313話 閑話――白狼のガルーダと黒烏の暗殺者に弟子が出来たってホント?
ガタガタの山道を馬車がひた走る。
貴族家の馬車は家ごとに改造されて、極限まで乗り心地を追求している造りになっている。
前に聖者様が馬車の乗り心地を良くする魔道具を開発されてから揺れが極端に抑えられた仕様に変わった。
今私たちが乗っている馬車も例に漏れず、振動も無く快適空間になっている。その室内で、私達は優雅に家にいる時の様にお茶を頂いている。
コーヒーカップを持ち上げながら私が御者台に居るトーさんに声を掛ける。
「トーさんそろそろ休憩にしないとおにーちゃんもグレード君も倒れそうだよ」
私の言葉にトーさんより早く返事を返したのは、隣に座るさっちゃん。
「カナちゃん。もう駄目だ!からのあと数歩が限界を超えるチャンスの時なんだよ」
「さっちゃん…言ってることがスポコンの監督みたい」
「?え。スポ、こ?何それ?」
私とさっちゃんは、お爺ちゃんお婆ちゃん、そして王都へ向かうクレイ嬢と一緒に伯爵家の馬車で移動している。
そして馬車の外―――
必死で走っているのはお兄ちゃんとグレード君。
馬車の上には狼さんと御者席にはトーさんとコーくんが陣取っている。
「身体強化かけて走ってるけど、もう1時間は継続してるよ。倒れちゃわない?」
「まだまだ、行ける行ける」
紅茶を飲みながら笑顔で言うさっちゃんに、半ば呆れ気味に返事をすると、
「さっちゃんって意外に厳しかったんだね」
私の言葉に向かいに腰掛けているおばあちゃんは、紅茶のカップをソーサーに戻しながら優しく笑う。
「ミハイルもレド君も行きも走ったり、御者台で馬車走らせたりしていたわ。
みんな元気ね」
そう言って侍女の方に笑いかけるおばあちゃん。
お兄ちゃんたち、辺境に来るときも旅行楽しんでたんだね。それならよかった。
「カナちゃん珈琲のお代わりを頂けるかい?」
「はーい」
おじいちゃんが私に珈琲を飲み干してからお代わりを頼んだので、目の前にお湯の水球を作り、温度を上げていく。その間にネルドリップを用意し挽いた珈琲豆をセットしてゆっくりそこにお湯を入れていく。
「カナちゃんはほんに器用だな」
「本当に。感心致しますわ」
二人の誉め言葉に嬉しくなって、
「もー褒めたって珈琲くらいしか出ませんよ~」
はははと照れながら皆で笑い、のんびりとした穏やかな空気が馬車内を満たしていた。
そんな優雅な馬車の外では―――
二人の少年が必死に馬車と並行して走っている。
――――
◇クロト視点
「はぁ、はぁ、はぁ…ムリ…もう無理」
「ハァハァ、ハァ、レド、あと……少し」
息を荒げながら、必死に馬車に追いつくように走る二人に馬車の上から声がかかる。
「あの山の麓まで頑張れ!着いたらおやつが食べられるぞ!」
そんなガルーダの言葉に、グレードがすぐさま悪態をつく。
「鬼が居る!!」
そのグレードの横を必死で付いて行っているイルも叫ぶ。
「おやつよりも!もう少し!加減が、ほしいぃぃぃぃ―――――!」
「ははははは!ガルーダ、お前鬼扱いされているぞ」
二人の叫びに俺は声を出して笑いながら、ガルーダをからかうと、
「うるさいクロト!」
ぎろりと睨みつけてくるも、それを見ながらコーと黄昏も呑気に笑う。
「みんなげんきだのう
なぁ。黄昏よ」
「ひっひんひん」
そんな会話がなされる中、俺は笑いながらイルたちに声を掛ける。
「このままいけば今夜の宿泊はあの泉に行けるかもしれんぞ!気合い入れろよ」
「泉?ハア…泉って…」
疲れて虚無になりかけていたイルの瞳に光が宿る。
「カナメがよろこぶぞー」
「レド!もうひと踏ん張り!がんばるぞぉ!!」
「おい…まじかよ!なんなんだよぉ―――!」
足がもつれそうになりながらも気合で立て直したグレードは、大声で叫びながら必死で地を蹴って馬車の横に並ぶのだった。
「いいねーー若い弟子って言うのは鍛えがいがある」
快活に笑うガルーダに苦笑しながら俺も笑みが漏れる。
必死で食らいついてくるイルたちに今日はあの不思議な泉でカナメの歌を精霊と一緒に聞くのも良いなと考えながら、御者席で空を見上げた。
空にはさわやかな青が広がり、
心地よい風に流されるように、
白い雲がその青の中をゆっくり流れていく。
俺はそんな空を見上げながら口角を上げふっと苦笑を漏らした。
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