……まさかね?
三人はエミルを引きずって帰途に着く。空を見上げると星がテラテラと光っていた。
「えぇ……はい」
「じゃあよろしく頼む」
「……建物に誰かいるのか?」
小雨は建物の中からの声に耳を傾けながら本部の建物のドアノブを開ける。
そこには黒いワンピースを着こなし、白いロングヘアに瞳は鮮やかなピンク色。特に黒いケープと頭に着けているベールが特徴的な少女が大団長とちょうど喋り終わったところだった。
「リン、他の人から聞いたよ。この世界に来たばかりの子を森に連れて行ったんだってね?」
「えぇ?いいじゃないですか!」
「そういう問題じゃないんだよ」
エンゲルはニコニコしていた。ケインと小雨はその顔の裏にあるものを一瞬で理解したが、リンは何が悪いのか全くわかっていない様子だった。
「あー、メルト!久しぶり!」
「久しぶりですね、今ちょうど大団長とこれからのことについて話していたんです……ところでその方は……?」
リンが話題を変えた。
リンの知り合いだろうか、メルトという人はリンに微笑んでから視線を下に向けた。どうやらエミルのことが気になるらしい。
「メルトさん、久しぶりです。リンさんが持っているのはファミリーの人間です。先程退治した所でちょうど今からメルトさんの所へ持っていくところでした」
「あらあら、そうなんですね。これからは怪我人を教会まで持ってこなくても、私がたまに様子を見に行くことになりましたからよろしくお願いしますね」
メルトはケインの説明に納得が言ったように頷く。その表情を見ていると髪の毛の色が白いのが理由なのか、天使を思い出す。黙って様子を伺っていると、メルトと目が合った。その目はまるでこの世の全ても吸い込みそうな、そんな目をしていた。
「そちらの男の子、名前はなんて言うんですか?」
「俺は小雨って言います!」
「ふふっ、元気でいいですね」
小雨の元気な返事にメルトは再び柔らかく微笑んだ。隣にいたリンも和やかな表情で小雨とメルトのことを見ている。
「そういや大団長!コサメが寝る場所ないって言うから寮の一部屋貸してあげていい?」
「問題ない、是非貸してあげてくれ」
リンはエンゲルの返答に安堵した様子を見せた。もしここで断られていたら小雨の未来は野宿しか無かっただろう。
「じゃあ私はここで失礼しますね。こちらの女性の方も連れて行きますね」
「いつもありがとうございます、メルトさん」
「いいのいいの、これが私たちの仕事なんだから……ではエンゲルさん、ありがとうございました」
「こちらこそ、また会おう!」
メルトはケインの言葉に微笑んでから大団長にお別れの挨拶をし、本部を出て行った。
「あのさ、教会って言ってたけど怪我人連れて行って今から何する気なんだ?」
「そうだった、コサメはこの世界のこと何も知らないんだね。じゃああたしが教えてあげるよ!」
「え?!いいのか?」
「いいえ、リンさん。俺が説明しますよ」
ケインが口を挟んだ。先程の戦闘でリンは疲労が溜まっていて、師匠に対する気遣いなのだろう。今日は仕方なくリンの為に正直あまり気にいっていない小雨に教会についての説明をしてあげることにした。
「教会で働いているメルトさん、彼女は得意魔法、または回生魔法の持ち主で外傷、又は死後十二時間以内ならどんな傷でも癒すことができるんです。あの教会はこの街の病院でもあり、罪を犯した人の償いの場として使われています。簡単に言えば刑務所ですね……実際、有無罪はローレンス家で決めるそうです……この説明で分かりましたか?」
「おっけー、何となく理解した!」
「本当ですか?」
ケインの怪しげに小雨を見る視線が痛かった。その時、ケインの様子を見たエンゲルが小さく笑い声を上げた。
「ははっ、ケインは昔と変わってお喋りになったね」
「やっぱりエンゲルもそう思うよね?ケインったら初めて会った時は無口だったのに、警備兵になってから喋る事が増えたんですよ!」
「それはいいことだね……それはそうと、コサメくんをもりに連れて行ってどうだった?」
「コサメくんなら大活躍でしたよ?!ファミリーの魔法を受けそうになったあたしを助けてくれたんだから!」
エンゲルからの質問にリンは自慢げに森での出来事を語った。今朝に敵からの攻撃の避け方をちょーっと教えただけなのにもう戦い方を熟知していた。その事を知ったエンゲルはリンの最後の言葉に目を丸くした。
「短期間で剣を使いこなせる事はありえないよ、最低でも数ヶ月、長くて数年かかる……」
「でもできたじゃん?やっぱり才能っていうのはこういうことなんだね!」
「さすが異世界から来ただけあるね」
二人は小雨を褒めていた。その会話をケインと会話をしながらしれっと聞いていたつい頬が綻びそうになった。褒められるのはやはり嬉しいことだった。
「さ、二人共!今日は疲れたでしょうから早めに寝るのよ!」
「俺もう疲れた……ヘトヘトです」
小雨はその場で液体のように溶ける。朝から剣術の訓練、そして初めて見た魔物、ファミリーからの攻撃、一般人の小雨の体力はもう限界だった。
「リンさん、部屋の前まで送っていきます」
「えぇ?!でも今日はコサメくんの部屋を案内しないと行けないからそれもついてきてくれるならいいよ」
「……勿論お供致します」
小雨はケインの顔を見てリンの口から小雨という名詞が出た瞬間一瞬嫌そうな顔をしたのを見逃さなかった。
「じゃあエンゲル大団長、私たちはこれで失礼しますね〜!」
「夜更かしはしすぎないようにね」
エンゲルは扉が閉まるまで三人に向けて手を振り続けてくれた。
小雨は誰も使われていない寮の部屋を案内され、その日は各自自分の部屋で一夜を過ごす事となった。ベッドにダイブした小雨はすぐに眠りに落ちた。
小雨はその日から約一週間、訓練場で寝泊まりし、ほぼ一日中リンと手合わせをしたがなかなか勝てることは無かった。しかしあの森で自分がした事が未だに忘れられずにいた。
八日目の朝、三人は再び集まりリンは小雨と手合わせを、ケインは日が当たらないベンチに座ってパンを齧っていた。
「さぁ小雨!もう一週間経つんだからもうそろそろ一本取ってよね!」
「言われなくてもこっちは毎日一本取るつもりなんだよ!」
リンと小雨がお互い向かい合って今日の手合わせが始まった。最初に動いたのはリン、小雨は一週間もすればリンの動きが段々とわかってきた。リンが一番狙って来るのは頭で、避けた瞬間に右脇腹に攻撃を仕掛けてくること……
小雨は深呼吸してからリンの攻撃を次々と避けていく。
「おっ!避けれるようになったね、小雨!」
小雨を褒めながら次々と攻撃を仕掛けていくリン、しかしリンの事を段々と理解した小雨は木剣で攻撃を防ぎ、たまに一撃を入れるがリンは綺麗に避けて当たる気配がない。
内心小雨は焦っていた。一週間毎日訓練してきてまだリンには勝てない……今までの一週間、自分は何をしてきたんだ?自分で自分の身を護るんだ、もう誰かに頼る弱い自分にはならないーー
「……はぁっ!!」
「ええっ?!」
二人は距離を置いてお互いを伺っていた時、小雨はいきなり走り出した。ベンチに座ってパンを齧っていたケインは、小雨がただ頭がおかしくなったとしか思わなかったその時ーー
一本の木剣が空中に浮かび上がる。唖然とするリン、今までとは別人のようになった小雨。ケインがふと小雨を見た瞬間、パンを落としてベンチからガタッと立ち上がった。ケインのオレンジ色の瞳がグラグラと揺れる。
「……なんで、あいつが」
ケインは驚きで思わず思っていることが口に出た。ケインの様子に気がついたリンはケインに近づく。
「ケイン?大丈夫?」
「いや……大丈夫……です」
ケインはそのままパンを拾い、自分の部屋へ戻って行ってしまう。
「やったー!俺勝ったぞ!」
小雨は両手をあげて盛大に喜んだ。その様子にこっそり様子を見ていたエンゲルとルカは拍手を送った。
「すごいねコサメくん、一週間でリンに勝っちゃったよ。これならもう外でもやって行けるんじゃないか?」
「エンゲルの言う通りです」
小雨に一本取られたリンは、悔しそうに、それでも嬉しそうな顔をして小雨に言った。
「あたしの負けよ、コサメ。ここまでの実力があるんだったらもう帰ってもいいよ」
「よし!じゃあ俺帰るな〜!」
リンから一本を取ると流れるように訓練場から出て真っ先に向かったのはローレンス家だった。
「アラン!!俺リンから一本取ったぞ!」
小雨が玄関の前で叫ぶと中からドタドタと言う足音が聞こえてきた。途中でコケたのかベチャっと言う音も聞こえた。
「こ……コサメー!!リンから一本取ったのか?!すごいじゃないか!!」
アランは小雨より喜んでいた。小雨がアレクサンダー家の訓練場へ行くと決まってから気が気では無かったため、こうして笑顔で再会できたことに心から喜んだ。
「じゃあ早速俺と手合わせだ!」
「アランと?!」
「もちろん!コサメの成長を直で感じたいからな」
アランはそう言いながら庭にある道具倉庫から木剣を取り出して一つを小雨に投げた。小雨は木剣を受け取り、構える。
「わかった!絶対に俺が勝ーー」
勝者、アラン・ローレンス
勝負時間約一分
「聞いてないってこれは!」
「コサメよっわ〜」
アランは倒れているコサメをニヤニヤしながら見下した。
「もう一回戦、やろうか?」
「それはもう勘弁してくださーーーい!!」
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訓練場の寮の一部屋の布団の上でケインは仰向けに寝転がっていた。
「あの時確かに感じたんだ俺は……コサメから辿ってきた魔力に……!でもあいつは……周りの人はコサメの魔法に気がついていないし……そもそもあいつは異世界から来て魔法なんて持ってるわけがない……」
ケインは一人で考察を繰り広げていたところ、一つの可能性に辿り着いた。
「!!……まさか……な」
ケインは顔を手のひらで覆った。指の隙間から瞳が揺れている。しかしもしこれが本当なら今までの常識が覆されてしまう。魔法というものは本来、この地に生まれ育った者が持つものだ。
しかし唯一、この世界には後天性の魔法も存在する。
「ははっ……異世界から来たくせに特異魔法取得なんてありえないよな」
最後までお読み頂きありがとうございます!
実は一章もあと少しで終わりです!




