無茶振り
リンとケインと小雨はコロップ地方にある森へとやってきた。持ち物は三本の実践用の剣と応急処置用の救急キットのみ。
「むむむ無理無理!俺まだリンにさえ一撃入れてないのに!」
森に入りたがらない小雨はついそこにしゃがんでしまう。いざとなると小雨の中の恐怖が押し寄せてきた。見てリンは困ったような顔をする。森に入りたがらない小雨の様子を見たケインが口を開く。
「……そういえばコサメさんは警備兵ではないんですか?」
「警備兵じゃないよ!コサメは強くなりたいからって今朝ここに来たのよ!たまたま暇だった私が戦い方を教えてあげていたの」
「……ふーん」
小雨が警備兵ではないと知ったケインは次のリンの言葉に目を丸くするーー次の瞬間ケインの目付きが変わった。
「コーサメさん」
ケインは嫌がってしゃがんでいる小雨と目を合わせるようにしゃがんで小雨の右肩を掴んだ。そうして小雨の左耳に唇を寄せて囁く。
「コサメさん、リンさんの時間を無駄にするんですか?早く動かないと置いていきますよ……あ〜、ここに置いていかれたら魔物に食べられちゃうかもな〜?」
小雨はケインの囁きでバッと立ち上がった。初対面ではただの優しい青年だと思っていたがそれは大違いだと今ので確信した。
「行きます!行きます……けど」
「魔物が怖いの?大丈夫よ、あたしたちがついてるから」
リンは小雨の肩をポンポンと叩く。背後から謎の圧を感じが気にしないようにした。
「それじゃあおじゃましま〜す!」
リンに続き、小雨、ケインが続々と森の中に入る。生えている木はどれも高く、葉っぱのせいで辺りは薄暗い。葉の隙間から差す日光がちょこちょこある。
「ここからはいつでも魔物が来てもおかしくないから、気をつけてね。コサメも、今日は見てるだけでいいよ、無理に戦ってくれてもいいけどもしもの時に助かる保証は無いからね」
「は、はい!」
小雨は人生で一番緊張していた。今朝リンに首を跳ねられそうになった時の方がよっぽどマシな気がした。後ろから冷たい視線が送られているが今はそれに気を使っている暇は無い。その時ーー
「前方魔物一体!」
「了解です」
リンが叫ぶ。小雨には今どこに魔物がいたのか分からなかった。今の二人の掛け合いを見て小雨は少しかっこいいと思った。
「リンさん、俺がやりましょうか?」
「いいや?小雨にいい所見せたいからあたしがーー」
次の瞬間、森の木と木の間から魔物が飛び出てきた。全長はおよそ二メートルあるかないかくらいで、白猫のような魔物だった。四足歩行に猫らしい耳が生えている。しっぽは炎なのか、赤く燃えており、ヨダレを垂らした顔は何もかわいくなかった。その魔物は三人を見つけて低く唸る。
「コサメ、まずはあたしとケインの姿を見ててね!」
「くれぐれも離れないように」
リンとケインがそれぞれ言葉を放った後、二人は魔物に向かって剣を構える。その目つきはさっきと比べて一段と冷たい。さすが長い間経験を積んできた剣士だ。
「五分で終わらそう!」
「勿論です」
リンは魔物が動く前に先に魔物に向かって走り出した。魔物はそれに気がついて右手でリンにパンチを食らわせようとした所をーー
「油断しましたね……!」
ケインが魔物の手を斬りつけた。その剣は赤くなっていた。ケインは光属性の持ち主で、自分の剣を光によって高熱にし、ついでに火傷を負わせ、一時的に動きを封じ込めようたした。斬られた魔物の右手からは紫の血が溢れ出る。痛みを感じた魔物は更に大声で唸った。
「ありがとうケイン、後は任せて!あたしのとっておき、見せてあげる!」
リンはそう言った後、一人で魔物の前に立つ。ケインはリンを信用しているため、後はリンに任せることにし、小雨の隣に戻ってきた。
「リン一人で大丈夫なのか?!」
「あぁ、リンさんが二番隊の隊長なの、忘れたのか?」
その言葉を発したその瞬間、リンは再び魔物に向かって一瞬で間を詰め胸を斬りつけた。その瞬間ーー
「インフェクション!」
リンが特異能力を発動するために詠唱した。詠唱した直後、怪物に異変が起きた。白かった体は紫色になりぶくぶく膨れ上がっていき、最後には爆発して死んだ。
「い……今のは?」
「今のはリンの特異魔法だ。最後に切りつけた相手の身体の中に強力な細菌を生み出し感染させ死に至らせる。どう死ぬかはその時次第だか、警備兵の中でもトップクラスだと思うぞ」
「えっへへ〜!あたしすごいでしょ!」
リンが自分の右手を胸に当て、自信満々に二人に言い放つ。可愛い見た目だとしても随分と可愛くない能力を持つもんだなと心の中で小雨は思った。
「じゃあもうちょっと魔物狩りしてから帰ろう!」
「そうしましょうか」
「あ…あはは」
ケインはリンの言葉に賛成するが、小雨はもう正直帰りたかった。そのため嘘もつけず、ただ笑うことしか出来なかった。その小雨を見てイラついたのか、ケインはリンにバレないように小雨の足を踏んだ。
「いでっ……!」
「リンさんの前で変な態度を取るな」
「おーい!二人とも早く早く〜!」
先に進んでいたリンは二人に向かって叫んだ。それに気がついたケインは急いでリンの元へ向かう。
「リンさん危ない!」
横から小さい魔物が飛び出てリンにぶつかりそうになる……しかしぶつかる前にリンの後ろにいたケインが剣で魔物の首を斬る。その光景を剣を抱きしめながら見ていた小雨は魔物よりも二人の方が怖く思えてきた。
そうして魔物狩りもそろそろ終盤の頃、向こうに人の影が見えた。
「あの人こんな森に一人でいる……おーい!こんにちは〜!」
「り……リンさんそんなに無闇に話しかけないでください!もしもの事があるんですよ!」
「あれ……あの人は……」
「ん?小雨知ってるの?」
向こうに立つ人の姿を見た瞬間小雨の背筋が凍った。その人は小雨がこの世界に来て初めて出会った……
「エミル……だっけ?」
「?!あんたは……!」
エミルは挨拶も無しにいきなり小雨に向かって襲いかかる。その姿は獲物を見つけた猛獣のようだったーーしかし、リンとケインの二人が小雨の前に立ちはだかる。
「おいコサメ、あいつコサメのことを知っているようだがどんな関係だ」
ケインが後ろを振り向き、小雨に向かって聞く。
「あの人はファミリーの人間だ!でも多分一番弱い!」
「ファミリーね、最近私たちの国によく手を出してくれているじゃない」
リンは小雨の言葉を聞いた瞬間表情が固くなった。昔は敵対組織ではなかったファミリー、むしろナクライア国に対してすごく協力的だったと聞くが一体何があったのか、リンとケインには分からなかった。
「仕方ない、これは任務ですもの……大人しくそこの男の子を渡してくれたら今日は見逃して差し上げますわよ?」
「コサメくんは絶対渡せない!」
リンの決意が籠った言葉を聞いてエミルはイラつきが隠せない様子で一歩前に出た。
「任務と仰いましたけれど、具体的にはどんな任務なんですか?」
「それは言えないわ」
「……言えないなら、戦うしかないよね!」
リンはエミルに向かって走り出した。焦ったエミルは思わず一歩引く。しかし走り出したリンは止まることを知らない。
「ストップ!ここは穏便に行きましょう?」
「とても穏便に解決するのは無理そうですよ」
ケインも加勢する。
「……チッ、やっぱりナクライアの警備兵はロクな人間がいないですわね……」
エミルはリボンが巻かれたステッキを取り出し、自分の背後に魔法陣を出した。その魔法陣からは雷属性の魔法が込められており、紫色のオーラがエミルの身体と魔法陣からはっきりと出ていた。
「ではどちらの方が強いか、はっきりさせようじゃないですの」
「えぇ!でも戦わなくたって私の方が強いに決まってる……!」
「リンさんの言うとおりです」
二人は一斉に斬りにかかるが、エミルの魔法陣から出てくる雷の玉のせいで近づこうと思っても飛んでくる電気と熱のせいでなかなか近づけない。
二人は一度引いて再びエミルに立ち向かうがーー
「油断しましたわね!」
魔法陣からの雷の玉が一つ、隙を見つけて小雨の方に勢いよく近づいてくる。
「コサメ!!」
「コサメさん!」
「うわぁああああ!聞いてないってそれは!!」
小雨は驚いて剣を抱きしめて雷の玉から全速力で逃げ出した。しかしただの一般人である小雨は逃げ切れることもなくーー
「これ絶対逃げきれないって!」
雷の玉が小雨に当たることはなく、雷の玉は突然小雨が居ない別の方向へと向かい始めた。
「おや?コサメくんじゃないか、奇遇だね」
驚いた小雨は声の主の方向を見ると以前出会った赤髪の狐のような目をした男性がいた。
最後までお読み頂きありがとうございます!
最近涼しくなってきて筆の乗りも良いです♪




