324話 辺境にいらっしゃ~い!
青く澄み切った空に、”ヒュッ”と言う音が響いた瞬間、空気を震わせる鳴き声が響き渡る。
「ギャァァァーーーー!! 」
遠くで鳴き声が消えた直後、どさりと何かが落ちる音がした。
俺はその音を聞いて口角を上げた。
「ガルーダの方も順調そうだ」
先程俺が仕留めた金色の尾羽を持つ鳥を、闇沼に収納してから立ち上がった。
◇◇◇
俺達は今、宰相の言っていた金冠鳥を獲りに来ている。
スピードが速く、臆病なため、目撃情報もあまりない鳥で、一般的には、西の商業地方に行く山脈に住んでいるとされているが、意外にも王都の近くの山に生息しているのをガルーダが知っていた。
Aランク冒険者の捕獲率はそんなに高くない鳥ではあるが、
もうすでに俺の方で2羽。ガルーダの方でも何羽か狩っているだろう。
さて、王都に着いて早々の呼び出しで出てきてしまったから、そろそろ戻るか。
聖女が失せ物探しに動くと言っていたが…なんか嫌な予感がするんだよな~
カナに迷惑かけてなければいいのだが…
俺がそんな風に思っていると、目の前にふわりと金色の玉が現れた。
それがくるりと回転すると、ササの契約精霊のヴィーチェが姿を現した。
『こちらは、金冠鳥確保完了~。クロトは?』
「こちらも目標数完了だ。」
『上々。今回の依頼は楽でよかった』
「同感だ」
『失せもの探し大丈夫だと思う?』
「正直…いやな予感がする」
『ほっほう。黒の子を不安にさせるとは、犯人もなかなかだね~』
宝珠を盗んだ犯人?
それが不安?
不安なのは犯人だろうか?
いや…
そうじゃない気がしてるんだよなー。
俺は不安を感じながらも、空を見上げた。
◇◇◇
伯爵邸の庭には男たちが5人縛られ転がっていた。
そんな男たちをよそに、ガゼボでは子どもたちが、生クリームなどで飾り立てられたプリンを美味しそうに頬ばっていた。
俺達に気づいたカナメから「おかえりなさい~」っと呑気な挨拶が飛んできた。
「あぁ、ただいま。」
咄嗟に返事をした俺にプリンに夢中だったコーが気づいて満面の笑みでおいでおいでと手招きする。
そんなコーを見て俺は眩暈がした。ひとまず頭を支え声にする。
「コー、嫌な予感しかしないが、言ってみろ」
俺の言葉に、転がっている男たちを指さしてコーは自信満々に言い放った。
「コヤツらは優秀な闇属性の術者だ。トーの助手に良いだろう!」
ハキハキといったコーの言葉に、捕まっている男の一人がびっくりしている。
俺もびっくりしてる。
その男は、そのままコーに反論してきた。
「お前馬鹿なのか?」
俺もそう思う。
「何を言う?我は馬鹿ではないぞ。
こんないいアイデアを思いつく我は、最高に頭のいい童じゃろうて」
お前…童って見た目だけだろうが!!
突っ込みたい言葉を飲み込んで、大きく息を吐いて冷静を保つ。
怒ったら負けだ
怒ったら負け―――
「誰の助手だって?」
「トーの助手だ。そっちの水属性に適正がある男は、カナのポーション作りの助手でも良いぞ」
「「ダメ!!」」
俺だけじゃなくてイルからも拒否が出た。まあそりゃあそうだろう。
縛られてるってことはコイツラ…
「宝珠の盗難の犯人達だろ。犯罪者捕まえて何言ってんだ?」
呆れた俺の言葉に、口元にたっぷりと生クリームを着けたコーが胸を張る。
「うぬ?宝珠は我が見つけて聖女に渡したぞ。
報酬の聖女の旨なるカレーも大鍋いっぱい受け取っておる。」
「じゃあそいつら、なんで引き渡してないんだ?」
コーの言葉の違和感に眉を寄せた俺は問い返すと、コーは生クリームだらけの口元を上げニヤリと笑い、
「処分はトーに任せるそうだ」
そう言い放った。
処分……って…。
絶対お前聖女と交渉しただろう……俺は額を押さえ、がっくりとうなだれた。
「コー聖女にいらない事言ったんだろ」
「我は~何も~言ってないぞぉ~」
人をおちょくるような口調に余計にため息が漏れる。
クスクスクス、そんな項垂れた俺の頭に小さな手が乗ってワシワシとなでる。
俺の頭をワシワシしながらカナメがなだめるような口調で、
「コーくんは、トーさんが忙しそうにしてるから、心配してるんだよ。」
俺は頭を上げてカナメをみて情けない顔をした。
カナメはやはりクスクスと可愛らしく笑っている。
俺は大きなため息をついて諦めて縛られていた男たちに向き直った。
「聞いたな。お前らの命運は俺の手のひらの上だそうだ。」
俺の言葉に男たちは顔を顰め、数人は敵意を向けてこちらを睨みつけて来た。
「お前らの中で闇属性は何人いる?」
その問いに、先ほどコーに突っ込みを入れていた黒髪の男が答えた。
こいつの魔力……なかなかの量だな。
「俺と…そこの二人だ」
男の答えに俺は目を見開いて言葉をこぼした。
「3人もいるのか…」
俺から漏れた言葉に、受け答えをしていた男が睨みつけて口を開いた。
「何だよ!文句なら―――」
「最高だな!!」
男が何かを言おうとしていた言葉を遮り興奮気味に俺が男に近づく。
「「「は?」」」
男たちは俺の言葉に困惑気味に声を重ねた。
この男もあとの二人も闇属性。中々にレベルも上げてるみたいだし鍛え方次第では即戦力。
最高すぎる!
俺は顔が緩むのを引き締めて男たちに向き直り宣言する。
「よし。お前ら。これからしっかり、性根も、根性も鍛えてやるから覚悟しろ!!」
「「「はぁー!!」」」
同時に叫ぶ男たちを見て、元気が良い事にニコニコしてしまう。
俺の顔を見てなんだか男たちの顔が引きつっているのはどうしてだ?
解せぬ。
「あと二人は属性何だ?」
残りの二人に質問すると、長髪の男と顔に傷のある男はイヤイヤな雰囲気を醸し出しながら答えてくれた。
「水だ」
「…土…」
水に土なら薬草栽培にかなり重宝する。ジャルノ森に作ったカナメの畑の作業員にちょうどいい。
俺は拳を握り宣言する。
「よし。お前らみんな魔の森最前線の辺境生活楽しもうぜ!!」
俺の言葉に、コーもカナメも嬉しそうだ。
「やった!従業員増えるんだね。皆さん早く育ってトーさんの負担を軽くしてね」
「いやいやお前!今魔の森!?って言ったよな」
「最前線ってなんだよ!」
「魔の森の最前線なんて!死地じゃねぇか!」
男たちが一気に騒ぎ立てるが、コーくんが一言、言葉を放つ。
「辺境は飯がうまいぞ!」
ぴたり。
男たちの声が止まる。
「酒もうまいぞ」そう言って俺も笑う
「給料も出るよ」カナメもニコニコ笑いながら男たちの心をくすぐり始める。
男たちは皆が顔を見合わせ、意外にもその中の一人がぽつりと
「あれ……意外とアリじゃね?」
その言葉を聞いて俺たちは勝利を確信した。
「辺境は魔の森の魔物の肉が超うまいよ!楽しみにしていてね」
カナメが男たちの胃を刺激しに行く。ごくりと誰かの喉が鳴る。
顔に傷のある男が、食い気味に聞いてきた。
「酒は?どんなのがあるんだ?」
その言葉に俺は思い出しながら答える。
「魔の森で採れるベリーを漬けた果実酒が有名だけど、ワインも魔素の影響か、とても濃くて美味しいぞ」
「兄貴!いいじゃん。マジイイじゃん!」
「お前ら……」
いいのか悪いのか…男たちは口々に語り、楽しみにするもの、顔を顰めたままの者もいるが、
まぁコイツラが馴染むかどうか、あとの話だな。
「わかった。とりあえずカレー食おうぜ!」
「「「カレーーー」」」
聖女様がおいていったであろう鍋からずっとカレーのスパイシーな匂いに鼻をひくひくさせていた俺は、男たちの声を無視して、カレーを食らうのだった。
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