314話 閑話――遊びに来たよ。
※この話は38話の「不思議な泉の華一輪 後編」の泉に再来している話です。
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深い緑に覆われた森の中。
馬車で進む最中、ある一線を越えた時、急に空気が変わった。
清浄な空気が満ちる森の中を進む。
それまで出てきた魔獣も、それ以降出て来なくなった。
着いた先は、ぽかりと空いた空間。小さな湧水が溜まる泉があった。
久々に足を踏み入れた空間の空気を、肺に入れ大きく深呼吸する。
『ひっひん(相変わらずいい場所ね)』
馬車を引いてくれていたターちゃんが満足そうに足踏みをする。ターちゃんを撫でながらコーくんは不思議そうにあたりを見回す。
空間の入り口付近に、伯爵家の馬車とミホさん達の馬車が揃って止まり、山田さんが
馬たちを放した。
泉の周りには馬が好みそうな草が生えていて尾をふりながらそれを食べていく馬たち。
そんななか、レドが嬉しそうにガッツポーズをとる。
「普通の森なのに、魔物が強くてびっくりした。
DかCランクくらいのが出たな」
「僕…前はここの魔物に対峙できなかった。それが…今日は出来た」
僕は手を握ったり開いたりしながら自分の力量が、前に来た時よりも上がってることを実感した。そんな僕の手の上にそっと赤い光が現れる。
あの森で出会った妖精”イグナ”は僕に付いて来てくれている。
イグナという妖精との契約と、学園での知識、実践―――
僕は成長している…それが実感できたことがかなり嬉しい。
「今日は此処で野営するぞ。皆準備」
トーさんの号令で、僕たちは皆動き出す。
パシャン、パチャンと泉の方から音がする。気が付くと泉にウハハが飛び込み、人参が飛び込み、ターちゃんがそれを嬉しそうに眺めている。
そんな泉の前で水を汲みながら料理の準備を始めるカナ
「さくらぁ~~、さくらぁ~~~」
カナがあの時聞いた歌を口ずさむ。
僕たちはそれを聞きながら泉の傍にテーブルを出し、
お爺様とお婆様用の椅子をテーブル横に置く。
お婆様を椅子に誘導しているとお婆様が微笑ましそうにカナを見て言う。
「初めて聞くお歌ね」
「いい歌ですよね。」
僕も同意しながら笑っていると、お爺様が泉を見ながら指をさす。
「そちらの泉に花が…」
「カナメが歌うと泉に花が現れるのなんだ?」
レドもお爺様と同じような事を言い、皆が頷きながらこちらを見てくる。
僕は苦笑しながらカナを見る。
あの時見えなかった存在。
イグナと契約して見えるようになった存在。
その子がカナの横の岩に座って嬉しそうに歌を聞いている。
淡い水色のウエーブがかった長い髪を先だけ三つ編みに結い、髪にはたくさんの花が咲いているように見える。
優しそうな精霊だったんだな―――。
いつも少し引いたところから見ていたクレイさんが、猫さんと一緒にカナの側に来て、ぺこりと精霊に頭を下げる。
「泉を守護する精霊よ、一晩御身の近くを騒がせる事お許しください。」
そう呟くと、精霊は返事とばかりに、泉の中に花を数種類出現させた。
それを見て、お爺様とお婆様は驚く。レドだけは気づいた様で「まさか…」そう呟いた。
僕は泉の華を見ながら目を細める。
「この泉にはね、精霊が居るんだよ。
可愛い女の子の精霊だって近くの村に住む、お婆さんから聞いたんだ。」
僕がそう言うとお爺様もお婆様もびっくりした顔をして「精霊」と呟いた。
レドはやっぱりかと納得した様子で鼻を鳴らす。
そんなみんなをみて、僕はまた自分の手を握る。そしてあの時の頼りない自分を思い出す―――そう思い耽っていると、横から幼い子供ながらの高い声が耳に入った。
「泉の精霊さん。私たちの友達なの。ねーお兄ちゃん」
私達…?
カナの隣には泉の精霊が嬉しそうに立っている。僕は彼女を目にして、顔がほころぶ。
「そうだね。僕も友達だと思ってる。久々にここに来れた事が嬉しいよ」
精霊は僕の方を見て、そして僕と視線が合った。
精霊は目を見張る。僕は視線を外さずそのまま笑った。
精霊は僕へ駆け寄り、抱き着いてきた。
実体が薄いのか触っている感覚はあるのにすり抜けてしまう。
でもすり抜けた精霊の胸には赤い光が抱えられていた。イグナだ。
泉の精霊は、イグナと何か話して笑い合っている。
「イグナも精霊さんの友達になったのかな?」
僕が声をこぼすと、カナが笑いながら言う。
「そうかも。ふふ」
カナの笑顔を見て僕も笑う。僕たちが笑うとお爺様も、お婆様も、レドも顔を綻ばせ、そんな皆を見てトーさんも口角を上げる。
少し離れた所に居たガルーダ師匠とササさんも、笑顔が伝播して泉の周りに笑顔が広がる。
泉の精霊は森のこの場所にずっとずっと一人だった。
精霊の願いは昔から一つだけ
――― 一人は寂しい、誰かと笑い合いたい ―――
いま精霊の目の前で小さな赤い妖精が指をさす。
たくさんの人の笑顔。
笑顔の花が咲いている
精霊は嬉しいよりも何よりも涙が流れた。キラキラ、キラキラ彼女から涙が落ちるたび…
泉に綺麗な花が一輪、一輪咲いていく。
泉の表面は美しい花々に埋もれてしまうほど精霊は、泣いて喜んだ。
嬉しい。
嬉しい。
ありがとう――――
泉の精霊は、喜び、笑い、泣きながら、賑やかな一夜を過ごし皆と笑い合った。
泉の水面はしばらくとても綺麗な花々で埋め尽くされたままだった。
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