51話 悪徳伯爵を懲らしめよう! 休息編
ピィピピピ、チィチチチ。
小鳥たちの愛らしい鳴き声が、耳に心地よく響く。ゆっくりと目を覚まさせてくれる。カーテンの隙間から差し込む光の筋に舞う埃がキラキラときれいに輝く、まだ少しぼんやりとする頭で、今何時なのかを確かめようと、ゆっくりと体を起こした。
「うはは♡」
「おはようウハハ」
今日はウハハ目覚ましよりも早く起きたようだ。ここはどこだっけ?あーー確か街はずれのお家に刺客ホイホイのために泊まったんだっけ?
刺客来たのかな?
室内履きを履きポテポテと階段を下りる。階下にはリビングになっているオープンスペースがありそのソファーに寝そべって寝ているトーさん?
あれ?部屋で寝なかったのかな……私は一度部屋に戻って掛け布団をアイテムボックスに入れてトーさんの所に駆け寄り掛け布団をかけた。警備の手伝いをしていたのかな?お疲れ様です。
踏み台を用意してキッチンで、癒水生成でやかんに水を入れ、コンロに火をつけ、やかんを置く。珈琲の準備をし始める。トーさんの分も淹れてアイテムBOXに入れておこう。あとは朝ごはんはパンの方が良いか。食パンに目玉焼きとチーズ乗っけて、野菜サラダを用意しよう。人数は…全員で~ウハハも合わせて8人分かな。食パン8枚。卵に、チーズと出していく。最後にマイフライパンとマイ鍋をコンロにセット
カチャカチャ、コンコン、カパ。料理をする音が静かな館内に響く。
「おはよう、カナ今日は早いね。」
「お兄ちゃん、おはよう」
お兄ちゃんが起きてきて朝の挨拶をしてくれる。今日は紺色のハーフパンツに上は白色のシャツと紺色のベスト。白いひざ下の靴下を履いたかわいい男の子の装いだ。フフ
「お兄ちゃんも珈琲飲む?」
「ミルクあったら珈琲に入れてほしいな」
「分かった。もう少ししたらトーストもできるから一緒に出すね。顔を洗った?」
「洗ってくる。」
お兄ちゃんは忘れていた!!と急いで洗面所に走って行った。キッチンには8枚のお皿を並べ、次々にパンにチーズをのせて焼いては上に目玉焼きを置いていく。野菜サラダはコールスローにして細かく切ったベーコンをカリカリにしてのせて出来上がり。
お兄ちゃんが戻ってきた。
「お兄ちゃん、ヤマトさんとエドモンドさんにご飯だよって声かけて~」
「はーい」
お兄ちゃんはまたパタパタと走っていく。上の階からガチャ。パタンとドアが開く音が続く。あ!!皆起きたかな?
表からもヤマトさんと、エドモンドさんがお兄ちゃんと一緒に入ってくる。
「黄昏様の御飯は用意してきたよ」
「ありがとう、お兄ちゃん。じゃあ食堂に出来たごはん皆で運んでほしい。」
「いい匂いだな~カナメちゃん、朝ごはん作ってくれてありがとう」
鼻をクンクンさせてにおいをかぎながら嬉しそうにエドモンドさんが声をかけてくれる
「簡単な野外料理ですけどね。」
「烏さんのはアイテムボックスに入れておいてあげて。1時間前くらいに帰って来たんだよ。」
「はーい」
トーさん出かけてたんだ。たまに夜お仕事で出かけるもんね~。お疲れ様だね。兄さんと顔を見合わせ笑顔で頷いてそっとしておくと決める。
スープは作り置きの玉ねぎのコンソメスープ。鍋のまま食堂に運んでその場で配膳しよう。お鍋はヤマトさんが運んでくれる。大きいの羨ましいな~。
食堂に着くと前伯爵夫妻はまだなので、夫妻の食事も一度アイテムボックスに入れておく。配膳が終わったらお兄ちゃんと手を合わせて
「「いただきます」」
それを見たエドモンドさんとヤマトさんも手を合わせて
「「いただきます」」
みんなでご飯嬉しいな♡お兄ちゃんと一緒に笑顔でご飯。
伯爵を追い込む準備が出来るまでの間の休息は平和です。
【前ストーティオン伯爵 視点】
「あなたミハイルが手伝いをしています」
妻は私の腕を握り閉め涙を流している。ミハイルが8歳になる年に、妻の病気が発覚し、娘に伯爵を継がせ、あの男の勧める医師に罹るため王都に来てしまった。その後妻の容体は悪化し、違う知り合いの聖職者にも相談しようとした頃周りに監視らしき人間が居るようになって動きが取れなくなった。
妻を人質に取られている状態でどうにもできないときに、騎士を連れた聖女様が来てくれて、完治してくれた。妻は病気ではなく……毒による中毒症状だった。その現実だけでも受け入れがたかったのだが、聖女様からもたらされて、伯爵家の現状はひどいものだった。領地にぎりぎりまでの税を課し、娘は他界。孫は殺されかけて保護されていると……。
あの時娘に家督を譲らなければ、こんな事にはならなかった…すまないラミラ……
「あぁ、彼女の本当の兄の様だ」
2階の踊り場からそっと階下を見下ろしながら私と妻は孫の成長をみて涙ぐむ。二人で静かに階段を下りる。ソファーには上掛けをかけられて寝ているクロト殿。彼にも感謝しきれない恩がある。
『前ストーティオン伯爵の奥方様を救ってほしい。母親を殺された、この子が命の危険なく安心して伯爵邸に戻るためにお願いします。』
怪しげな見た目と反して誠実な思いを、あの時聖女様の後ろに立って夫婦で目の当たりにして、ミハイルを助けてくださったのがこの親子で良かったと神に感謝した。
食堂では賑やかに食事が進んでいる。そっと食堂を覗くとミハイルは彼女と笑いながら、10歳の子供らしく食事をしていた。
昨日私たちに見せた懺悔の言葉もあの表情もおよそ10歳が抱えるには重い想いだっただろうに、小さな体に背負わせてしまった事を私たちは、残りの人生動ける限りあの子を支える事で返していこう。
妻も私もこの泣きはらした顔では皆の前に出るに出られないのでもう少し待たなくては。
私は腕に回した妻の手に反対の手を添えて妻に微笑みかけた。
「君も私もこの顔では皆の前には出れないな。もう少ししてから食事にしよう」
「はい。あなた」
「少し庭を散歩するか?」
「そうですわね」
妻と扉の方に歩いて行こうとすると、後ろから声がかかった
「敷地外には出ないで下さいよ。前ストーティオン伯爵夫妻」
ソファーから起き上がり大あくびをしながら言ってきた。
「あんたがたが怪我でもしようもんなら気丈に振舞っているイルが崩れかねないからな。」
「分かっているよ。お気遣いありがとうクロト殿」
私たちはクロト殿に一礼すると扉の外に出た。
外は肌寒く澄んだ空気の中、綺麗な水色の空が広がり、遠くの山々がくっきりと見える。空を見上げラミラを想う。
「彼女は空を見上げ笑う子だった。」
「私たちに見えない何かとおしゃべりするようにいつも庭に出てニコニコしていたわね」
「同じ令嬢の友人は一人も居ないのに」
「フフッ、彼女の唯一の友人はピンク色の珍しいお馬さんだったわ。懐かしい」
娘の瞳の色の澄んだ水色の空を見て私たちはまたも目から雫がこぼれだす。あの馬は今どうしているのだろうか、幸せにしているといいな。そう思いながら見上げる空に影が差す。
「ヒヒン!!」
とても大きい黒毛の馬がこちらを見ていた。心配そうにこちらを覗き込む顔に、見覚えがあった。まるで娘に寄り添い、会いに来てくれていた馬のようにきれいな馬だ。
泣いていた妻の顔に鼻面を押し当てて、泣かないでと言うようなしぐさに、慰められる。私は馬の首をなでながら
「優しいきれいなお馬さん、ありがとう」
目に溜まっていた雫がまた落ちた。今だけだ。今だけ優しい馬に慰められた感動で泣いても良いだろう。




