318話 宰相からの依頼と対応
王城、宰相執務室で私は相変わらず頭を抱えていた。
祝福の宝珠の足取りが全くつかめないのだ。
まず城の警備の抜けが無いか、宝物庫に張られた結界に揺らぎが無いか、人員の配置に不審なものが無いかなど確認していっても何も出てこない。
そしてあと7日後に開催される戴冠式。
それまでに宝珠を見つけなければいけない。
それにトラブルが今ある問題だけなのかも怪しい。
今後何か起こるかもしれないから王太子殿下の警備は万全でなければならない。
そうなると宝珠探しが出来る人員が限られてくる。
騎士団に頼もうにも、戴冠式を前に王都へ貴族達が集まり始めている。
そんな中で人員をこちらへ割けば、別の火種を生みかねない……
誰か、失せ物探しが得意な人間は居ないだろうか…
コンコンコン
ノックの音に抱えていた頭を上げて息を吐く。そして静かに低い声音で返事をした。
「入れ」
入って来たのは、私の側近の一人ブルーノ。そのブルーノの顔は青かった。
青い顔でブルーノは扉の外を指さして、
「あ…あの閣下…」
「どうした?」
「以前のあの黒い男が今部屋の前に来ております。冒険者のガルーダ氏と一緒に」
その言葉を聞いて私は席を立ち、扉を開けた。
開けた廊下の先では、部屋の外の警備の騎士と話す、クロトと白狼のガルーダが居た。
そのまま私が出てきたことに騎士は困惑していたが、クロトは飄々として、
「聖女から連絡貰って来た。
……肉の調達だけなら、平和な依頼なんだけどな」
そう軽く言うもんだから、私は足の力が抜けてその場に膝をついた。
「閣下!大丈夫ですか?」
すぐさま騎士が助け起こそうとしたが、白狼殿が手で騎士を制し、そのまま私を抱え上げて部屋の中へ運んだ。
室内の応接ソファーに座らされた私の向かいの席に、白狼と、クロトが腰を下ろした。
「宰相さん、大丈夫か?なんか顔色悪いぞ」
「すまない。少し立て込んでしまって…」
クロトの言葉にそう返事をすると、呆れたように大きく息を吐いた彼は、通信の魔道具を起動させ、話し始めた。
「すまんが宰相室まで来てくれるか。あぁ…過労だろうな。わかった」
彼の通話が終わるのを待って声を掛けた。
「誰に連絡を?」
「俺の昔馴染み。こちらにすぐ来るんで、その前に依頼内容というか…
今あるトラブル全部吐け。」
彼の圧が強くなる。
「あんたにはいつも迷惑かけてんだから、手伝うぜ」
「クロト殿、白狼殿…」
二人の言葉を聞いて私は大きく息を吐いた。そうして、とつとつと今起こっているトラブルを話し始めた。
コンコンコン
話が最初の金冠鳥のあたりで部屋のドアが叩かれた。私が返事をしようとすると、白狼殿が扉をすぐに開け、
「おぉ待ってたぞ。オッサン顔色悪くってな」
などと言い始める始末。顔を上げ見るとそこに居たのは聖女だった。
「聖女様…」
「もう、宰相は無理しないでっていつも言ってるでしょ!」
そう言って私の傍らに来るとソファーのひじ掛けに身体を預け、私の手を取り魔力を流す。いつもやっているのだろう、淀みの無い動きに感心する。
「そうね。胃がだいぶ荒れているみたい。肩こりも凄いし…これ頭凄く痛かったでしょ?こうなる前に私の所に来なさいっていつも言ってるでしょ!エドがまた泣いちゃうわよ!」
彼女の軽口に私は力なく笑った。息子が泣いてしまうなら従うしかないだろう。
「ハハ、あなたにはかなわないな」
「フフ。はいこれ飲んで。栄養剤と痛み止めの効果があるの。最近ようやく開発に成功したって大喜びで薬師さんが持ってきてくれたの。ちょうど良かったわ」
「あぁ、薬師って王宮薬師か?ノンナ元気にしてるか――落ち着いたら会いに行かないとな」
「あら、ノンちゃんってクロトの知り合いなの?」
「知り合いって言うか、俺の所の従業員だぞ?王宮薬師塔に出向してるだけだ」
「従業員?――どーりでノンちゃんだけ皆とテンション違うと思っていたわ。」
「なんだよそれ?」
「あんたの身内ならなんか納得できるわ。」
「うっさいわ」
そんな二人のやり取りを大あくびをして止めた白狼殿。
「さて、お二人さん軽口はいいから、宰相さんの話の続き聞いてさっさと解決しちまおうぜ」
「だな」
「そうね」
皆の息の合ったやり取りに取り残されたような気がして、私は苦笑してしまった。
そんな三人を前に、観念したように私は現状を吐露していった。
―――
「なるほど。じゃあ要するに、お祝いの鶏肉GETして、宝玉見つけてしまえば良いって事でしょ?」
「思ったよりなんてことなかったな」
「金冠鳥ってどこに生息しているんだっけ?」
「どこだっけ?」
「いや、いや、なんで聖獣様の暗殺対処が抜けてるんだ?そこが一番大事だろ」
皆が顔を見合わせて不思議な顔をする。
「そんなの自力で何とかするだろ?」
「ですよね」
「だな」
私はそこで初めて聖獣様について私だけが知らない事実があるのではないかと感じた。
「あの、スレイプニルの神獣様は凄いお方なのですか?」
恐る恐る聞くと聖女がうーんっと悩みながら口を開く。
「凄い?うーん…ある意味凄いかな。おネエだし」
”おネエ”とは?その言葉の意味を計りかねていると、
「喧嘩っ早いし、攻撃的。すぐに俺を殺しに来るし…あいつの相手は疲れるぞ」
え?クロト殿を殺しに来る?あの神獣様やばい馬だったのか…
「なんつーか俺とササが一緒に居ると、すっごく睨んでくるな。”リア充爆発しろ”って叫ばれてビビったわ」
「あー黄昏様ってそう言うところあるよね。一緒に旅していた聖女ちゃんがそんな感じの言葉乱発していたから、移ったって笑っていたわね。
ある意味黄昏様って異世界かぶれって奴かしら?」
異世界かぶれ…どの言葉をとっても…暗殺予告を軽く流す感じには思えないが…この3人が大丈夫というのであれば…大丈夫なのだろうか?
若干の不安を抱えつつも、目の前の3人が今抱えている問題を解決するべくやり取りしている姿を見て頼もしく思いながら、私は瞼が重くなり目を閉じてしまった。
―――
真っ黒な視界の中、聖女の声がする。
「寝たわね」
心配を含んだ声音の彼女の言葉に、私は少し反省をした。
「お前何飲ませたんだよ?」
クロト殿の落ち着いた声。
「無茶ばかりするから睡眠薬入りの鎮痛剤。最近また自宅に帰ってこない父親を心配して、エドに休ませるように頼まれたのよ。明日の朝にはスッキリ起きるからベッドに運んで欲しいわ」
ガタリと誰かが立ち上がり私をお姫様抱っこで抱き上げて運んでくれる。白狼殿か…
「はいはい」
その横でクロト殿の声が今までで一番優しい声音で言った。
「まったく、こうやって頑張る奴を見るとほっとけないんだよな」
その言葉に私は胸が熱くなった。
怖いだけかと思っていた、彼はこうも人間らしい所があることにほっとしたと同時に、
私の努力を見ていてくれる人たちが居る事に心が震えた。
一人感動していると、白狼殿と聖女から同時に言葉がでた。
「クロトらしい」
「貴方らしいわね」
その言葉の一拍後に、照れたようなクロト殿の言葉がこぼれた。
「うっせー。バーカ」
思っていたより彼はずっと可愛い人だとこの時初めて知った。
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