309話 閑話 カナメの笑顔とお弁当。
――話は少し前にさかのぼる――
砦の制圧後、内部の探索をしていて、見つけた悪臭を放っている場所。
大きな穴があり、軽く覗いただけで、怨嗟の気配が濃く立ち込め、闇に溶け込んでいる。
死体の遺棄場所か…
深さは、目視ではわからないが…、この砦が出来てから、長い年月をかけて喰われ、遺棄されてきた、動物や人間の遺骨。
その怨念が、積もって来たんだろう―――場所。
これをこのまま放置しているとレイスになってしまったら救われない…
俺は黒い霧を発生させようとして手をかざすと、
背後から凄い殺気を飛ばされた。
俺は嘆息し振り返ると、
『この糞烏!今何しようとした!!』
そこには、コクトを乗っけた黄昏が、殺気を纏った顔で俺を威嚇していた。
「なにって、片づけだよ」
『カーー片づけだぁ!!ふ・ざ・け・る・な!!
お前は烏なんて生き物の名前はもったいない!
ブラックブロッコリーで十分だ!!』
「はぁ?」
黄昏の意味の分からない罵倒に俺は毒気を抜かれ混乱する。
黄昏の上でそれを聞いていたコクトは、ポンポンと黄昏の首元を優しく叩いている。
『ブラックブロッコリーめ!お前をカリフラワーにしてやろうか!!』
「いや…ブラックブロッコリーとか聞いた事ねーし、カリフラワーは別の野菜だ」
『塩とレモンとオリーブオイルでお前をマリネにしてやろーか!』
「何言ってんだお前?」
あまりの訳の分からない罵倒に、コーも言葉を挟んだ。
「ター、怒りは分かるが少し落ち着くのがいいぞ」
『コー…だってブラックブロッコリーが…馬鹿な事しようとするから…』
ポンポンと黄昏の首を撫で、苦笑するコクトは、優しい顔で、俺の方に視線を向けた。
「クロト、それはもう悪しきものだ」
それはいつものカナメと一緒に笑っているコクトよりもずっと大人びた視線だった。
「お主が強いのは、我も知っておるが、それを身の内に入れるのは、いただけん」
俺は手を強く握りしめた。
苦しみあえぐ怨嗟の闇を、祓う事も出来ないから………
痛みも何もない俺のスキルの闇に沈めてやろうと…
その事をコーも黄昏も、気づいたのだろう。
「このような強い怨念は受け入れたものを内から侵食する。
お主の闇魔法では無理だ。その者達の魂は救えぬ」
その言葉に俺は下を向いた。
それでもこんな所で誰かを恨み魔物になりたくはないんじゃないかって思ってしまう――
「カナメを泣かす気か?」
コーに言われ…カナメの笑顔が脳裏をよぎる…
「この者達を此処から解放して輪廻の輪に戻す。我がしよう」
そう言ったコーは300歳という龍の年齢を感じる雰囲気があった。
だが…コーも闇の龍だ…体に負担があるはずだ。そう思っていると背後から声がした。
「黒いの!俺様がやってやろうではないか」
現れたのは快活に笑う火龍の青年。鼻の下を指でこすりながら、
「俺様の寝ている間の事とは言え利用されたのだ。俺様が始末をつけるのが当たり前だろう」
まぁ…筋は通っているので俺も、コーも黄昏もその場を火龍に譲る。
火龍は闇が蠢く穴に手をかざす。
手から大きな涙型の赤い玉が出現し辺りは一気に熱気に包まれ、その熱はそのまま穴に向かって落ちて行った。
数秒の静寂
渦巻き溜まる怨嗟と怨念の声が一気に噴き出し熱気に飲まれた。
「「「「あぁぁぁぁあ―――――」」」」
声と共に熱波が穴から溢れてくる。
身を焦がす熱と共に赤々と――――
焼き尽くされた怨嗟は、悲鳴のまま消え――やがて静寂だけが残った
そして穴の中はマグマだまりになった。
中に在ったすべての者を燃やし尽くして――――
「なー馬。こんなもんか?」
『あんた本当に無礼なトカゲね。―――まあ、もう残っているものはないわね』
「うっし。じゃあ固めちまうか」
そう言った直後、開いていた腕を握り込むと白い煙を立てて、うねるマグマがゆっくりと固まり黒い火山岩にその姿を変えていった。
きちんと固まったかを確認して空を見上げた。
太陽が真上から照らしつけてくる中、ようやく砦殲滅は終了した。
カナメの弁当早く食べたいな――――。
―――――
空気が澄んだ薄青の空を、ピンクの馬が駆け抜ける。
薄い雲の群れをかけ、急ぐ俺たち。
黄昏の背の上で俺たちはカナメたちが居るはずの湖を目指していた。
「もうすぐだぞ」
「なんか聞こえる…」
楽しそうな声が俺たちの耳に聞こえてくる。
『「みずの~ いのりが~」』
歌声と共に、湖面に反射したその蛍火のような淡い光が揺れながら、空へと昇っていく 。
『「きこえて~ くるよ~」』
カナメたちが、湖に浮かぶスライムのウハハの上で、手を繋ぎ楽しそうに歌っている。
カイナールを始めいろいろな妖精に囲まれて、一緒に歌っている
その光景は美しくもあり、神秘的でもあり…でも俺の胸にはただ楽しそうに、笑っているカナメが幸せそうな笑みを浮かべていることが胸を温かくした。
その事に自然と口角が上がり、俺は大きな声を上げた。
「おーいカナメーーー!」
黄昏も大きな声で湖に呼びかける。
「カナカナ!イルイル!」
俺たちを見つけたカナメたちが、空に向かって手を振ってくる。
「お弁当たべよぉ――――!!」
満面の笑みで手を振りながらカナメが嬉しい事を言ってくれる。
一生懸命作っていたカナメの手作り弁当
―――穴の底に溜まっていた、あの声を思い出す
”カナメを泣かす気か――”
カナメの笑顔を見て、
止めてくれたコーに少し感謝した――。
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