52話 悪徳伯爵を懲らしめよう! ざまぁ編
「なぜ、いまだに奴らから連絡が来ないのだ!」
私は机に拳を叩きつけ机の上にあったグラスは、中の液体ごと床に落ちた。液体はじわじわと敷いていた絨毯に広がりまるで血の跡のごとく赤く染まっていった。それを見て私は、机の上に置いてあった鈴を鳴らし執事を呼ぶ。コンコン
「入れ!」
「まだ私宛の者は来ないのか!」
「まだでございます。」
執事は一礼をして、床に散らばったガラスやシミを取り除くためにメイドたちを呼んだ。私はソファーに移動するとがくがくと足を揺らす。その姿を静かに見られているとも知らず。
机にはいろいろな書類が散乱しており、領地に関する決裁待ちの書類も多くある。そんな書類には目もくれず、ただ私は来るはずの知らせを待っている。
ドゴドゴドゴ!ヒヒーン!
突然床を揺らすような音が響き馬の声が届いた、私は顔を上げ”待ち人”が来たと席を立ち玄関ホールに出た。ホールに走って出た私の目には”待ち人”とは違う人物が立っていた
騎士団を背後に立つのは、ミハイル・ストーティオン 死んだとされている息子だ。その横には黒髪に黒い瞳の白いローブの女。女は嬉しそうに紙を取り出しつぶやき始めるとミハイルと一緒にゆっくりこちらに歩いてくる。私は一歩後ずさりをしようとしたが…体が動かない!え?突然何が起こったんだ?体が言う事を一切聞かない。ミハイルは私の横に来ると女の持っている紙が光りだし
「聖女 アヤネの名のもとに、この診断に嘘偽りがない事を神に誓います。」
女の言葉が終わると紙から黄色の魔法陣が浮かび上がり、私とミハイルを包み込むと、くるくると魔法陣が回り始めゆっくり赤く染まり、用紙は真っ赤な文字の羅列が並んだ。
私はそこでようやくその紙の意味に気づいた。
教会で行っている、血縁を調べる検査魔法陣の用紙だ!私は血の気が引き、背中には嫌な汗が流れた。動けない状態でこの窮地を超えるため思考だけは動かしていった。そんな私を黒髪の女は口角を上げ、あざ笑うかのように言葉を発した
「あら、おかしいですわね~。赤ですか~?赤は血縁関係が無しになるのですがおかしいですねぇ~」
ミハイルは眉根に皺をよせ私を見て困惑して、私から一歩二歩と離れていく。
そんなミハイルの背後から前伯爵夫妻が出てきた。小さな少女を連れて。前伯爵夫妻はミハイルの背後に立ち、その少女はミハイルの隣に立つ。ミハイルの手を握り、「頑張って」と励ます………ミハイルは優しい笑顔を少女に向けた後、こちらに向き直り私と目を合わせた。
「僕の名はミハイル・ストーティオン。
僕の父は、『フェランド』フェランド・ストーティオン。母はラミラ・ストーティオン。貴方の名前を見せていただきます。
名前:ギルランド・ウルクス
年齢:35歳
種族:人族
職業:詐欺師/簒奪者
レベル:20
体力 : 180
魔力 : 80
攻撃力: 55
防御力: 150(+100)
俊敏性: 30
運 : 80
称号 : 欲深き殺人犯
スキル: 口車(7)・偽装(8)
犯罪歴: 殺人・脅迫・詐欺・偽証・簒奪・背信
固有スキル: 変化
あぁ、『ウルクス』は父の実家の家名ですね。父の血縁者ですか。簒奪者とは恐れ入りましたよ。叔父上」
私は目を向けた。なぜわかる?なぜこいつが鑑定を使える?どういう事だ?
弟はそんな事何も言ってなかった。いやあいつの事だ、妻にしか興味が無かったのか、と言うか、さっき黒髪の女はなんて言った?聖女と言わなかったか?なぜ10歳のガキに聖女が付いているんだ!
「ウルクス…あぁ王立学園で有名な悪童、ウルクスの双子の片割れか」
私の背後から黒い装束の男が現れた。いつからいた!目の前からも金髪の男が現れて
「兄がお金にだらしなく、弟は女にだらしない。トラブルの絶えないウルクスの悪童だったかな?私が通っている時に過去にそういう先輩が居たと王立学園の先生方から聞いたよ。君がお金にだらしない方の兄 ギルランド・ウルクスだね。」
金髪の男は私の前に書状を開いて見せる。
「伯爵家の簒奪を企て、伯爵家当主夫妻の殺害・および次期伯爵の息子の殺害依頼・前伯爵夫妻への『暗転の厄災』への殺害依頼。以上の罪状をもってギルランド・ウルクスへの捕縛命令が王家の名のもとに出された。
『ウルクス子爵家』は簒奪者を輩出したため爵位はく奪の上取り潰しが決定。
貴方は叩けばいっぱい何かが出そうですね。その埃も、膿も出し切ってから首をはねていただきましょうね」
金髪の男はニッコリと笑って騎士たちに捕縛指示を出し、私は縄でぐるぐる巻きにされて、ようやく体が自分の意志で動くようになった。私はミハイルを見て大声で叫んだ!
「お前の母親が日に日に弱っていくのを見るしかなかった無力なガキが!!いきなり何なんだ!あと少しだったんだ!私の夢が!野望が!呪ってやる!呪ってやるからな!!」
私が叫び終わるや否や何かが覆いかぶさった!水の玉か!なんだこれは!私は手足を拘束されているせいで転がりながらもがくが外れない。気が遠くなりかけた瞬間、水の玉は私から外れミハイルの胸に飛び込んだ
「ウハハ……」
「ウーーーハハ!ウハハ!ウハハヴハハ!」
ウハハと呼ばれた水の玉は、必死にミハイルに訴えている、何だあれはスライムか?少女が通訳をするようにスライムの気持ちを伝えている。その言葉を聞きながら先ほどまで私を追い詰めていた顔は崩れ大きな空色の瞳から雫が溢れて出てきている、やはりあいつはただの無力なガキだ…聖女と言う後ろ盾を持ったただの…
倒れこむ私の上に影が差す。そちらに視線を向けて後悔した。今にも殺さんばかりの殺意を向ける黒装束の男…男は周りに聞こえない声で私に語り掛けた。
「恨むなら自分の所業を恨むが良い。毎日毎夜いい夢を見せてやろう。お前がどれだけ愚かで生きていく価値のない人間か毎夜心に刻むがいい。優しい俺の家族を傷つけた報い受け取るがいいさ。」
そう私に言って男はミハイル達の元に行くと全員を抱きしめた。先ほど私に向けた殺気などみじんも感じさせない穏やかな顔で大切そうに。
だめだ私は一瞬で悟った。
聖女よりも何よりもこの男を敵に回した自分の愚かさに。毎夜と言った、夜が来ることにこれから私は恐怖するのかと背筋に冷たい何かが滑って行った。




