってピンクの光がかった手を上げた。
「?!?!……起きる!起きるからその手を下ろして!」
小雨は必死にクレアの魔法の使用を止めようとしてすぐに飛び起きた。
「最初からそうしていれば良かったのに。朝ご飯持ってくるからちょっとまっててちょうだい。」
クレアは起きた小雨を見て片手を降ろした。どうやら今回は見逃してくれたらしい。そしてクレアはドアを閉めて出て行った。
小雨はベッドから降り、窓の縁に背を預ける。窓から差し込む朝日が小雨の顔に当たって眩しかった。
「ははっ、ライトノベルの世界かよ。そうだな、もし俺がこの物語を書く側になったとしたらタイトルは……」
窓から街の様子を見る。子供たちの遊ぶ姿や魔法を当たり前のように使う人々が小雨の水色の瞳に映る。前居た世界と大違い、正直小雨は二度とあの世界に戻りたくなかった。
小雨は顔を洗いに部屋のドアノブに手をかけた瞬間、いいタイトルが思いついたのかつい口に出てしまった。
「クソみたいな世界と決別を」
そう言って小雨は部屋から出て行った。
最後までお読みいただきありがとうございました!
毎日午前一時と午後十七時半に投稿しますので暇な時にお読みいただけたらなと思います!




