319話 聖女の来訪とお願いクエスト
伯爵家で昼食を頂いた後、お兄ちゃんも加わり、みんなで庭でのんびり過ごしていた。
ターちゃんのブラッシングをしたりウハハ達と鬼ごっこしたり、妖精さんおすすめのお菓子屋を聞いたり、とても平和に過ごしていました。
その平和で和やかな空気に猫くんの鋭い声が入ってきました。
『誰か来たぞ』
猫くんが、庭の入り口を見ながらそう言葉を漏らす。
「え?そうなの?誰か来た?」
私たちが帰ってきたことを知っている人なんてそんなにいないはずなんだけど…
不思議に思いながらお兄ちゃんと視線を合わせると、お兄ちゃんも不思議そうにつぶやいていた。
「今日帰って来たばかりなのに…誰が?」
私とお兄ちゃん、クレイ嬢が不思議そうにしていると邸内から使用人さんに連れられて聖女様こと彩音ちゃんともう一人ピンク髪の少女が二人でやって来た。
「お久しぶり~カナちゃん。イル君、ウハハちゃんと黄昏様」
にこやかに手を振る彼女は、庭を見回しクレイ嬢と猫くんに目を止める。
私はすかさず彼女たちを紹介する。
「彩音ちゃん、こちらは精霊の愛し子のクレイ嬢と守護精霊の猫くんです。
そして、新しい家族になったコーくんです」
私の言葉を聞き、クレイ嬢、と猫くん、コーくんの前で足を止めた彩音ちゃんは、スカートをつまみ美しい姿でカーテシーを披露した。
「私、今代のこの国の聖女を務めます三神彩音と申します。以後宜しくお願いします」
そしてその背後にいたもう一人の少女もカーテシーをして挨拶を始めた。
「お初にお目にかかります。私、南の辺境伯を治めるコルドナ辺境伯の娘アリーシャ・コルドナでございます。奇跡の少女にお目にかかれるとは望外の喜びでございます」
二人の美しい礼に止まっていたクレイ嬢は、戸惑いながらも綺麗な礼で挨拶を返した。
「お初にお目にかかります、セリーヌ公国からやってまいりましたクレイと申します。今は精霊の愛し子の任を解かれた者ですがよろしくお願いいたします」
『あんた三神彩音って日本名だよな』
クレイ嬢の挨拶が終わるなり横から猫くんが口をはさんできた。
大きな妖精の存在感にも全く動じることもなく彩音ちゃんは猫くんを見て答えた。
「ええ。貴方は見た目妖精ですが日本って言葉が出ると言う事は転生者かしら?」
『あぁ。吾輩は転生して…数百年って所か』
「あら。ふふふ数えるのも馬鹿らしい年月と言う事ですわね」
彩音ちゃんと猫くんが話をしている。その背後でアリーシャさんは何も言わず聖女様を笑顔で見ていた。
『あんたに質問したいことがある。』
「質問ですか?」
不思議そうな顔をしながらも猫くんの次の言葉を静かに待つ彩音ちゃんに猫くんは勢いよく言葉を紡いだ。
『じゃじゃ○、ピッ○ロ!―――ときたら!!』
「………え?」
『だからじゃじゃ○!ピッ○ロ!その続きだ!』
彩音ちゃんは困惑げに首を傾げ、私に助けを求める様に視線を向けて来た。
「カナちゃん…何の質問ですのコレ?」
私は大きなため息をついて猫くんにはっきり伝えた。
「猫くん…彩音ちゃんは私達よりかなり年下の世代だよ」
猫くんは私と彩音ちゃんを交互に見てガクリとうなだれた…
『くぅぅぅ…まじかーーー』
「マジですね 」
打ちひしがれた猫くんの肩をポンポンと叩いていると、彩音ちゃんが不思議そうにこちらを見て来た。
「なに?二人は同世代ぐらいなの?じゃあ羊羹とか好き?手土産に持ってきたのよ」
彩音ちゃんの言葉に猫くんの死んでいた瞳がキラリと光を取り戻し勢いよく返事をした。
『羊羹!食べる!』
「日本人だね~」
あまりにも勢いよく返事をする猫くんに、からからと笑う彩音ちゃんは使用人にお願いして羊羹を切ってもらう。
庭園のガゼボにお茶の用意がされ、そこで出された羊羹を猫くんが嬉しそうに早速頬張っていた。
目をきらきら輝かせている姿は、数百年生きた妖精というより完全に幼児である。
そんな猫くんの仕草に、クレイ嬢も頬をほころばせている。
あぁここにもバカップルが居るのか…
そんな思考に陥っていると、ガゼボの空間にパンっと手を叩く音が響いた。
視線を向けると彩音ちゃんが両手を胸元に合わせたままニコリとこちらを向いていた。
「さて、今日私が来たのには理由があります。」
「理由?」
皆がキョトンとした顔をして彩音ちゃんに注目する。彩音ちゃんの横に座っているアリーシャ嬢が手を祈るように顔の前で組んで皆を見て、
「皆さんに、失せ物探しのクエストを受けて欲しいのです。」
「失せもの?」
「ホホー」
「へー」
皆が口々に反応する。そんな皆を見回して聖女様が指を一本立てる。
「見事探し当ててくれたら、皆に我が家特製カレーを振舞うよ。我が家のカレーにはウズラの卵が入っていて美味しいよぉ~」
お兄ちゃんと猫くん、そして私が喰いついた!
『「「カレー!!」」』
「カレー?ですか?」
アリーシャ嬢とクレイ嬢はピンと来ていないみたいで不思議そうにしていると、猫くんが凄く熱のこもった目でクレイ嬢に力説をしている。
『クレイたん。カレーとは至高の食べ物!ぜひともクレイたんにも味わってほしい。』
熱い男だね。猫くん。
「じゃあ皆でやろうか。失せもの探し」
『「「おーーー!!」」』
ガゼボの中の皆は拳を握り、手を上げて気合を入れた。
その熱のこもった気合いに困惑しつつアリーシャ嬢が彩音ちゃんに耳打ちをする。
「えっと…詳しい説明しなくて良いのでしょうか?」
「良いんじゃないかなw
”カレー”は偉大だね~。ノリでOK貰っちゃった。さすがカナちゃん一行」
「カレーってなんですの???」
妖精である猫くん達が見えていないアリーシャ嬢は、最後まで“カレー”が何なのか分からず、小首をかしげたままだった。
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