67話 王都の人々【モブ令嬢 視点】【黄昏 視点】【…… 視点】
※後半暴力的な表現あります。 苦手な方はご注意ください。
窓から入る日差しが、赤髪の少年の髪をより一層美しく見せる。日差しの強い午後。
窓の外に生える広葉樹の葉と彼の髪色の対比が美しい
授業を受けていた彼は、ふと何かに気づき窓の方向を見て、破顔する。彼に見とれていた数人の女生徒は頬を染める。かくいう私もストーティオン令息に頬を染める一人である。
10歳の4の月から王立学園入学は貴族の義務とされているが、患っていた病気が完治したからと遅れて入学した彼は、とても聡明な方だった。物腰は柔らかく、女生徒には優しく、ミヤノマエ家のグレード様とすぐに仲良くなり、男子生徒からも気さくに話しかけられる、パーフェクトな令息。
しかもまだ婚約者も居ないとなると、令嬢はギラギラ視線で彼を見ている。
彼は、妹の話をする時はとても幸せそうで、そのお顔を見るのが私は、とても好き。
そして今日のようにふと顔をほころばせる時は、本当に鼻血が出そうになるくらい好き。何を見て顔をほころばせるのかはわからないけれど心は1つ
は~今日も眼福♡
あら~あら~イルイルもてもてね~。女の子達のお顔はすでに獲物を狩る肉食獣の様だわ~。でも彼の近くに悪意のありそうな気配はないわね~良いことだわ~。
イルイルの番になるにはアタシもそうだけど、カナカナと烏のお眼鏡にかなう令嬢じゃなきゃね~この中に居るかしら?フフフフ
イルイルの周りは良いのだけれど、最近何かと王都は嫌な気配があるのよね~気配をやたら探る魔力の動き。動きにくいったらないわ~
またあの城の人間が悪さしなければいいのだけれど~
あの時、城に居たアタシの世話をしてくれていた彼は無事かしら?
恰好からして普通の使用人では無かったと思うのだけれども………いつも傷を作って切なそうに笑っていた彼。
•••ちょっと彼の様子を見たくなっちゃった~学園に居るイルイルは今は問題なさそうだし、ちょっと覗きに行ってみようかしら~
「ヒヒ~~ン」
このアタシの軽はずみな行動でこの後その「彼」を巻き込む大騒ぎになる事を今のアタシは知らない
「なんか馬の声聞こえた?」
窓の方を見上げグレードは声をかけてきた。そうか皆には普通に馬の声なんだな。僕には「ちょっとお出かけしてくるわ~」って聞こえたからな。僕は窓の外を見ながら
「そう?ごめん僕聞こえなかったけど」
とニッコリ笑った。
◆◇◆
王都離宮
「ゲホッゲホ……」
木刀で背中を叩かれ倒れ、せき込む青年は身体中傷だらけになっている。そんな青年の周りに立つのは木刀を持った男が二人。その周りには複数の騎士
「弱いな~そんなんで国が守れるか?自分を守れるのか?あぁ?」
倒れこんでいる青年はハァハァと息が整わない中、木刀を持った一人の男に蹴られ、ひっくり返された。青年の顔は空に向き男達の顔が自分を見下しあざけり笑う姿が目に入る。しかし、体中から痛みが這い回って男の言葉も虚ろな中、聞いている状態だ。そしてもう一人の男が憎々し気に顔をゆがめ青年に馬乗りになる。男の体重で傷だらけの身体と骨が悲鳴を上げている。青年は苦しくて顔をゆがめる。青年の歪んだ顔を見て男は口角を上げ
「お前の護衛はまた一人怪我を負ったそうだな。これで何人目だ~」
楽しそうに笑いながら言う。そう、青年の護衛は昨日青年を庇い腕を失ったのだ。その護衛は小さい頃から青年を守る兄の様な存在の人物であった。
「お前みたいな後ろ盾もない奴をかばうなんて仕事でも騎士が哀れでならないな~」
青年は本当の兄たちからは幼いころからこんな扱いを受けてきた。自分が反撃をしようものなら正妃の彼らの母親が出てくる。そうしていびられ続け母様は死んだ。父様は私のことなど見向きもしない。それでも私を慈しみ育ててくれた臣下や、助力してくれる宰相、聖女様が居る。だから頑張って来れた。なのに大切な護衛がまた一人騎士の道を断たれた。私のせいで
私の……悔しさから涙が溢れてくる。
「ははは16にもなって人前で泣くとは、身体も心も半人前だなぁハハハ」
男達は青年の涙を見て満足したのか飽きたとばかりに唾を吐いて立ち去った。青年は痛む身体をゆっくり起こそうと動いて、あまりの痛さに息が止まった。
ハァ、ハァ…ゆっくり呼吸を戻し、大きな藍色の瞳から落ちる水滴も下を向いて見ていると
パシャリ
突然頭から水をかけられた。兄たちが戻ってきたのかと身を固めるが、少ししても何も起きない…兄たちとは違う?…そう思ったところで
「ブヒヒン~」
その声を聞いたとたん青年はバッと頭を上げた。青年の前には立派な黒毛の大きな馬がいた。
その馬は口に瓶を加えていた。身体が先ほどまでの痛みよりかなり緩和されていることにビックリした。青年は馬を見上げ
「君がポーションをかけてくれたの?」
「ブッヒヒン」
馬はそうだよと言わんばかりに首をたてに振り、そしてしっぽを横にフル。手入れされた美しい馬。まるであのピンク色の馬のようだ、馬に見惚れていると、馬の方から青年の顔に顔を寄せてきてすりすりとさすってくれた。先ほどまでの苦い気持ちがその小さな優しさに決壊し青年は久しく我慢していた涙を馬に縋ってボロボロとこぼしていた。
苦しくてでも、自分がしっかりしないと臣下たちが傷つく。そう思って何も持たない肩書だけの王子の私はこの場所に立っている。苦しい。辛い。悲しい。寂しい。悲しい。いろいろな感情が爆発したかのように泣いた。
泣いている私をどう思ったのか馬が私の首根っこを咥え
空に放り投げられた。
「え?」
思考は何があったのか理解する前に放り投げられたその場に馬が来て気が付けば私は黒毛の馬にまたがり、空を飛んでいた。
「え?えぇぇぇぇ!!!!!」
さっきまでの悲しみとは違う困惑と恐怖で私は大声を上げて馬にしがみ付いた。




