323話 闇属性の男
廃墟と化した元公爵家の地下からぼそぼそとした男たちの声がする。
上階にあった高価な家具のほとんどは運び出され、残っているのは壊れた残骸ばかりだった。
だが地下は別だった。
豪奢な家具がいくつも残され、その上で場違いな男達が酒を飲んでいた。
テーブルに汚い足を乗っけてふんぞり返り酒を飲む。
「まったく、こんな簡単な仕事に、良い金払ってお貴族様は馬鹿だよな~」
「楽な仕事で、大金もらえるんだ。黙っておけ」
剣を磨きながら鼻で笑う者。
その男の横でちびりちびりと酒を飲みながら本を読む者。
「楽って言っても兄貴がいなけりゃ俺らには出来なかっただろ」
「違いねぇー」
そう言いながら奥にある執務室らしき机に座り後ろを向いている男に皆が杯を掲げて言う。
「兄貴に乾杯!」
「乾杯!!」
「乾杯」
そう言って皆がコップに注いだ酒を煽る。
「いいね~こういう酒は楽しいな」
「お前はどんな酒でも旨いって言うだろーが」
「違いねぇー」
わははと笑う男達。そんな声が聞こえていないのか兄貴と呼ばれた男がガタリと立ち上がり言葉を漏らした。
「イーガが…一瞬でやられた」
その言葉に、持っていた酒のグラスを壁に叩きつけ、男たちは武器を準備した。
「イーガがあっさりとやられるなんてとんでもない奴が入って来たって事か」
「いや…感じる気配はあれだ、子供が迷い込んだくらいの小さな気配だが、
イーガがやられるんだ、感知出来てねぇ奴が居るって事だ」
「お前ら気を引き締めて懸かれ」
その言葉を合図に、男たちは気配を薄くしながら部屋を出て行った。
部屋に残ったのは兄貴と呼ばれた男だけ。
「この宝珠は返さない。これは俺たちの主様のものだ」
男はそう言うと小さな小箱を懐にしまい部屋を出た。
その時点で何か得体のしれない者の気配を察知した男は、辺りをきょろきょろと見渡し口角を上げた。
「なるほど。俺と同じ闇の属性か。水属性のイーガじゃ分が悪いな」
そう言いながら、部屋の通路の壁を睨み言葉を続ける。
「出てこいよ。同属さんよ~」
その言葉を受けて、壁が揺らぎはじめ、現れたのは――
三歳ほどの黒髪の幼児と、赤髪の少年。
幼児は顎をさすりながら面白そうに笑い、背後の少年はこちらを緊張しながら睨みつけてきた。
男は数度まばたきをした。
「おいおい……嘘だろ……」
「何が嘘なのだ?」
目の前の幼児が不思議そうに首をコテリと傾げる様子に男はカチンときた。
「おいおい、俺を甘く見るなよ。
お前の姿かたちが、まやかしだってことぐらい、同属なら分かるぞ」
そう言って男は、黒刃の剣をこちらへ向け、皮肉げに顔を歪めた。
「お前も闇属性なんだ」
男は幼児と距離を計りながらゆっくり横に移動する。
「コソコソコソコソ生きていくしかないんだろ」
「だから姿を変えて生きているんだろ!俺も姿変えの魔法を会得したかった。そうすりゃもう少し生きやすかっただろうさ。」
「……」
男の話を聞いていた赤髪の少年が、まるで学園で教師に対する様に手を上げて質問してきた。
「あの…それはいつのお話ですか?」
男はその質問に面食らいながら怒鳴るように返答する。
「はぁ?今だよ!今!!」
「今?」
少年はコテリと首をかしげる。
「今はある闇魔法使いの活躍で、闇魔法使いは重宝されていますよ?」
「……何を言っている?」
少年の言葉に男は困惑している様子で目を見開く。少年はそのまま言葉を続けた。
「特に錬金術界隈では引っ張りだこですね」
「あぁ…トーはいつも大変そうだな」
大きなため息とばかりに息を吐いた幼児は、そのまま誰かの事を思い困った顔をしながら、目の前の子供たちは会話を始める。
「ほんと、冬の間も毎日頑張っていたよね」
「錬金ギルドも無茶ばかり言う。一度あそこは灰にしてもいいのではないか?」
「コーくん、目が座ってる。座ってる」
赤髪の少年が、幼児をたしなめているその姿を見ながら俺は構えた剣をぐっと持ち直し二人を睨みつけた。
「お前ら何の話をしている?」
俺の苛立たしげな言葉にも、臆することなく目の前の彼らは言葉を紡ぐ。
「今の世の中で、一番活躍している闇属性の人の話?かな」
「我も、カナたちと共に過ごしだしてから一度も…そう言えば一度も闇属性にケチをつけられた事はなかったのぉ」
幼児は俺を見据えて真顔で
「――時代とは、ほんの些細な出来事で、こうも変わるのだよ。若人よ。」
幼児の視線、言葉、すべてに鳥肌が立った。俺は後方に飛びのいた。
先ほどまで俺が居た足元から繊維の様な細い細い闇の糸が目視できるぐらい集まっていた。
それは影をより集めた闇属性の拘束術。
イーガはこれにやられたのか――――
「この繊細な魔力の編み方、お前は何者だ!」
俺の言葉に、幼児は両手を広げニヤリと笑う。
「さぁて?その問いの答えは自分でたどり着く方が楽しいであろうて」
そう言った途端、幼児の足元から無数の闇の触手が現れた。
「その答えが知りたいならかかってくるがよい。
主は筋がよさそうだ。トーの助手として我が育ててやろう」
そう言った途端、周囲を埋め尽くす闇の触手が俺を標的として襲い掛かってきた。
辺りの空間を埋め尽くす黒に赤い髪の少年の色が、俺の視界に引っかかった。
驚愕に見開かれた赤い瞳だけが、妙に脳裏へ焼き付いた。
その姿を最後に俺は大量の闇に飲まれ意識が途切れた。
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