303話 魔の森の砦への襲撃②(前半:舎に住み着くモノ視点・後半:黄昏視点)
◆(ワイバーン舎に住みつく弱きもの)
ドゴォォォォーーーーン!!
その日、魔の森の崖に立つ砦で生活するあっしはいつもと同じようにワイバーン舎の天井で優雅に、えさの食べ残しを待ちながらぶら下がっていた。
なのに
爆音と共に天井が吹き飛び、あっしも瓦礫と一緒に床に投げ捨てられた。
『イテテテテ…何事でやんす?』
何が起こったか分からない為、動き回らず、瓦礫の隙間から舎内を見渡す。
砂煙と木材の破片が舎内に広がり、
驚いた舎内のワイバーンたちが騒ぎ始めた。
ギャァー、ギャーと翼を舎の中で広げ、舎の中央を取り囲むようにワイバーンたちは威嚇をしていた。
巨体からの威嚇は、あっしに向けられているでもないのに、舎の端っこで瓦礫に隠れていてもすくみ上がってしまう息が詰まるような圧に、身体が勝手にすくみ上がるでやんす。
上から落ちてきた何かは、威嚇をものともせず、のそりと立ち上がった。
立ち上が……え?
童、だと?
人間…しかも幼い、童?こんな所に一人で?まさか―――
あっしは夜目が利くはずなのに――目がおかしいのであろうか?
こんな所に人間の童が居てもすぐに喰われ死んでしまう…
立ち上がった童はパンパンと服に付いた埃を払いながら、
威嚇するワイバーンに向かって歩いて行く。
ばか!死ぬ気でやんすか!!
恐ろしく無鉄砲な童が食い殺されるさまを見るのが嫌で自分の翼で目を隠した。
ギギャーー、ギャギャギャー、ギギェー……――――
騒いでいたワイバーンの声が止まった。
先程の童はこと切れたのかと思い翼の隙間からそっと覗いた――
この大きな舎の主である、毎日悠然と佇んでいた大きな存在のワイバーン
そんな大きな存在が、先ほどから小さな童に向かって大声で騒ぎ、威嚇して
そして――今その姿は
四体。
この舎の主たる巨体が――
すべて、首を垂れていた。
あの小さな童に。
何が起こった?
何があった?
「おぬしらに危害は加えぬよ」
そう言いながら小さな童はワイバーンの首を撫でる。
そうして童の足元から、黒い影が滲み出たかと思うと、
ガシャン!
鎖が弾けた。
ガシャン、ガシャン――
次々と、拘束が砕けていく。
音が止まり、辺りに静寂が広がる。
すると今度は風が吹いてきた。
ワイバーンが両翼を上げ風を巻き上げ、ゆっくり上昇していく。
一体、一体と飛び立ち、最後のワイバーンが飛び立つとき
空に向かって童が、
「人里に手を出すとまた自由を失う。心しておくんだぞ。行け」
そう言って夜空に飛び立つワイバーンを見送る。
その背が、やけに大きく見えた。
見送った童は、踵を返すと辺りを見回し、こちらに歩みを進めてきた。
そうしていくつかの瓦礫を除けては、何かを取り出しこちらに近づいてくる。
その歩みは目の前で止まった。
あっしは恐怖に息を呑んだ…そして……
あっしの上にあった重い瓦礫が持ち上げられ、隠れていた身体が露わになった。
「なんだ、こちらをずっと見ているから、魔獣か何かかと思ったが…
ふふ、目が大きいなお主」
そう言いながら人間の童は
先程のワイバーンを撫でる時と同じように優しい手つきで、あっしの首元をよしよしと掻いてくれた。
「かわいいフクロウとの出会いというのも良いな」
そう言ってあっしを自分の頭の上に乗せた。
頭の上にはネズミと蝙蝠がすでにいて、2匹ともどうしていいのか分からず大人しく運ばれていた。
あっしも…どうしていいのか分からない…
ただ分かるのは、この童に逆らってはいけない。
それだけが、骨の髄まで理解できたでやんす。
―――――
◆(黄昏視点)
アタシは、めんどくさいから、結界を張ったまま砦を歩くことにした。
気が向く所に入っては資料を収納して次に進む。
『やだぁー、こっちハズレじゃない?
イルイルを困らせた魔族、けちょんけちょんにしてやりたかったわぁー』
カポ、カポ、カポ―――
ある一角に来た時、一面ガラス張りの部屋があった。
中にはいくつもの瓶があり、一体ずつ妖精が納められていた。
『あらあら、敵さんも妖精を研究してるって事ねー』
妖精はガラスを抜けられない。
隙間があれば逃げられるけど――ここには、それがない。
『誰か透過能力者が居たのかしら?面白いわねー』
アタシは、前足を振り下ろす。
ピシリ。
次の瞬間――ガラスはまとめて崩れ落ちた。
『ガラスって物理には弱いのよ。妖精以外を想定してない造りなのが残念よね』
そう言いながら、中に入りガラス瓶を倒しては踏み壊していく。
ガシャン、ガシャンーー。
ガラスが割れるたびに中から小さな妖精達が飛び出して、アタシにまとわりついてくる。
『ありがとう』
『助かった』
『恩人だ』と
口々に言いながらふわふわと飛ぶ姿を眺め嘆息する。
『こんなに妖精を集めているなんて…何がしたかったのかしら――
まぁ碌でもない事は確かなのでしょうね。』
ある意味、この時点でここを押さえることが出来たのは良かったというべきか…
でも―――
『魔族って妖精と相性悪いのに、よくここまで妖精を掴まえられたわね―』
アタシはまとわりついてくる妖精に話しかけると、嬉しそうに口々に返事をしてくれる。
『それは落ちた天使が居たのー』
『羽が黒く染まりかけていたのー』
――ああ、なるほど。
面倒なことになりそうね。
……嫌な予感しかしないわ。
でも、そうか……ガラスの部屋の知識がどこから来たのか分かった。
『あらーそんなものまで魔族の仲間になっているの?
神様に伝えておかなきゃだわーめんどくさいわね―――』
天界に一度行って神様に報告するとか考えただけでも萎える…女神様アタシのタイプと違うのよね――
そんな事を思っていると、妖精達が首をかしげて、
『飛び出してから帰ってこないのぉ―』
『だよねー』
ふーん。襲撃に感づかれた?まさか…
『イルイルを困らせた奴を八つ裂きにしたかったのに、
……残念ね。少しだけ、手応えがあると思ったのに。』




