少年の決意
リンの手に引っ張られ、訓練場の中に入る。ほかの人からの視線が痛かった。当たり前だ、女の子が男の子の手を引っ張って走っていると誰もがそういう関係と勘違いしてしまう。
手を引かれるがまま、小雨は訓練場の本部へと連れて行かれた。本部はそこまで広くはなく、中央にはテーブルがあり、壁の方には本棚や資料が沢山入った縦長の棚がある。
雰囲気的に自分が通っていた学校の事務室を思い出した。
「さぁ、椅子に座ってくれていいわよ」
「おじゃまします」
リンは小雨の向かい側に座ってニコッと小雨に笑いかけたその瞬間ーー
「さぁ、教えてもらおうかしら。君はどこの誰で何が目的でここに来たのか」
「ひいっ!」
小雨の首元には剣の先突きつけられていた。左に動かせばすぐに首が跳ねる位置。そんな展開に小雨は驚いて思わず悲鳴が出る。小雨の首元に剣を突きつけるリンは先程の優しい女性ではなかった。
「お…俺はここに転移してしまったんです!」
「……転移?……てん……い?」
「うんうんうんうん」
小雨は首がちぎれんばかりに頷いた。果たして初対面でこんなこと信じてくれるのかーー
「……へぇ、そうなんだ」
「もしかして信じてくれーー」
「るわけないでしょ、馬鹿じゃないの?」
「ですよねー」
小雨の額に冷や汗がダラダラと垂れる。答えられる前に大体は予想が着いていた。いきなり訓練場に来ては異世界から来たと言いきるいかにも怪しすぎる少年を誰が信じるか。
と、その時ーー
「ただいま〜、忘れ物取りに帰ってきたぞ……って」
部屋に入って来たのは先日宿で一瞬だけ喋った青髪の毛でヘアバンドをしているガタイがいい男。確か名前はーー
「リアム?さっき魔物狩りに行ったんじゃないの?」
「あっ……り、リアムさん!助けて欲しいでーー」
「あなたは少し黙ってて」
「ぎゃあ!」
首に突きつけられた剣が更に近づいた。ひんやりとした鉄の冷たさがダイレクトに伝わってくる。
「あれ、君はこの前宿にいた…」
「なに知り合い?」
「あぁ、この前ローレンスの次男に縛られてたところを見てな」
「やっぱり怪しいヤツじゃん!」
リンは椅子の上でガタガタと震えている小雨を睨む。しかしリアムはすぐに訂正を入れた。
「リンちゃん、誤解だ。その子実際には怪しいヤツじゃなくて、アランの友達なんだ」
「アランの……友達?」
リンはその言葉を聞いてしばらく固まってしまった。しかしすぐに剣を離して小雨に頭を下げた。
「ごめんなさい!あたしてっきり、ファミリーの人間か何かだと思ってた」
「全然全然!そんなことないです!俺が怪しい格好してるばっかりに!!」
二人はお互い何度も謝り合った。その姿はまるでスーパーで残り一つの商品をお互い譲り合うようは場面だった。
リアムはその光景を見てつい口を綻ばせた。
「そういえばコサメはどうしてここにいるんだ?」
「俺は異世界から来たんだ、だからこの世界で生きていくためにある程度力を手に入れるためにレオがここをオススメしてくれたんだ!」
「えっ?!コサメくん異世界から来たの?!」
「な……え?」
小雨の言葉を聞いた二人は驚愕した。小雨はそんな反応にもう慣れてしまったため、苦笑いしながら口を開いた。
「いや〜、ひょんなことから異世界に来ちゃって」
「なるほど……じゃあこの世界初心者って訳か」
「まさか異世界から転移した者がこの世界に来るとはな……じゃあそんな少年のためにここで戦闘の仕方を教えてやろう。俺が許可する」
小雨はリアムの言葉を聞いてお菓子を買ってくれた子供のように顔を輝かせた。
「ありがとうございます!」
「……まぁ、八割はローレンス家が後ろにいるから断れなかった。が正解だろうね」
「じゃあコサメ、健闘を祈っている」
リアムはそう言うと、忘れ物の救急キットをズボンのポケットに入れて部屋を出て行った。
部屋に残されたリンと小雨に一瞬気まずい空気が走った。先にリンが口を開く。
「じゃあ改めて紹介するね、あたしは国家警備兵二番隊隊長のリン・エドワーズ。隊長をしながら他の警備兵の育成もしてるの」
「俺異世界から来た小雨!無所属です!」
小雨の元気な自己紹介にリンは思わず口元に手を添えて笑う。しかしその後すぐ、真剣な顔をして小雨に向き合った。
「よし、コサメくん。君はいきなりこの世界に来たって聞いたけど、実際どれくらいの戦闘能力が欲しいって思ってる?」
「とりあえず自分の身を守れるくらいなら!」
「なるほど……」
リンはしばらく顎に右手を添えて考える。リンが嵌めている指先が出た手袋を見た小雨は思わずかっこいいと思ってしまう。たった小さな小物に小雨の厨二心はくすぐられた。
「じゃあこうしましょ、自分の身を守るくらいの技術なら一日で手に入る……けど、それだと勿体なくない?」
「まぁ俺も欲を言えばめっちゃバシバシ戦いたい!けど、俺魔法なんて何も持ってないし戦うなら魔法は必須だろ?」
リンは小雨の言葉を聞いて呆れた表情をした。その顔を見た小雨はもしかしたらという期待を心に込めるーー
「戦いに魔法が必須なんて、誰から聞いたの?」
「……聞いてないです」
「魔法だけで何とかできるなら警備兵なんて要らないの。アランの戦闘を見たっていう人はわかるんだけど、アランは得意魔法持ちなのにここ何年もその魔法を使わずにただの属性魔法だけを使って戦ってる……要するに私が言いたいのは、魔法がなくても簡単な戦闘なら十分できるってこと」
「……えぇ、でもただの一般人の俺にできっこーー」
「できる!!コサメならできる!私が保証するわ…でもアランみたいになれるとは思っちゃダメだよ?悪魔で簡単な戦闘なんだから」
小雨はリンの言葉を聞いた瞬間心に何かが響いた気がした。せっかくこの世界に来たんだったら、できることはやり尽くしてやるーー
「わかった…そこまで言うならやってやる!」
「そうそう!その意義だよ!」
リンは小雨の決意する姿を見て思わず次の声が高くなる。
本部の部屋にはしばらく二人の笑い声が響き渡った。
最高までお読み頂きありがとうございます!
小雨くんの成長を暖かい目で見守って頂ければ幸いです。




