307話 セリーヌ王国の事件の終息②(宿屋のオヤジ視点)
昨日からこの国でおかしな事件が続き、昨夜も今朝も大騒動があったため、街の皆は不安で寝不足の者が多い。
前日に昼間から城の前で騒動があり、光の柱や、黒い霧。
夜の遠くの山で響く爆音、今朝の建物の崩落。騎士団が街の見回りに人員を割いていて、街は騒然としていた。
あまりにも物騒で旅人もこの国を急いで抜けていくので今日は商売にならないと思っていると、
チリン、チリンっと扉につけているベルが高い音を響かせた。
ワシは振り返り笑顔でお客様をお迎えした。
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「こんにちは、部屋空いてますか?」
カウンターの前に立ったのは、線の細いローブを着た魔法使いのエルフだった。
その背後に、獣人や子供。全員で11名の大所帯だ。
「空いてますよ。人数が多いので大部屋にしますか?
それとも二人部屋か一人部屋も選べますよ」
ワシがそう言うと、モジャモジャ頭の兄さんが希望を言う。
「俺とカナメとコーが一緒の部屋な」
「はいはい」
軽く流すようにエルフが返事をすると、おずおずと赤い髪の坊ちゃんが今度は希望を口にした。
「馬が休める場所があれば助かります」
ワシに視線を寄こしたエルフに、答えようとすると、目の前のエルフに絡みつくように獣人が抱きしめてこちらに鋭い眼差しを向けてくる。
わしにそんな視線送っても知らんがな―――
「俺は、ササと離れねーからな」
「うるさい駄狼。―――二人部屋を五部屋でお願いします」
シレッと獣人の言葉を流して部屋数を伝えてくるエルフ。
「はははは、賑やかなお客さんだ。
馬は裏に馬房があるから大丈夫だ。
大人一人子供2人ならベッドは部屋に2つで大丈夫だろう。
必要なら部屋にベッド増やせるから言ってくれ。要望は叶えられそうかな?」
ワシの返事で大丈夫だったようで、にこりとエルフが笑って頷いてくれた。
「じゃあ部屋に案内するから娘について行ってくれ」
「はーい」
「皆さんの部屋は2階になります。」
パタパタと娘についていく子供たちは、3歳から10歳前後くらいだろうか。
皆楽しそうに階段を上がっていくのが見えた。
娘もあんな時期があったな―――
最近は「とーさん、ホント口うるさい」と少し距離を置かれているのが寂しい所だ。
少しすると上から少年二人と幼児一人が下りてきて、馬を迎えに行くという。
門の横の馬屋にでも預けてんのかな?
連れ帰ったら、干し草の用意と野菜の用意をするから声を掛けてくれと伝えると、優しそうに幼児を抱えて駆けていく少年達を見送った。
少しするとエルフと獣人の二人が下りてきた。
「食事っていつからできます?」
「腹減ってんのかい?簡単な物なら出せるけど、どうする?」
「エールと簡単に出せる肉をお願いします」
「クロト達も食うかな?」
「ようやっとイル君と、お話が出来るんだから。
そっとしておけばいいんですよ」
「でも…坊主の気配、宿にはないぞ?」
「え?」
「さっき馬を迎えに行くって子供3人が走って出て行きましたよ」
「あー黄昏様な」
「なるほど、じゃあご飯どうするか聞いて来てください」
「おうよ!」
トントンと軽く階段を上がる獣人の背中に――――え?
ワシは目を擦って見直すが…
―――なんで背中にニンジンなんだ。食料か?飾りか?意味がわからん。
「え…お連れ様の背中に―――」
「ご主人…肉は大盛りでお願いします」
ワシの言葉に、言葉をかぶせてきたエルフさん…
ニッコリこちらに笑いかけるエルフの人はとてもきれいだが…
圧が…
要らんこと言ったら切る的な圧が凄い…
ワシは…自分が大事だからな。何も言わない。
「いっぱい食うんだな。ハハハ」
美人怖い――――
今日はあの人たちの貸し切り状態だ。
皆賑やかに飯を食っているんだが―――
パタパタと裏口から娘が駆けてきて
「ねー馬屋にいる馬が、ピンク色なんだけど!
しかもめっちゃ馬としゃべってる子供いるんだけど!」
娘は何を言っているんだ?
「あぁ、先ほど馬を連れてくるって言っていたから。
今泊っている方の馬だろう。ピンク色だなんて珍しいな」
「いや、見た事無いわよピンクの馬何て!」
「ブラッシングでもしてたのかい?」
「え…ええ。一人がブラッシングして、
もう一人が飼い葉や野菜や果物の準備しながら話していたわ」
「大切にされているんだね。その馬は」
「――――え…まぁ……そうかもだけど…」
「お前ももうすぐ食事出来るからお客さんにこれを持っていくの手伝っておくれ」
「……はーい」
納得できない娘が出来上がったグラタンをもって食堂の方に出る。
テーブルでは皆が楽しそうに話している。
「なんか居たんだけどさ…白い奴相手にしている間に逃げられちまった。見た目トカゲだったんだよ。敵意というか恐怖心が身体を支配してたから大丈夫かと…」
「珍しいな。気になったら沼に放り込んでおけばよかったのに」
「気になるもの全部入れると…この国無くなるけど…」
「気にしすぎ」
「怖いわ!自重しろ」
「でも火龍さんしばらくはカイナール様と一緒に居るって言ってましたね」
「まぁ。山が家だしな。」
「起きたからには、しばらくしたら、旅したり、冒険したり色々動くだろうよ」
「その内俺らの所にも顔出しそうだよな……」
「やめて……雪が解ける。雪の精霊が激怒するからやめて」
アハハハハハ
お客さん達は楽しそうに笑いながら会話している。
けど会話の内容がずいぶんと面白い。
グラタンを持って行った娘が気になったのかグラタンをテーブルに置き、会話に割り込んだ。
「お待たせしました―――。
……雪の精霊って怒るんですか?」
その娘の言葉にシンっと場が静まり返る。
戸惑った娘が一歩後ずさりをすると、
「知らねーの?精霊って怒りっぽいぞ」
「気まぐれだしな」
「でも純粋だよ」
「雪の精霊は一度へそ曲げると氷柱にされちゃうから気を付けてね」
「この国にいる精霊や妖精は穏やかな子が多いですよ。大切にしてあげてください」
「―――はい…。」
娘がキッチンに戻ってきて困惑している姿を見て、わしは娘に晩御飯を用意していると伝えて、奥の部屋に行くように勧めた。
酔っ払いの話は真に受けたら負けなんだよ。
話し半分も気にしない方が良いのさ
そう思いながら焼きあがった肉串をさらに山盛り乗せて運んでいく。
相変わらず席では賑やかな話が続いていた。
「そう言えばミホの作った歌。あれ覚えやすいな」
「えへー褒められた~。嬉しいよ~」
「あの歌に、合いの手入れたらノリよくなりますよ」
「みずのいのりが~ハイ!聞こえてくるよ~もう一回!」
「あーーーそのノリ懐かしぃー。後輩のこがめちゃくちゃ旨かった」
「カナちゃんもカラオケでストレス発散する感じ?」
「大声だすとすっきりするよね~」
「今は厨二病っぽい詠唱大声で言ったりして発散させてる」
「アタシも一緒にやりたい!」
「僕もしたいです」
「お前ら…あんまりカナメを煽るなよ。
この間ゴブリン村を全部落とし穴に落としきったんだからな」
「土魔法、相性良いです」
「その後大量の水で落とし穴を満たして討伐してたからな」
「規格外がここにもいたか」
「いやはやホント恐ろしい」
あんたたちの会話が恐ろしいわ!
少女も恐ろしい!
いや…話半分だ。話半分でいい。そうに決まってる。
―――――
いつの間にか、湖は一般に開かれるようになっていた
平民でも浄化の手伝いができると、皆が喜び、祈りながら歌を歌う
「みずの~ いのりが~ きこえて~―――」
流れてきた歌に、あの夜の賑やかな客を思い出す
「まさか…」
そう思いながら愛する娘と、愛する妻と一緒にまいにち宿を廻していく。
娘の笑顔。
妻の笑顔。
変わらない日常。
それが一番大事だと――わしは、ちゃんと知っている。
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