320話 コーくんとお兄ちゃんとターちゃんの失せもの探しトリオ結成。
「失せ物とは、なんですか?」
この場でカレーという言葉に汚染されていないクレイ嬢が静かに問う。
皆もカレー熱から復帰してアリーシャ嬢を見つめ始めた。
アリーシャ嬢は凄く真剣な顔で、クレイ嬢に言った。
「戴冠式で使う王冠についた宝珠です」
ガゼボの空気が止まった。
宝珠?
えーと……それを、妖精とか聖獣とかドラゴンとか、ごちゃ混ぜな面々に頼みに来たの?
私が内心困惑していると、横からお兄ちゃんが、
「それは……ルクレチア殿下……大変なのではないのですか?」
「えぇ。殿下の戴冠式を邪魔したい何者かの策略によるものだと思います」
目を伏せて膝上の拳を握りアリーシャ嬢はそう吐露した。
その言葉に一番に反応したのは猫くんである。
『うへぇー、こっちでもそういうドロドロあるんだな。吾輩もリーマン時代いろいろな奴に足を引っ張られた―――』
何かを思い出しながらうんうんとうなる猫くんに、彩音ちゃんが聞いた。
「あら、猫田氏はサラリーマンだったのね。どういう商品を扱っておられたの?」
彩音ちゃんの言葉に、一口に切られた羊羹を頬張ってもぐもぐしながら、
『……ゲーム会社。
死ぬ少し前までは乙女ゲームの販売促進に携わっていた』
「乙女ゲーム……?」
彩音ちゃんがその言葉を反芻する。
対する猫くんは、何か嫌な事を思い出すように表情を強張らせていた。
「もしかして、その乙女ゲームの世界がこの世界に現れた?」
それは核心を突いた言葉だった。
彩音ちゃんの、その言葉に驚きの表情で固まった猫くん。そして私もびっくり。
あれ?この世界ってあの小説の世界じゃ、無いのかな?
「私は好きで読んでいたファンタジー小説の主人公になったわ。
それがこの世界の私の位置」
二人の会話を聞きながら、私は息が詰まりそうになった。
もしかしてこの世界……
いろんな“物語”が混在している世界……とか?
「もしかして……私にも、何か役割があるの?
この世界で生きる意味みたいなものが……」
私の独り言のように零した言葉を猫くんは拾って、思考に沈んだ。
『それはわからないけれど……この世界は一体何なんだろうな』
日本の記憶を持つ三人は沈黙した。
ガゼボはしんと静まり返った。
その空気を壊すように、アリーシャが焦った声を上げる。
「全然意味わからないんだけど、お話し中ごめんねー!
とりあえず時間が無いので!失せもの探しお願いします!!」
その言葉に私たちはそろって顔を上げる。
「あ―――そうね。話が逸れていたわね。ごめんなさい」
彩音ちゃんが声を掛けると、横から楽しそうな声が入って来た。ターちゃんだ。
『アリーシャ、必死じゃんwwヒッヒン』
アリーシャ嬢はターちゃんを見て不思議そうに首を傾げた。
「あれ?馬さん…神獣そっくり…足も多いし…」
その言葉に、私はターちゃんを見る。
そして次にアリーシャ嬢へ視線を向けた。
その瞬間、ふとルクレチア殿下のあの時の事件が頭をよぎる。
そこから連想するように、私はようやく気づいた。
アリーシャ嬢を指さしながら私は叫んでしまった。
「あぁーーー!アリーシャ嬢って、アーチェ兄の婚約者さん!!」
私の言葉に、ショックを受けた顔をするアリーシャ嬢。
「今ですか!? 今気づいたみたいな反応やめてください! 」
私、アリーシャ嬢の事ピンク髪のお嬢さんとしか認識してなかったしな――――
「私自身は初めてお話しします。奇跡の少女カナメさん」
「何その呼び名……、やめて、やめて、普通に呼んで。カナでいいから」
アリーシャ嬢からなんか変な名前で呼ばれ、戸惑いつつ両手を振って拒否を示すと、あっさり言い換えてくれた。
「じゃあカナちゃんでいい?」
ニッコリ年上のお姉さんらしい笑顔にホッとしつつ、
「それでお願いします」
「私の事はリーシャって呼んでほしいな~。
これでもB級冒険者なの。カナメちゃんもミハイル君も冒険者でしょ?」
リーシャが自然にお兄ちゃんに話を振る。あれ?二人は知り合いだったのかな?
「コルドナ先輩、僕少し前に相方とD級に上がりました」
「あら将来有望な後輩君ね。ふふふ今後が楽しみね~」
そんな和やかな会話にハッとしたようにまたもリーシャがストップをかけた。
「って違う!宝珠です。宝珠!!」
何だろう…リーシャが一人突っ込みしてるようにしか見えない。
ところで、たぶん皆、宝珠と聞いてもピンと来てないと思う。見回すと皆で首をかしげていた。
「宝珠って何で出来ているんですか?宝石?」
「いいえ、貴重な白竜様の鱗で作られたものなんですよ」
その言葉にコーくんが興味を持った様でリーシャに視線を向ける。
「ほー…白竜の…」
「金の王冠に白く輝く宝珠がはめ込まれていたのだけれど…突如王冠から消えてしまったんです」
リーシャの言葉を聞きながらコーくんはある方向を向いた。
全く動かずそちらの方向を凝視するコーくんを不安に思い名前を呼ぶ。
「コーくん?」
「うむ」
コーくんが手を出して、私の言葉を止めた。そして皆がコーくんを見る。
リーシャは困惑して、彩音ちゃんや私へ視線を泳がせている。
「え?……この小さい子、何してるの?」
そのリーシャの困惑具合を気にせずに、コーくんはターちゃんに声を掛け立ち上がった。
「ターよ。我をちょいとばかり運んでくれぬか?」
その言葉に、ターちゃんは察したようにコーくんの傍に身を寄せる。
『あらもう見つかったの?』
「白竜の気配があっちの方からする。連れて行ってくれ」
『モチのロンよ~!乗って、乗って~』
そう言って、ヨイショっとターちゃんに飛び乗ると、私に声を掛ける。
「カナメ、我少し行ってくる。
カレーなる旨なるものを用意して待っていてくれ」
「晩御飯には間に合う?」
その言葉に、少し考えてからコーくんは笑顔を作り
可愛らしい顔でリクエストをしてくる。可愛い。
「おやつには帰って来れる。おやつはプリンが食べたいぞ。ではい――」
「まっ、待って。コーくん!」
コーくんのリクエストに言葉をかぶせて立ち上がったお兄ちゃん。
ターちゃんの上からお兄ちゃんを見下ろすコーくんは不思議そうな顔をしていた。
『どうしたのイルイル?』
「お兄ちゃん?」
「それ僕も一緒に行ってもいい?」
お兄ちゃんのその言葉に皆の動きが止まった。
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