97話 皆さま、しばし美しきバラの数々をご覧ください 3
兄上は今の状況で大きなため息をついて、会場に聞こえる様に言い放った
「当たり前だ。下下の者が王子の目となり手となり足となる。何にそんなに目くじらを立てる?陛下もそうではございませんか?一言いえば兵も命をかける。戦争がはじまる。民草の命などそのように軽いものです。尊き血を受け継いだ、我ら王家の一族は下下の者をそうして良い、力と権力があるのです。なのに私の側近たるサウスト…あの者が主君たる私の事をあのように言うなど死に値する、あの救護の者も。文官もだ!」
「そうですわ!大体王家の為に城に努める使用人たち風情が、あのように次代の王の事を語って言い訳がございません!今すぐ目の前に引っ立ててきなさい!」
アルドリック兄上にも、王妃様にもほとほと呆れてしまった。
「兄上?先ほどの者だけではありませんよ。兄上は自分の評価をどう見ているのです?」
「無礼ですよ!出来損ない!」
僕は手を上げる。そうするとまた新たな映像が映し出された。
「ではご自分達の目でお確かめください。」
【メイド達】
映像にはメイド長が映っている。その横には怪我をして、治療をした幾人かのメイドが居る。メイド長もお仕着せの隙間から包帯が覗いている。メイド長に
『第一王子が大きな失敗をして一ヶ月謹慎になる』
と伝えたところメイドたちの顔は曇っていった
『謹慎でございますか?そうですか…』
彼女たちは死刑宣告でもされたかの様な沈痛な顔をしてしまった。横から違うメイドが
『お食事を運ぶのは?』
『私が運ぶよ』
『側近の方が?まぁ本当ですの♡嬉しいですわ。』
『いつもお気遣い、ありがとうございます。気に入らないときはお食事をひっくり返すものですから、火傷をするものが多く、第一王子殿下のお世話をする方を見つけるのが大変なんです。』
『本当に側近の方には頭が上がりませんわ』
『本当に尊敬します』
と王子の世話をしたことがある包帯を巻いたメイドたちに、尊敬のまなざしを向けられている。
そこから映像は王宮の庭園に移動した。
【王宮庭師達】
『第一王子が大きな失敗をして一ヶ月謹慎になる』
と伝えたところ庭師たちは喜びに声を上げた。
『謹慎!?ほんとか!』
『良かった!!これでしばらくは庭を荒らされないし、変な要求をされなくなる。』
『親方たちが代々守ってきた王家のバラを要らん指示をして絶滅寸前まで持って行ったあの王子だけは許さないっす!!』
映像の言葉に陛下が兄上を睨みつける。兄上は顔を青くしていた。身に覚えがあるらしい…そのまま映像は王城の文官室のドアを叩く
【文官たち】
『第一王子が大きな失敗をして一ヶ月謹慎になる』
っと伝えたところ文官たちは憎々しげな顔をして、報告に来た者を睨んでいる。
『あの方だけには関わりたくありません。』
『あの方が次代になるなら私、城務やめます。』
『良いですね~めっちゃ遠い辺境行きましょう!』
『本当にあの方の案件だけは二度と持ち込まないでください』
バタン!!……扉を閉じられてしまった…。
扉の前で立っていた撮影者は少しして動き出す。そして小さな声で
『あの人どんだけ嫌われてんだろうな…そのせいで俺もメッチャ嫌われてるけど。……まぁそろそろ俺も辞めるけど
あ~でも俺が辞めるとメイドちゃんが可愛そうだしな…もう少しだけ殿下の側に居ても良いかな…あの人の周りって碌な奴いないからな…ハァこんな性格だから………逃げ遅れたんだよな…ホント最悪だ…』
映像はそこで終わりを告げた。
陛下は大きなため息をつくと大きく首を振った。陛下は兄上を見て問いかけた。
「アルドリック、お前はこの映像に出てきた側近の男をどう思う?」
「どう?陛下はおかしな事をおっしゃいますね。もちろんすぐさま当主ともども呼びつけ爵位はく奪いたします。」
陛下がアルドリック兄上を見る瞳から、希望も期待もが消えた気がした。兄上から視線を外し陛下はホールの王侯貴族に向かって声を上げた。
「皆の者、我がオーラシアン王国には三人の息子がいる。我は三人の息子のうちだれが一番次代に良いのかと今まで結論が出ていなかった。残念でならないが、本日この時をもって第二王子セフェリノは犯罪に手を染めた罪人として王族から追放し、ガルーダ殿が納得できる処罰とする。ガルーダ殿本当に申し訳なかった。夫人と令嬢の無事を今確認させている。もう少し待ってくれ。」
「「陛下!!どういうことですか!!」」
凄い形相で陛下に喰ってかかる王妃と、兄上は周りにいる騎士たちに止められている。その形相に、態度に会場の参加者たちは顔をしかめた。
「なぜ?そう問うのか…お前たちは揃いも揃って愚かな」
陛下は僕の方をみて、答えろと言わんばかりの視線が刺さる。
「S級冒険者一人いるだけで、国を守る剣にも盾にもなってくれる。ガルーダ殿は聖女様と懇意にしている夫人の為にこの国にとどまり、最北の領地の守護をしてくださっている。実質、北の辺境伯よりも堅牢な盾で剣。そして残念ながら彼一人いればこの国など軽く落とせることでしょう。兄上はそんな方のご婦人たちに手を出したと言う事です。」
僕の発言に陛下は頷き、兄や王妃は憎々しげに僕を睨んだ。
「夜会に参加した皆も今の映像を見て、先ほどの発言を聞いて、第一王子の人柄・功績。よく理解できただろう。そして先ほどこやつは言ったのだ、最後まで残り進言してくれる忠臣を切り捨てると。」
アルドリック兄上は陛下の言葉を聞いて、僕を睨んでいた視線を陛下に向けた
「陛下……?」
陛下は残念なものを見るような目で兄を見て
「民草が居るから国がある。民草が居るから王が居るのだ。それが解らぬものは王たる素質は無い。」
兄上は目を見開き、震え始めた。陛下は言葉をつづける
「次代は、第三王子 ルクレチア・ドゥ・オーラシアン と宣言する。
この夜会に参加されている皆が、次代の決定の目撃者となっただろう。後日王太子への任命式を執り行う。皆はこのまま夜会を楽しんでくれ」
そう言うと陛下は会場に背を向けた。




